SAO帰還者のIS
第十話
「選ばれた戦士」
「と言う訳で、1年1組のクラス代表は織斑君に、副代表は結城さんに決定しました」
「ちょっと、待ってください先生。ナツ君? どうしてわたしが副代表なのかな~?」
和人とセシリアの試合が行われた翌日のHRで、一夏がクラス代表に決定した旨が真耶よりクラス全員に伝えられるが、同時に副代表として明日奈が就任した事も伝えられた。
その事に初耳だと明日奈が一夏に詰め寄ると、一夏は冷や汗を流しながら目を逸らし、震えそうになるのを堪えながら口を開く。
「い、いや…アスナさんって血盟騎士団の副団長やってましたし、ソロだった俺より人纏めるのは上手いだろうって、キリトさんも賛成してくれた訳でして…」
「キリト君?」
「いや! 俺は提案しただけで…ナツ!」
「勧めてくれたのキリトさんでしょうが!」
アスナの怒りを向けられるのは一夏も和人も恐ろしいと理解しているからこそ、互いに責任を擦り付け合う。
だが……。
「キリト君、ナツ君」
「「は、はい!?」」
「二人とも、後で“お話”があります」
「「はい……」」
輝くような笑顔で言われて、青褪めた顔のまま、二人は頷くしか無かった。
「え、え~と…それでは織斑君と結城さん、これから代表、副代表としてよろしくお願いしますね?」
「はい…」
「わかりました」
未だ落ち込む一夏と、仕方がないと納得する事にした明日奈が返事を返し、満足そうに頷いた真耶はHRを続けた。
一夏もいつまでも落ち込んでいるわけには行かないので、授業の準備をしながら真耶の話に耳を傾ける。
「もう直ぐクラス代表リーグマッチがあります。織斑君が代表として試合に参加する事になりますので、訓練は怠らない様にお願いしますね」
「はい」
「結城さんはサポートです。織斑君の訓練に参加するのも良し、訓練で忙しい織斑君に代わって雑務をこなすのも良し、その辺りはお任せします」
「わかりました」
一夏と明日奈が納得した所でHRは終了、真耶が教室を出て行ったところで一夏は和人、明日奈、百合子と相も変わらず集まっている。
「もうナツ君ったら、いつの間にわたしを指名してたのかなー?」
「う…実は昨日の内に、山田先生に」
「全く…今度はちゃんと相談する事!」
「はい」
ポカッと軽く一夏の頭を小突いて、一夏もそれで反省した。
ふと、一夏は先ほどから黙っていた百合子に目を向けると、丁度彼女も視線に気付いて一夏の方を向く。
「どうしたの?」
「いや、実はユリコにアスナさんの補佐をして欲しいんだ。血盟騎士団でも副団長補佐って立場でアスナさんの補佐してたし、慣れてるだろ?」
「う~ん…ん、わかった」
明日奈を長い事補佐してきた百合子なら適任だろう。後は、上手い事逃げた和人だが、一夏も明日奈も、逃がす筈も無い。
「キリトさんには俺の補佐をお願いします」
「ちょっと待て! お前の補佐はアスナがするんじゃ…」
「勿論、副代表として俺の補佐はアスナさんがしてくれますけど、副代表に副代表補佐が居るのに、代表に代表補佐が居ないのはアレですし、代表補佐、やってくれますよね?」
「ぬぅ……わかった、やれば良いんだろ?」
「ええ、わかってくれて嬉しいです」
話が纏まると、それを見越してセシリアが近づいてきた。
特に敵意などは無く、それどころか随分とにこやかに、柔らかい雰囲気を醸し出しているところを見ると、大分変わったと思わざるを得ない。
「皆さん、お話は終わりましたの?」
「あ、セシリアちゃん、うん終わったよー」
「そうですの…所で一夏さん、和人さん、明日奈さん、百合子さん、皆さんはまだIS操縦について素人という事ですので、よろしければ如何でしょう? 放課後にでも私が色々とご指導致しますわ」
あの試合の後から、セシリアは一夏達に頭を下げ謝罪し、許しを受けるのと同時に名前で呼ぶ事を許された。
そして、今回セシリアが提案してきたのは実に在り難い申し出だ。
ALOで飛行経験があるから飛行するだけなら問題無いのだが、飛行の際のテクニックなどは全く知らないので、代表候補生としてその辺りの知識が豊富なセシリアが教えてくれるのは助かる。
「助かるよセシリア、頼んで良いか?」
「ええ、一夏さんも和人さんも、明日奈さんと百合子さんもALOで飛行経験がお有りですから、コツなんて直ぐに掴めますわ」
代表候補生と仲良くなれたのはありがたい事だ。おかげでISの操縦技術を向上させるのに随分と近道が出来る。
学園の授業で学ぶだけでは到底得られない技術を、知識を代表候補生から学べる、これほどの幸運は中々無い。
「わ、私もそれに参加するぞ!」
「箒? いや、でもお前…」
「な、なんだ!? 私が参加すると何か不味いとでも言う気か?」
「いや、別に俺は良いさ、セシリアは?」
「私も別に気にしませんが…ですが篠ノ之さん、専用機をお持ちではないでしょう?」
「…う、だが訓練機で参加を」
「貸し出しに時間掛かる」
