SAO帰還者のIS
第九十三話
「奪われた白式」
IS学園地下区画、そこにある秘密ラボには回収した無人機や大破した白式が保管してあるスペースがある。
一般生徒の立ち入りを禁じられているその場所は学園内でも屈指のセキュリティーを誇り、容易く侵入者を許す構造にはなっていないのだが、
「さて、残るはこの扉を開くだけですが……どうやらお客のようですね」
大きな扉の前まで来て立ち止まったオーガストがゆっくり後ろを振り向くと、そこにはラファール・リヴァイヴを纏って銃を構える真耶が立っていた。
そして、真耶の姿を見てオーガストは感心したとばかりに口笛を吹き、緊張感を漂わせない余裕を浮かべる。
「これはこれは、嘗て日本代表候補生最強と謡われし
「
「ふ、ふふふふ……なるほど、確かにISを纏った貴女に、生身の僕が勝てる訳が無い。ええ、常識ですねぇ……ですが、それは世間一般の常識です」
「っ!?」
一瞬の出来事だった。真耶が瞬きをしたその一瞬で、オーガストの姿は真耶の目の前にあり、その両手に握った肉厚のナイフを真耶の眼前に突き刺そうとしていたのだ。
「くぅっ!」
何とか回避して距離を取り、銃の引き金を引いたが、オーガストはまるで銃弾が見えているかのように右往左往、時には壁や天井までも利用して動き回って銃弾を避けている。
とてもではないが人間の動きではない。しかし、それでも彼が生身の人間である以上、ISを使う真耶には傷を負わせる事など出来ないだろうと、油断があった。
「甘いですねぇ、甘すぎますねぇ!」
「え? きゃあ!」
脇腹に痛みが走った。見れば着ていたISスーツが裂けて露出した肌に一筋の斬り傷ができていて、そこから血が流れている。
ISの絶対防御を、生身の人間が、ただのナイフで突破したというのかと、真耶は唖然とするが、直ぐに思い直した、そう……あれはただのナイフではないと。
「おや、気づかれましたか? そうですよ、これはただのナイフではありません……このナイフの根元を見てください」
そう言ってオーガストが見せたのはナイフの刃の根元……そこには見覚えのある球体が填め込まれている。
「それは、ISのコア!?」
「そうです。ISコアを埋め込み、ISの機能の一部を搭載出来るようにした特別製のナイフです。その機能として選択したのが、我が組織の開発した絶対防御無効化ウイルス」
流石にナイフサイズの物に完全な絶対防御無効化ウイルスを仕込むのは不可能だったので、斬りつける一瞬だけウイルスを発して斬る部分の絶対防御だけを無効化するだけの機能に限定されてしまったが、それでも十分過ぎる。
「で、ですが……それだけでは」
「勿論、それだけではありませんよ。僕自身が特別な血筋でして、暗殺者としての教育を幼き頃から受けていただけですから」
「特別な、血筋……?」
「ええ、そういえばまだ名乗っていませんでしたか。僕は
「っ!? 切り裂きジャックの、子孫……?」
切り裂きジャック、ジャック・ザ・リッパー呼ばれる名は、Pohの専用機であるのと同時に世間では1888年のイギリス、イーストエンドで発生した連続猟奇殺人事件の犯人とされる人物の通称だ。
100年以上経つ現代になっても未だ未解決事件の代名詞として語られるその事件の真犯人は、今も尚不明のままで、様々な諸説が語られるものの、どれも信憑性の薄い話ばかり。
だが、この男は自らをその真犯人であるジャック・ザ・リッパーの子孫であると名乗ったのだ。驚かない筈が無い。
「このナイフ……」
そう言ってオーガストが掲げたのは右手に持つコアが埋め込まれたナイフとは反対の、左手に持つ普通の大型ナイフだ。
「これは先祖から代々受け継ぐナイフでして、ジャックが実際に殺しに使ったナイフだという話ですよ」
