SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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お待たせしました。
キリト夫妻(もう黒の剣士一家で良いよね?)の生活です。


第四十九話 「新婚生活と最愛の愛娘」

SAO帰還者のIS

 

第四十九話

「新婚生活と最愛の愛娘」

 

 キリトとアスナは無事に結婚して22層にあるコラルの村から少し離れた森と湖に囲まれたログハウスを購入、そこへ引っ越して二人っきりで新婚生活を始めた。

 殺伐とした世界で、常に最前線に立って戦い続けた二人の束の間の休息は実に平凡で、それでいて本当に心休まる穏やかな日々だ。

 朝は一緒に起きてアスナの作った朝食を食べて、昼は散歩しながら適当な場所でアスナ手作りのお弁当を、夜は星空を映し出す湖を眺めながら夜風に当たり、一日の終わりは同じ寝室で眠る。

 そんな夫婦としてごく当たり前の日常が何より楽しくて、幸せを感じられて、二人の間には笑顔が絶えない。

 

「ねぇ、アタシさ……そろそろ砂糖吐きそうなんだけど」

「奇遇ですわね、わたくしもですわ……」

「あはは、二人とも、和人もお姉ちゃんも常にこんな感じだよ?」

「うむ、これがクラリッサの言っていた万年バカップル夫婦というやつか、流石は日本通のクラリッサ、言い得て妙だな」

「取りあえずラウラ、そのクラリッサさんっての日本に連れて来い……ちょっと説教が必要だ」

 

 一夏のラウラへのツッコミはともかく、映像ではナツとユリコ、そしてキリトとアスナが似たような日常を過ごしている。

 だが、ナツとユリコの方が結婚歴は長いのに、何故だろうか……キリトとアスナ夫婦の方が格段に甘い雰囲気を漂わせていた。

 

『ねぇキリト君、今日はどこに行こうか?』

『ん……そうだ、良い所、あるよ?』

「あ……これって」

「ああ、覚えてるよな?」

「勿論だよー、新婚生活の中で一番大事な日なんだから」

 

 キリトとアスナは中睦まじく森を散策しており、少し薄暗い所まで来ていた。そして、映像の中のキリトはアスナにとある怪談話を始める。

 

「む……ゲームの中なのに怪談なんて存在するのか?」

「ううん、これって実はキリト君の作り話なの」

 

 箒の疑問に明日奈が答えた所で、映像ではアスナが視界に何かを見つけたのか、突然怯え出した。

 何事かと一同が注目していると、キリトもその人影を発見して視覚情報を拡大してみれば、そこには白いワンピースを着た黒髪の少女の姿が。

 

『あ、パパ、ママ、これって』

「そうだよ、わたし達がユイちゃんに初めて会ったとき」

『わぁ……!』

 

 ユイも覚えていたようだ。それも当然か、ユイにとってこれは最愛の両親と出会って、そしてキリトとアスナの娘になった記念すべき日なのだから。

 

「そこのAI……SAOで出会ったのか」

「なぁ千冬姉、ユイちゃんをAIって呼ぶのやめてくれないか? 流石に不愉快だからさ」

「AIはAIだろう、確かに人格があるのだろうが、それはあくまで人工物だ」

「織斑先生、それは流石にわたしも看過出来ませんよ? ユイちゃんは確かにAI……元々は人工的に生み出された存在かもしれない。でも、わたし達にとってこの子は何より大切な娘なんですから」

「ああ、その通りだ。だからユイをこれ以上AIって呼んだり、物扱いするなら織斑先生であろうと、俺は許すつもりは無い。誰が何と言おうがユイは俺とアスナの愛する娘なんだからな」

 

 ユイはただのAIではない。だからこそ、和人と明日奈の娘として扱っているし、ユイ自身も二人を両親として認識して、そして甘えてくれている。

 

「理解出来んな、高性能なAIなのは認めるが、それを娘扱いなど……」

 

 まぁ、それが普通の反応なのも理解は出来る。だが、それでもユイだけは、他のAIと一緒にされたくはない。

 その理由はこの後になれば嫌でも理解出来るだろうから、今は怒りを押し殺して先へ進む事になった。

 

