SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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ある意味、明日奈無双。


第六十六話 「更識姉妹、涙の戦いの果てに」

SAO帰還者のIS

 

第六十六話

「更識姉妹、涙の戦いの果てに」

 

 夏休みも残すところ後3日となるこの日、ついにレクト社より更識簪の専用機、打鉄弐式が完成したという報告が来た。

 早速だが操縦者となる簪と、付き添いという形で明日奈、和人、それから何故か簪同様にレクト社に呼ばれたという事でシャルロットも一緒にレクト本社まで来ている。

 本社受付で手続きを済ませた四人が先ず向かったのは、明日奈の父が待っているという会社地下にある研究室だ。

 

「失礼します、父さん……来ました」

「おお! 明日奈! 桐ヶ谷君! シャルロット君も!」

 

 研究室で待っていた明日奈の父、結城彰三は入ってきた愛娘である明日奈と、義娘となったシャルロット、そして明日奈の恋人として、そして将来の娘婿として期待している和人を歓迎する。

 更に、一緒に入ってきた簪へと目を向けると、優しそうな目を細めて手招きした。

 

「?」

 

 首を傾げながらも、てこてこ歩いて近づく簪に章三は後ろのガラス窓の向こう側を指差して見せた。

 防弾性のガラス窓の向こうには、レクトと倉持技研の研究員が大勢作業している中で威風堂々と鎮座する一機のISの姿が。

 

「打鉄弐式……!」

「うむ……日本代表候補生、更識簪さん、本日を持って専用機・打鉄弐式を君に受領する旨を、日本内閣総理大臣の代理としてレクト社元CEO結城彰三の名の下に宣言する」

「……!」

 

 早速だが中に案内され、ハンガーに固定された打鉄弐式の前に立った簪に研究員が説明をしていた。

 武装面は元々倉持で開発されてた通りにしてあり、簪個人での開発で一番のネックだったマルチロックオン・システムも完成、更にはレクト社で設計し、倉持の研究者が完成させた新規の武装も装備されている。

 

「後は最適化(フィッティング)をするだけですので、更識さんは搭乗して頂いてもよろしいですか?」

「はい」

 

 簪の最適化(フィッティング)を行っている間、手持ち無沙汰になってしまう明日奈達だったが、そういえばシャルロットを呼んだ理由についてまだ聞いていない事を思い出した。

 明日奈がその旨を父に尋ねると、今いる研究室の隣へと案内される。

 

「シャルロット君、君は今年の秋に日本代表候補生選抜試験を受ける事になっているね?」

「は、はい」

「正式に君が候補生になった時に受領することになっている専用機だが、実は既に完成しているんだ」

「本当ですか!?」

「ああ、あれを見てご覧?」

 

 そう言われて三人が目を向けた先、先ほどと同じガラス窓の向こう側には研究者こそ居ないが打鉄弐式の時と同様に一機のISがハンガーに固定され鎮座していた。

 以前の専用機だったラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡと同じオレンジ色の装甲が美しいそのISは、どこか瞬光や槍陣にも似た雰囲気がある。

 いや、恐らくは同系なのだろう。装甲の形は瞬光だが、ウイングスラスターの形は黒鐡を意識しつつも槍陣に近い形をしていた。

 

「名を“橙風”と言う」

「橙風……」

「完全レクト社製オリジナルの第3世代型ISとして完成させたシャルロット君専用機。開発コンセプトは完全オールラウンダーの極みだ」

「完全オールラウンダーの極み?」

 

 内容はまだ秘密との事で、シャルロットが正式に日本代表候補生になり、橙風を受領する時に詳細スペックを説明してくれるらしい。

 

「あれが、僕の専用機……よし!」

 

 俄然、選抜試験のやる気が増してきた。今はまだ、こうしてガラス窓越しに見る事しか出来ないが、日本代表候補生になれば、あの機体がシャルロットの手に渡り、そして共に空を翔る事が出来るのだ。

 

 

 簪の方は最適化(フィッティング)が終わり、正式に受領が完了したという事で和人達は簪と合流してレクト社を出た。

 このまま真っ直ぐIS学園に戻ろうかとも思ったが、折角街まで出てきているので、ギルバートの店に顔を出すか、という話になり、四人は早速だがギルバートの店へ向かう。

 

