SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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お待たせしました! ついに姉弟喧嘩の終幕です。


第五十八話 「姉の意地、弟の意地」

SAO帰還者のIS

 

第五十八話

「姉の意地、弟の意地」

 

 姉と弟の戦いは、序盤から早くもクライマックスへ突入しようとしていた。

 二次移行(セカンドシフト)をして、爆発的なスピードを得た白式・聖月を纏い、白の剣トワイライトフィニッシャーを一夏は自身が最も信頼を寄せるソードスキル、ヴォーパルストライクのライトエフェクトによって輝かせる。

 対する三次移行(サードシフト)という未知の領域へ達している嘗ての世界最強の暮桜は緑色の光を纏った雪片を構え、全身を黄金の光に包んで彼女が最も信頼する単一使用能力(ワンオフアビリティー)の進化した力を発動している。

 両者、共に信頼する技にて、今まさにぶつかろうとしていた。

 姉は弟に、目指す夢は無謀だと、姉が指し示す道こそが弟の為になる道だと諭し、弟の道を阻む壁とならんがため。

 弟は姉に、自らの道は己で決めると、己が信念を貫き通し我が道を行くと示し、壁として立ちはだかる姉を打倒せんがため。

 

「……っ!!」

「……っ!!」

 

 タイミングは同じ。流石は姉弟だというだけあって、動き出すタイミングは全く同じだった。

 ヴォーパルストライクの、白式の爆発的な加速度を持って放たれる超高速の突刺は真っ直ぐ姉を穿たんと突き進み、零落白夜・夢幻の力を纏った篠ノ之流一閃二断の構えから放たれる高速の斬撃は眩い光とジェットエンジンの如き爆音を響かせるトワイライトフィニッシャーの刃を横切り、鍔元を狙う。

 ここで一つ、説明しなければならないのは、千冬が使う篠ノ之流一閃二断の構えについてだ。

 一閃二断の構えとは、その名の如く初撃の一閃にて敵を真っ二つに一刀両断する一撃必殺の構え。

 それはまるで示現流の二の太刀要らずの剣によく似ているが、実は大きく違う点が存在しているのだ。

 示現流の二の太刀要らずも確かに一撃必殺、初撃にて敵を一刀両断する鋭い斬撃だが、当然、初撃を避けられた時の為の対策も存在する。

 しかし、篠ノ之流の一閃二断の構えは避けられた時の事を一切度外視し、確実に初撃にて敵を斬る事のみを追求した完全一撃必殺の技。

 避けられる事を、受け止められたり受け流されたりするかも、という余計な考えを一切捨て去り、必ず一撃で仕留める事のみを追求し、それ以外の一切を無用とした構えこそが一閃二断の構えなのだ。

 そして今回、千冬が一閃二断の構えでトワイライトフィニッシャーの鍔元を狙ったのは、一夏のアインクラッド時代の象徴とも言うべき剣、トワイライトフィニッシャーを叩き折り、その勢いのまま一夏に刃を届かせて、その一撃で勝負を決める狙いがあってのことだ。

 トワイライトフィニッシャーを折る事で、アインクラッドでの事を一夏に捨てさせる。雪片弐型は消滅したが、そんな物は束にもう一度作らせれば良い。

 とにかく、トワイライトフィニッシャーを折ることで一夏の心を折る。それだけが千冬の狙いだった。

 

「ぜらぁあああああああああっ!!!」

「な……っ!?」

 

 だが、千冬の狙いは大きく外れる。

 確かに雪片の刃はトワイライトフィニッシャーの鍔元に直撃した。後はそのまま折ってしまうだけだったのに、折れなかった。

 いや、折れるどころか……千冬が、押し負けている。

 

「あああああああああ!!!!」

「くっ……!」

 

 このままでは不味い、そう思って千冬はトワイライトフィニッシャーの切っ先が届く前に雪片で刀身を逸らし、その勢いのまま回転して横切っていく一夏に何とか一撃を入れた。

 

「零落白夜・夢幻、解除……っ」

 

 ただでさえ燃費が馬鹿みたいに酷い零落白夜の進化系である零落白夜・夢幻は普通の零落白夜以上の勢いでシールドエネルギーを暴食していた。

 ただ、それにしては暮桜のシールドエネルギーの消費が随分と少ないのは何故なのか。それは零落白夜・夢幻の能力に秘密がある。

 

「これが零落白夜の進化した力だ。敵のシールドを無効化して直接相手を攻撃するのが零落白夜なら、零落白夜・夢幻は敵のシールドを吸収して直接相手を攻撃する」

「当たれば消費した分の回復が出来るって訳か……」

 

