SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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大変、ご心配お掛けしまして、申し訳ありませんでした。


第四十四話 「サイレント・ゼフィルス」

SAO帰還者のIS

 

第四十四話

「サイレント・ゼフィルス」

 

 アインクラッド後半からずっと愛用してきて、リアルでも忠実に再現された白の剣士ナツ……織斑一夏の愛剣、トワイライトフィニッシャーと、元々白式に搭載されていたという雪片弐型が変化して生まれた盾、リベレイターⅡ。

 この二つの武器を構えた一夏は同じく友切包丁(メイト・チョッパー)を構えたPohへと突撃する。

 リベレイターⅡを前面にしてトワイライトフィニッシャーを腰溜めに構え、Pohが振り下ろした友切包丁(メイト・チョッパー)はリベレイターⅡで受け流しながらトワイライトフィニッシャーの切っ先を突き出した。

 

「Ha!」

 

 だが、その刃もまるで曲芸のように一回転しながら避けられ、更にPohはそのまま回転しながら遠心力を利用して友切包丁(メイト・チョッパー)の刃を横薙ぎに振るう。

 肉厚の刃はトワイライトフィニッシャーを持つ右側から迫って来たので、トワイライトフィニッシャーで受け止め、体当たりの要領でリベレイターⅡを前にしてタックルをカウンターでぶつけた。

 思いの外ダメージが大きかったらしく、Pohは衝撃で大きく仰け反るが、それでもやはり彼とて戦士だったらしく、仰け反った拍子にバク転しながらのサマーソルトキックを一夏の顎へクリーンヒットさせてくる。

 

「がっ!?」

 

 二次移行(セカンドシフト)したことでウイルスが消去され、復活した絶対防御のおかげで脳震盪にこそならなかったが、それでも衝撃事態は相当なものだったので、一夏も大きく仰け反ってしまった。

 ここぞとばかりに反撃してくるPohをふらつく頭を無視しながらリベレイターⅡで受け止め、時に受け流し、またはカウンターを仕掛ける。

 脳裏に過ぎるヒースクリフの戦い方を思い出しながら、その動きを模倣し、所々に自分のスタイルを取り入れてアレンジしながら、使い慣れない神聖剣を扱い、Pohと互角の戦いを演じた。

 

「Wow! 楽しいな、楽しいじゃないか!」

「相変わらず、殺し合いを望んでるんだな!」

「そうだとも! 黒の剣士がSAOをクリアして、この腐った現実に帰還して思ったのは、温過ぎるってことだ!! 殺しは犯罪? HA! 今更俺達がそんな陳腐な言葉で殺しが辞められるか! 殺しは権利だ! 俺達SAO生還者は、皆がアインクラッドで殺しの権利を持っていた! 現実に帰ったくらいでその権利を奪われる謂れは無ぇ!!」

「そんな権利、存在するものか!!」

「HA! だがお前とて俺達を殺したいと今も願っている! やれよ坊ちゃん! SAO生還者であるお前にだって、復讐で殺す権利はある! 同じSAO生還者だからこそ、殺す権利がある!!」

「っ!」

 

 復讐……そう、復讐という言葉は先ほどまで一夏が囚われていた言葉だ。

 白夜剣舞の皆を、共にゲームクリアしようと誓い合った、一緒に現実へ帰ろうと誓い、杯を交わした仲間達を、目の前で殺したPoh達を、絶対に殺すと、そう思っていた。

 

「(だけど……!)」

 

 ふと、無人機を倒し終えた百合子の方へ視線を向ける。

 心配そうな、今にも泣きそうな、そんな顔をしている恋人を見て、Pohの言葉で再度燃焼しようとしていた憎しみの心が静まり返った。

 

「お前の言うとおり、今でも俺はお前達が殺してやりたいほど憎いさ」

「なら、殺してみろ!」

「……殺さない」

「Wow?」

「俺が復讐に囚われたら、悲しむ人が居る……ユリコを、もう悲しませないって、俺はアインクラッドで誓ったはずなのに、さっきそれを破っちまった。だからこそ、もう二度と……」

 