『やぁユイ、俺の名前はキリトだ、呼んでごらん?』

『き、ぃと……?』

『キリトだよ、キ、リ、ト』

『ん~……きぃと?』

『ちょっと難しかったかな? 好きなように呼んで良いよ』

 

 記憶を無くし、感情すら幼子になってしまったユイは舌っ足らずな口調でキリトの名を呼ぼうとしているが、上手く発音出来ないらしい。

 苦笑しながらキリトがユイの頭を撫でて好きに呼ばせてみれば、次に出てきた言葉は今でも驚き、そして同時に少し嬉しかったのを和人は覚えていた。

 

『……パパ』

『お、俺……?』

『あうなは、ママ……』

『……っ』

 

 記憶が無いからこそ、無意識に親の愛情を求めたのかもしれないが、当時の事をユイに聞いても本人は何故か恥ずかしがって話してくれないので、今もって謎だ。

 

『うん……っ、ママだよ、ユイちゃん』

『……! パパ、ママ!』

『~っ! お腹減ったでしょ? ご飯にしよ?』

『うん!』

 

 キリトとアスナとユイが、初めて親子に、家族になった瞬間だった。

 この時はまだ、仮初だったのかもしれない。でも、間違いなくこの時、この瞬間から、三人は家族になったのだ。

 この日は一日、本当の親子の様に過ごした。アスナが作ってくれた朝食を食べて、三人で手を繋いで散歩をして、ユイの好奇心の指し示すがままに歩き回っていたらいつの間にか夕方になっていた。

 三人で夕食を食べて、アスナとユイが二人で風呂に入り、安楽椅子に座るキリトの膝の上に座ったユイが楽しそうにキリトとお話をして、最後はユイの希望で三人一つのベッドで眠る。

 

「ユイ、覚えてるか? この時、ユイは眠りながら俺の手に抱きついて離れなかったんだぜ?」

『お、覚えてませんよ~! この時、わたし寝てましたもん!』

「ふふ、ユイちゃんってばこの頃から甘えん坊だったもんねー?」

『それは……だって、パパやママに甘えるのが好きなんです』

「もう! 何でALOにログインしてなかったのかしら~! 今すぐユイちゃん抱きしめたい!!」

『IS学園に帰ってからログインした時、それまで我慢しますね、ママ』

 

 しかし、そんなささやかな親子の平和はこの日一日だけだった。

 翌日、まだ当時ユイがAIだという事を知らなかったキリトとアスナがユイの本当の両親もSAOにログインしているのではないかと思い、はじまりの街へ向かう事にしたのだ。

 それと、丁度二人を訪ねてきたナツとユリコにユイを紹介して、五人ではじまりの街へ行くと、はじまりの街を根城にしている軍の連中が徴収と称して非戦闘プレイヤー……それもまだ子供のプレイヤーから金や装備を巻き上げようとしているのを目撃する。

 

「あれ? ねぇ一夏……アタシが知ってる限りだとSAOって年齢制限が掛かってなかった?13歳以下が禁止だった記憶があるんだけど」

「ああ、鈴の言うとおりSAOには13歳以下の子供は使用しないようにってソフトのパッケージにも注意書きがされてたけど、好奇心の強い子供がほとんど生身のような感覚で冒険が出来るっていうゲームに心惹かれないわけがない」

「なるほど、そういうことね」

 

 当時のシリカでもログイン当初は13歳でギリギリだったが、それよりも下……小学生のプレイヤーはまずほとんど居ないのだが、本当に極少数ながら存在していた。

 子供達は基本的に命賭けの戦いをする度胸の無い者ばかりなので、はじまりの街の教会でサーシャという女性プレイヤーに保護され、ゲーム終了まで共に暮らしていたのだ。

 

「極少数というわりに、それなりの数は居るのだな」

「まぁ、1万人の内のって考えればこれくらいは少数だろうぜ」

 

 箒の呟きに一夏が答えたところで、映像では、キリト達がサーシャにユイをはじまりの街で見た事があるかという質問をしている場面になっている。

 残念ながら、恐ろしく広いはじまりの街を隅から隅まで隈なく保護できる子供達を捜したサーシャでも、ユイの事は見た事が無い。

 一応、黒鉄宮にある生命の碑に書かれている現在存命のプレイヤー名を確認したが、ユイの名前は存在していなかったのも確認している。

 いや、ユイというプレイヤーは存在しない事も無かったが、そのプレイヤーはSAO開始初期の頃に既に死亡が確認されており、その他のユイと名の付く名前……ユイのステータス画面を開いた時に見た「MHCP-01 Yui」という名はどこにも存在していない。

