SAO帰還者のIS
第五十三話
「語り終わり」
SAOの物語もついに終わりを迎えた。
キリトとアスナ、ナツとユリコがそれぞれ崩れ落ちる浮遊城を上空から見下ろし、互いに現実での再会を約束してログアウトして、現実で目覚めた事で映像も終わる。
2年分の記録を編集して短時間で要点を見せるだけだったのに、随分と長かったように思えるが、これを実際に2年過ごしていた一夏達は本当に凄いと誰もが思った。
常に命と隣り合わせの状況で戦い、そしていつしかアインクラッドでの生活を、本来なら非日常の筈のものを日常として過ごして、現実と変わらない“生活”というものを築いていたのだから。
「あれ? お義姉ちゃんの映像だけまだ残ってる……」
「ああ、それはね……」
すると、明日奈だけではなく、和人や一夏、百合子の映像も再び始まった。
しかし、映っている姿はSAOのアバターではなく、アスナ以外はALOをやっているメンバーからしたら普段ALOで見ている姿そのままだ。
「これってもしかして、噂の旧ALOにログインしたって事よね? 確か、アスナさんってSAOクリアしても未帰還だった300人の内の一人だって話だし、助けに行ったって話も聞いてるから、多分その映像じゃない?」
「正解だ鈴、これは旧ALOにアスナさんが囚われてると確信したキリトさんに誘われて俺とユリコもALOにログインしてからの映像だな」
「途中でキリトさんが妹の直葉……ALOではリーファか、リーファと出会って二人でシルフ領に来た時にやっと合流してなぁ……いや、あの時はどの種族で行くか始めに決めておくべきだった」
「私とナツは、偶然同じ種族だったけど……」
キリト一人だけが別種族だったので、合流するのが遅れてしまったのだ。
合流するまでの間にナツとユリコが初期装備をスイルベーンにある武器屋で購入した鎧、剣、槍に持ち替えて、合流してきたキリトも装備を初期装備から一新している。
「それから俺達三人とスグを入れた四人で世界樹を目指して旅をして、グランドクエストを知り合ったサクヤやアイシャの助けも借りてクリア、俺一人になったけどアスナを助け出したんだ」
旧ALOの謳い文句だった世界樹頂上にある天空都市など存在しておらず、そこにあったのは須郷率いるレクト・プログレスの研究チームによる非合法な人体実験施設と、アスナを閉じ込めておく鳥籠という名の牢獄のみ。
旧ALOとは須郷の実験の為の研究施設そのものだったのだ。
「下種にも程があるな、人間の脳を操り思考や記憶、精神まで自在に操ろうなど……虫唾が走る」
元ドイツ軍人としての意見なのだろう、ラウラが須郷をそう言って吐き捨てる。
いや、ラウラでなくとも全員が全員、須郷という男を下種な存在だと、キリトが須郷のアバターである妖精王オベイロンを倒した後に現実で逮捕されたという話を聞いた時は自業自得だと断じた。
「いっくん、かず君、もう知ってると思うけど……」
「ええ、須郷が脱獄したって話ですよね?」
「俺達も菊岡さんから聞いてますよ」
「そっか……どうやら
つまり、
それを知って一夏達の表情が少しだけ強張った。
「まぁ、それは追々考えるとして……千冬姉、これで分かっただろ? 俺がアインクラッドでの思い出を大事にしている事も、ALOをやっている理由も、今のALOでの仲間の事も」
「……ああ、理解したさ。理解しなければならん、それくらいはわかる……だが、やはり心配ではあるのも理解して欲しい、私はお前が眠っている間、ずっとドイツに居なくてはならなくて、海の向こうでずっとお前がもし死んだらと、それを考え怖かったのだと」
「……それは、勿論。心配掛けてごめん」
これで、すれ違って来た姉弟も和解かと思ったが、やはり千冬には、根本的にVR技術の道に一夏が進むのは反対していた。
「一夏、お前は世界に二人しか居ないIS操縦者だ。いくらお前がVR研究者になりたいと希望していようと、日本がそれを支援していようと、国際IS委員会や、世界各国がそれを許す筈が無い。当然だが無理にその道に進むのであれば命を狙われるか、研究材料として身柄を狙われる事になる」
「覚悟の上だ。例え命を狙われることになろうと、俺は俺を貫く! それがアインクラッドで学んだ俺の剣士としての矜持だから」
「ならば……姉として、お前の剣士としての矜持、示してもらうぞ」
「……それって」
「IS学園に帰って直ぐだ、アリーナを開けて置くから来い。もし私が勝てばお前はVR研究者の道を諦めて秋の日本代表候補生選抜試験を受けろ。私が負けたのなら……ブリュンヒルデとしての持てるツテ全てを使ってでもお前を支援してやる」
それが、千冬が姉として弟に与える最後の試練だった。
己の道を進むのであれば、それを剣で示せと、剣士として、姉として、そして世界最強のIS操縦者として、織斑千冬に出来る最大限の譲歩だ。
「束、お前に頼みがある」
「何かな?」
「暮桜の封印を解除して貰いたい」
「……本気、なんだね」