 アインクラッドで嘗て行われたラフコフ討伐戦、あの時に暴走して死にかけたナツを見て、ユリコを悲しませてしまった。

 泣きながら回復結晶を使うユリコを見て、もうユリコを悲しませないと、そう誓っておきながら先ほどの醜態だ。

 だからこそ、二度と百合子を悲しませない。百合子には、一緒に居るときも、そうじゃないときも、いつだって笑顔で居て欲しいから。

 

「だから……お前を裁くのは俺じゃなく……法だ!!」

 

 その言葉と共に、トワイライトフィニッシャーの刃が眩いばかりの光を放った。

 クリムゾンレッドのライトエフェクトを纏い、シールドエネルギーを大きく削って発動されたソードスキルは、ヒースクリフの切り札にして、神聖剣を受け継いだ一夏の最終奥義。

 

「アカシック・アーマゲドン……行くぜぇえええええええ!!!」

「Yeah!!! 来い、白の剣士ぃいいいいい!!!」

 

 神聖剣の最上級ソードスキル、アカシック・アーマゲドンと、短剣の最上級ソードスキル、エターナル・サイクロンが発動し、一気に互いに距離を縮め、その刃が交差しようとしたその時だった。

 突如、二人にレーザーの嵐が襲い掛かり、ギリギリで気づいた二人が回避する。

 

「あ、あれは!?」

 

 レーザーの発射ポイントと思しき場所を見上げたセシリアが悲鳴のような声を挙げた。釣られて全員がそこに目を向けると、1機のISが浮かんでいるのが見える。

 ブルーティアーズと同じように大型のスナイパーライフルを持ち、周囲にBT兵器と思しきビットを展開した、まるで蝶のようなフォルムを持つIS。

 搭乗者は大きなバイザーで目ごと顔半分を隠してしまっているので、その顔を窺い知る事は出来ないが、小柄な体格から一夏達と同い年か、少し下程度といった所だ。

 

「Wow、随分と無粋な真似をしてくれるじゃないか、M」

「フン、貴様がその程度の雑魚に梃子摺っているようだったからな、援護射撃をしてやったのだ。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いは無い」

 

 M、Pohにそう呼ばれた少女は辛うじて見えている口元を歪めてPohの文句を封殺した。

 

「それより、無人機とザザ、ジョニー・ブラックの回収は終わったから貴様も戻れ」

「……チッ」

 

 仕方が無いという顔でPohは一気にその場から離脱した。

 追おうとする箒達だったが、一夏が道を塞いで止める。

 

「一夏! 敵を逃がすというのか!?」

「逃がすしか無いだろう……正直、素直に追わせて貰えそうにないみたいだからな」

 

 見れば、少女がライフルとBT兵器の銃口をこちらに向けて、いつでもレーザーの一斉射撃が出来るようにしていた。

 少しでも追う動きを見せれば撃つ、態度がそう語っている。

 

「なぜ……イギリスのサイレント・ゼフィルスを!」

「ふん、よく見ればイギリスのBT1号機操縦者か……簡単な話だ。このBT2号機、サイレント・ゼフィルスを我々亡国機業が盗み、そして私の専用機にしたのだ」

「っ!」

 

 少女の乗っている機体はイギリスの第3世代型ISにしてセシリアの乗るブルーティアーズの姉妹機、ティアーズ型BT2号機サイレント・ゼフィルスだった。

 

「なるほどな、イギリスで盗まれたって話は聞いていたけど、まさかもう実践投入してくるなんてな」

「キリト君、知ってたの?」

「昨日な、ちょっと聞いたばかりの話だ。イギリス以外にも色々と盗まれているみたいだけど」

 

 さてどうしたものか。

 全員、シールドエネルギーが残り心許ない上に、和人と明日奈、百合子の三人は今もまだ絶対防御が復活していない。

 この状況では例え1対8でも安心して戦えない。それはつまり、勝てる可能性も決して高くは無いという事でもある。

 

「今日はPoh達の回収に来ただけだ。戦うつもりは無いが……もしやるというのなら、ここで全員殺すのもアリだが?」

「くっ……!」

 

 悔しそうに一夏は白式のシールドエネルギー残量を確認した。

 先ほどのアカシック・アーマゲドンの発動で随分と削られてしまっているので、残り200を切っている。これ以上戦えば危険なのは明白だ。

 

