SAO帰還者のIS
第五十六話
「現実世界最強VS仮想世界最強」
黒と赤がぶつかった。
デュエルがスタートした瞬間、キリトとサクラは同時に走り出して右手に持つ剣を振りかぶり、交差させるようにぶつけ合う。
だが、キリトはサクラとは違い二刀流、左手にはもう一本の剣があるのだ。当然だが空いている左の剣がサクラへと振り下ろされるも、紙一重で避けられ、交差している右の剣を弾いたサクラが突刺をキリトの胸目掛けて突き出してきた。
しかし、その突刺は半歩身体を傾けたキリトに避けられ、更に下から左の剣で叩き上げられ、サクラは大きく上体を反らしてバランスを崩す。
「せぁっ!」
「くっ……!」
右の剣で突刺を放つキリトに対し、サクラはバランスが崩れた体勢から流れるようにバク転してキリトから距離を取り、突刺をかわした。
しかし、それをキリトは追いかけて丁度サクラがバク転を終えて体勢を整えた時には既にサクラの目の前で左の剣を振り被って、今まさに振り下ろそうとしている。
「チッ!」
刀で防御しようとしたサクラだが、受け止めたキリトの剣の余りの重さに思わず膝が屈してしまい、左から迫ってくるキリトの右の剣をまともに受けてしまった。
「……やはり、強いか」
吹き飛ばされてしまったが、何とか足から地面に着地したサクラだったが、今ので左腕を斬り落とされてしまって、もう刀を両手持ちにするという手段は取れなくなってしまった。
HPゲージも、今ので3分の1は減ってしまっていて、対するキリトには未だダメージが無い。なるほど、流石は嘗て英雄と呼ばれる地位にまで上り詰めただけの事はあると、改めてサクラはキリトの実力に感服している。
「強いな……まさか今の一合で決めるどころか、逆に斬られるとは思わなかった」
「これが、俺達アインクラッド攻略組の領域です」
「なるほど……面白い!」
再び、サクラとキリトがぶつかった。
そして、それを観戦しているアスナ、エギル、クライン、リズ、シリカ、ユイは冷静にサクラの剣技を分析して、彼女がどれほどの実力なのかを測っている。
「アタシにはサクラって人も相当強いって事しかわかんないんだけど……」
「私もです、キリトさんとまともにぶつかれる人なんてそんなに居ないですし」
リズとシリカは元々攻略組ではないので仕方が無いかもしれないが、攻略組だったアスナ、クライン、エギル、それからずっとキリトの傍で彼の戦いを見ていたユイの四人はサクラの実力を凡そ測る事が出来ている。
「ありゃあキリトが勝つな」
「ですね」
「ああ、確かに彼女は強いが……あれは魅せる剣だ。殺し合いとかに使う剣じゃなく、競技に使う為のもの。確かに競技用の剣でも鍛え抜けば実戦でも使えるだろうが、本当に殺す為の剣を磨いた人間には、それを極めた人間には敵わん」
その典型例がキリトであり、ナツでもある。アインクラッドにおいて剣士として最強だと言える人間をエギルは四人しかしらない。
一人は勿論キリト、それからナツ、アスナ、そしてヒースクリフ。この四人の剣の腕は正しく最強を名乗るに相応しいもので、それぞれが剣士としての名に恥じない存在だとエギルだけではなくクラインも思っている。
「お、キリトのやつ、ようやく本気出すみたいだぜ」
「ソードスキル使わないって時点で、キリの字が本気なのかは疑問だがな」
二刀流こそ使っているが、ソードスキルを使わない時点でキリトは本気ではない。
アインクラッドの、そして今のALOの剣士にとってソードスキルを使わないというのは本気を出さないといっても過言ではないのだ。
「だが、その条件下で出せる最大で挑むだろう? それがキリトって奴だ」
「まぁな、キリの字は……俺達の弟分は、その辺は弁えられる奴だ」
先ほどより明らかに速くなった。そうサクラはキリトの剣を何とか弾きながらも感じ取っていた。
先ほど以上に洗練され、鋭く、速くなった剣筋は一撃一撃がサクラのHPを大きく削れるだけの威力があり、弾き切れず避け切れなかった剣が掠っただけでもHPをどんどん削られている。
今も、右から迫ってきた剣を避けて左の剣を受け止めたと思えば、避けた筈の右の剣が再び迫ってきて、それを避けきれずに胸元を掠っていた。
途切れる事の無い剣戟の嵐は、確実にサクラから攻勢に出る隙を奪い去り、完全な防戦一方な状況へと追い遣る。
「くっ……! (これが、一つの世界で頂点に立った人間の、人を救った人間の剣か……っ! 戦いの中で磨かれた天賦の剣、これはまずいな……っ)」
キリトにも剣術の才能はある。だがそれはナツほどの鬼才と呼べるほどのものではないが、それでもナツ以上の実力をキリトが有しているのは、偏に電脳世界への親和性の高さがずば抜けている点と、戦いというものの才能がナツ以上に高いからだ。