 これこそが、暮桜が三次移行(サードシフト)した事により、進化した零落白夜の新たな力。

 単一使用臨界能力(ワンオフアビリティー・オーバーブースト)、零落白夜・夢幻。ただエネルギーを消費して敵を直接攻撃するのではなく、消費したエネルギーは敵のシールドを吸収する事で回復しながら直接敵を攻撃する、千冬を世界最強たらしめた奥の手。

 

「チッ……今のでシールドエネルギーが三分の一持って行かれたか……」

 

 回復してシールドエネルギーが残り半分の千冬と、残り三分の二の一夏。

 まだ一夏の方が有利ではあるが、IS操縦技術という点で圧倒的に上回る千冬に、剣腕だけで勝てると確信出来るほど一夏は馬鹿じゃない。

 とりあえずシールドエネルギー消費を抑える為に全ての展開装甲を閉じて超高速戦闘モードをOFFにすると、改めてトワイライトフィニッシャーを構える。

 

「すぅ~……はぁ~……」

 

 目を閉じて何度か深呼吸を繰り返した一夏は、一切の雑念を捨て、再び目を開く。同時に、千冬はまるで背筋に氷でも入れられたのかと思ってしまうほどの寒気を感じた。

 それは、元々の鋭い眼光が更に鋭くなり、瞳の奥から垣間見える冷たく黒い炎が直接千冬に襲い掛かったかのような濃密な殺気だった。

 臨海学校の時の、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)を前にした時のような憎悪に染まった狂おしいほどの殺気ではなく、ただ純粋に目の前の敵を斬るという意思の下に発せられる透き通った殺気とでも言えば良いのか。

 恐らく、この場に和人達アインクラッド組が居たのなら、こう言うだろう。今の一夏の殺気こそ、白の剣士ナツの本来の姿だと。

 

「っ!!」

 

 無言のまま、一夏は一気に距離を詰めて来た。

 一瞬の事で反応が遅れた千冬だが、長年培ってきた経験が自然と千冬の体を動かしており、咄嗟に二重瞬時加速(ダブルイグニッションブースト)を使用、瞬時加速(イグニッションブースト)で迫ってくる一夏の剣を弾きながら後ろに回りこむ。

 

「っ!」

「はぁっ!」

 

 振り下ろされた雪片をトワイライトフィニッシャーで弾いた一夏は、すぐさま真上へ上昇、それを千冬も追う。

 追いかけてくる千冬を振り返りながらピックを投擲した一夏は、急停止した瞬間に真下へ一気に瞬時加速(イグニッションブースト)で急降下、ピックを弾いた千冬へ肉薄した。

 

瞬時切替加速(クイックターンブースト)だと!?」

 

 まだ一年のこの時期では教えていない技術を、一夏は何処で知ったのか。そんな疑問は後にして迫ってきた一夏を迎え撃とうと雪片を構えなおした千冬だったが、その顔は更なる驚愕に染められる事となる。

 

「何っ!?」

 

 瞬時加速(イグニッションブースト)に入ったまま、目の前まで迫った一夏が速度をそのままに真横へと再び瞬時加速(イグニッションブースト)する。

 それはアメリカ国家代表にして第三世代型ISファング・クエイクの専属操縦者、イーリス・コーリングですら成功率が40%しか無いと言われている瞬時加速(イグニッションブースト)の発展系技術、個別連続瞬時加速(リボルバーイグニッションブースト)と呼ばれる技術だ。

 勿論、一夏の様に進路を変える用途で使うなど本来の使い方ではない。いや、寧ろそれはあまりに無謀であり危険すぎる使い方だった。

 瞬時加速(イグニッションブースト)中に方向転換するというのは、機体と操縦者双方に多大な負担を掛けてしまい、最悪は操縦者の内臓が潰れて骨が折れてしまうような危険極まりないものなのだ。

 しかも、それを個別連続瞬時加速(リボルバーイグニッションブースト)で行うなど、正気の沙汰ではない。

 事実として、今も白式の駆動部が軋みを上げているし、一夏も内臓を損傷したのか口から血を吐いている。

 

「グッ!?」

 

 しかし、それでも一夏の執念は途切れない。

 真横を擦れ違う千冬にトワイライトフィニッシャーの刃を叩き込み、逆に雪片の刃を受け、それを何合も繰り返した。

 もはや互いにシールドエネルギーが心許なくなってきたところで、一気に急旋回してきた千冬の斬撃に対し、下段からの斬り上げで思いっきり雪片の刀身にトワイライトフィニッシャーの刀身を渾身の力で叩き付ける。

 それによって千冬の右腕が大きく上に逸らされ、バランスを崩すのと同時に、トワイライトフィニッシャーの勢いがあまりに凄まじかった所為か二人を中心に衝撃波が発生した。

 衝撃波はアリーナのシールドを大きく揺さ振り、シールド発生機が幾度もスパークするが、そんな事知る由も無い二人の戦いはいよいよ架橋へと近づいている。

 

