SAO帰還者のIS
第三十八話
「銀の福音」
旅館の一室、作戦会議室に様変わりした大部屋に集められた専用機持ち達とシャルロット、ラウラの合計9人は中央に設置されたAR投影機を囲む形で座り、投影機の隣に立つ千冬が全員揃ったのを確認すると、早速だが今回の事態の概要説明を始める。
「今から2時間前、ハワイ沖にて試験稼働中だったアメリカ・イスラエル共同開発の第3世代型の軍用IS、
そして、衛星からの監視によれば
「当然だが、暴走状態の軍用ISが東京上空に行って万が一のことがあれば被害は甚大だ。そこで学園上層部は我々がこの事態の収拾を行う事を決定した」
「俺達が? 実戦経験に乏しい面々を暴走している軍用機の鎮圧って大丈夫なのかよ?」
「織斑の言う事はもっともだが、事態は急を要する。当然自衛隊所属のIS部隊にも要請を出しているが、正直1時間以内に到着するというのは無理との事で、だからこそここに集めたメンバーで迎撃、最悪は自衛隊のIS部隊が到着するまでの時間稼ぎを行う事になる」
「なるほど」
自衛隊のIS部隊なら今のご時勢だ、荒事にも慣れているだろう。
ならば自分たちの役割は
「では、まずここまでで何か質問のある者は居るか?」
「はい! 目標の詳細なスペックデータの開示を要請しますわ」
「わかった。だがこれは機密データに該当する物だ、万が一外に漏らした場合、諸君には査問委員会による裁判に掛けられ、最低でも2年は監視が付く事を頭に入れておけ」
皆が頷いた所でAR投影機に目標である
高機動型の広域殲滅を可能とする特殊射撃を得意とした
「オールレンジが可能な射撃型……私のブルーティアーズと同じタイプですが、少し畑が違いますわね」
「速度は……あっちゃあ、アタシの
「それにこの特殊武装も厄介だよ、連続しての防御は難しいかな」
「うむ、データ上では近接戦闘武装が無いが、データに無いだけで搭載されている可能性も考慮するべきだ」
流石に現代表候補生と元代表候補生は見るべき視点をちゃんと弁えていた。
そして、元アインクラッド攻略組の面々もまた、データを見ながら戦略シュミレーションを頭で組み立てながら、迎撃に当たる機体を誰が担当するか、などを検討している。
「アスナさん、どう見ますか?」
「う~ん、本当なら一回くらいは偵察したいけど、でもこの速度ならアプローチ出来るのは一回が限度かな? となるとぶっつけ本番になるから、確実性のある手段っていうのが思いつかない」
「私も、同意見……作戦を立てるなら二重三重の手段を考慮するべき」
アプローチ出来るのは一回限り、その一回の迎撃で何とか仕留めなければアウトだ。
そうなると、確かに百合子の言うとおり、二重三重に作戦を重ねて立てていくのがベストだろうと、考えられる。
「いや、作戦は既に決まっている」
「え?」
「たった一度のアプローチが限界なら、その一回に最大の一撃を叩き込んで落とす。それが今回の作戦であり、その要となるのが白式の零落白夜だ」
「はぁ!?」
なるほど、確かに相手の防御性能が高いであろうこの作戦において、零落白夜は有効かもしれないが、流石にそれは無謀にも程がある。
「ちょっと待てよ千冬姉! それはいくらなんでも短慮が過ぎる! 確かに零落白夜なら一撃で決められるだろうけど、外したらどうするんだ? 一回でも使えば白式のシールドエネルギーが激減して長時間戦闘が出来なくなるのに、外した場合のデメリットを考えたらその作戦は反対するぜ」
「外さなければ良い、それで話は解決する」
「自分を基準に考えるな! そりゃ千冬姉なら楽勝だろうさ! でも俺はまだ千冬姉ほどISの操縦技術が優れてるって訳じゃないし、それに
「ならばどうする? 他に作戦があるなら言って見ろ」
「それは……」
確かに、千冬の作戦は根性論まで交えた論外な代物だが、成功すれば一撃で終わらせられるというメリットもある。
