SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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今回、いよいよ第三の白の正体が。


第九十話 「力無き白の剣士に兎の加護を」

SAO帰還者のIS

 

第九十話

「力無き白の剣士に兎の加護を」

 

 第二アリーナの観客席で百合子と箒の試合を一夏と夏奈子は、純粋に百合子と箒の応援をしていたのだが、ふと嫌な視線を感じた一夏が夏奈子を膝から下ろす。

 突然膝から下ろされた夏奈子は不満そうな表情を父に向けたのだが、その父親の表情が強張っていた事に驚き、心配そうな表情をした。

 

「夏奈子、悪いけど千冬伯母さんの所に行ってくれるか? このアリーナの管制室に居るから」

「パパは?」

「パパは……ちょっと用事、かな」

 

 隣で一緒に観戦していた鷹月静寐に夏奈子の付き添いを頼んで見送ると、一夏も車椅子を操作して移動を始めた。

 とは言っても、移動距離はそう大したものではなく、アリーナ観客席の出入り口、その扉の前に移動しただけだ。

 

「……っ!」

 

 いつでも来い、そう思ってアリーナに目を向けた時だった。

 丁度、百合子がクレーティネを、箒がレーザーを放った瞬間、アリーナ上空に影を見つけたのは。

 

「全員、頭を下げて耳を塞げ!!!」

 

 次の瞬間、物凄い衝撃と爆発音と共にアリーナのバリアが一部破壊され、アリーナ内に何者かが侵入してきた。

 同時に、アリーナのシャッターが閉じられたのと、アリーナの出口が電子ロックで閉じられてしまった。

 

「やっぱりな……! アンタが来るって思ってた」

 

 持ち込んでいた携帯キーボードと空間投影ディスプレイを扉の電子キーに差し込んだ一夏はハッキングされている事を即座に察知、撃退してロックの解除をしようとした。

 後ろから生徒達が次々と集まってきて、恐怖に染まった顔で一夏を見つめているのを背に、作業を進める一夏の脳裏には、先ほど一瞬だが見えた襲撃者の顔がはっきりと映し出されている。

 

「スカイ……!」

 

 早くここから脱出して、何とかしなければ百合子と箒、それにダリルやフォルテが危ない。いや、もしかしたら第一アリーナでも襲撃が起きている可能性がある。そうなれば和人や明日奈、セシリア、鈴音、楯無、簪、みんなが危ないのだ。

 そう思い、一夏はキータッチの速度を更に上げるのだった。

 

 

 第一アリーナでは襲撃してきたスコール率いる笑う棺桶(ラフィン・コフィン)と対峙する和人、明日奈、セシリア、鈴音、それから即座に駆けつけてきた楯無の姿があった。

 

「あら、こっちに厄介なメンバーが揃っているみたいね」

「Ha! 黒の剣士に閃光くらいしか厄介なのはいねぇぜ?」

「後は、雑魚、ばかり」

「へへ、今日はどれくらい殺せるかねぇ?」

 

 最悪、だとは言えない。少なくともこの場で互角に戦えるのは和人と明日奈、楯無の三人のみだが、セシリアと鈴音がツーマンセルを組めば互角に届くレベルになる。

 

「どうやら勘違いしているみたいだけど」

 

 すると、スコールの背後にあるアリーナのバリアに開いた穴の向こうから5機の無人機が入ってきた。つまり、戦力差は5対9、完全に不利になってしまった。

 

「和人さん」

「セシリア……?」

「わたくし、今……凄く怒ってますの」

 

 静かに、セシリアが笑みを浮かべながら突入してきた無人機と対峙した。5機の無人機を相手に、セシリアは自分一人で戦おうとしているのだ。

 

「相手が無人機ならば、わたくしの全力が出せますわ。ですから、皆さんは亡国の方々のお相手を願えますか?」

 

 そう言って、セシリアはディープブルーとアンディーンを操作して無人機全てを攻撃、そのターゲットを全て自分に向けさせた。

 確かに、今のセシリアなら大丈夫だろうと、そう判断した楯無は渋る和人と明日奈、鈴音を諭してスコール達と対峙する。

 

「さあ、鈴さんが心配ですし、直ぐに終わらせてさしあげますわ!! 参りますわよブルー・ティアーズ・アンダイン!!」

 

 そのとき、セシリアと、ブルー・ティアーズ・アンダインの姿が黄金の輝きに包まれた。それは、単一使用能力(ワンオフアビリティー)発現の証。

 

単一使用能力(ワンオフアビリティー):Deep Climb Neptune、発動】

 

 

 百合子と箒、ダリル、フォルテの4人と、駆けつけた簪を加えた計5人はスカイ率いる無人機軍団と対峙している。

 だが、実際に戦う事になるのは百合子と簪、箒、フォルテの4人だけで、ダリルは何故かやる気を見せず、挙句の果てには面倒だからとアリーナの隅に行ってPICを利用しながら空中で寝転ぶという有様だ。

 

「協調性の無い人……」

 

 そう呟いてしまう百合子の心情も当然だろう。口にはしなかったが箒も簪も同じ事を思っているのだから。

 ただ一人、ダリルの恋人であるフォルテだけは彼女を庇おうとしているも、フォルテ自身も実はダリルに少しは手伝って欲しいなぁと思っていたりする。

 