「懸命な選択だな……まぁ、いい。今日のところはこれで帰らせてもらうが、置き土産だ。精々生きて帰ることだな」

 

 サイレント・ゼフィルスの全レーザーが発射された。

 慌てて一夏が前に出ると、和人達が一箇所に全員を集め、リベレイターⅡとトワイライトフィニッシャーでレーザーを防ぎ、斬って霧散させる。

 レーザーが止んだ後には、既にサイレント・ゼフィルスも去っており、残された一夏達は何とか作戦が無事に終了したことに安堵した。

 

「帰りましょう、アタシ疲れたわ」

「僕もクタクタかなぁ」

「シャワー浴びたい……」

「シャルちゃん、一緒にシャワー浴びよう?」

 

 女性陣がノロノロと旅館向けて飛んでいく中、一夏と和人、それから箒の三人がまだその場に残っている。

 

「あ、あの……一夏」

「ん?」

「その……すまなかった、私の所為で」

「まぁ、怪我の事は気にすんな。でも、あの時お前が飛び出したのは叱らせてもらうぜ」

「ナツ、俺は戻った方が良いか?」

「いえ、キリトさんも居てください」

 

 そして、一夏の説教が始まった。

 

「いいか? お前は紅椿を貰ったのは束さんのおかげであって、お前の実力が専用機持ちと同等になったからじゃない。それを勘違いするな」

「それは……」

「本来高性能な第4世代機なのに、リミッターが付いている理由を、束さんに聞いているはずだ」

「私の、実力が追いついてない、から……」

「そうだ、実際に束さんの意見は正しい。お前は確かに剣道で全国優勝もしたんだろうさ。近接戦闘で言えばIS学園でも上位に食い込めるかもしれない。けどな、お前が強いのはあくまで剣の腕だけだ」

 

 キョトンとした箒を見て、一夏の言いたい事を理解していないのだと判った。

 

「剣の腕だけで専用機が貰えるのか? それなら同じ理由で銃の腕が良ければ貰えるってことになる。そうなればIS学園に専用機持ちがもっと沢山居る事になるだろうが」

「何が、言いたいのだ?」

「だから、剣の腕が強いだけじゃお前はまだまだ専用機を持つ器になれないって事だ。いや、もっと正確に言うなら、戦場に出て良い人間じゃないって事だ」

「何故だ! 剣の腕が良ければ戦いに支障は……」

「結果がさっきの出来事だろうが」

「っ!」

 

 剣の腕だけでは駄目なのだ。

 戦場に出るということは剣の腕が良い、銃の腕が良い、それだけでは足りない。それを理解してないからこそ、箒は専用機を持つのが尚早なのだった。

 

「箒、これはお前への宿題だ」

「……宿題、だと?」

「お前が戦場に出るのに、剣の腕以外に何が必要なのか……その答えを自分で見つけてみろ。それまで、俺はお前と戦場に立つつもりは無い」

「それを、見つければ……」

「その時は、安心して背中を任せられるだろうな。それに、紅椿のリミッターも、解除されるのが早くなるだろうぜ」

 

 それだけ言い残し、一夏は和人と箒を残して旅館の方へ飛んでいってしまった。

 残された和人は、まだ思い悩んでいる箒を見て、少し頭を掻くとポンと背中を叩く。

 

「和人さん……」

「今度、ALOをやってみると良い。君の言うたかがゲームでも、そこにナツが出した宿題のヒントがあるからさ」

「ヒントが……」

 

 帰ろうぜ、と言って旅館へ戻る和人を追うように箒もスラスターを吹かせる。

 旅館に戻ってきた時の箒は、悩んでいるのか難しい顔をしていたが、それが解決した時、きっと彼女は変わる筈だと、帰還を出迎えた束が安心していたらしい。




戦いが終わった。
帰還した戦士達と、天災によって語られる真実は白き魂に宿る憎しみ。
知られざる戦士達の2年を知った時、桜の姉と白の弟は互いの気持ちをぶつけ合う。
次回、SAO帰還者のIS
「英雄は、かく語りき」
英雄達の秘話、ついに明かされる。
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