暮桜、嘗て千冬が世界最強へと至った愛機であり、世界最強の象徴。第1世代機という型遅れであるのにも関わらず、今尚最強の機体として名を馳せる千冬の剣、その封印を解いてでも、一夏の前に立ち塞がり試練を与えるという事か。
「どうする? この試練……お前は受けるか、それとも」
「受けるさ」
「ほう……」
「受けてやるよ……例えIS操縦が未熟だろうと、剣士としてなら、俺は千冬姉にだって負けない。それを、見せてやる」
千冬と一夏がIS学園に戻り次第、戦う事が決まり、話は束と千冬、そして茅場の関係についてとなった。
どうにも、この三人は知り合いらしいというのは話の中で何となく察する事は出来るのだが、どういう関係なのかまでは語られていない。
「晶彦君との関係か~……簡単に言えば小学生時代の先輩後輩かなぁ」
「そうだな、私たちが小学校に入学して直ぐ、束と晶彦さんは学校の二大天才児として有名になった」
茅場は電子・情報工学の天才として、束は物理・機械工学の天才として、当時小学生ながら既に天才として学校側から扱われていた。
二人の天才は直ぐに意気投合、千冬も束を通して茅場と知り合い、三人はよく一緒に居るようになったらしい。
「それから晶彦君が中学に上がって、高校、大学に行っても交流は続いていたんだけど」
「私と束が中学の時だな、束がISの開発に晶彦さんを頼ったのは」
「茅場が……IS開発に関わっていたのか!?」
世間ではISは束一人で開発した事になっているが、実を言えばISのソフト面の殆どは茅場がその雛形を作ったとのことだ。
束が直接手掛けたのはハード面のみ、更に驚くべき事はコアの開発も実は束と茅場の合作なのだとか。
「実はね、世間でブラックボックスになっているっていうコアの内部、その中でも晶彦君が手掛けた部分だけは未だに束さんでも解明出来てないんだよね~」
「つまりそれって、博士でもコアを新しく開発する事は出来ないという事ですの!?」
「そうなるかな、コア自体は晶彦君と一緒に500個だけ作って、それ以降は白騎士事件の影響で離れる事になったから」
つまり、コアは実は500個存在しており、未だ世界に配られていないコアが束の手元にあるという事。
紅椿やゴーレムのコアは、その束の手元に保管していたコアを使って作ったという事になる。
「多分、晶彦君が死んだ今となっては、コアを新しく作るのは無理かもしれないね。晶彦君が手掛けた部分の解明は、きっと無理だと思うから」
「じゃあ、ISが女性にしか乗れないという理由は……」
「あ、それは束さんが設定したからだよ~」
真耶の問いにあっさり答えてしまった束に何度目になるか判らない驚愕が洩れ出てしまう。
更に爆弾発言となる言葉が、束の口から飛び出てきた。
「いっくんとかず君がISを動かせる理由、もしかしたら晶彦君の手掛けた部分の何かが二人を認めてISを動かせるようにしたのかもしれないよ?」
「茅場が……」
もしかしたら、死んで電脳化している茅場が何かをしたのかもしれない。
結局のところ、一夏と和人が何故ISを動かせるのかという疑問は解決しなかったが、予想自体は出来るので良しとする。
「じゃあ、これで解散! あ、ちーちゃんはちょっと残ってね? 話があるから」
「む、わかった……では解散だ!」
一夏達が部屋を出た後、残された束と千冬は互いに向き合って話を始める。
「それで、何の用だ?」
「そろそろ束さんも身を隠すのを止めようかと思ってね」
「何?」
「IS学園に身を寄せようかなぁって思ってるんだけど」
「馬鹿者、こちらの迷惑を考えろ」
「う~ん、でも安全性と、束さんの立場を考えると、IS学園に身を寄せるのが一番無難なんだよねぇ」
それは確かにそうだが、ただ来られても学園としては迷惑以外の何者でもないのは確実だ。
「その代わり、束さんを学園で教師として雇ってくれるかな?」
「教師だと?」
「そう! ISの整備課の教師として、IS学園の教師になって後進育成するとなればIS委員会も納得はしなくとも文句は言えない筈だから」
なるほど、それならば確かに問題は無さそうだ。
後は学園の警備を強めれば良いだけなので、その点を見直せば文句も無いだろう。
「住まいはどうする?」
「IS学園の寮で空いてる部屋ってあるかな?」
「……教員用の部屋で良いのなら、空きはあるが」
「ならそこで」
後日、国際IS委員会を含む世界政府に篠ノ之束より直接の連絡が入った。
篠ノ之束はIS学園にて教員として後進育成に努める事にしたので、今後は一切の手出し無用、もし自分の身柄を求めてIS学園に攻め入り、生徒に危害が加わるような行為をした場合は、この世に存在する全てのISコアを強制停止すると。
その通達が入った直ぐは混乱したが、IS学園学園長よりそれが事実であるとの確認が取れたことにより、IS委員会は世界政府に束及びIS学園への一切の手出し無用の旨を伝える事になるのだった。
次回はIS学園への帰還。
序盤に銀の福音の操縦者であるナターシャさんに登場して頂きます。