それに、他に作戦が無ければ反論する資格が無いのも確かで、口篭った一夏から視線を外した千冬は自分の作戦で行く事を決定しようと口を開こうとしたのだが、それに待ったを掛けた人物が居た。
『待ってください!』
「ゆ、ユイ!?」
「ユイちゃん!?」
「……何者だ? 桐ヶ谷、貴様はこの機密情報が混じった作戦会議に外の者と通信をして傍受させていたのか?」
「い、いえ……この子は、AIなんです」
「……AIだと?」
黒鐡から投影された空間投影ディスプレイに映るユイを見るが、どう見ても通信先に居る人間にしか見えない。
そもそも、こんなに人間に見紛うほどのAIなど今まで何処の国も開発に成功したという話を聞いたことが無いのだから、和人が嘘を吐いているのではと疑いの眼差しを向ける。
「千冬姉、ユイちゃんはAIで間違いないぜ、それは俺が保障する……まぁ、出来ればしたくはない保障だけど」
「黒鐡搭載のAIという事か? だが、黒鐡のスペックにAIが搭載されているなどという報告は受けていないぞ」
「いや、ユイは黒鐡の搭載のAIって訳じゃないです。この子は俺とアスナの……まぁ、こんな言い方は嫌いだけど、所有物っていう扱いですね、個人の……まぁ、俺的には娘っていう認識を持ってるけど」
「個人所有のAI……まぁ、今は時間が惜しい。それより、そのAIが何の用だ?」
『織斑先生の作戦は論理的ではありませんでしたので、わたしが代わりとなる作戦を提供します』
AI如きが何を、と千冬は思っていたが、好きにさせる事にした。
AIは確かに人間よりも高度な演算能力を持っているが、所詮はAIだ。何を言おうが人間に対する影響力などありはしない、そう思っていたのだが……。
『まず、今回の作戦に零落白夜は使いません。ただし、ナツお兄さんには出撃メンバーとして参加して頂きます』
「理由は?」
『ナツお兄さんの白式は現状ですとこのメンバー内で最速の機体だからですね。
「なるほど」
『それから、ママにも出撃して頂きます』
「わたしも速度は白式に並ぶし、瞬発力は白式よりも上だから、だよね? ユイちゃん」
『はい』
ママ、というのが誰なのか判らなかった千冬と箒、麻耶だったが、さも当然の様に明日奈が自分のことだと認識していた事で明日奈がAIにママと呼ばせているのか、と少し引いてしまった。
『それから、パパ……パパも戦闘メンバーです』
「速度は二人に劣るけど、二刀流の手数か?」
『はい、今回の作戦は海上ですので、ユリコお姉さんの無限槍は使えませんから、パパの二刀流が福音を抑え付ける役目になりますね』
「わかった」
『それから、お三方を目標地点まで運ぶ役が必要になります。ティアさんのストライクガンナー搭載型ブルーティアーズ、箒さんの紅椿、それからラファールさんには訓練機のラファール・リヴァイヴと学園から持ってきているテスト用高機動パッケージを装備しての出撃が望ましいです。最後にスズさんの
ユイの立てた作戦の概要を説明すると、まずセシリアと和人が先行して二刀流の手数とブルーティアーズの援護射撃による福音の抑え込み。
続いて箒が運ぶ一夏が到着次第、和人と共に近接戦闘による抑え込みと、なるべく多く福音のシールドエネルギーを減らす。
その間、セシリアは援護射撃をしつつ、実戦素人の箒の護衛を勤め、最後にシャルロットに運ばれた明日奈が合流して完全包囲網を敷く。
そして、遅れてきた鈴音がセシリアとシャルロットと共に箒が後退するまで護衛を勤めつつ、援護射撃、百合子は一夏達に合流、トドメとして槍の最上位ソードスキルを叩き込む。
『スペック上、福音には近接武装がありませんから、とにかく距離を詰めて戦うのが最も最適でしょうし、万が一近接武装があってもパパ達の実力を加味するなら並大抵の事では負けないです。この作戦なら最悪落とせずとも自衛隊のIS部隊到着までの時間稼ぎも可能かと思いますよ』
ぐうの音も出ないとはこの事か。
確かに、千冬の作戦では福音を落とすのが前提となっている為、失敗時の事を何も考えられていないが、ユイの作戦は福音を落とすのが最善、出来ずとも自衛隊の到着までの時間稼ぎが可能というベストとベターが揃ったものだ。