「っ! だ、黙れ!」
百合子の最もな指摘に敵意剥き出しで怒鳴りつけてきた箒だが、特に百合子が怯む様子は無い。
いつも通り、クールな表情で何を考えているのか一夏や明日奈以外には中々読めない目で箒を見つめている。
「な、何だその目は」
「別に、ただ訓練機を申請して、借りられたら参加すれば良いだけの事」
「くっ…貴様に言われずともそのつもりだ!」
「おい箒、何を怒ってるんだ? 別に仲間はずれにするってわけじゃないから、ユリコに当たるなよ」
「なっ!? 貴様はこの女の味方をするというのか!?」
「味方も何も、事実だろ? それに自分の恋人の味方をするのは当然だって」
何故箒が怒っているのか、それを理解出来ない一夏にも問題はあるが、その後の恋人発言が不味い。
完全に頭に血が上った箒が百合子を指差していつぞやのセシリアみたいな台詞を吐いた。
「私は認めん! 貴様が一夏の恋人などと…勝負しろ! 私よりも弱い奴が一夏の恋人など認める訳にはいかない!!」
「勝負って?」
「剣道だ!」
「剣道、やった事無い」
「ぬぐ…な、なら私が訓練機を申請して借りられたら勝負だ!」
「良いけど…」
セシリアは思った。完全に勝負にはならないだろうと。
一夏や和人から聞いた話だが、一夏と和人、明日奈、百合子の4人はSAO時代、常に最前線で攻略に参加していた攻略組。しかも4人とも実力としてはトッププレイヤーに属していたほどの腕前だと。
ゲームの話だと笑う事無かれ、事実それを体験したセシリアだからこそ判る。彼等の実力は命懸けのゲームによって鍛え上げられた本物だという事が。
「篠ノ之さん、いくらなんでも無謀ですわ、あなたはいくら篠ノ之博士の妹でも、ISの搭乗時間は一般生徒と変わらず、剣道の腕はあるかもしれませんが、それはあくまで剣道の試合のお話……SAOで命を賭けて戦ってきた百合子さんに勝つのは無謀の極みでしてよ?」
「ふん! ゲームで強くなったからと言って、現実で強くなる訳ではない! ここはゲームではなく現実なのだという事を思い知らせてやる」
「駄目ですわこれは…百合子さん、出来れば手加減して差し上げてくださいな」
「うん、切り札を使う気は無い」
これも一夏から聞いた話だが、4人とも実力としては互角らしいのだが、和人と百合子の二人は切り札さえ使えば一夏と明日奈を上回る。
しかも、百合子の切り札は和人の切り札をも上回り、実質的に4人の中で最も強い…というと語弊があるが、最も厄介と言うべきなのは百合子なのだ。
「箒、少し熱くなりすぎだって。それにいくらお前でもSAOを馬鹿にするなら俺だって許せないぜ?」
「一夏! 貴様がそこまで堕落したのはゲームとこの女が原因だ! 堕落した貴様を矯正するには邪魔なものを排除する必要があるんだ!」
「…なぁ、箒、俺が怒らないとでも思ったか?」
「っ!? な、何を…」
「SAOを、ユリコを侮辱するのは、俺が許さない。そう言ってる」
一夏の言葉に箒が顔を青褪めさせてしまうが、直ぐに矛先を百合子へと向けた。
箒からしてみれば6年間想いを寄せていた一夏に、ぽっと出の、何処の馬の骨とも知れない女が急に恋人を主張してきたという泥棒猫でしかないのだ、百合子は。
更に、自分が一夏との絆だと、ずっと続けてきた剣道を、一夏は簡単に捨ててゲームなどという軟弱者がやる娯楽にのめり込み、あまつさえゲームと現実を重ねているという堕落っぷりは見るに耐えない。
ここまで一夏を堕落させたのは、この泥棒猫なのだと、自分を見てくれないで泥棒猫ばかり見ているのはその所為なのだと、そう思うと殺意すら湧いてくる。
「絶対に、貴様を認めない…貴様が一夏の恋人であって良い筈が無いんだ…」
「……負けられない理由、出来たなぁ」
箒の殺意には気付いていた。だから百合子は負けられない理由が出来たと、そして恋人の罪作りな所に対して、溜息を溢すばかりである。
「ねぇナツ、織斑先生に頼んで篠ノ之さんに訓練機優遇してもらって、今日の放課後だけ」
「判った…でも、良いのか? 俺が戦っても構わないが」
「別に、勝つことが決まってる試合に、夫の手を煩わせるのは、妻として失格だから」
「お、おい…流石に現実で妻は恥ずかしいんだけど」
「ふふ」
和人、明日奈のラブラブっぷりに負けず劣らず、この夫婦もまた、現実でもラブラブなのは変わらなかった。
益々百合子に殺意を向ける箒とは別に、セシリアは少し苦めの紅茶が飲みたくなり、早々に退散する事にする。
和人と明日奈は、SAOの時から慣れていたので、苦笑する程度だ。
そして、チャイムが鳴って1時限目が始まるので、各自席に戻って授業の準備をする。教室に入ってきた真耶は、教室に漂うただならぬ気配を感じて、首を傾げるのだった。
遂に箒爆発。
次回はユリコVS箒
結果はまぁ決まってますね。そして、早々に決着が着くでしょうから、パーティーまで行けそうな予感。
鈴が出てきたらまた爆発を書く事になるのかな? う~む……。