SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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すまぬ、先読みが甘かった。
プロポーズまでしか行けなかった……未熟。


第四十八話 「黒と閃光の恋」

SAO帰還者のIS

 

第四十八話

「黒と閃光の恋」

 

 一夏と和人、二人の罪が明かされた。

 浮遊城アインクラッドで犯した殺人という罪、この場に居る誰もが……元軍人であるラウラを含めても人を殺した経験がある者は居ない。

 だからこそ、二人の犯した罪に何を言えば良いのか言葉が出てこなかった。それは一夏の姉である千冬も同じで、彼女は弟が人を殺したという事実を知り、今後弟とどうやって向き合えば良いのか、それが判らないのだ。

 

「皆がキリト君とナツ君に何を言えば良いのか判らないのは、仕方がない事だと思います」

「ただ、こういう事実があった……でも、それはあの2年間の間のほんの一端でしかない。あれだけが、あの世界の全てじゃない」

 

 そう、和人と一夏が人を殺した事実、それだけがあの2年間の全てではない。それだけであの2年を決め付けられたくはない。

 あの世界で、4人は……帰還した6000人の人たちは、確かにあの世界で生きていた。あの世界は、嘗ては人の営みが確かにあった、もう一つの現実なのだから。

 

「続き、行くよ~」

 

 そう言って、束は映像の続きを再生した。

 それは、最前線が74層になった時の事だ。いつも通りキリトが一人で迷宮区に潜り、レベル上げとマッピングをして、その帰り際にラグーラビットという珍しいMobと遭遇し、それを倒したキリトがS級レア食材であるラグーラビットの肉をドロップしていたのだ。

 

「え!? キリトさん、ラグーラビットの肉ドロップしたんですか!?」

「あ……えっとだな、ごめん」

「呼んでくださいよ~、あれ滅多に出ないS級食材じゃないですか! まさか、食べたんですか!?」

「あ~うん、アスナに調理してもらって、一緒に」

「アスナさん!?」

「あはは……ご、ごめんねナツ君」

 

 見ればユリコもジト目で和人と明日奈を睨んでいる。

 ラグーラビットの肉と言えば嘗て、アインクラッドでも滅多にお目に掛かれないS級という超レア食材として有名だった。

 

「ほ、ホントはさ、エギルの店に売ろうかなぁって思ってたんだけど……ほら、映像にも出てるだろ? アスナが偶然、エギルの店に来て、それで一緒に食べる代わりに調理してもらってさ」

「アスナさんの自宅で、ですよね?」

「……はい」

「俺とユリコが住んでたのもアスナさんと同じセルムブルグだったんですけど?」

「そう、でした」

「なのに呼ばなかった、と……?」

「「……ごめんなさい」」

 

 二人っきりで仲睦まじく食事をしているキリトとアスナの映像を見て、怒るのは無粋だというのは解るが、それでも一夏と百合子もアインクラッドではS級食材を結局食べる事が出来なかったからこそ、食べ物の恨みは恐ろしい。

 

「この頃なら、俺だって料理スキルをコンプリートしてたのに」

「いや、だって俺、お前が料理スキル取ってたなんて知らなかったし」

「うっ……」

 

 確かに当時のキリトとナツは戦闘スキルの事で意見を交し合ってばかりで、その他の釣りスキルや料理スキルといった娯楽系スキルの話は一度だってした事が無かった。

 なので一夏の自業自得と言われればそれまでだ。

 

「ところで、こいつがクラディールですか?」

「うん、ユリコちゃんも彼のことは知ってるよね?」

「はい……嫌いでした」

「つか、アイツを好きって奴は居ないだろ」

 

 話題に出たのは映像で調度、キリトと決闘(デュエル)をしているクラディールの事だ。

 血盟騎士団副団長、閃光のアスナの護衛役として就任した大剣使いのクラディール、レベルこそキリトやナツは勿論のこと、アスナやユリコにすら劣っていた彼が何故アスナの護衛など勤められたのか、今もって疑問ではあるが、今思い出しても良い思い出のある男ではない。

 

「この後ですね、74層の迷宮区でキリトさん達に会ったの……は、って! 何でキリトさんボスの間の扉空けてるんですか!?」

「いや~……ちょっと覗くつもりだったんだけど」

 

