SAO帰還者のIS
第三十三話
「海の胸騒ぎ」
バスが旅館に着いて、生徒達が降りると1組から順番に旅館入りすることになった。
千冬と麻耶が先導して旅館に入ると、旅館の女将が慣れた対応をしてくれて、ただ今回だけ特別な事情があるためか、少しだけ普段とは違う点があるのにプロだけあり、対応がスムーズだ。
「ようこそおいでくださいました、IS学園の皆様」
「今年もよろしくお願いします。それと、今年は諸事情で男湯も貸切にしていただくことになり、申し訳ない」
「いえいえ、そちらのお二人ですか?」
「ええ、愚弟とその友人です。一応騒ぎにならないように指導はしてますので」
「ええ、その辺りは心得てますよ」
挨拶も終わり、ようやく1組の生徒達が各々の割り振られた部屋へ向かう中、一夏と和人だけが千冬と麻耶に呼び止められた。
「織斑、お前は私と同じ部屋だ」
「桐ヶ谷君は、私と同室ですよ」
一夏が千冬と同室、和人が麻耶と同室とのことだ。
てっきり二人は男二人で同室だと思っていたのだが、違うらしい。
「お前たち二人を同室にしたら、馬鹿な女どもが夜中に押し寄せないとも限らんからな。教師と同室にしておけばそんな心配もいらんだろう」
なるほど納得だ。
旅館の消灯時間を過ぎて二人の部屋に押しかけるなんて問題行動を起こされるくらいなら二人を教師と同室にして、更に部屋を別ける事で無用な混乱を避けたということだろう。
「じゃあ、キリトさん」
「ああ、海でな」
和人と別れて千冬と共に割り振られている教員用の部屋に入ると、自分の荷物を置いて部屋の中をチェックする。
これは臨海学校前に和人と一夏の二人が電話で総務省の菊岡から指示されていたことで、臨海学校へ行く際は自分の部屋に隠しカメラや盗聴器、隠し進入経路が無いか如何かのチェックをしておくようにとのことだ。
「おい一夏、何をしている?」
「何って、部屋のチェックだよ、怪しいところとか無いかチェックしておかないと安心出来ないからな」
「怪しいも何も、普通の旅館にそんなものがある訳無いだろう」
「何を日和った事を言ってるんだよ、俺もキリトさんも世界で二人しか居ない男性IS操縦者だ、当然だけどその身柄は常に狙われているんだし、隠しカメラや盗聴器、誘拐の為の隠し扉みたいなのとか警戒するのは当たり前だろ」
いくら教員が警備をしているとは言っても、実戦経験など皆無のなんちゃって警備でしかないIS学園の警備を、一夏も和人も信用していない。
だからこそ、自分の身は自分で守れるようにこうして警戒しているのだ。
「ん、こんなところか」
見たところカメラや盗聴器、隠し扉などの存在は無いようだった。
更に窓の外を見れば所々に更識と総務省から派遣された護衛が上手く隠れているのが見えたので、旅館の中に居る間は大丈夫だろうとようやく肩の荷を降ろした。
「さてと、千冬姉、悪いけど着替えるから部屋出てくんない?」
「む、ああ、私も他の教員と警備の話をしてから海へ行く、楽しんでこい」
「言われずとも」
千冬が部屋を出てから服を脱いで荷物の中から百合子と一緒に買いに行った海パンを取り出す。
白地に青いラインが左の腰部分から膝まで伸びた半ズボンサイズの海パンを穿いて、更にタオルを数枚とシートを取り出すと部屋を出た。
明日奈と百合子は5人部屋で同室になっており、現在は荷物を置いて海に行くため水着に着替えているところだった。
他の同室の者は同じ部活の仲間である本音と相川清香、四十院神楽の三人で、皆が着替えのために既に服を脱いでいる。
「うわぁ、明日奈さんスタイルすごっ!!」
「ホント、モデルみたい……」
「そ、そうかな……?」
清香と神楽は明日奈のモデル並みに整ったスタイルを見て羨ましそうな声を挙げていた。
確かに、明日奈は同年代と比べても年不相応に整ったスタイルを持っている。出るところは出て、引っ込むところは引っ込む、正に美の究極とも言うべきスタイルは同姓であっても目を惹かれる。
「良いなぁ明日奈さんは、美人でスタイルも良くて頭も良い、それでお金持ちのお嬢様で気立ても良くて料理も上手な上に美形の彼氏まで居るんだから」
「キリト君が美形……うん、カッコイイけど、どっちかって言うと彼は女顔じゃないかな?」
「そうだね、女装とか似合いそう」
「あ~女装はキリト君、なんだかトラウマがあるみたいだよ?」
直葉が言うには昔、まだ幼い頃の話だが、母親に女物の服を着せられて、それも何着も着せ替え人形の如く着せられていたのがトラウマになったらしい。
「へぇ、でも女顔でも美形は美形だよね桐ヶ谷君って。しかもIS戦闘だって強いし!」