100年以上も前の被害者の血液を、どうやって保持していたのかは、
「まぁ、そういう訳で僕家系は先祖である切り裂きジャックの殺しの技術を暗殺技術として昇華し、受け継いでいたのです。何せ、先祖は小説シャーロック・ホームズシリーズに登場するジェームズ・モリアーティのモデルとなった当時のイギリス犯罪界のナポレオンとも呼べる人物から殺しの技術を学んでいたのですから」
故に、殺しの技術において、オーガストは
そんな人物と対峙する事になった真耶は、生身の人間が相手だという慢心を捨て、これから戦う相手は尊敬する上司、織斑千冬と同等か、それ以上の化け物だと、気を引き締めた。
第一アリーナと第二アリーナでの戦いは激化し、戦いの舞台はアリーナを飛び出して学園上空へと移っていた。
スカイが纏うトーデス・トリープと戦う雪椿を纏った一夏、Pohの纏うジャック・ザ・リッパーとは黒鐡を操る和人が、ハングドマンに乗るザザとは瞬光の明日奈が、ポイズンとは驚く事にブルー・ティアーズ・アンダインを纏ったセシリアが互角の戦いを繰り広げている。
他には無人機と戦う鈴音、フォルテ、箒が善戦をしていて、簪は戦闘不能となった百合子を回収して避難させる為にこの場には居ない。
最後に、スコールが纏うゴールデン・ドーンとは
「ふ、ふふふ……」
「あら、何が可笑しいのかしら?」
「いえ、ただ此処まで必死に戦うお嬢さん達が余りにも滑稽で思わず笑ってしまっただけよ」
戦いの最中だというのに、突如笑いを零したスコールに、楯無が理由を聞いて怪訝そうな表情を浮かべた。
滑稽とは、どういう意味なのか。襲撃者を撃退する為に戦っているこの状況が滑稽……必死に撃退する為に戦うのが滑稽というのは、ただ馬鹿にしているだけの言葉ではないのは確かだ。
「っ! まさか……っ!」
そこまで考えて、楯無はひとつの仮説が思い浮かんだ。それも、最悪のパターンと言っても過言ではない、本当に不味い仮説だ。
「織斑先生!!」
『どうした? 更識』
「急いで白式の保管場所へ人を!!」
だが、もう遅い。突如、学園地下で爆発が起こり、グラウンドの地面が抉られて大穴が開いたのだから。
「っ!」
そこには、恐らく奪取された物であろうラファール・リヴァイヴを纏った男が、その手に白い装甲の機体の一部……
「あら、早かったわねオーガスト」
「いえいえ、これでも遅かったと反省しているんですよ? 何せ途中でかの有名な“
「山田先生と……!? 山田先生は!」
「ご安心をお嬢さん、
「それでは、僕はこれで失礼しますよ。もう目的の物は手に入れた訳ですから」
楯無が止める間も無く、オーガストは早々に去って行った。
最悪だ。それが楯無の今の心境だろう。IS学園へ侵攻、秘密区画への侵入も勿論だが、何より白式の一部とはいえ、第4世代の技術を
「それじゃあ、私達もそろそろお暇しましょうか」
「っ! 逃がすと思っているのかしら?」
「ええ、だってこっちに首領が来ている時点であなた達に勝ち目は無いもの……まぁ、彼が首領と互角とまでは言わないでも、それなりに戦えているのは意外だったけれども」
スコールの視線の先、そこにはスカイと戦う一夏の姿があった。互角の戦いをしている訳ではない。だが、それでも今のところは何とか無傷でスカイの攻撃を捌いている一夏にスコールも感心していた。
「では、お嬢さん……そろそろ失礼するわ」
スコールの専用機、ゴールデン・ドーンのソリッド・フレアが膨大な炎を生み出して戦場一帯を覆った。
全員、突然の炎に防御姿勢を取ったのだが、それが原因で
「本当に……最悪だわ」
楯無の零した独り言は、恐らくこの戦闘に関わった全ての者の心境と、同じなのだろう。
次回は被害報告と、シャルロットの帰還、ですかね。