「ん? よう、いらっしゃい」

 

 店に到着して中に入れば、カウンターでグラスを磨いていたギルバートが四人を出迎えてくれて、カウンター席に座ってそれぞれ注文をする。

 和人がウーロン茶、明日奈とシャルロットがアイスティー、簪はオレンジジュースだ。

 

「そういや、俺もプレイしてみたぜ? IB」

「お! どうだった?」

「ALOで飛ぶのとは訳が違うが……あれはあれで良いもんだったな」

 

 どうやらギルバートも早速一夏達が作ったVRMMOゲーム、IS~インフィニット・バースト~をプレイしたらしく、ISに乗るという事がどういうものなのかを体験したらしい。

 

「まぁ、確かにISは便利だけどな……やっぱ俺はALOで自分の手で斧握ってるのが性に合ってるようだ」

「まぁ、IBだとソードスキルは使えませんからねぇ」

「一夏はソードスキルをISで使うのは第3世代システムだからレクトの許可が要るって言ってたけど、その辺はどうなの?」

「今のCEOが今後の売れ行き次第って言ってたみたいだよー」

 

 彰三がALO事件解決の際にレクト社CEOの職を辞した後、その後釜となった人物は彰三を長年支えてきた人物なので、明日奈も信頼している。

 

「そういえば簪ちゃん、楯無ちゃんにはもう?」

「うん、昨日の内に約束は取り付けてある……明日、模擬戦をする事になった」

「そうか……俺も何度かアイツに訓練見てもらう過程で何度か模擬戦はしてるけど、操縦技術は流石のロシア国家代表ってだけあって抜群だったな。槍の腕前も相当高いし、蛇腹剣も体術も相当の腕前だった」

「僕も何度か見せて貰ったけど、あれは僕の切り札を使っても勝てそうになかったかなぁ」

 

 ALOでなら、和人でも楯無に勝つ事が出来るが、ISでの戦いとなると未だに勝てるとは思えない。勿論、和人が黒の剣士として、守る者を背負った時の本当の本気で戦えば勝てる可能性もあるだろうが、模擬戦では勝てる相手ではない。

 

「因みにわたしは一回だけ勝ったよー?」

「え、うそ……!?」

「本当にマグレだったけどねぇ。あの子がわたしのスピードにまだ完全に反応出来る前だったから、今だと流石に無理」

 

 だが、マグレだとしても一度は楯無に勝てたという明日奈に、簪は尊敬の眼差しを向けた。彼女から見れば完璧を絵に描いたような姉を、一度は下した明日奈という人物は簪にとって尊敬の対象なのだ。

 学園で、そしてALOで明日奈とは何度も話をして彼女の性格は理解しているから、姉に対する感情と同じものを持つ事は無い。

 いや、本来なら姉だって尊敬出来るはずだったのに、今の簪は姉への劣等感から楯無という人物を理解する事を放棄してしまっている。だから、姉を尊敬の対象で見れなくなってしまっているだけなのだろう。

 

「ねぇ、簪ちゃん……楯無ちゃんに勝つ為のアドバイスを二つしてあげる」

「アドバイス?」

「それはね? 絶対に止まらない事、これだけは必ず意識しておいて。それから、自分とISを信じる事」

「信じる……」

「簪ちゃんは今まで楯無ちゃんへの劣等感を抱えながら必死に努力してきたでしょ? 努力ってね、絶対に裏切らないものなの。無駄な努力なんてこの世に存在しない、人は努力した分だけ必ずどこかで報われる……簪ちゃんが幼い頃からずっと努力して練習してきた薙刀の腕、ずっと一人で作り上げようとしてきた打鉄弐式というパートナー、この二つを信じぬけば必ず応えてくれるよ」

「……」

 

 何故だろう、明日奈の言葉は今までの誰よりも、どんな言葉よりも信じられる気がした。努力は必ず報われる、絶対に裏切らない。その言葉を、簪は信じてみようと思った。

 

「やります……私、お姉ちゃんに私の全てをぶつけたい!」

「頑張れ、簪」

「頑張って! 僕も応援するから!」

「簪ちゃんの想い、きっと届くって信じてるからね」

 

 この日、簪の目の色が変わった。今までおどおどして、どこか儚げな、頼りなさ気な眼差しだったのに、その瞳の奥に確かな自信という名の炎が芽生えた。

 

