SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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今回はキリトとユリコのペアVSかんちゃんとのほほんさんです。


第二十七話 「心を解きほぐす戦士達」

SAO帰還者のIS

 

第二十七話

「心を解きほぐす戦士達」

 

 二回戦最終試合、第2試合と同様に世界中のVIPが注目するこの試合のカードは、2番目の男性IS操縦者であり、日本政府がブリュンヒルデである織斑千冬の弟を差し置いて擁護しているという桐ヶ谷和人と、そのパートナーである宍戸百合子VS日本代表候補生である更識簪とパートナーである布仏本音ペアだ。

 各国政府関係者が注目する理由は、本来であれば男性がISを使えるようにする為の実験体として使う筈だった和人がどれ程のものなのか、日本政府が何ゆえ何の後ろ盾(ブリュンヒルデや篠ノ乃束)も無い、モルモットにしても何の問題も無い筈の少年を擁護しているのかを確かめる為である。

 各国は、もしこの大会で和人が目立った力も無い、操縦者として使うよりモルモットとして使った方が有意義だと世界中が判断すれば、日本政府の反対を押し切ってでも和人をIS委員会直属の研究施設へ搬送して、実験体として使うつもりだった。

 つまり、世界中のVIPが注目しているのは、和人が無様に負けてくれることを祈っているが故なのだ。そうすれば、和人をモルモットとして使う大義名分が立つのだから。

 

「まぁ、他国のお偉いさんの考えとしてはこんなところなのかな」

 

 そう呟いたのは、日本政府代表として来賓した一人の男だ。

 宛がわれたVIP室の椅子に座り、これから行われる和人の試合を心待ちにしながら、世界中から集まったVIP達の考えを予測して嗤っていた。

 

「馬鹿だよねぇ、彼がそんな弱い訳がないのに。リアルであろうと、黒の剣士として戦える状況でキリト君が、無様を晒すなんてあるはずがない」

 

 ずれたメガネを直しつつ、男……総務省総合通信基盤局高度通信網振興課第二分室に勤める菊岡誠二郎は、アリーナに姿を現した黒の剣士を見て、満面の笑みで拍手をするのだった。

 

 

 アリーナ中央では、ピットから出てきて試合開始を待つ4人の選手が対峙していた。

 黒鐡を纏う和人と槍陣を纏う百合子、そして対するは共に打鉄の簪と本音だ。本音は近接戦闘用ブレード“葵”を持ち、簪は未だ未完成の専用機に搭載予定の、唯一完成している武装である超振動薙刀“夢現”を握り締めている。

 

「まさか、同じ部活仲間同士で戦うことになるなんてな」

「だね~、かんちゃんも私も本気で行くよ~」

「……負け、ない」

「こちらも、同じです」

 

 和人と百合子も、それぞれエリュシデータとルー・セタンタを構えたところで、試合開始のカウントダウンランプが点灯した。

 赤いランプが一つずつ点灯し、三つ目が点灯した所で全員が集中し、最後の青いランプが点灯したとき、一斉に動き出す。

 

【試合、開始】

「うおぁああああ!!」

 

 和人が簪に向かってエリュシデータの刃を振り下ろすと、簪が夢現でそれを受け止め、一瞬で離れた和人は、自分が居た所に本音が葵の刃を振り下ろしていたのを確認、百合子に視線で合図を送る。

 百合子は本音が刃を振り下ろしたばかりで隙だらけになっている所にルー・セタンタの穂先を突き出すが、今度は簪が夢現の刃で弾き返してきたが、その反動を利用して石突で夢現を弾いた。

 

「スイッチ!」

 

 夢現を弾いた百合子が下がり、和人が簪にエリュシデータの刃を横薙ぎに叩き込んだ。

 その和人を斬ろうと接近してきた本音は百合子のソードスキルによって弾き飛ばされ、アリーナの壁に激突、簪も同じく和人の蹴りで本音の所まで飛んでいった。

 

「ユリコ!」

「はい!」

 

 和人の合図で百合子がルー・セタンタをライトエフェクトにより輝かせる。

 発動したのは新生ALOで開発し、先日レクトにて槍陣で使えるソードスキルに加えて貰ったオリジナルソードスキル、クレーティネだ。

 赤いライトエフェクトによって輝くルー・セタンタを投擲の構えで持つ百合子は、その穂先を簪と本音に向けて、渾身の力を持って投擲する。

 

「本音!」

「うん~!」

 

 轟音を響かせながら飛来するルー・セタンタを何とかその場から離脱する事で避けた二人だったが、ルー・セタンタが地面に突き刺さるのと同時に、まるで大爆発が起きたかのような衝撃が発生、観客席を守るシールドすらもスパークして、簪と本音も爆風に吹き飛ばされてしまった。

 

「う、うそ……」

 