「これで、トドメだぁ!!!」

 

 再び白式の展開装甲全てが開いて青白いエネルギーを放出、更には左手にリベレイターⅡを呼び出して、同じように展開装甲を開いた。

 

単一仕様能力(ワンオフアビリティー):神聖剣、発動】

 

 白式・聖月が黄金の光を纏い、トワイライトフィニッシャーの刀身が真紅のライトエフェクトで光り輝く。

 

「迎え撃つぞ、暮桜!!」

単一仕様臨界能力(ワンオフアビリティー・オーバーブースト):零落白夜・夢幻、発動】

 

 勝負は、一瞬だった。

 互いに二重瞬時加速(ダブルイグニッションブースト)で接近して、千冬の雪片が緑色の光を纏って一夏を斬ろうとするが、それを一夏がリベレイターⅡで受け止め、そのまま押し込みながらトワイライトフィニッシャーの刃を振るう。

 敵の攻撃を盾で防御し、逆に押し込みつつ、剣にて、唐竹、袈裟、右薙、右斬上げ、逆風、左斬上げ、左薙、逆袈裟、計8つの斬撃をランダムに放つ、神聖剣最強の最上位ソードスキル、アカシック・アーマゲドンは、暮桜のシールドエネルギーを全て奪い去り、勝負を決めた。

 

【暮桜、シールドエネルギーエンプティー。勝者、織斑一夏】

 

 暮桜、シールドエネルギー残量0。白式・聖月、シールドエネルギー残量2。ギリギリのところで一夏の勝利だったが、もし最後の千冬の攻撃を受け止められなければ、負けていたのは一夏だった。

 ヒースクリフから託された盾が、一夏に勝利を齎したのだ。

 

「まさか、負けるとはな……」

「最後は、殆ど俺も博打だったよ」

「だろうな、シールドエネルギーが残り少ないというのに展開装甲を開き、尚且つユニークスキル、だったか? それを使うなど、まだまだ未熟な証拠だ」

「だろうな……コホッ」

 

 言葉の途中で、一夏が咳き込み、口から血を少量だが吐き出した。

 そういえば試合中に無謀な機動をやらかした所為で内臓を損傷してしまっているのを思い出し、途端に激痛を自覚する。

 

「アタタタタ……っ! ち、千冬姉、ちょ、洒落になんないくらい痛い」

「自業自得だ馬鹿者め、あんな無謀な事をしおって……私のことはいいから、さっさと医務室へ行け」

「そ、そうさせてもらう……っ」

 

 ふらふらと飛びながらピットへ戻っていく弟の姿を見送った千冬は、暮桜を解除するとアリーナの地面に座り込んだ。

 正直、さっきまで平気な顔をして一夏と会話しているのも結構無理していたのだが、姉の意地なのか、我慢していたのだ。

 

「おつかれ、ちーちゃん」

「……ああ」

「負けちゃったねぇ」

「ああ……ISの操縦技術では負けていなかったが、剣の腕も、気持ちも、信念も、操縦技術以外の全てが私はあいつに劣っていたのだろうな」

 

 弟離れ出来ない姉の意地とISの操縦技術だけで勝てるほど、弟は甘くないほどの存在に、いつの間にか成長していたようだ。

 それが、嬉しいやら、寂しいやら、こういうときにどんな顔をすれば良いのか、千冬はまだ知らなかった。

 

「ふぅ……明日から忙しくなるな」

「ん?」

「明日からは……一夏の卒業後の留学について色々と準備を始めなければな。今からやっておけば、いざ留学する時に慌てずに済む」

「そっか……楽しみだなぁ、この先いっくんとかず君が作る世界が訪れるの。きっと、私が滅茶苦茶にした今の世界より、ずっと素敵な世界になってるだろうね」

「当たり前だ」

「?」

「私の弟と、生徒が作る未来だ……良い未来になるのは当然の事だろう?」

「……意地っ張りだねぇ」

 

 そっぽを向いている千冬に、傍らに立つ束は苦笑しながら空を見上げた。

 今までと何も変わらず、そしてこの先もきっと変わらないであろう、蒼穹の如く澄み渡った、この大空を。




少女は憧れた。
世界最強の姉を持ちながらも己を貫き通す少年の矜持に。
少女は嫉妬した。
自分には出来ない事をやってのける力がある少年に。
少女は涙した。
自分というモノを確りと持ち、何者にも流されぬ意思を持つ少年の輝きに。
眼鏡の奥にあるのは諦めと、何も出来ない自分への怒り。
貰ったのは一歩を踏み出す勇気という名の確かな繋がり。
次回、SAO帰還者のIS
「更識簪の決意」
少女の決意が、剣を誕生させる。
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