ようやく続きが書き終えたので投稿します。
SAO帰還者のIS
第百二十話
「亡国の死者」
修学旅行2日目、この日は明日奈一人だけが他のメンバーとは別行動をしていた。
旅行前から言われていた京都にある結城本家への訪問、先のSAO事件で要らぬ心配を掛けてしまった事へのお詫びをして来いと母から厳命されていたため、この日を選んで足を運んだのだ。
「こちらでお待ちください。ただいま御当主様が参りますので」
結城本家の大豪邸に着いた明日奈は屋敷の使用人に案内され、当主が普段来客と会う際に使っている応接間に通された。
下座に腰かけると使用人が退出する前に玉露を淹れてくれたので、遠慮なく一口頂くと、窓から見える立派な日本庭園を眺める。
「キリト君達は今頃、映画村に着いた頃かな? ユイちゃん、ちゃんと良い子にしてるよね」
母を案じて自分も瞬光の中に入って着いて行くと言っていた愛娘は、心配無いからと言い聞かせて和人の所に居る。
普段から我儘を言わない良い子な愛娘が一夏達に迷惑を掛けるなんて事、万が一にもあり得ないのだが、それでも心配してしまうのは、やはり自分が母であるという証でもあり、それが明日奈には誇らしかった。
「入るぞ」
愛娘がどんな着物姿でいるのかなどと考えていると、応接間の外から声が聞こえ、次いで入室してきた老人に目を向けると、明日奈は姿勢を正して静かに頭を下げる。
「お久しぶりにございます、お爺様」
「うむ、お前も変わりないようだな、明日奈よ」
入ってきた男の名は結城源蔵、この結城本家の現当主にして明日奈の祖父、結城の本家筋から分家まで全てを支配する結城家の頂点、結城の名と血筋を有する者であれば誰一人として逆らう事の許されない男だ。
「して、明日奈よ。先の事件において、貴様は2年という貴重な時間を無駄に過ごしたそうだが、その弁明は今聞かせて貰えるのだな?」
「っ! ……はい、要らぬご心配とご迷惑をお掛けした事、誠に申し訳ございませんでした」
「ふん、口だけの謝罪など要らぬ。聞けば貴様は未だゲームに現を抜かす愚か者だと京子より聞いておる。更にはISなどという玩具にまで手を出して遊んでいるというではないか。これの何処が反省している者のすることか」
言い返したい事は山ほどある、だけどここでそれをしてしまえば自分はともかく、父や母、兄の立場が悪くなってしまうのをよく理解しているからこそ、明日奈は何も言わなかった。
結城家において源蔵の意見は絶対、彼の機嫌一つで御家潰しも簡単に起こりえるのだから、下手な事は言えない。
「京子にはもう既に話してあるが……明日奈、貴様の持つISを没収する、そして本日より貴様が結婚するまでの間、当家敷地内より外へ出る事を禁ずる」
「なっ!? そんな、無茶な!」
「何が無茶か愚か者が、結城家においてワシの言葉は絶対だ。故に貴様の意見も意思も必要無い」
さっさと出せと言わんばかりに手を差し出す源蔵に対し、明日奈は指輪として指に填めている瞬光を手で抑え、拒絶の意思を示した。
「お言葉ですがお爺様、ISは所属こそ決まっていても、その管理や搭乗者のデータは国が管理している物です。いくらお爺様が政財界に顔が利くと言っても、お爺様の独断で私から専用機を取り上げるのは国際法令に違反する犯罪です」
「ふん! 玩具の法令如きがこの結城源蔵の意見に歯向かうなど無礼に等しいわ! 国が何か言おうものならワシの言葉一つで如何とでもなる」
「お爺様、いつまでそんな……」
「なんだ、ワシの言葉に何ぞ言いたい事でもあるのか? 2年という時間を無駄に浪費した落伍者風情が」
いつまで、古い時代を生きているつもりでいるのか。今の時代、結城源蔵の意見が国を動かす事はあり得ない、結城源蔵の意見が国の決定を、国際条例を無視する事を許されるなどという事がある筈が無い。
既に結城源蔵という男は日本という国の上層部にとっては唯の厄介者、老害としか見られていないというのに、自分こそが日本の頂点だと言わんばかりの源蔵の言葉に、明日奈から見ても正気とは思えないのだ。
「さあ、その玩具をさっさと渡せ」
「お断りします。お爺様にISの事で意見する資格はありません」
「貴様……このワシにそのような態度で、家族が路頭に迷う事になっても構わんという事だな?」
「なに、を……」
「レクトの株主、その中で最も発言力があるのが誰なのか、知らぬ貴様でもあるまい」
