SAO帰還者のIS
第六十五話
「VRMMO最新作、IB~インフィニット・バースト~」
IS学園夏休みも残り僅かとなった。実家や祖国に帰省、帰国していた生徒達の大半も既に学園に戻ってきており、学校自体は休みでも生徒達は夏休み前と何も変わらない日常を学園内で過ごしていた。
そんな中、一夏達VR研究部はというと、いよいよ発足時より開発していたオリジナルVRMMOゲームが完成しようとしていたのだ。
部室には現在、ゲーム製作をメインで取り仕切っている一夏がメガネを掛け、制服の上から白衣を纏った姿でキーボードを一心不乱に叩いており、隣で和人も同じ作業をしている。
その後ろでは百合子が別のパソコンで何やら作業をしており、明日奈がゲームのパッケージデザインの追い込みをしていた。
「キリトさん! そっちはどうですか?」
「現在カーディナルシステムのアップデート作業中だ! 残り120秒!」
「よし! ユリコ! そっちは!」
「凡そ終わり!」
「アスナさん!」
「完成したよー!」
修羅場……そんな言葉がピッタリの現場を見ていた箒、鈴音、セシリア、シャルロット、ラウラは自分達に何か出来る事は無いかと思っていたのだが、出来そうな事は何も無い。
むしろ一緒に居た簪と本音からも手伝いは必要無いから大人しくしているかお茶の用意でもしておいて欲しいと言われる始末だ。
そして、その簪と本音も今はパソコンの前で作業の追い込みをしていて、話しかけられる状況ではなかった。
「簪!」
「こっちはOK」
「のほほんさん!」
「おっけ~!」
「よっし!」
修羅場なのも仕方が無いだろう。いよいよ一夏達が開発しているゲームが完成しようとしているのだから、この状況にも納得出来る。
顧問である真耶も邪魔になるといけないからと、今は職員室に引っ込んでいるし、まだ正式な教員ではないが、夏休み明けには副顧問になる束も何やら一夏に頼まれて別室で作業をしているのだから。
「ナツ! アップデート完了、システム異常無しだ!」
「じゃあこっちに転送してください! 全部組み込みます!」
「ユイ!」
『はいです! 転送しますよー!』
「ナツ、こっちも完成」
「私の方も」
「全部送って! 纏めてやっちゃうから!」
和人が送ってきたカーディナルシステム、ユリコが送ってきたISのデータ、簪と本音が完成させたグラフィックやSE等々、全てが一夏のパソコンに送られてきて、素早く基幹プログラムと組み合わせていく。
最後に一夏がEnterキーを押す事で、ついに……。
「か、かんせぇえええええええい!!!!」
テンションが天元突破して変な方向へ向かっているが、立ち上がった一夏の咆哮によって同時に部室内の全員が歓声を上げる。
そのテンションに付いていけない5人も、完成という言葉にホッと胸を撫で下ろした。
「おめでとう! 一夏!」
「おう、サンキューシャル!」
「ようやく一夏さんの夢の第一歩が始まったのですわね!」
「ああ、やっとだ!」
長かった。本当に長かった。VR研究部を発足してから、今日まで、ゲーム製作を続けてきて、その苦労がようやく実ったのだ。
「後はこいつをソフトにインストールして……よし」
完成したゲームのソフトを取り出した一夏は明日奈が完成させたパッケージに収めて蓋を閉じる。
パッケージに描かれているのは打鉄やラファール・リヴァイヴ、テンペスタやメイルシュトロームなど第二世代ではあるがISに乗った人物が剣や銃を向け合っている姿。
震える手でソフトを収めたパッケージを頭上へ掲げてみれば、本当にこのゲームを自分が製作したのだという実感が湧いてくる。
「これが……俺の、俺達の作ったゲーム……っ!」
どうしてだろうか、自然と涙が込み上げて来る。
ふと、肩を叩かれたのに気づいて横を見れば、和人が笑みを浮かべながら手を差し出していたので、一夏も同じように笑みを浮かべると、その手を確り握り締めた。
「おめでとう、ナツ」
「キリトさんこそ……本当にありがとうございました!」
「いや、お前にはプローブ製作も手伝ってもらってるんだ。お互い様だろ?」
周りが二人の握手に対して拍手を送ってくれる。だが、それも程々で早速遊んでみたいというのがゲーマーというもの。
「ね、ねぇ一夏! 早くテストプレイしてみましょうよ! アタシ、ずっと楽しみにしてたんだからさぁ」
「うむ、リアルではISに乗れない私でもVRワールドでならISに乗れる。ずっと待ち焦がれていた」
「アミュスフィアは全員分用意したぞ!」
箒の手にはこの場の全員分のアミュスフィアがあり、彼女がそれを一人ずつ配っていく。一夏もまだパッケージに収めていないソフト人数分を手渡し、明日奈と百合子が床に布団を敷き始めた。
「準備出来たよー」
「アミュスフィア、セット完了」
簪がアミュスフィアを部室にあるLANコネクタに接続して、全員布団に横たわるとアミュスフィアを被る。
電源を入れて、いざ……新たなVRワールドへの旅が始まろうとしていた。
『リンク・スタート!!』
一夏達が製作した新たなVRMMOゲーム、その名はIB~インフィニット・バースト~。プレイヤーは仮想世界でIS操縦者となり、武器や防具などを様々なクエストをクリアしたり、店などで購入したりして入手しながら無人機を模したMobや他のプレイヤーと戦う。
特に力を入れたプレイヤー対戦については、従来のRPGのような戦闘方式ではなく、プレイヤーとの戦闘が決まった際に専用のバトルフィールドへ転送されて行われる格闘対戦ゲーム方式が採用された。