 キリトとアスナがフロアボスの部屋を見つけて、そのボスが登場した所で急いでその場から逃げた後、仲良く食事をして、そして同じ迷宮区のマッピングをしていたクライン率いる風林火山と、ナツとユリコのパーティーに合流した。

 それとほぼ同時刻に、迷宮区に現れたのは25層フロアボス戦で大きな被害を出してからはボス攻略に参加しなくなっていたアインクラッド開放軍の一団が現れる。

 

「コーバッツか……今思えば、このとき無理にでも引き止めるべきだったんだろうな」

「いや、たぶんキリトさんやアスナさんでも止められなかったと思いますよ? それこそ武力行使をしたならまだしも、言葉で止まれるような男じゃなかったですし」

 

 キリトが提供したボスの部屋までのマップデータを持って、コーバッツ率いる軍の団体は疲労が明らかなのにも関わらず、無理を押して迷宮の奥へと進んで行った。

 当然だが、フロアボスとの戦いなど先ほどの軍の団体の倍以上の人数を持ってして挑むのが今までのボス攻略におけるセオリーだ。

 25層以来、ボス攻略に一度も参加しなかった軍は既に攻略組のレベルからは外れている状況で、更にブランクまであるというのに、無事なわけもなく、たちまち響いてきた悲鳴を聞き、キリト達はボスの部屋まで走った。

 

「無茶ですわ! ただでさえボス戦が出来る人数ではないのに、そこに一夏さん達が加わったところで!」

「そうよ! あんな奴ら、自業自得じゃない!」

「そうだけど、でも見捨てられなかったんだよ」

 

 和人の言葉通り、見捨てられなかったからこそ、走った。走って、そしてようやくたどり着いたボスの部屋の中では、軍の団体の誰もがHPを大きく損壊しており、腰が抜けて座り込む者や逃げ出そうとする者も居る。

 更に悪いことに、ボス……グリームアイズの攻撃により、コーバッツのHPが全損、その身体をポリゴンの粒子へと散らしてしまった。

 

「この部屋は結晶無効化エリアと同じ状態だった。だから転移結晶なんて使えないから、誰も逃げる事が出来ない」

「最悪だな。軍と名乗っておきながら司令塔が居ても連携が成っておらず、その司令塔を失って完全に崩壊状態の奴らが大多数、そこに和人達が来ても、足を引っ張られるだけだ」

「ラウラの言う通りさ。だから、俺たちは風林火山のメンバーが軍の連中を部屋の外へ避難させている間にグリームアイズの足止めをする事になった」

 

 キリト、ナツ、アスナ、ユリコ、クライン、攻略組でもトップクラスの実力とレベルを持つ5人がグリームアイズと戦闘を開始した。

 ユリコの無限槍、クラインのエクストラスキルであるカタナによる斬撃、アスナの閃光のごときスピード、ナツとキリトの速度とパワーを合わせた攻撃も、流石に74層のフロアボスを相手には、相当厳しい。

 だからこそ、キリトはここで己が切り札を切ったのだ。

 

「アインクラッドで公式的に使ったのはこれが初めてだったな」

「キリトお義兄さんの代名詞、ユニークスキル二刀流」

 

 二刀流を開放したキリトは、グリームアイズの振り下ろされた剣をエリュシデータとダークリパルサーで受け止め、そこから二刀流上位スキルを発動した。

 二刀流上位スキル、スターバースト・ストリーム。超高速の16連撃を叩き込む代わりにスキル発動中は無防備になってしまうという諸刃の刃は、確かにグリームアイズのHPを全て削りきった。

 だが、その代わりキリトのHPも反撃により後一撃でも受ければ死んでしまうという状況まで追い込まれてしまう。

 

「これで勝ったから良かったものの、もし勝てなかったらキリト君死んでたんだよ?」

「いや、あれは反省してるよ……ただ、形振り構ってられなかったからな」

 

 ところで、先ほどから千冬がクラインを……正確にはその手に持っている刀を見て何やら思案顔している。

 

「千冬姉?」

「ん、いや……一夏、何故お前は刀がアインクラッドにあるのに片手剣を使っていた? 剣道経験者のお前なら刀の方が使いやすかろうに」

「あ、それね。元々カタナスキルはエクストラスキルでさ、曲刀スキルを上げてないと取得出来ないスキルだから、ゲーム開始初期から使えたわけじゃないんだ。だから最初から曲刀を使ってれば問題無かっただろうけど、正直曲刀より片手剣の方が使いやすかったんで、ずっと片手剣を使ってたって事さ」