 

 翌日、第3アリーナには専用機である霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)を纏った楯無と、同じく打鉄弐式を纏った簪が対峙していた。

 

「簪ちゃん、まずは専用機完成おめでとう」

「うん……」

「明日奈さんから聞いたわ……簪ちゃんは私に伝えたい想いが、ぶつけたい気持ちがあるって」

「そう……私は、お姉ちゃんが胸を張って自慢出来る妹になるって、この戦いで証明する」

 

 そんなことしなくても、昔から簪は楯無にとって胸を張って自慢出来る可愛い妹だと、口で言うだけなら簡単だ。だけど、そんな口だけの言葉で簪が納得しないというのも姉だからこそ理解している。

 だからこそ、楯無は右手に持ったランス……蒼流旋の穂先を簪に向けた。

 

「本気で来なさい。あなたが言う私が胸を張って自慢出来る妹の姿を、お姉ちゃんに見せて」

「……うん!」

 

 簪も超振動薙刀の夢現を構え、その切っ先を楯無に向ける。

 

【試合、開始】

 

 ランプが赤から青に変わった瞬間、楯無が素早く簪へ接近した。対する簪も冷静に薙刀でランスによる突刺を弾きながら石突を楯無の鳩尾目掛けて突き出す。

 楯無はそれを読んでいたのか、左手に即座に展開した蛇腹剣「ラスティー・ネイル」で斬り払いながら高圧水流を発生させて簪を巻き込んだ。

 

「くっ……! これで!!」

 

 水流に流されながらも簪は楯無へ視線を向けたままターゲットロック、山嵐による48発のミサイルを連続で発射させる。

 

「へぇ、良い判断ね……でも!」

 

 迫り来るミサイルの嵐に不敵な笑みを浮かべた楯無はラスティー・ネイルを格納して改めて蒼流旋を構えると、ミサイルを避けながらも蒼流旋に内臓されたガトリングで迎撃した。

 

「あら、ちょっと多いかしら? まぁ大丈夫よね」

 

 流石にガトリングだけでは対処し切れなかったのか、今度は全身を覆う水のヴェールを全方位に放射した楯無。

 全方位から迫っていたミサイルは攻性形態となって全方位に放出されたナノマシンの水によって全て迎撃されてしまう。

 

「ミストルテインの槍の応用だけど、上手くいくものね~」

 

 どうやら咄嗟に思い付いた方法らしいのだが、案外彼女は和人や一夏同様にその場の判断を躊躇い無く行うタイプのようだ。所謂、天才型と言えば良いのだが、これは楯無の自らのISへの信頼と、己の腕なら出来るという確信から来た行動なのだ。

 

「でも、今なら防御は疎かだよね?」

「っ!?」

 

 気がつけば、妹は楯無の頭上を取っていた。腰に展開した二門の荷電粒子砲「春雷」が連射され、強力な砲撃が楯無を襲う。

 

「くっうぅ……これは、流石に勘弁願いたいわ!」

 

 即座に水のヴェールを纏い直しながら、荷電粒子砲の連射を避け始めた楯無は最初の2~3発は受けてしまったものの、何とか体勢を整えた。

 

「それにしても、高速で動きながら荷電粒子砲の連射なんて、随分と思い切った事をするじゃない?」

「勝つ為……その為に考えた」

「そう……」

 

 だが、いくら連射型の荷電粒子砲とはいえ、何発も連射するわけにもいかないので、ようやく簪は攻撃を止めて再びミサイルを発射しながら迎撃する楯無へ一気に迫った。

 

「くっ! まさか、お姉ちゃんがここまで追い詰められるなんて、予想外よ!」

「うっ!? ま、まだ!」

 

 ミサイル全てを迎撃した上でランスで夢現を弾きながら回し蹴りを叩き込んで来た楯無に驚き、咄嗟に防御姿勢は取れたが、まともに吹き飛ばされてしまった。

 

「今度はこっちが行かせて貰うわ!!」

 

 蒼流旋の周りを螺旋状に回る水が簪へと放たれる。水の弾丸となって襲い掛かり、簪は避けられない物を斬ろうとしたのだが……。

 

「う、うそっ!? きゃあああ!?」

 