バトルやMobとの戦闘で勝利する事で経験値が得られ、プレイヤーのレベルが上がるだけでなく、BP(バトルポイント)と呼ばれるものを得られ、そのBPを利用して自身が使用するISの強化も行える仕組みになっているのも特徴だろう。
また、プレイヤーの初期のISとして支給されるのは今は懐かしい第一世代の量産型ISであり、そこから特別なクエストをクリアするなどして第二世代機や、レアな第三世代機、もしくは有名な選手などの専用機だったISをゲットして乗り換える事も可能な他、このゲームで自分だけのオリジナルISを作成する事も出来るというのも魅力の一つ。
ただし、今はまだ専用機を入手するという事は出来ない。製作の段階でデータが手に入らなかったのが理由なので、今後の売れ行き次第で世界各国が自国の専用機のデータを是非組み込んで欲しいと言ってくれれば随時アップデートしていく事になるのだ。
「あ~楽しかった!」
そして、テストプレイを終えた面々がログアウトして現実世界に戻ってくると、皆が皆、それぞれの感想を言い合っていた。
「ISの動きなどに違和感はありませんでしたわ」
「そうだね、リアルでIS動かしてるのと全く感覚が変わらないから、ISのシュミレーターと言っても過言じゃないよ、このゲーム」
「その辺は特に拘ったんだ。特にIS学園で作るゲームという事でISのシミュレーターにもなるゲームなら部活の実績としては十分だろうからな」
だが、このゲームの何よりの強みはリアルとは違い仮想空間だからこそ、男でもISに乗れるという点にある。
リアルではISのコアが男には反応しないが、ゲーム内であればコアなどというものは存在しないので、男であろうとISに乗り放題なのだ。
「まぁ、男でもISに乗れる分、カーディナルで設定したハラスメントコードは他のゲームより若干厳しめになってるけどな」
「キリトさんにその辺任せましたけど、どうです?」
「とりあえず男性プレイヤーは女性プレイヤーに執拗に対戦を迫るという行為はハラスメントコードに引っかかるように設定してある」
リアルで女性に虐げられて来た男が仮想世界で女性に対し執拗に対戦を迫り、結果女性が悪戯に攻撃されるのを避ける為の措置だ。
「ナツ、これってGGOを参考にしたよね?」
「お、流石はユリコ」
「GGO? 何だそれは?」
「あ~、箒は知らないよな。GGOってのは最近アメリカが発売したVRMMOゲームなんだけど、簡単に言えば魔法無しの武器は銃メインな近未来型ガンアクションゲームだ」
このゲームを作成する上でGGO……ガンゲイル・オンラインというゲームの存在を知った一夏は何度かGGOにコンバートしてGGOというゲームについて色々と調べ、それがIBにも応用出来ると判断してからは、色々と参考にさせてもらったのだ。
「一夏、このゲームはいつ発売するの……?」
「う~ん、まずは学園に提出して出来を見てもらう。んで、学園長からの承認を得られれば正式に学園から全世界に発売する事になるかな。特許は俺」
名目上、一夏が製作者という形にして運営は学園に任せる予定だ。
どの道、一夏が卒業した後は学園が完全運営を行う事になるのだから、今から学園に運営を任せるのが一番だろうと千冬からのアドバイスを受けた結果だった。
「早速だけど、俺はこれからこいつ持って学園長と生徒会長の所へ行くんだが……キリトさん、一緒に来て貰っても?」
「ああ、わかった」
パッケージに包装したゲームとサンプル用に用意したソフト数点を持って一夏と和人は部室を出て行った。
二人揃って白衣を纏い、完成したゲームを持って歩く二人の後姿は、まだまだ未熟ながらも研究者の風格が出始めている。
「う~ん、アタシもう少しこのゲームやりたいわ。このソフト、貰っても良いのよね?」
「うん、良いよー。みんなが使ったソフトはそのままあげるってナツ君も言ってたから」
「さっすが一夏! 太っ腹よね! セシリア! 早速このゲームにコンバートして遊ぶわよ!!」
「ちょ、ちょっとお待ちなさいな鈴さん! 私、まだ紅茶飲んでる途中ですわ!」
「んなもん後よ後!」
「理不尽ですわー!!」
この日、世界中に激震が走る。IS学園が世界中に発売した最新のVRMMOゲーム、IB~インフィニット・バースト~はIS操縦者にとって従来の物を遥かに上回る高性能なシミュレーターと言えるそれに驚き、男でもゲーム内でならISに乗れるという事に世の中の男達が歓喜した。
ただ、このゲームの誕生を快く思わないのが女性権利主義者団体で、彼女達は早速ゲーム内で男がISに乗れるという事を批判し、IS学園に即刻販売中止をするか、男はプレイ出来ないように設定するよう求めたが、製作者である織斑一夏がそれを拒否し、篠ノ之束がその名の下にIBの存在を認めた事により、表面上は沈静化を見せる。
また、このIBのシミュレーターとしての側面がIS学園でも評価され、来年度からの授業カリキュラムにIBを使ったIS操縦訓練を取り入れる方向で検討される事になったのだが、それは先のお話。
夏休み終了目前、ついに完成した専用機。
学園最強の姉の影に怯えるのはもう辞めにするため、少女は遂に立ち上がる。
対するは学園最強の少女。愛する妹の気持ちに応えるため、自身の全力で持って最愛の妹を叩き潰すと宣言した。
次回、SAO帰還者のIS。
「更識姉妹、涙の戦いの果てに」
流した涙の数だけ、少女達は成長する。