「明日奈さんも百合子ちゃんも、それに織斑君も同じSAO生還者だもんね、剣はそこで?」
「うん、私は槍だけど、三人は皆、剣だった」
「明日奈さんは何で細剣なの? フェンシングやってたとか?」
「ううん、ただ軽い剣が良かったからっていうのが最初の理由かなぁ……で、何度も使ってる内に愛着が出来たの」
短剣でも良かったのだが、短剣だとリーチが短いので、ちょっと怖かったから軽くてリーチもある細剣を選択したのが始まりだった気がする。
それからウインドフルーレを入手して、限界まで強化して、それからも鉱石に戻しては新しい細剣に打ち直してもらい、最終的にランベントライトになった。
ランベントライトは言わば
「ほら、もう着替えも終わったから海に行こう?」
「は~い」
「はい」
清香と神楽が我先にと部屋を出て、明日奈も部屋を出ようとしたのだが、まだ部屋に残っていた本音と百合子にどうしたのかと振り向く。
「本音ちゃん、ユリコちゃん、どうしたの?」
「ゆーりんはね~なんだか胸騒ぎがするんだって~」
「胸騒ぎ?」
「うん、ナツがバスの中で感じたっていう胸騒ぎ、もしかしたら同じ予感なのかも」
「……ユイちゃん、居る?」
『どうかしましたか? ママ』
ユイを呼び出すと瞬光から空間投影されたウインドウディスプレイに愛娘が映し出された。
「わ~、ゆっちゃんだ~」
『こんにちは、本音さん』
「うん~、こんにちは~」
実は本音はユイに会ったことがあるのだ。
部活が同じということもあり、簪と本音はユイを紹介される機会があり、既に何度か会話をしていて、特に簪は打鉄・弐式の開発の際にユイの意見を貰っていたりする。
因みに、同じく部員である楯無と虚は諸事情で部活に顔を出せないので、まだ紹介されていない。
「ね、ユイちゃん、何かこの臨海学校のことで調べられることってあるかな?」
『何かあったんですか?』
「ナツ君とユリコちゃんが胸騒ぎがするんだって、二人の嫌な予感って結構当たるから、ちょっと心配になったの」
『わかりました、調べられる範囲で調べてみますね。ですので、ママとユリコお姉さんは海を楽しんできてください』
「ありがとう、ユイちゃん。ごめんね、今度ALOで海に連れて行くから、今日は我慢してね?」
『はい! 楽しみにしていますね、ママ』
ウインドウディスプレイが消えると明日奈達も部屋を出て海に向かう。
少し時間を掛け過ぎたので、もう和人達も着いているかもしれないと、少し急ぎ足になったのは、仕方が無い。
真夏の太陽が照りつける砂浜に到着した一夏は、丁度同じタイミングで着いた和人と合流して、砂浜に入った。
ビーチに来た二人に気がついた女子生徒達は一様に賑わいを見せているのだが、当人たちはマイペースに持ってきたシートを適当な所に敷いてタオルなどの荷物を置くと和人が海の家で借りてきたパラソルを開いて明日奈と百合子を待つ。
「キリトさん」
「ああ、胸騒ぎのことだろ?」
「やっぱり、キリトさんも?」
「今朝からな……この臨海学校、唯では終わらないかもしれない」
やっぱり、一夏や百合子が感じている胸騒ぎは和人も感じていたらしい。
今日はこの自由時間のみなので、恐らく何かあるとしたら明日の武装テストの時になるだろうとは思う。
だけど、何が起きるのかまでは流石に予想出来ないので、先ほど明日奈に頼まれてユイが調べる事になったと言っていたので、それで何か情報が掴めるのを祈るしかないのだ。
「何か……起きるとしたらIS関係の事件でしょうね。動けるのは俺達4人と、セシリア、鈴くらいですか」
「そうだな、簪さんは弐式の完成がまだだから動けない。シャルとラウラはもう専用機持ちじゃないから、同じくだ」
シャルロットが専用機持ちになれるのは早くても秋になって日本代表候補生選抜試験を受けて、それに合格して無事に日本代表候補生になってからだ。
「シャルが受ける代表候補生選抜試験はいつだっけ?」
「えっと、確か9月ですね、9月の15日にランク適正試験、16日に筆記試験で、17日に実技試験が行われるみたいです。んで、結果発表は9月の30日だから、キャノンボール・ファストには間に合わないみたいです」
「詳しいな?」
「……ええ、まぁ」
何故か一夏が不機嫌になった事に疑問を感じた和人だったが、丁度明日奈達が来たことで頭の片隅に追いやることにした。
今日は水着のお姫様達と目一杯遊んで、胸騒ぎの事は後で考える事にした二人であった。
次回は前半が海で遊び、後半は旅館で夕食。
うまく行けば原作での千冬とヒロインズのガールズトークの所まで、行けるかな?