SAO帰還者のIS
第四十七話
「白の剣士告白事件、露見する罪科」
アインクラッド攻略の最前線が65層に到達した頃、ナツとユリコはよくアスナの手引きで共に行動する機会が増えた。
一緒に食事をしたり、クエストを消化したり、レベル上げをしたりと、何かとコンビを組む事が多々あり、少し前からユリコはボス攻略にもナツ、アスナ、キリトの三人と共にパーティーを組み参加するようにもなったのだ。
そんな中、まだお披露目されていなかったが少し前にキリトがユニークスキルであり、後の黒の剣士の代名詞となった二刀流を習得して、65層に到達した段階でユリコも同じくユニークスキルを習得した。
後に彼女の渾名ともなったユニークスキル、無限槍。血盟騎士団に所属している彼女はソロのキリトとは違い、大々的にユニークスキル取得を公表される。
アインクラッドで3人目、未公開状態のキリトを除けば2人目のユニークスキル取得者が攻略組に現れた事でゲーム攻略への希望が湧いたのは確かなのだが、しかしそれは同時に、多くのプレイヤー達からの嫉妬の感情を向けられる事と同義だ。
「だからだよね、アスナお義姉さんの……アスナ様の意向で私とナツが毎日行動を共にする事になったのは」
「ああ、そうだった……それまでは時々一緒に行動するってくらいだったけど」
「へぇ、僕としては一夏と百合子がそれまで毎日一緒じゃなかったって信じられなかったけど」
「まだこの頃の俺は、ユリコを異性として意識してなかったからな……毎日一緒に居る事になったのも、半ばユリコの護衛が理由だったし」
そう、まだこの頃はナツもユリコを異性として意識した事は無かった。
ユリコは大分ナツの事を意識していて、結構なアピールをしていたのだが、肝心のナツがそれに気づかなかったのだ。
「一夏の鈍感って、この頃はまだ健在なのねぇ。この頃のユリコの姿、小中学生時代の一夏に惚れてた女子とよく似てるわ」
だが、そんなナツの意識にも変化が訪れる機会が訪れた。
それは65層フロアボス攻略の時の出来事だ。ボスの予想外の攻撃に対処が遅れて致命的な一撃を受けたナツがHP全損寸前まで追い込まれ、死にかける。
その映像を見て全員が、特に千冬と箒が大きく身を乗り出して息を呑んだ。
「安心しろって、これで死ななかったから俺は今ここに居るんだから」
「そ、そうか……いや、そうだな」
事実、このときナツはギリギリで助かった。
トドメの一撃を受けそうになったナツをヒースクリフが自慢の防御で守り、その隙にキリトがナツを戦線から離脱させて後方へと運んだ。
一緒に下がってきたユリコがナツに回復結晶を使っている間にキリトが再び前線に戻ると、ショックで意識を失っていたナツが目を開けて、泣きながらナツを回復しているユリコの姿が目に飛び込んでくる。
「このときからなんだろうな……俺がユリコを、異性として意識し始めたのは。まぁ、当時の俺は変化した感情が何なのか、まだ解らなかったけど」
「ふむ、俗に言う戦場の恋という奴か……軍人をやっていた頃、上官にも似たような経験をした者が居たと聞いた事がある」
戦場の恋、そう……最初はナツとユリコだけじゃない、キリトとアスナも同じだった。だけど、それはいつしか本物の恋へと発展し、そしてお互いがお互いを愛し、大切に想う関係へとなった。
最前線が69層に到達して、何故かアスナの手引きでナツは61層のセルムブルグにあるユリコの自宅に一緒に住む事となり、それまで50層のアルゲードにあった部屋を引き払ったのだ。
それからは一緒に住んでいることもあり、ユリコがナツへ猛アピールをしたが、意識に変化が訪れても持ち前の鈍感さは健在のナツに通じる筈も無く、ある日のことだった。
