SAO帰還者のIS
第五十七話
「姉弟対決、白の剣士VSブリュンヒルデ」
IS学園はつい先日、学期末テストが終了して夏休みに入った。
海外から来ている生徒の大半が夏休み初日には帰国しており、IS学園に居るのは日本人の生徒ばかり。
その日本人生徒達も地方から来ている者はそれぞれの故郷へ帰郷しており、本当に残っているのは家が首都圏内にある者や事情があって帰らない者だ。
一夏は自宅が東京都内にあるので時々帰宅して掃除などをするが、安全の為に一応は大半が学園内で過ごす事になっており、埼玉県在住の和人も同じ理由で時々の帰省はあるが、同じ様に殆どをIS学園で過ごす事になっている。
百合子は千葉に自宅があるのだが、本人は帰る気が無いらしく、IS学園に留まり、明日奈も実家からの呼び出しが無い限りは同じだ。
「ナツ、今日だね」
「ああ……」
そして、夏休み初日は一夏にとって大事な日でもある。それは姉である千冬との約束の日、姉との矜持を賭けた戦いの日なのだ。
朝、朝食を食べ終えて、ある程度の準備を整えた一夏は百合子と和人、明日奈を引き連れて指定された第一アリーナを目指している。
途中でシャルロットやラウラ、箒とも合流して辿り着いた第一アリーナでは、既に千冬が嘗ての愛機、白地に桜色のラインや桜模様が描かれた装甲が美しい最強のIS、暮桜を纏ってスタンバイしていた。
「あれが暮桜か……」
「ええ、あの頃のまま……千冬姉が世界最強に輝いた時のままですよ」
嘗て憧れた姿、今では憧れは和人へと移っているが、それでも世界の舞台で戦い、更には誘拐された一夏を助け出してくれた時の姿が、そこにある。
静かに目を閉じた一夏は精神統一をして、大きく深呼吸をした。
「……行くぞ、白式・聖月」
白式・聖月を纏った一夏は右手にトワイライトフィニッシャーを展開し、カタパルトに接続する。
管制室に居る真耶へOKサインを出すと、カタパルトに電源が入り、いつでも出撃可能な状態になった。
「ナツ、気負うな」
「頑張ってねナツ君」
「信じてる」
一夏の勝利を願い、そしてそれを信じてくれる仲間達にグッと親指を立てて返し、静かに見守る箒、シャルロット、ラウラへ目を向けた。
「織斑先生のIS操縦技術は最高レベルだから、気をつけてね一夏」
「技術で勝てないからと、勝利を諦めるな」
「……ぶつかって来い!」
「おう!」
気合は十分だ。後は、己の信念を、想いを、戦い抜いてきた大切な2年間で学んだ全てを、右手に握る剣に込めるだけ。
「頼むぜ白式……相手が世界最強だろうと、斬れない相手じゃない。ただ近づいて斬る、それが俺達のやり方だ……それを貫こうぜ!!」
一夏の気持ちに応えるかのように、白式・聖月の駆動音が更に大きくなった。
まるで、白式も気合が十分だと、世界最強が相手であろうと、臆する事無くぶつかって行こうと、そう語りかけるかの様に。
「織斑一夏……いや、白の剣士ナツ、白式・聖月……行くぜ!!」
カタパルトが射出され、白式・聖月を纏った一夏はアリーナへ飛び出て行った。
アリーナで待っていた千冬は、ようやく来た弟の姿を確認すると、嘗て暮桜を纏って世界最強に輝いた要因の一つであり、最強の剣である雪片を展開、右手に持つと、その切っ先を一夏に向ける。
「昔、お前に刀を持たせて言った事があったな……それが、人の命を絶つ武器の重さだと」
「ああ、覚えてるよ……いつだって、忘れた事は無かったさ。この手で人の命を奪ったからこそ、余計にな」
「お前は、その手に持つ武器の重さを、血に染まった手になって余計に理解して尚、己が信念を貫く為に握る……そうだな?」
「そうだ、いずれは剣を置く日も来るだろうけど、でもそれを決めるのは俺自身だ。誰かに言われるままに、国だとか威信だとか、そんな下らない物の為に、ずっと握り続けるつもりは無いぜ」
「自らの意思で剣を置くその時まで……お前が信念を貫くと言うのなら、それを証明して見せろ」
試合開始のカウントダウンがスタートした。
赤いシグナルが点灯して、一つずつ消えていく中、一夏はこの試合を見ているであろう仲間達や、この学園で知り合った友人達が見守っている事も全て頭から捨て去り、ただ一途に……目の前の“敵”を見つめる。