これには千冬も反論する余地が無いのか、何も言い返さずユイの作戦を了承したのだが、そこに待ったを掛けたのが箒だった。
「織斑先生、紅椿のリミッターを姉さんに外して貰えれば私と一夏だけで織斑先生の作戦を成功させられます!」
「だが、束が素直にリミッターを外すと思うか?」
「緊急事態ですよ? 姉さんの我侭で作戦遂行が出来ないなんてことになれば姉さんの責任問題になります」
「ふむ……」
「外さないよ~」
「「っ!?」」
いつの間にか一夏の隣、百合子の反対側に束が座っていた。
いつ入ってきたのか、いつから居るのか、誰一人として気づけなかったが、束は特に気にせずニコニコと笑顔で紅椿のリミッターを外す事を却下して、手でバッテンを作っている。
「良い作戦があるんだから、紅椿のリミッターを外す必要は無いよね~?」
「し、しかし! そこのAIが提案した作戦で行くにしても、紅椿のリミッターを外さなければ戦いにならないではないですか!」
「え? だって箒ちゃんの役目はいっくんを運ぶ事であって戦うことじゃないでしょ? 戦わないのに何でリミッター外す必要があるのかな?」
「敵を前にして戦わず指咥えて見ていろと!?」
「そうだよ、今の箒ちゃんの実力じゃ、それしか出来ることは無いんだから」
「紅椿のリミッターが外れればこの場の誰にも負けません!」
「ざんね~ん、リミッター外しても勝てないんだな~これが」
ただリミッターを外したからとて、箒の腕が追い付いていないのだから、紅椿を使いこなすことは現時点で不可能、逆に足枷になってしまう状態で誰に勝てると言うのか。
それを束が指摘すると、箒は顔を真っ赤にして怒りの形相を浮かべながら押し黙るしか無かった。
「ああ、そうそう……セッシーだっけ?」
「せ、セシリア・オルコットですわ、篠ノ之博士……」
「うん、だからセッシーね? セッシーのブルーティアーズはストライクガンナーだっけ? そのパッケージのインストールにどれくらい時間掛かるかな?」
「30分は、掛かるかと」
「ふむふむ、じゃあ束さんが手伝ってあげよう! そうすれば10分もあれば終わるよん!」
「本当ですの!?」
「もっちのろ~ん! いっくんはそっちの子……シャルルンの乗るラファール・リヴァイヴにパッケージ取り付けるの手伝ってあげて? いっくん、電子工学の勉強してるみたいだし、プログラム入力とか出来るでしょ?」
それなら問題は無い。
もともと学園の訓練機に、学園所有のパッケージを取り付けるだけなら20分と掛からないで終わらせる自信が今の一夏にはあった。
「では、作戦開始時間は25分後、集合場所は砂浜だ。早速作業に取り掛かれ!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
「……了解」
「ボーデヴィッヒはこのままこの作戦司令室で山田先生と共にオペレートを頼む、手順は山田先生に教わるんだ」
「了解!」
作戦司令室を出た一夏は早速シャルロットと百合子と共にシャルロットが乗る事になる訓練機、ラファール・リヴァイヴの所へ行き、和人と明日奈は鈴音を連れて作戦の再確認と万が一の事があった場合の対処の話し合いに、セシリアは束と共にイギリスから送られてきたストライクガンナーが保管してあるトレーラーの所へ向かった。
完全に出遅れた箒はどうしようかと悩んでいたが、せめて紅椿のスペックと武装を確認しておこうと砂浜へと向かうのだった。
実際、原作の作戦って穴だらけなんですよね。
今回の話にも出しましたが、一発目で仕留めるのは成功したときのメリットとしては大きいけど、それ以上に失敗したときのデメリットの方が大きいし。
むしろ、こういう状況では零落白夜って邪魔でしかないと思った。自分のエネルギーが減るって事は、失敗した後に長時間戦えないという事を意味しているわけだし。