 斬った先から通常の弾丸が襲い掛かった。蒼流旋内臓のガトリングから放たれたのだろう。水の弾丸を放ちながらも、通常の弾丸も交える辺り流石と言わざるを得ない。

 

「そこよ!」

「ああああああ!!!」

 

 怯んでしまったのが致命的。その隙を逃さず瞬時加速(イグニッションブースト)で急接近してきた楯無の強力な突刺が命中して絶対防御が発動、そのまま壁に叩き付けられてしまった。

 

「終わりよ」

 

 直ぐに離れた楯無が指を一つ、パチン! と鳴らせば、簪が居る場所で大爆発が発生する。

 これが楯無の切り札の一つ、ナノマシンによって制御された水を霧状にして散布し、対象物の周囲で一気に気化させ水蒸気爆発を起こす清き情熱(クリア・パッション)だ。

 

「ふぅ……簪ちゃん、前に言ったわよね? あなたは何もしなくて良いって。あれは、あなたは何もしなくても私にとって可愛い妹だから、私があなたを守るから何もしなくて良いって意味だったのよ」

 

 煙の中に居るであろう簪に声を掛ける楯無だが、返事が無い事から気絶でもしているのかと少し心配してしまった。

 だが、その心配は無用というもの。何故なら煙が晴れたとき、楯無の目に飛び込んできたのは清き情熱(クリア・パッション)によるダメージを一切負っていない簪の姿と、その周囲に漂う板状のパーツらしき物体が簪を包むように防護フィールドを発生させている光景だったのだから。

 

「攻防一体式複合兵装……ヘカトンケイル。その防御形態のブリアレオースが発生するフィールドが間に合わなければ負けてた」

「ヘカトン、ケイル……? 何よそれ! 倉持で開発してた時はそんな武装は……」

「当然。だってこれ、レクト社で作った武装だもん」

「レクトの……!?」

 

 清き情熱(クリア・パッション)は楯無が信頼を置く切り札であり、並の相手であれば今の一撃で倒せるだけの威力がある。それを防ぎきるとは、なるほど防御能力は相当高いと見える。

 

「因みに、この防御形態は第二形態……第一形態飛ばしてしまうけど、第三形態も見せてあげる」

 

 簪がそう言うと、防護フィールドが消失して7つあるヘカトンケイルのパーツの内、6つが打鉄弐式の非固定浮遊部位(アンロックユニット)に接続され、最後の一つが背中の装甲に接続された。

 

「ヘカトンケイル機動形態、ギューゲース……行きます」

 

 その瞬間、楯無の目の前から簪の姿が消えた。

 

「っ!? ど、どこに……!」

「ここ」

「っ! きゃあ!?」

 

 初動が速過ぎて簪を見失った楯無は真横から聞こえた簪の声に反応した時には既に夢現による斬撃を受けてしまっていた。

 

「くぅっ! この!!」

「っ!」

 

 だが、接近さえしてくれればこっちのもの。楯無が真下から振り上げた蒼流旋の穂先がギリギリで避けようとした簪の胸の装甲を掠る。

 

「逃がさないわ!」

「たたみ掛ける!」

 

 夢現と蒼流旋が何度もぶつかり、火花を散らす。互いに高速機動で動きながら刃を交えているので、ヘカトンケイルによるスタスター増設の恩恵で機動力の増した簪が若干押しているように見える。

 しかし、実際は楯無の方が押しているのだ。機動力で負けていようと、近接戦闘技術は楯無が勝っているのだから。

 

「まだ、頑張るつもり!?」

「頑張る……! だって、私は私が納得する形でお姉ちゃんの自慢になりたいから! お姉ちゃん一人で納得しないで! 私にだって、お姉ちゃんの妹としてのプライドがあるんだから!!」

「っ!?」

 

 夢現による薙ぎ払いが蒼流旋を弾いた。

 

「お姉ちゃんが私を自慢の妹だって言ってくれるのは、嬉しい……でも、それじゃ私が納得しない! 私は、更識刀奈という立派過ぎる人の妹の名に恥じない私になりたい!! だって姉妹だよ!? お姉ちゃん一人で頑張らないでよ!! 私だって、自慢のお姉ちゃんの妹として恥ずかしくない妹になる努力を、一緒にしたいよ!!」

「簪ちゃん……っ!」

 

