クレヨン   作:小鳥遊彩珈

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「夢見色」

 僕は色彩感覚は優れていると思う。自分でいうとなんだか気持ち悪いけど。

だって僕が絵を描いて色付けをする時、その色がすぐに思い浮かぶんだ。まぁ、あたりまえのことだけどね。物はもちろんだけど、形のないものだって色が出てる。それは僕のなかのイメージなんだ。イメージには個人差がある。

海を青だって言う人もいれば緑だって言う人もいるみたいにね。

 これはそんな僕が唯一、色を見つけきれなかった人のお話だ。

 

「……以上をもちまして、関東美術大学卒業式の全日程を終了致します」

会場内にアナウンスが響いた。スピーカーから流れる大音量のアナウンスは空気をびりびりと震わせる。

関東美術大学は、日本でもトップクラスの美術大学で、多くのアーティストの卵たちが集う。

 僕、松下巧はその中の色彩画の学科にいた。特に専門はクレヨンで描くクレヨン画。色鉛筆とかクーピーとか絵の具と大抵の色が揃うものじゃなくて色にある程度限りがあるクレヨンで自分の世界観を描く。僕はこれを極めたかった。

そんな美大生生活ももう終わり。肩の荷がおりた気がしたけど、同時になんだかあの騒がしい日々を送れないと思うと寂しくもなった。

「よう、巧。卒業おめでとう」

「お前もな、カズ」

カズとは長い付き合いだ。中学から一緒だからもう結構経つ。こいつはデジタル画が専門で、イマドキのペンタブレットで絵を描いている。

「巧。お前とはもう道が違うな」

「そうだな、お前は教師になるんだっけか」

カズは昔から美術教師になりたいと言っていた。教師になって、美術の素晴らしさを生徒に伝えたい。そんなありきたりな理由だけど、それはカズらしい動機だと僕は思う。

「あぁ、いつかお前の子にも教えるかもな」

カズはそういって笑ったが、彼の目の奥には不安の闇が広がっていて、油断をすれば吸い込まれるのではないかと思った。僕はそれを見て思わず下を向いてしまった。視線の先には自分の手があった。生命線が長くのびている。

「なぁ、俺、大丈夫かな……」

カズの問いかけに僕は驚いた。カズは昔から怖いもの知らずで、何があっても笑っていた。弱音などは一切吐かなかった。初めて見る弱気なカズに僕は思わず笑ってしまった。

「なに弱気になってんだよ、カズ。お前は美術の素晴らしさを届けるんだろ?そんなんじゃダメだぜ」

「そっか、そうだよな!」

僕の言葉に安心したのかカズは明るい表情に戻った。でも、目の奥の不安の闇は晴れていなかった。

 

 寝過ごしたようだ。

時計を見ると朝の八時。かなりの寝坊だ。でも、昨日のうちにやる仕事は終わって今日は休みだし別にいいや、もうひと眠りでもしようかな。

「ちょっと!何時だとおもってんの!起きてよ!」

そういうと声の主は僕の上に乗ってきた。

「うわあ!わかった起きる!起きるからどいて!!」

僕がそう言って身体を起こすと由美はにへっと笑った。

こいつのこの顔は昔から本当に可愛いと思う。こいつと出会った時だって、こいつの笑顔に惹かれたくらいだから。ちょっと恥ずかしいから言ったことないけど。

「……で?どこ連れてってくれるの」

由美はちょっと上目遣いで言ってきた。そういうことだったのか。

「んー、気が乗らないけど、ドライブにでも行く?」

「やったー!じゃあ準備してくる!!」

由美は鼻歌交じりに僕の部屋を出ていった。

由美と僕はイラストレーターだ。文庫本の表紙とか、ポスターのデザインとかそういうような仕事をしている。僕が二徹くらいしてやっと完全させるような作品を、由美は二日くらいで仕上げてしまう。正直、由美の方がセンスはあると思う。たまに仕事を手伝ってもらっているのは秘密だ。

さて、出掛けることが決まってしまったので僕も準備を始める。使い込んだお気に入りのリュックサックに色んなものを詰める。財布、携帯、あと飲み物……はいらないね。

あと、クレヨンとスケッチブック。由美とドライブに行く時にこれは必需品だ。どこか穴場を見つけて絵を描く。なんだか少し楽しみになってきた。しかも、今日は新しいクレヨンを初めて使う。由美に自慢してやろう。

 そうこうしているうちに準備が整った。由美は一体どこに出掛けるつもりなのか、準備に手こずっているようだ。行き先は一緒、というかドライブにいくのだからそもそも準備はいらないんじゃないかと思うのは僕が男だからだろう。きっと男性と女性の頭の作りが違うんだろうと思う。女性は色々な可能性を考えいろんなものを用意する。絆創膏とか制汗剤とか化粧品とか。理解できないことはないけど、そこまで用意周到にしなくてもいいなじゃないかと思う。由美、というか女性はそうはいかないんだろうけど。

「なぁ、由美。まだかい?」

「あ、ごめん!もういいよ!いこっか」

「ん、わかった」

由美の準備は終わったらしい。ふと時計を見ると起こされた時間から三十分しか経っていない。僕は何に急かされていたんだ。そう思いながら、玄関に脱ぎ捨てられているスニーカーを履いた。




こんにちは、小鳥遊彩珈と申します。
ハーメルンで作品を投稿するのは初めてです。
新米ながら頑張って書き上げていきますのでよろしくお願いします。

巧くんかっこいい!!!!
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