ナツとユリコがレベル上げの最中に入手したレアアイテムを珍しくナツ一人でアルゲードまで行き、商いをしているエギルの所へ持ち込んでいる間、ユリコは一人でセルムブルグへ戻る事になったのだが、先に転移したナツの後で同じく転移しようとしたユリコに背後から何者かが麻痺毒ナイフで襲い掛かる。
「まぁ!? この男は!!」
「ああ、このときは油断した……まさか前にユリコを強姦しようとした男達が、隠蔽スキルをコンプリートしてまで再びユリコを強姦しようとするなんてな」
索敵スキルをまだコンプリートしていなかったナツでは隠蔽スキルをコンプリートした相手に本気で隠れられると、見つける事は容易ではない。
キリトであれば、この頃は既に索敵スキルをコンプリートしていたので、簡単に見つけられたのだろうが。
同時に、コンプリートしていないユリコもまた、男達を見つける事ができるわけもなく、簡単に背後を許してしまった。
「間一髪だったよ、運良く俺とアスナが同じ場所でレベル上げしてなければ、助けることは出来なかった」
「本当に、ギリギリだったよー」
倫理コードを解除され、防具装備も全て解除されて下着のみの姿になったユリコを、ギリギリの所で駆けつけたキリトとアスナが救出、男達は拘束され黒鉄宮へと送られた。
その後、駆けつけたナツはユリコを一人にした事でキリトに殴られ、アスナからも大目玉を食らう。そして、ユリコを危険な目に合わせてしまった事で落ち込んだナツをユリコが慰める事に。
「そう、これが決定打になったんだ……もう二度とユリコを危険な目に合わせない。ユリコは、俺が絶対に守るんだって、そう決意して……そこで初めて気がつけた、俺はいつの間にかユリコに惹かれていたんだって」
決意してからの行動は早かった。
ユリコのレイプ未遂事件から翌日、ボス攻略会議が行われ、その次の日にはボス戦となったのだが、ボス自体は特に大きな被害も無く、順当に倒せた。
ボスを倒して、さあアクティベートに行こう、という運びになった時だ。
『ごめん、ボス倒したばかりで悪いけど……ユリコ、話がある』
『……? な、何? ナツ君』
『俺……一度は君を危険な目に合わせた駄目な男だけどさ、でももう二度とあんな目に合わせないって誓うよ。今後は、何があろうと、どんな時だろうと、俺が君を守る、ずっと俺だけに君を守らせてくれ!!』
『……え?』
『好きなんだ……俺、ユリコのことが好きだから! 他の誰にも、君を守る役目を譲りたくない! 俺だけが、君を守れる人になりたいんだ!!』
映像の中の攻略組と、その映像を見ていた全員の空気が凍った気がする。
当人である一夏と百合子はお互いに顔を真っ赤に染めて俯き、当時その時の事をリアルタイムで見ていた和人と明日奈は、二人の様子を見てほんわかしていた。……後にこの二人の同じようなシーンが映し出される事になるとも知らずに。
『俺と付き合ってほしい……駄目、かな?』
『ほ、本当、に……? 私が、ナツ君の、恋人に、なれるの?』
『なってほしい、君をずっと守り続けるナイトの役目、俺じゃ駄目かな?』
『ううん……じゃあ、ずっと、守ってください。その代わり、ナツ君を守るのは、私の役目』
『じゃあ!』
『はい、お付き合い……します』
「もうやめてくれぇえええええええ!?」
そこで一夏が発狂した。
無理も無い。一夏にとって大切な思い出であるのは確かでも、流石に告白シーンを友人達や幼馴染、そして実の姉に見られる事ほど恥ずかしい事は無いのだから。
それと、映像の中でも告白シーンをリアルタイムで見ていた攻略組の面々も大絶叫を挙げている。それもまた、無理も無い事だろう。閃光のアスナと同じく、数少ない女性の攻略組プレイヤーで、美少女に分類されるユリコに、公衆の面前で告白されたのだ。
「いや~、いっくんてば情熱的な告白だったねぇ」
「た、束さん……普通、ここはカットしてくれるところでしょう!?」
「え~? だっていっくんの大事な告白シーンだもん、カットする理由は無いよん♪」
