SAO帰還者のIS
第四十六話
「犠牲と、殺意と、初めての出会い」
映像の中でアインクラッド攻略の最前線が30層になっていた。
ある程度必要な情報のみをピックアップしているので、2年の冒険を短縮して映し出しているから進みは早い。
そして、その頃にはキリトの方で月夜の黒猫団壊滅の話が出てきて、当時の事を思い出した和人が暗くなったのを明日奈が隣で支えていた。
一方、ナツの方では白夜剣舞というギルドに加入した所だった。このギルドが後に壊滅した事で、一夏の心に暗い闇を生む事になるのだ。
『これからよろしくな、ナツ』
『ああ、よろしく。でも良いのか? 俺、みんなより随分とレベルが上だぜ? 正直、俺じゃ皆のチームワークを乱すんじゃないか?』
『気にすんなって! それなら俺達がナツのレベルに追い付けば良いだけじゃねぇか、なぁ?』
『そうそう! だから俺達の指導、頼むぜナツ!』
『私たち、皆で強くなってナツの仲間として堂々と攻略組入りしてみせるわよ』
そう、元々攻略組入りを目指していた白夜剣舞はナツが加入した事でナツの指導があれば本当に攻略組になれると希望を見ていた。
そしてナツもまた、自分を仲間に誘ってくれて、そして共に仲間として攻略組に参加しようと言ってくれた彼らと、一緒にボス戦に参加する日を夢見るようになったのだ。
ナツ一人じゃない、白夜剣舞というギルド全員がいつか……攻略組の仲間入りして、ゲームクリアを目指そう。それが、白夜剣舞の目標にして、スローガンだった。
だけど、最前線が46層になり、白夜剣舞の面々もナツの指導により最前線クラスまでもう少し、ボス戦での安全マージンが取れるレベルまであと少しという所に来て、悲劇は起きた。
『ベル!』
いつものようにダンジョンでレベル上げを行っていた白夜剣舞一行はそろそろ帰ろうか、という話になり、転移結晶を使おうとしたのだが、突如背後から奇襲を受けて、メンバーの一人が……死んだ。
モンスターの襲撃かと思ったが、見ればボロボロのローブを纏った人影が一人、二人……少なくとも10人以上は周りに居て、白夜剣舞のメンバー全員を囲んでいる。
『何なんだお前ら!!』
リーダーが仲間一人の死に動揺しながらそう叫ぶが、男達は何も答えない。だが、ナツ一人だけは彼らの姿を見て、そしてその手の甲に描かれたマークを見て、その正体に気がついた。
『気をつけろ皆! こいつら、
『あの最悪の殺人ギルド!? うそ!? 何でこんな所に居るのよ!?』
『さぁ、最高のゲームの始まりだ! イッツ・ショウ・タ~イム!!』
皆一斉に武器を構えて襲い掛かってきた
流石にもう少しで攻略組入り出来るであろうというレベルの白夜剣舞が一方的にやられるという事は無かったのだが、仲間一人が殺されて動揺しているのか、全員いつもの調子で戦えず苦戦を強いられている。
何より、最初から殺しに来ている
『う、うわあああああ!?』
『バーダック!! くそっ!? ぎゃああああ!!』
『バーダック! セイ!!』
一人、また一人と仲間が殺された。残りはナツと白夜剣舞のリーダーであるホワイトを入れても4人、ここまでで既に5人が殺されてしまっている。
『ホワイト! とにかく逃げることだけ考えるんだ!!』
『くそっ! わかった! レイン! オーガ! 続け!!』
『ええ!』
『チックショウめ!!』
殿としてナツ一人が三人の後ろに付いて
何故なら確保した退路に、赤目のザザとジョニー・ブラックが待機しており、ホワイトを除く紅一点のレインと、唯一の大人だったオーガが殺されてしまったのだから。
『レイン! オーガ!!』
『そんな……っ!』
まずい状況だった。ナツのHPにはまだ余裕があるし、バトルヒーリングのスキルのおかげで少しずつではあるがHPが回復してくれている。
だけどホワイトは襲い掛かる赤目のザザとジョニー・ブラックを相手に苦戦どころか追い詰められていた。
結果として、赤目のザザのエストックがホワイトの心臓部分を貫き、そのHPを散らしてしまうのだった。
『ホワイト!!』
『ナツ……お前は、生きて……ゲーム、クリアを』
ポリゴンの粒子となって消えたホワイトを見て、ナツの中で何かが切れた。本人はその時の事を覚えていないが、こうして映像で見ると、随分とんでもない事をしていると改めて思う。
映像の中のナツはまるで理性の無い獣のように大暴れして襲い掛かる
『皆……くそぉおおおお!!!』
仲間を失った悲しみを地面に叩きつけるナツの姿に初めて皆が涙を流していた。
和人の……キリトの月夜の黒猫団の時でも涙を流していたが、これはあまりにも辛すぎる現実だった。
『許さない……絶対に、皆殺しにしてやるっ!!』
「っ!」
