SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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超久々の投稿となるのに、番外編で申し訳ない。
これは修学旅行の前のお話になります。


番外編5 「クラインと真耶の一日」

SAO帰還者のIS

 

番外編5

「クラインと真耶の一日」

 

 クラインこと壷井遼太郎、SAO生還者の一人であり、現在はSAOに囚われる前から務めていた輸入商社に復職して仕事をするバリバリの営業マンだ。

 普段は大変な外回りばかりの仕事をして、休日などはALOで遊び、SAO時代からの仲間達と交流を深めつつ、年下ばかりの仲間達の兄貴分として彼ら彼女らを見守る遼太郎に、最近になって春が訪れていた。

 切っ掛けは仲間が通うIS学園の学園祭に招待されて訪れた時、弟分のクラスの副担任を務める山田真耶という女性と偶然知り合い、一緒にお茶をして連絡先を交換し、以降は何度か食事などのデートをする内に遼太郎の方から告白して恋人という間柄となった。

 この日も休日という事もあってお互いに職場が休みなので、昼間からデートという話になり、遼太郎と真耶は映画館に来ている。

 

「楽しかったですねぇ」

「だな! 話題の映画ってだけあって、俺も途中で寝るとかしなかったぜ」

 

 二人は先ほどまで見ていた話題の最新映画の感想を言いながら映画館から出て来て、真っ直ぐ近くのカフェに立ち寄っていた。

 二人の手に持っているのは見ていた映画のパンフレットであり、お互いの趣味に合ったのか、感想は止まるところを知らない。

 

「やっぱさ、あの主人公を救出するシーン! あれは本気で胸が熱くなるよな!」

「私は最後の救急車に乗る前に駆け付けた奥さんとのシーンが良かったですね! シリーズの定番らしいですけど、やっぱり王道が一番です」

「確かこの映画って、本来なら前作が本当に最後って言われてたんだよな?」

「ええ、前々作が本来は最後って言われてたのが、前作が作られる事になって、それで本当にこれが最後って言われてたんですよ」

「なのに今回の最新作だろ? やっぱファンの熱望が大きかったって事だよな」

 

 二人の手元のパンフレット、海上保安官が主役の人気シリーズ映画で、そこには長年主人公役を務める俳優の逞しい背中が写っている。

 

「あと、あれ! 後輩がより逞しくなって主人公と同じ特殊救難隊に配属されたっていう最初の方の展開、あれも良いよなぁって思ったぜ」

「前々作から出てきた人物ですよね? 前作でも出てましたけど、やっぱりああ言うのはファンとしては嬉しいです」

「お? 前々作から出てたのか、それは知らなかった。やっぱ今度、シリーズ全部見てみるかなぁ」

「是非! 映画だけじゃなくてTVドラマもシリーズの中にあるので、時系列順に見ると最高ですよ」

 

 過去シリーズならネットの月額動画サイトに存在しているという話で、遼太郎が契約しているサイトでも見れるとの事だから、時間を見つけて見る事にした。

 そして、二人は随分と長い時間、映画について語り合っていたらしく、カフェに入ってから既に1時間以上経っている事に気づいた。

 

「真耶ちゃん、この後はどうする? もし良ければ俺が懇意にしてる店でも」

「えっと、良いんですか?」

「おう! そこはダチが経営してる店だからよ、真耶ちゃんの事も紹介するぜ」

 

 そう言って遼太郎が連れてきたのはダイシー・カフェと呼ばれるバー喫茶だった。

 ドアを開けて店内に入ってみれば、カウンターに立っていたのはスキンヘッドの黒人男性と白人女性の二人、客はそれなりに居るらしく、遼太郎と真耶はカウンター席に座った。

 

「ようエギル、いつものと……後は何かテキトーに飯頼むわ」

「あ、えっと……私は生を中ジョッキで」

「はいよ。珍しいな、今日はデートか何かか?」

 

 遼太郎が入店してきて直ぐに飲み物の準備をしていたらしいエギルと呼ばれた黒人の男性はバーボンのロックを遼太郎の前に置き、そう言って揶揄っていた。

 

「ま、まぁな……その、紹介するぜ。こちら山田真耶ちゃん、お前もキリト達の学園の学園祭に行って顔くらいは見たことあるだろ?」

「や、山田真耶です! 遼太郎さんとは、その、少し前からお付き合いをさせて頂いてます」

「ああ、キリトやナツ達のクラスの……初めまして、アンドリュー・ギルバート・ミルズだ。この店のマスター……ってより、SAO生還者の一人で、御宅のクラスの和人、明日奈、一夏、百合子のダチやってるって言った方が良いかな?」

 

 そう言えば、真耶はこのエギルという男性に見覚えがあった。遼太郎や、自身が副担任を務めるクラスの生徒の年上の友人、SAO時代からの仲間だという男性の一人が、確か彼だったと。

 

「んで、こっちは俺の女房の……」

「パトリシア・ミルズです。よろしくね」

 

 パトリシアは真耶が注文した生ビールを差し出して挨拶をすると、遼太郎から注文された食事を作りに厨房へと引っ込む。

 基本、この店の厨房は奥さんであるパトリシアの仕事で、ギルバートはカウンターで注文を受けて酒などの用意をするのがメインらしい。

 

「真耶さん、食事は何にする? ウチは幅広くやってるから、大抵の物は出せるぜ。特に名物なのはボストン風ベイクド・ビーンズだ」

「えっと、じゃあそのベイクド・ビーンズと、ビーフシチューで」

「あいよ、ちょっと待ってな」

 