これから挑むのは姉でも教師でも無い。世界最強、その名を持つ、一夏の信念と、歩む道を阻む敵だ。
「……」
「……」
互いに剣を構えた白の姉弟は、ただ目の前に立つ者を斬り捨てるために、視線を交わす。ただ、唯一二人で異なるのは、一夏から明確な殺気が放たれているという事のみ。
そして、遂にシグナルが青に変わり、試合開始の合図となる音がアリーナに鳴り響いた時、二人は一斉に動き出した。
「はぁああああああっ!!!!」
「ぬぅん!!」
試合開始と共に全身の展開装甲を開いた一夏が
だが、剣の腕前や才能は兎も角、ISの操縦技術という点において、一夏よりも圧倒的に上である千冬から見れば一夏の
振り下ろされたトワイライトフィニッシャーを雪片で弾き、そのまま懐に潜り込んで零落白夜による一撃必殺を決めようとしたのだが……。
「っ! グゥッ!?」
「あああああああ!!!」
弾き返せなかった。いや、それどころか逆に押し込まれそうになって慌てて雪片を両手持ちし、何とか持ち直したと言っても良い。
しかし、片手がまだ空いている一夏は千冬が雪片を両手持ちにした瞬間、空いている左手に持ったピックを投擲スキルのシングルシュートによって千冬の剥き出し状態になっている腹部へ投擲する。
当然だが、絶対防御が発動してピックは突き刺さる事無く地面へ落下したが、今ので暮桜のシールドエネルギーが多少減少、更に拮抗していた剣は一夏がトワイライトフィニッシャーの刃を雪片の刃に沿って滑らせる事で千冬のバランスを崩し、回転する勢いで一夏の回し蹴りが千冬の後頭部に直撃した。
「甘いんだよ千冬姉! ISの操縦技術で劣っていようと、剣の勝負なら俺は負けない!!」
そう、これはIS操縦技術の勝負ではなく、ISを操縦しながらの剣の勝負でもあるのだ。
超近接状態での剣の交じり合いならば、一夏の方に分があるのも当然。
「なるほど、ならば……!」
本当なら使うつもりは無かった。だが、出し渋っていても仕方が無いと判断し、まだ試合が始まったばかりではあるが、千冬は零落白夜以外の暮桜の切り札を切る。
「見るが良い! これが世界で唯一、
「
通常、ISには初期設定の状態から操縦者に合わせてフィッティングを行い調整する
だが、その更に上である
いや、そもそもその存在を知るのは、世界広しと言えど千冬と束、それから今は亡き茅場晶彦の三人しか存在しない。
開発段階で、束と茅場が設定したISの進化の段階というものがあり、操縦者とISのコアが、真に一つへと近づく事で進化を遂げるように設定していたのだ。
その段階というのが、
勿論、
それが千冬と、その愛機である暮桜だった。
「いくぞ暮桜……
【
聞き覚えの無い単語が出てきた。
「悪いが、この力を使って負けた事は一度しか無い……だからこそ、二度目の敗北は無いと思え!」
「なら破ってやるよ……それが俺の乗り越えなければならない壁だというのなら、俺はそれを乗り越えて俺の道を行く!! 白式!!」
全身の展開装甲から放たれる青白いエネルギーと、構えたトワイライトフィニッシャーの刀身が光り輝く。
あからさまな突刺を予想させるその構えは、白の剣士ナツの代名詞にして最も信頼し、絶対の自信を持つスキルだ。
「俺はこのヴォーパル・ストライクで、千冬姉の零落白夜を越える……!」
ジェットエンジンの如き爆音と共に、トワイライトフィニッシャーを包むライトエフェクトの光芒がその輝きを増していく。
千冬もまた、全身を黄金のオーラで染め上げ、青緑色の光……零落白夜の光を纏う雪片を構え、篠ノ之流、一閃二断の構えを取った。
「おおおおあああああああ!!!」
「うぉおおおおおおおおお!!!」
激突する零落白夜とヴォーパル・ストライク、ブリュンヒルデと白の剣士、姉と弟、千冬と一夏、全ての想いを込めて、再び両者の気持ちがぶつかり合った。
姉弟の激突、世界最強と英雄の一角の戦いは熾烈だった。
弟を想う姉の気持ちが込められた剣は弟の進む道を阻み、今まで守ってきてくれた姉からの独立の道を歩む為に己の信念を貫こうとする弟の剣は、壁として立ちはだかる姉の剣を跳ね除ける。
互いに譲らぬ戦いの果て、遂に過激すぎる姉弟喧嘩の決着が!
次回、SAO帰還者のIS
「姉の意地、弟の意地」
ぶつかり合った果てに、開いていた溝は塞がる。