戦いの才能、それに加えて剣術の才能を併せ持つキリトは正に天賦の才の持ち主、それはおそらく剣術の鬼才ナツですら到達し得ない領域までキリトを押し上げた理由の一つなのだろう。
「まさか、私がここまで追い詰められるとはな……なるほど、たかだか競技の世界大会で優勝して世界一になったからと、無意識に天狗になっていた私が、敵わないわけだ」
残るサクラのHPは半分を切っている。
対するキリトのHPは未だグリーン、僅かに減っていてイエローになろうかというほどにはなっているが、それでもサクラよりもまだ余裕があった。
「しかし、それでも私にだって意地がある……まだ16~7の小僧に、完敗を期すわけにはいかん!!」
サクラの動きが変わった。
今まではキリトの速さに翻弄されるだけだったが、ようやく目が慣れて、キリトの動きにも反応が追い付けるようになったのか、今までギリギリ避けられるか避けられないか、といった剣を完璧に避けて見せて、受け止めていた剣も受け流して反撃に出るようになる。
「せいっ!」
「くっ……!」
今度はサクラの反撃の番だ。
既に片腕のサクラだが、その片腕でキリトの剣を弾き返し、その反動でキリトが上体を逸らすと、もう片方の剣が動く前に袈裟に刃を奔らせ、回し蹴りをキリトの腹に叩き込む。
吹き飛ばされたキリトを追いかけるサクラはキリトが体勢を整える前に刀の刃を叩き込み、地面にキリトの身体を叩き付けた。
「ぐっ……けほっ」
「っ!」
一気に攻めるとばかりにキリトへ刀の切っ先を向けて振り下ろそうとしたサクラだったが、視界にキラリと光る物を捉え、同時に直感めいた何かが警報を鳴らしたので慌てて上体を反らすと、サクラの頭のあった場所を何かが空を切りながら奔る。
「はぁっ!」
「っ!? チッ!」
下段から振り上げられた剣をバックステップで避けたサクラは、ふと先ほどの物が何なのかと気になっていたが、地面に音を立てて落ちた物体を見て納得した。
そこに落ちていたのは細長いピック、所謂投擲武器だ。
「そう言えば、貴様は投剣も出来るのだったな」
「最近は使う事が減ったんですがね」
本当に油断も隙も無いとはこの事か。
一気に攻めに転じようとしたサクラをあっという間に均衡へと持っていく手腕は正に見事と言うべきものだ。
「それで、まだソードスキルとやらは使わんのか?」
「う~ん……まぁ、本当に使うのをお望みなら、今から一個だけ」
そう言ってキリトが剣を構える。すると、右手の剣がライトエフェクトによって輝き、キリトの表情も一気に引き締まる。
「言っておきますが……このスキルは魔法属性が付加された上位のソードスキルです、まともに受ければ今の先生のHPだと一気に全損します」
「なるほど、ならばそれを受けなければスキル後の硬直がある貴様に私は攻撃し放題という訳か」
ISでもソードスキルを使用した後に硬直という名のシステムの一時機能低下が存在しているのをサクラは知っている。
恐らくこのALOでもそれは健在だろうというのは予想出来ているので、上手くいけば逆転を狙えるだろうと気を引き締めて刀を構えた。
「……」
「……」
一瞬の静寂の後、キリトが動いた。
「はぁああああああっ!!!」
「っ!」
一気にサクラへと距離を詰めたキリトは、ライトエフェクトの輝きを放つ右の剣を横一閃、その一撃をサクラは何とか刀で受け止めたが、回転しながらサクラの右側面へと移動したキリトが再び一閃、それをまともに受けてしまい、続けざまの背後からの一閃と、腕を失っている左側面の一閃をも直撃してしまう。
振り切られた後に4つの属性を持った剣の軌跡が四角を描くように広がって消える光景を見て、サクラは己が敗北を悟った。
水平4連撃のソードスキル、ホリゾンタルスクェアは残ったサクラのHPを全損させ、サクラはリメインライトとなってデュエルに敗北する。
「(これが……この領域が、お前の立つ場所なのか……一夏)」
リメインライトになったサクラの意識は、背中の鞘に剣を収めるキリトの後姿と、そんな彼の肩に舞い降りて笑みを浮かべるユイ、そして、寄り添うように駆け寄るアスナの姿を見つめていた。
黒の剣士とブリュンヒルデの戦いは終わった。
弟は姉に自分の剣士としての矜持を、自分の信念を貫く為、ついにその剣を家族へと向ける。
姉は弟の矜持、信念を試す為に自ら封印した嘗ての剣を取り戻り弟の前に立ちはだかった。
嘗て世界最強に輝き、今なお世界の頂点に君臨する最強の剣。それは弟を守る剣から、弟と対峙する為の剣となり、今……姉と弟、ブリュンヒルデと白の剣士の信念を賭けた闘いが始まる!
次回、SAO帰還者のIS
「姉弟対決、白の剣士VSブリュンヒルデ」
姉は弟に、弟は姉に、想いを剣に乗せぶつかり合う。
次回予告は感想を頂いた警備さんのアイデアをリスペクトして、少しアレンジしました!
警備さん、アイデアを頂きましてありがとうございます!