 注文を受けたギルバートが厨房に居るパトリシアにオーダーを飛ばすと、他の客の対応を始めたので、真耶は店内を見渡してみる。

 ジュークボックスやダーツなどのアメリカンな雰囲気のあるインテリアがありながら、何処か下町のような雰囲気も感じられる落ち着いた色合いの内装、今まで同僚や先輩に付き合って入った御洒落なバーとは違い、変に緊張せずにお酒を楽しめそうだというのが率直な感想だった。

 暫くすると、奥で調理していたパトリシアが料理を運んできた。真耶が注文したベイクド・ビーンズとビーフシチュー、それから遼太郎にはジンジャーポークのソテーだ。

 

「お! 来た来た」

「わぁ、美味しそうですね!」

 

 出されたビーフシチューやベイクドビーンズを食べて、その味を噛み締めて真耶は決意した。今度、千冬を連れて来ようと。

 酒は美味い店の雰囲気も良い、出される料理の味も絶品となれば千冬も絶対に気に入る筈だ。

 

「そういえば、ギルバートさんはSAO生還者だというお話ですけど、この店には桐ケ谷君達もよく来るんですか?」

「ああ、来るぜ。ウチは昼間から夕方までは普通のカフェとして営業してるから、未成年でも入店OKなんだ。それに、この店で何度もオフ会を開いてる」

 

 それに夜の営業時間であっても和人達なら特別入店を許可しているので、酒こそ出さないが、休日に和人達が夕飯を食べに来る事もあるのだ。

 

「まぁ、口うるさい年配リーマンとかは夜にキリト達が出入りする事に文句言う奴も居るが、ダチ招く事に文句がある奴の意見なんざ知らねぇ。俺はこの店の経営者である以前に、あいつらのダチで、兄貴だ、あいつらを特別扱いする事については誰にも文句なんざ言わせねぇさ」

 

 店に来てくれる客よりも友達を、弟分や妹分の方が何よりも大事だと、ギルバートは臆面も無く断言した。

 それについて遼太郎も頷いていて、やはりこの二人にとって何処まで行っても和人達は対等な友人であり、大切な弟分と妹分なのだと少しばかり微笑ましくなった。

 

「良いですね、そういう関係って……少し憧れます」

 

 そう言ってビールを一口飲み、改めて遼太郎とギルバートを見る。二人とも和人達の話をする時の表情が本当に楽しそうで、優しい目をしている。

 真耶自身、SAO事件が発生した当初は大学生で、身近に被害者が居なかったから他人事の様に可哀そうだな等と身勝手な哀れみを向けていた。

 しかし、教師となって自分の教え子に4人もSAO生還者が居る今は他人事ではない。和人達が入学して直ぐに真耶は改めてSAO事件について調べ直して犠牲者の数や実際の生還者の声という物をSNSなどで知る事が出来た。

 真耶が得た情報では、SAO生還者の大半がゲームの中で友人を失ったり、目の前で仲間が殺されたり、自分自身が殺されそうになったりと、悲しい出来事や恐怖を経験してVRという物自体を嫌悪してしまった、トラウマになってしまったという事だ。

 例えSAO内では親しくしていたのだとしても、SAOでの辛い事を思い出してしまうから絶対にリアルでは会いたくないと、SAOでの人間関係全てを拒絶する者も居るらしい。

 

「ああ、そんな話は聞くな」

「俺も会社の同僚によく聞かれるぜ。あんな残酷なゲームで出来た友人に会うのは怖くないのかってな……まぁ、二度と会いたくねぇって奴が居ないとは言わねぇけどよ、少なくともエギルやキリト達は別だわな」

「だな。寧ろ殺伐とした世界だったからこそ、そんな世界で出来た大切に思える仲間は、ダチは、リアルでも大事にしたいってのが俺もクラインも……キリト達だって思ってる事だろうさ」

 

 良い話を聞くことが出来たと思う。少なくとも和人達の教師として、教え子の友人達からの率直な意見という物を聞くことが出来た今日という日は、教師・山田真耶としては間違いなく良好な日と言えるだろう。

 

「おっと、もうこんな時間か。真耶ちゃん、そろそろ駅まで送るぜ」

「あ、はい! ギルバートさん、お会計は……」

「もうクラインから貰ってるぜ」

「ええ!? ちょ、遼太郎さん! 夕飯代くらい出しますって言ったじゃないですか~!」

「そりゃ勘弁だぜ真耶ちゃん、デートの飯代くらい持たないと男が廃るってもんだ」

 

 いつの間にお代を払っていたのか、遼太郎は飄々としながら店を出ようとして、真耶は慌てて文句を言いながらそれを追った。

 そんな仲睦まじい友人カップルを見送ったギルバートはそっとため息を零しながら二人が食べ終えた皿等を回収して厨房に居る妻に渡すと、洗い立てのコップと布巾を手に取り磨き始める。

 

「ったく、今日の分はツケとくからなクライン」




ホント、お待たせして申し訳ございません。
ここ半年ほど全然執筆に集中できず、筆が乗らない日々が続いて、一時は引退も考えてしまった程です。
しかし、話の構想は出来てるのに、まだ完結してない作品を放置して引退はしたくないと思って、何とか現状を誤魔化す為に番外編を書きました。
ホント、誰かタスケテ……。

あ、それと転職が決まりました。今月の22日からお仕事開始です。場所は地元北海道で。

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