 途方に暮れていたキリト達だったが、突然教会を訪ねてきた者が居たので、一度中断してサーシャが来客対応に出たのだが、来客者は先ほど子供達から金を巻き上げようとしていた軍の人間だった。

 女性だったので、先ほどの一団の一人というわけではないようだが、もしかしたら先ほどアスナが軍の人間を撃退した事に抗議にでも来たのかと勘ぐってしまうのも無理は無い。

 

『軍の方、ですよね? 先ほどの事で抗議に来たんですか?』

『いえいえ、とんでもない! むしろ、よくやってくれたとお礼を言いたいくらいですよ』

 

 その女性……ユリエールはアインクラッド解放軍のリーダーであるシンカーの側近を勤めているのだが、その彼女が現在の軍の情勢を説明してくれた。

 軍はリーダーであるシンカーが部下達を纏めきれていないのが原因で、副団長のキバオウが事実上のトップとして狩場の独占や徴収と称した恐喝紛いの事まで行ってはじまりの街で暮らす非戦闘プレイヤーを苦しめている。

 だが、キバオウは25層のボス攻略の際に軍から多大な被害を出した事を切欠に発言力が日に日に低下して、ついには74層での軍の部隊の壊滅を契機に発言力を完全に失ってしまった。

 そこで、キバオウははじまりの街の地下で新たに発見された迷宮を独占して自身の地位回復を図ろうと画策していたらしい。

 

『それで、つい昨日の話です。キバオウはシンカーに二人っきりで話がしたい、お互いに腹を割って話をしたいから武装を一切持たずに話し合おうと言って地下迷宮の奥へ行き、そこにシンカーを置き去りにしたんです!』

「キバオウさんって、確か桐ヶ谷君がビーターって名乗る事になった原因になった関西弁の人ですよね?」

「ええ、あのキバオウですよ」

 

 幸い、まだシンカーは安全地帯に逃げ込んでいるのか、無事は確認されている。

 しかし、いつまでも一人でそんな所に残しておくわけにはいかないし、シンカー不在の今、キバオウがトップとして軍を動かす事になるから、事態は最悪と言えるだろう。

 そこで、ユリエールはキリトとアスナ、ナツ、ユリコの4人にシンカー救出の手伝いを依頼しに来たという事だ。

 何でも、地下迷宮はユリエールのレベルでは一人で攻略してシンカーの居る場所まで行くのは不可能らしい。

 涙ながらにそう言って頼み込むユリエールに、どうするか悩んでいたキリト達を動かしたのは、ずっと話を聞いていたユイだった。

 

『このお姉さん、嘘言ってないよ』

『ユイちゃん、そんなことがわかるの?』

『うん……上手く言えないけど、でもわかるの』

 

 子供の意見とは言え、ユイの言葉には不思議と説得力が感じられた。

 だからだろうか、4人ともシンカー救出に協力する旨をユリエールに伝え、ユイには教会でサーシャと留守番してもらおうとしたのだが。

 

『嫌! ユイも行く!』

『ユイちゃん、これから行く所は危ないの、だからお利口にして待っていようね?』

『嫌!』

『おお、これが反抗期ってやつか』

『馬鹿言ってないで! ユイちゃん……』

『嫌! パパ……』

 

 結論、愛娘の涙に勝てる父親は存在しなかった。




次回はユイの秘密とその後のニシダさんとのお話、アインクラッドでプレイヤー達は確かに生きていたのだと、それを語るときです。


あ、それと千冬がユイを物扱いしたことですが、また色々と言われるのも面倒なのでここで釈明を。
千冬の認識って、別に間違いじゃないっていうか、真相を知らなければ極々普通の反応、認識なんじゃないかな、と思うんです。
確かにSAOを知っている生還者や読者さんにとってユイはただのAIじゃないって解ってますけど、千冬も含めて真耶とか箒は当事者じゃない上に、ユイを見たのが今回の福音事件の時が初めてなので、ちょっと高性能なAIとしか思えないのも無理は無いですよね。
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