「だぁっははははは!!! 協調性の無い仲間で残念だったなぁ! まぁおじさんも優しいからよぉお? ちったぁ手加減してやるぜ」

 

 一夏を圧倒した実力の持ち主であるスカイを相手に、この場でまともに戦えるのは百合子だけだ。他の全員を無人機に当てたとして、つまりそれはスカイ相手に百合子が一人で戦うという事になる。

 

「来て、ルー・ゼタンタ」

 

 右手のパラディン・スピーアと、左手に展開したルー・セタンタ、紅と蒼の二槍を構えた百合子は深呼吸を2回、目を閉じて行うと、ゆっくり瞼を開いた。

 目を開けた後の百合子の瞳には、静かな殺気が宿っており、その意思からは……明確な殺意が感じ取れる。

 

「ほぉ、目立たねぇ小娘かと思ったが……良い殺気を出すじゃねぇか! まだ殺しの処女は捨ててねぇみてぇだが、やろうと思えばいつでも殺せるって言ったところか」

 

 勝てるとは思わない。だけど、この場に居る箒や簪、フォルテを守るために、百合子は刺し違えてでも殺すつもりで戦う決意を抱いた。

 

「宍戸……その、本当に一人で大丈夫か?」

「うん、篠ノ之さんは簪とフォルテ先輩と一緒に無人機を」

「あ、ああ……その、私よりずっと強いお前に、こう言うのはアレだが」

「?」

「絶対、負けるな……頑張ってくれ、百合子」

「……うん、そっちも気をつけてね……箒」

 

 この瞬間、紅椿のリミッターがまた一つ外れた。3,5世代相当まで性能が発揮出来るようになった紅椿を駆り、無人機へと突撃して行く箒を見送った百合子はニヤニヤとこちらを伺っていたスカイと向き合う。

 

「お話は終わったのか?」

「……」

「ケッ! おじさんとは話す事なんてありませんってかぁ? なら二度と話せなくしてやるよぉ!!」

 

 銃剣「エイメン」を構えたスカイが突撃してきたのに対し、百合子も二槍を構えて一気に突っ込んだ。

 事実上の世界最強の男を相手に、百合子の戦いが始まった。

 

 

 観客席のドアのハッキング解除して何とか扉を開けた一夏は生徒達を避難させた後、自身は百合子と箒の居たピットへ向かった。

 ピットからはアリーナの様子が辛うじて確認する事が出来るので、そちらから状況を確認しようとしたのだ。

 

「っ! やっぱり、スカイ……」

 

 あの男を相手に、百合子一人では厳しすぎる。せめて後一人……和人か明日奈が居てくれれば、まだ何とかなったのだろうが、現在二人は第一アリーナに居る。

 そして、一夏が出ようにも専用機が無い。ピット内には訓練機の打鉄もあるが、スカイを相手に打鉄では勝負にすらならない。

 

「クソッ! このままじゃ百合子が!」

 

 今、一夏の視界の先では百合子がスカイの一撃をまともに受けてアリーナの地面に叩き付けられていた。

 

「ユリコ……っ!」

 

 最愛の恋人が傷つく姿を、こうして眺めているしか出来ない今の自分が情けなくて、不甲斐なくて、まだ微かな痛みのある足を無視して車椅子から立ち上がった。

 だけど、立ち上がっても、その足で行くべき戦場向かう為の翼は、無い。

 

「俺は、どうすれば……」

 

 戦いたい、百合子と、愛する人と共に戦い、守りたい。己の剣は、意思は、まだ折れていないのに、翼を失っただけで、この体たらく。

 

「いっくん」

「……束さん?」

 

 一夏の後ろに、いつの間にか束が立っていた。そして、立ち上がった一夏の足を見つめて、それから一夏の目を真っ直ぐ見据えた。

 

「君は、まだ折れていない。例えまた負けるかもしれない相手と戦う事になろうと、翼さえあれば、その手に剣を握るんだね?」

「……はい、愛する人を守る為なら、例え相手が誰だろうと、俺は剣を握ると、そう誓ったんです」

「もう一度、翼を得て空を飛びたい?」

「……勿論です」

「……なら、付いて来て」

 

 束に案内されて一夏はアリーナから学園地下に降り、そして校舎側への通路を歩いた先にある束のラボに来た。

 ラボには何度か来た事があるので、内装は知っていたが、その中で一度も中に入った事の無いもう一つの扉の前に連れて来られたのだ。

 

「ここに、いっくんが求める物があるんだ……開けるよ」

 

 束がスイッチを押すと、ゆっくり扉が開かれた。真っ暗な部屋、その中に入るように言われたので、その通りに中へ入ると、やはり真っ暗なままなので何も見えない。

 だが、束が電気のスイッチを入れて通電する事で部屋が一気に明るくなった。突然明るくなった事で目が眩んだ一夏は思わず目を閉じてしまったが、ゆっくり目を開いた瞬間、その視界に見えた物を見て驚いた。

 

「これ、は……」

 

 そこにあったのは、白だった。10年前の白騎士でもない、ましてや一夏の相棒たる白式ですらない、まったく新しい第三の白の姿が、そこにあった。

 

「これを、いっくんに授けるよ……この、第4世代型完成系IS“雪椿”を」

 

 雪椿、それが……この第三の白の、名前だった。




合宿終了のため、あとがきのミニコーナー終了です。
次回は、ついに第三の白こと雪椿の本格的な登場です!!
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