言われるまでもなく、それは源蔵だ。それはつまり、源蔵の一言で父は完全にレクトを追われ、兄すら解雇されてしまうという事に他ならない。
いや、それだけでなく、母が教授を務めている大学の理事会にもこの男は名を連ねているのだから、母にすら影響を及ぼすだろう。
「卑怯なっ!」
「ふん、卑怯? 何を言うか、結城に連なる全てはこのワシの傀儡も同じ、結城の名を持つ者は全てがこのワシの支配下、ワシの意思に反する事は許されぬ」
支配者気取りで畜生にまで身を堕とした祖父を、明日奈は最早祖父とは思えなくなった。今、目の前に居るのは結城家を我が物顔で支配する傲慢な支配者、今を生きる結城明日奈の、敵だ。
「っ」
だけど、その敵を前に、明日奈が出来る事など何一つとして無い。家族を人質に取られ、何一つ言えなくなった明日奈に、源蔵の意思に逆らう術は無いのだ。
「ああ、そうだ、貴様を誑かした桐ケ谷なる小僧にも制裁を加えねばならぬな。彼奴めの両親が務める会社は既に調べてある、ワシの方から圧力を掛けておかねばならぬ」
「っ! キリト君に、手を出すおつもりですか?」
「当然だ、市井の凡愚風情が結城の者に手を出したのだ、制裁は必要じゃろうて」
最早、家族がどうなるか、などと言っていられない。愛する人に、その家族にまで手を出すつもりなら、もう明日奈は容赦しない。
目の前の男を祖父ではなく、完全に敵として認識し、排除すら考えだしたその時だった。瞬光のハイパーセンサーが所属不明機接近の警報を出したのは。
「っ! これは!」
「なんじゃ、騒がしい。その警報音を止めぬか」
「黙ってください、今、ここに所属不明のISが接近しているんです!」
「ふん、玩具が来るから何だと言うんだ」
「テロリストの可能性が高いんです!!」
すぐさま立ち上がって応接間を出た明日奈は、制止する源蔵の声を無視して庭に降り、瞬光を展開してランベントライトを構えると、上空を見上げてハイパーセンサーの感度を高めた。
すると、映し出された情報に目を通して驚愕した。何故なら、接近中の機体はアメリカ製第2世代型IS、アラクネだったのだから。
「うそ、アラクネって……オータムは死んだってナツ君が言ってたのに」
いや、搭乗者を代えているのかもしれない。
「うっ……何? この臭い」
すると、アラクネが迫るにつれ、強烈な臭いを感じて顔を顰める。この不快感しか与えない臭いは、間違いなく腐臭、肉が腐る嫌な臭いだった。
そして、アラクネが庭に降りてくると、その腐臭は更に強烈になり、アラクネに乗っている人物を見て、明日奈は悲鳴を上げそうになった。
「ア、アア……ギ、ギギギ」
身体の至る所が腐敗し、眼球も片方が無くなって、所々が骨すら剥き出しになっている為、殆ど顔の判別が出来ないが、照合した結果、そのゾンビとも言える状態の搭乗者は……オータムだった。
「ギギギギ……アアアア!! ギュルルル」
舌も腐ってまともな言葉すら発せないのか、そもそも精神が生きているのかすら怪しいオータム、その時、ふと明日奈の脳裏に浮かんだのは
「まさか、まだ繋がったままだったの?」
前回の戦いでシールドエネルギーが零になり、生命活動を停止させたオータムは肉体が腐り果てて、それでもアラクネにエネルギーを供給する事で再び生命活動を再開させたのだろう。
しかし、それは最早人として復活したのではない。ただ、アラクネというISのパーツとして蘇っただけの死人、生命活動をしているだけの死体だ。
「こちら、結城です。織斑先生」
『状況は既に確認している。が、援軍は送れそうにない。他の専用機持ちの所にも現れた』
「そうですか……幸い、こちらはアラクネ一機のみ、何とかします」
『頼むぞ』
千冬との通信を終えた明日奈は、ランベントライトを持つ右手を肩の高さまで上げ、切っ先をアラクネに向けたまま半身になり、左手を刀身に添えた。
今この瞬間、この場に立つは結城明日奈に非ず、ましてバーサクヒーラーですらない。閃光と呼ばれた血盟騎士団副団長、閃光のアスナだ。
とはいえ、表面上でこそこうして戦士の面構えで立っているが、内心は……。
「(ふえ~ん! リアルゾンビなんて、わたしこういうの一番苦手なのに~!!)」
リアルホラーに内心涙目になっている明日奈は、実に締まらなかった。
次回は明日奈とオータムゾンビの戦い。
ゾンビとか苦手な明日奈は恐怖を押し殺す事が出来るのか。