「グッ!? この、悪魔め……!」
「悪魔で良いよ……悪魔らしいやり方で、いっくんの羞恥心を煽ってあげるから!」
多少ネタに走ったが、映像は71層まで到達していた。
丁度、ナツがユリコにプロポーズをして、無事に結婚し、セルムブルグの一等地に引越しをした所だ。
「結婚だと? SAOでは、未成年でも結婚が出来るのか?」
「あら、箒ってば知らないの? MMORPGって結構そういう結婚システムがあるの多いのよ。無い物もあるけどね」
「SAOでは結婚システムが存在していたんですのね。ALOには無いからピンと来ませんが、どのようなメリットがあるんですの?」
「えっとね? SAOでは結婚すると二人のアイテムストレージが共有されるようになるの。今までお互いそれぞれのアイテムストレージに保管していた物とか、お金とか、全部一つに纏められて、夫婦で一つのストレージを共有するって感じかな」
「へぇ、お姉ちゃん詳しいね?」
「うん、だってわたしもキリト君と結婚してたから」
それは詳しいはずだ。
だが、71層の問題はそこではない。既に和人も明日奈も、一夏と百合子も、SAO組は全員思い出していた。
最前線が71層に到達した頃に起きた出来事を……。
それは、忘れもしない大規模作戦。最悪のレッドギルド、
「
「既に中層プレイヤーだけじゃなく、上層のプレイヤーからも被害が出始めていたから、いずれは攻略組からも被害が出るかもしれないと思ったんだ。だから、そうなる前に彼らを捕縛して、ゲーム攻略に支障が出ないようにしなきゃいけなかったの」
大勢の攻略組プレイヤーが集められた。
知っている人物だけでもアスナ、キリト、ナツ、ユリコ以外ではクラインとエギル、シュミットなど、攻略組の中では最高レベルクラスの実力者も参加していたのだ。
「だけど、討伐作戦当日……思いも寄らない事が起きた」
「……何が起きた?」
百合子の言葉に、千冬が聞き返す。
一夏の
「作戦内容が漏洩していたらしいんだ。討伐隊は、奴らに事前に情報が漏れた所為で奇襲を受けて、乱戦になった」
丁度、映像ではその乱戦模様が映し出されていた。
全員、武器を手に襲い掛かってくる
そんな時だった。討伐隊の一人……攻略組に属していて、レベルも相当高かった筈のプレイヤーが一人、犠牲になったのだ。
それを見て、キリトとナツが動いた。二人はそれぞれ黒の剣と白の剣を片手に、
「なっ!?」
「……」
「……」
それからは壮絶なものだった。キリトとナツが切欠となり、他の討伐隊メンバーの誰かも一人殺し、キリトも二人目を殺してからザザと交戦し、ナツは……憎しみから暴走を始めた。
暴走したナツは目に入った
「そう……これは、俺達の罪だ」
「総務省は、俺もキリトさんも、これが積極的殺人歴だとは認めなかったけど、でも俺達は確かに、この手で人の命を奪った罪人だ」
特に一夏は、レッドプレイヤーでもないのに、人を殺しすぎた。
「篠ノ之博士には感謝するよ……おかげで、俺は自分の罪を、忘れずに済んだ。これが無きゃ、もしかしたら俺は、過去に目を反らして、罪を忘れようとしていたかもしれない」
「きーりん、それにいっくん……君達は人を殺した事実から目を背けてなんかないよ。確かに、これが無ければ今後、忘れてたかもしれないけど、でもそんなIFの話に意味なんて無い。今、こうして自分の罪と向き合う事が出来て、それを忘れずに居られるなら、きっと君達は真人間で居られる」
束の言葉が、二人の胸に沁みる。
過去に犯した罪、決して裁かれる事は無いけど、でもこれからは忘れずに、向き合う事が出来るだろう。
二人とも、それが出来る強い男の子なのだから。そう、束は思いながらも映像を進めるのだった。
次回はキリトの二刀流解禁とキリト、アスナの新婚生活、そして決着と妖精の世界へ。