「曲刀というと、シミターみたいなものか?」

「そそ、クラインさんが一番最初に使ってただろ?」

「なるほど、確かに剣道経験者ならアレよりは片手剣の方が使いやすいか」

 

 もしくは両手剣でも良いのだが、両手剣ではスピード主体のナツの戦術には合わない。

 

「さて、話は更に進んだな……これは、俺とヒースクリフのデュエルか」

 

 映像には闘技場で戦うキリトとヒースクリフの姿があった。

 ユニークスキル二刀流の圧倒的手数でもって戦うキリトと、同じくユニークスキル神聖剣の絶対的防御力による堅牢な守りを見せるヒースクリフの戦いは、正に頂上決戦に相応しいものだ。

 

「あれ? 一夏、確かあの人の使ってる剣と盾の戦術って、海で一夏が使ったのと同じだよね?」

「お、流石はシャルだな。そう、今でこそ白式の単一使用能力(ワンオフアビリティー)になったけど、元々はこいつ……血盟騎士団団長ヒースクリフのユニークスキルなんだ。名を神聖剣、守りにおいては圧倒的かつ絶対の防御力を誇る、ヒースクリフをアインクラッド最強の聖騎士たらしめていた奴の代名詞だ」

 

 そして、そのデュエルの結末はキリトの敗北という形になったのだが、VRMMOゲーム未経験の千冬と箒は気づかなかったが、他のALO経験者は気づいていた。

 ヒースクリフが最後に見せたあの動き、いくら仮想世界の身体だからといって、明らかにおかしいという事に。

 

「おい、一夏、和人……今のは」

「その答えは、後でな」

「ああ、今は語る時じゃない」

 

 そう、それよりも今は血盟騎士団に加入する事になったキリトが、ゴドフリーという男と、それからクラディールと3人PTを組んでフィールドに訓練しに行く所を見るべきだ。

 そこで起きるのは和人と明日奈、二人の罪の証。

 

「こいつ!」

 

 鈴音が怒声を上げた。当然だろう、クラディールが毒入りの水でキリトとゴドフリーを麻痺させて、動けなくして、更には身動き出来ないゴドフリーを嘲笑いながら殺したのだから。

 

「真正の屑だな」

「ラウラ、もう少し言葉を選ぼうよぅ……まぁ、僕も同意見だけど」

「こんな非道な真似をする者が居たというのか……ゲームが人格を変えるというのは、色々なメディアで話題にしているが、これはあまりにも……」

「箒ちゃんの言いたい事は解るよ。でも、この男はね、多分だけど最初から腐ってたんだと思う……考えてみれば血盟騎士団にクラディールが入った時から色々と変な雰囲気があったもん」

 

 明日奈は初めてクラディールと出会った時の事を思い返し、今になってその頃からアスナを見る目が明らかに欲情していたのに気がついた。

 つまり、あの男は最初から屑だったという事を、最悪の時まで気がつけなかったのだ。

 

「俺はクラディールに殺され掛けて、本当に後一歩という所で……アスナが助けてくれた」

 

 ギリギリでキリトを救ったアスナは回復結晶でキリトのHPを回復させて、クラディールをランベントライトの刃から放たれる閃光の突刺によって戦意を殺いだ。

 だが、本来ならここでアスナは、命乞いをしたクラディールを容赦なく殺すべきだったのだ。だから、油断してしまったアスナを殺そうとしたクラディールを、キリトの格闘スキル、エンブレイザーで殺した。

 

「これは、わたしの罪……本来ならわたしが殺すべきだったのに、わたしの油断がキリト君にその役目を押し付けてしまった」

 

 だからこそ、本当はアスナは二度とキリトと会わない道を選ぼうとした。

 泣きながら、キリトに謝り、その言葉を口にしようとして……キリトの唇に塞がれてしまう。

 