ナツの呪詛の如き言葉を聞いて、千冬が息を呑んだ。先ほどもモニター越しに憎しみに染まった弟の声を聞いたが、これは本当に最初の……最も憎しみが強く出たばかりの呪詛の声だ。
仲間を目の前で殺されたばかりの頃の弟が、どんな思いをしていたのか、どれほどの憎しみを
『そうだ……強くなれば良いんだ……誰にも負けないくらい強くなって、奴らを皆殺しにしたらいいんだよな』
フラフラと、ナツは街へ戻らず、そのまま迷宮区へと歩き出した。
それからというもの、ナツは街へ一切戻らず鬼気迫る勢いでレベル上げを始めて、最前線が50層を超えて55層にたどり着いた時だった。
周囲の心配を無視していつも通りレベル上げの為に迷宮区に潜っていたナツは攻略組の大手ギルド血盟騎士団の制服を着た集団を見つける。
その集団は男集団に少女……そう、ユリコが一人という、SAOではさして珍しくもないパーティーだったのだが、このときナツは何か嫌な予感がしてその集団を追跡した。
「俺とユリコが初めて出会った時か」
「懐かしい、ね」
百合子にとっては忌まわしい記憶であるのと同時に、愛する恋人との初の出会いの記憶でもあるのだ。中々に感慨深いものがあるのだろう。
『あれは……!?』
ナツが追跡した先にあった光景は、先ほどの血盟騎士団の男集団がパーティー唯一の女性プレイヤーだったユリコを麻痺毒のナイフで斬り付け、麻痺して動けなくなった彼女を押し倒し、手を無理やり動かし倫理コード解除設定を行い、レイプしようとしている所だった。
それを見ていた女性陣はその光景に表情を顰めて、大丈夫だったのかという眼差しを百合子に向けている。
だが、その心配は無用だ。何故なら映像の中では間一髪のところでナツが血盟騎士団の男達を殴り倒し蹴り飛ばしと、全員をノックアウトしてユリコを救出していたのだから。
『大丈夫か?』
『あ……いや、いやぁ……』
『……ショックを受けてるみたいだな』
無理もない。まだ当時14~5くらいの少女が大の大人数人に囲まれてレイプされ掛ければ誰だってショックで動けなくなるものだ。
『安心して、俺は君の所の副団長の知り合いだから』
『あ、アスナ様の……』
『うん、今からアスナさんを呼ぶから、ちょっと待ってて』
そう言ってナツはアスナにメッセージを飛ばして、急ぎ来てもらう事にした。
メッセージを送って30分ほどが経った頃に、ナツが血盟騎士団の男連中を拘束しているとアスナが到着する。
アスナの他に数名の血盟騎士団の団員も来ており、すぐさまレイプ未遂を行った団員達を回収して、アスナはユリコに話しかけていた。
『あなた、確か最近ウチに入った娘よね?』
『は、はい……ユリコ、と言います』
『ええ、覚えてるわ。槍捌きがソロの中でも群を抜いていたからって団長が直接スカウトしたのよね』
ユリコの血盟騎士団入団の経緯はその辺にして、アスナはユリコを立たせると、彼女の体を支えながら歩き出し、その場から動く様子を見せないナツの方を怪訝そうな表情で見つめた。
『ナツ君、あなたは街に戻らないのかしら?』
『俺は、まだレベル上げしていくつもりですから。それに、俺は血盟騎士団の団員ってわけでもないですしね』
『そう……ねぇ、キリト君にも前に聞いたんだけど、ナツ君……血盟騎士団に入らないかしら?』
アスナとキリトはこの当時で既に白夜剣舞の事は話に聞いて知っていた。
随分と心配を掛けていたようで、今更ながら一夏は和人と明日奈に頭が上がらない思いで一杯になるが、二人は気にするなと笑っている。
兄貴分として、姉貴分として、弟分のことを心配するのは当然だと、二人とも当たり前のように言ってくれたのだ。
『俺は、この先もギルドに入るつもりはありません。俺が所属するギルドは、ずっと白夜剣舞だけですから』
『……わかった。無理に誘わないけど、でも無理だけはしないでね? 君ってばキリト君の悪い所まで真似しちゃうんだから』
『すいません……』
『ううん、今に始まったことじゃないから気にしてないわ。でも、せめてお節介だけさせて? 48層のリンダースにわたしの友達がやってる鍛冶屋があるんだけど、もし武器を新調するときや研ぎに出すならそこを利用して。腕は確かな娘だから、きっと満足出来るはずよ』
『ありがとうございます。近いうちにでも行ってみますよ』
『うん、向こうにはわたしから連絡しておくから。さ、ユリコちゃん、行きましょう?』
『あ、はい……あの、ありがとう、ございました』
『おう、今後はなるべくアスナさんと行動した方が良いかもな。女同士、色々と話も合うだろうし』
『それは良い考えね! となるとユリコちゃんをわたしの補佐にできるよう団長に進言しなきゃ』
ユリコを連れて急ぎ転移したアスナを見送ったナツは再びレベル上げのため、迷宮区の奥へと足を向けるのだった。
次回のSAO語りは皆様大変お待ちかねの、『白の剣士告白事件』が登場!