 吹き飛ばされた簪がルー・セタンタの着弾地点を見た瞬間、息を呑んだ。

 地面に突き刺さるルー・セタンタを中心にクレーターが発生して、観客席を守る壁も崩壊、辛うじて剥き出しになった観客席はシールドが守っている状態だった。

 

「余所見厳禁」

「っ!?」

 

 いつの間にか、百合子が予備武装である黄色い短槍、ヴェガルダ・ボウを構えてソードスキルを発動していた。

 槍のソードスキル、ヴェンドフォースによる4連面制圧撃が簪の打鉄を正確に捉え、いつの間にか本音のシールドエネルギーを0にしてきた和人が追撃を掛ける。

 

「はぁっ!」

「くぅっ!?」

 

 何とか夢現で受け止めたものの、その一撃はあまりに重く、完全に衝撃を殺しきれずにバランスを崩す。

 やられる、そう思って目をギュッと閉じた簪だったが、絶好のチャンスだったはずなのに、和人も百合子も攻撃してこない事を不思議に思い、恐る恐る目を開けると、目の前にエリュシデータの切っ先が突きつけられているのが見えた。

 

「っ!」

「……なぁ、簪さん」

「……?」

「どうして、本気でやらないんだ?」

「え……?」

 

 何を言っているのか、判らなかった。

 本気でも何も、最初から自分は本気で戦っているつもりだったのに、何故和人は簪が本気じゃないなどと思ったのか。

 

「簪さん、無意識に思ってない? 専用機を持つ俺たちには訓練機を使う自分じゃ絶対に勝てないって」

「っ!」

「いや、違うか……君は無意識に本気で戦うことを抑えているんだ」

 

 思い当たる節は、あった。

 あの日(・・・)から、自分は無能なのだと自覚して、本気で何かをやることを諦めていたのは確かに自覚している。

 だけど、本気でやりたいと思った事は、ちゃんと本気でやってきた筈だし、この試合だって本気で戦ったつもりだ。

 なのに、自分は全然本気を出せていない。自分で押さえつけてしまっていたのだろう、今までも、そして今回も。

 

「簪さん、薙刀……上手だよな、習ってただろ?」

「……実家で、薙刀を」

「だろうなぁ……でも、何でそれが通用しないか、もう判るだろ?」

「私が、本気じゃ……ない、から?」

「ああ、君は自分の本気を無意識に抑え付けて、本来の実力を出し切れてない」

「……そう、かも」

 

 自慢ではないが、幼少の頃から続けていた薙刀には自信があった。

 実家の、更識家の本家や分家などで同じく薙刀を習っていた同年代の中では飛び抜けて上達していたし、正直薙刀なら誰にも負けた事が無い。

 姉とは薙刀を使って勝負したことが無かったけど、でも薙刀だけなら姉にも負けないと、昔は自信を持って言えたのは確かだ。

 そう、昔は……。

 

「簪さんに何があったのか、俺は知らないし、無理に聞くつもりは無い。だけど、もう少し自分に自信を持ってみたらどうかな?」

「自分に、自信を……」

「ああ、俺は本気の君と戦ってみたい。君の本当の本気、見せてほしい」

 

 自信なんて、まだ持てない。あの子を……打鉄・弐式が完成するまでは、自分に自信を持つことは恐らく出来ないだろう。

 だけど、今は……今だけは、本気を出しても、良いのかもしれない。

 

「勝てる勝てないじゃなくてさ、本気の勝負を、楽しもうぜ」

「本気の勝負……うん!」

 

 そうだ。勝てないのは最初から判ってることだ。だけど、だから本気を出すことから逃げるのは、相手に失礼だ。

 ならば、最初から本気を出して、この勝負を……楽しもう。

 

「っ!」

 

 エリュシデータの刃が下げられたのを確認し、簪は改めて夢現を構えた。

 和人も、今までとは違う隙の無い構え、一撃必殺を決めた迷い無き気迫の瞳を見て、改めて目の前の強敵を迎え撃つため、エリュシデータを構える。

 そして、その二人を静かに見守っていた百合子は、この戦いに手出しするつもりは無いのか少し下がった位置に退避して、本音の横に並んだ。

 

「かんちゃん、吹っ切れたみたいだね~」

「後は、周りに頼ることを教えるだけだよ」

「お~、き~りん凄いね~」

 

 恐らく、勝負は一瞬だろう。

 簪の打鉄のシールドエネルギーは残り僅かなので、一撃のみの全力勝負。

 

「行き、ます」

「おう」

 

 エリュシデータがライトエフェクトの輝きを纏い、夢現がその刃を振動させる。

 一瞬の静寂の後、二人が同時に動き……そして。

 

【更識簪・布仏本音、シールドエネルギーエンプティー。勝者、桐ヶ谷和人・宍戸百合子ペア】




次回は遂に最強対決!
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