「お、おいおい……まさかこのパターンって」

「わぁ~……ちょっと恥ずかしいねー」

『俺の命は君の物だ……アスナ。だから君の為に使う、最後の一瞬まで一緒に居よう』

『わたしも、わたしも絶対に君を守る……これから永遠に守り続けるから、だから……』

『君は、何があろうと帰してみせる、あの世界に……アスナ』

『……ん』

『今夜は、一緒に居たい』

『……っ! うん』

「は~い! ここからはR-18指定だからカットするよ~!」

 

 突然、束の大声で映像がカットされた。

 取りあえずあの後の二人の情事は見られずに済むと安堵する和人と明日奈だが、R-18指定という束の言葉に何があったのかを誰もが悟ってしまった事に気づいて顔を真っ赤に染める。

 

「キリトさんも大概だよな?」

「ナツより、男前」

「ゆ、ユリコ!?」

「事実」

「……はい、仰る通りです」

 

 顔は女顔の和人より一夏の方が男前なのに、言動は和人の方が実に男前で、だからこそ一夏は和人を色んな意味で尊敬しているのだ。

 それはそうと、カットされた映像が次に映し出したのは、裸のままシーツを身体に掛けて寝息を立てるアスナを、ベッドサイドに座ったキリトが優しく見つめているシーンだった。

 

「って、ここからかよ!?」

 

 眠り姫の頬を優しく指で突くと、まだ眠りが浅かったのか薄く目を開いて、キリトの姿を目にすると嬉しそうに微笑む。

 

『ごめん、起こしちゃったかな?』

『うん……ちょっとだけ、夢見てた。元の世界の夢……おかしいの、夢の中で、アインクラッドの事が、キリト君と出会った事が夢だったらどうしようって、とっても怖かった……良かったぁ、夢じゃなくて』

『変な奴だなぁ、帰りたくないのか?』

『帰りたいよ? 帰りたいけど、ここで過ごした時間が無くなるのは嫌、わたしにとっては大事な二年間なの、今ではそう思える 』

 

 それは、とても大切な言葉だった。

 明日奈だけではない、和人も一夏も百合子も、それにALOを今も続けているSAO生還者の一部の者達が、同じ想いを今でも胸に抱いている。

 

『ねぇキリト君……ちょっとだけ前線から離れたら、駄目かな?』

『え……?』

『なんだか怖い……直ぐに戦場に出たら、また良くない事が起こりそうで……ちょっと疲れちゃったのかな?』

『そうだな、俺も……疲れたよ』

 

 本当なら、何を悠長なと言うべき所なのだろうが、そんな事を言えるような雰囲気ではなかった。

 確かに、ナツやユリコだけではない、キリトもアスナも、色々な事があり過ぎて、これまでずっと傷付きながら戦い続けて、一度も休まる時は無かったのだ。

 だからこそ、ほんの僅かでも、戦士達には休息が必要だったのだろう。

 

『22層の南西エリアに、森と湖で囲まれた小さい村があるんだ』

 

 突然、キリトがそんな事を口にした。

 そして、それが何なのかを知る当事者二人は真っ赤な顔で慌てて映像を止めてくれと束に言うが、束も興味があるのか二人の意見は無視する事にしている。

 

『二人でそこに引っ越そう、それで……』

『それで……?』

『……っ! け……結婚しよう』

『……はい!』

 

 二人のカップルが羞恥心に沈んだ。

 誰もがニヤニヤとした表情を二人に向けていて、でもいつもナチュラルにバカップルやってる二人がこの程度で羞恥心に悶えるかと、何故か理不尽な怒りも感じられる。

 

『わ~! パパのプロポーズ、素敵です!!』

「ゆ、ユイ!? お、お前、見てたのか!?」

『勿論です! わたしがパパとママの愛の記念を見逃すなんてありえません!』

「ちょっとユイちゃ~ん! 恥ずかしいからやめてー!」

『えへへ、プロポーズする時のパパ、格好良かったですし、ママもとても可愛らしかったですねぇ』

「「うぐぅ……っ」」

 

 愛する娘にプロポーズのシーンを見られた。これ以上の羞恥は無いだろう。

 愛娘にこの事は他の人……クラインやリズ、シリカ、エギルには内緒にしておいて欲しいと懇願する和人と明日奈に、その愛娘は今度ALOで目一杯甘えさせて欲しいとおねだりするのだった。




新しく立てた予定では後4話でSAO編終わりです。
ALO編は……もう一気に端折って2話くらいで終わらせよう。
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