 涙を流しながら訴える妹の姿に、いつの間にか楯無の目からも涙が零れた。

 ああ、自分はなんて愚かな事をしていたんだろうか。妹は、こんな自分を自慢だと言ってくれて、そしてその妹として恥ずかしくない妹になる努力をしているたのだ。なのに、自分はあの時に何と言った? 頑張る必要は無い? ふざけるな。

 

「明日奈さんが、言ってた」

「え……?」

「お姉ちゃんは、不器用だって」

「……そう、だね」

「私のこと、凄く大事にしてくれてるけど、不器用だから時々色々と間違えちゃうって」

「うん……お姉ちゃん、簪ちゃんに掛ける言葉を、あの時に間違えちゃったんだね」

「間違ったなら、正せば良い……人は、間違いから学んで、正せる力がある」

 

 すると、ヘカトンケイルが分離して夢現を包み込む様にドッキングを開始した。夢現を核に7つのパーツ全てが一つの形へと繋ぎ合わされ、現れたのは一本の巨大な剣。

 

「ヘカトンケイル武装形態、コットス……これが、最後の一撃。これで、私は今までの自分を脱ぎ捨てる」

「そうね、お姉ちゃんも今までの自分を、一新しなきゃ」

 

 楯無の蒼流旋にも変化が起きた。先ず楯無の全身を覆っていた水のヴェールが全て蒼流旋へと集まり、その制御しているナノマシン全てが攻性形成を成す。

 

「行くわよ」

「負けないよ」

 

 刃の部分にレーザー刃を展開した巨大な剣と膨大な量の水を纏ったランスが、そのエネルギーを臨界まで高め、その正反対に姉妹の心は一気に落ち着いていく。

 

「はぁあああああああ!!!!」

「てぇえああああああ!!!!」

 

 同時に動いた二人は、全く同じタイミングで剣とランスを振るう。

 

「ミストルテインの槍、発動ーーーーっ!!!!」

「フルンテイングの剣、発動ーーーーっ!!!!」

 

 直後、二人を中心に大爆発が発生し、その姿は煙の中へと消えていった。

 

 

 星空の美しい夜、楯無は一人で寮の屋上へと来ていた。屋上の柵へ背中を預けて夜空を見上げながら、今日の妹との模擬戦を思い返しているのだ。

 

「楯無ちゃん」

「……明日奈さん?」

 

 ふと聞き覚えのある声で呼ばれて視線を向けてみれば、屋上との出入り口から明日奈が歩み寄って来きたのに気づいた。

 明日奈は両手に持った二本の缶ジュースの内一本を楯無に手渡すと、楯無の横に立って同じ様に柵に背中を預けてジュースのプルタブを開ける。

 

「簪ちゃんに、勝ったんだって?」

「……はい」

「簪ちゃん、次は勝つって張り切ってたよー」

「そう、ですか……」

 

 ふわふわとした笑顔を見せる明日奈に対し、楯無の表情は何処か優れない。それも当然だろうか、昔の簪に掛けた言葉が如何に妹を傷つけたのかを、改めて思い返していたのだから。

 

「ねぇ、楯無ちゃん」

「?」

「楯無ちゃんは、もう少し肩の力を抜いた方が良いと思うよ?」

「え……?」

「まだ17歳の女の子なんだから、四六時中肩肘張ってたら大切な何かを見失っちゃうよ」

 

 その結果が、今までの簪との擦れ違い、なのだろう。だが、楯無の立場がそれを許さないのも事実だ。

 

「わ、私は、更識家の当主になった日から、肩の力を抜く暇なんて……」

「当主だから、17歳の子供であろうと肩の力を抜くのは許さない?」

「……」

 

 いや、そんな事はない。ただ、楯無が自分でそう決めただけであり、両親はいつでも頼れと、疲れたのなら言ってくれと、そう語りかけてくれている。

 

「楯無ちゃんは、責任感が強すぎるんだと思うなー。それで、周囲に気を配りすぎて逆に身近なモノに目が向かなくなる……ううん、向ける余裕が無くなるのかな? 楯無ちゃん、不器用だから」

「私が、不器用……簪ちゃんにも言われましたけど、そんなに解りやすかったですか?」

「うん、隠してるみたいだけど、すっごく不器用だなぁって思った所が結構あるよ。まぁ、流石姉妹と言うべきなのか、簪ちゃんにも不器用なところがあるけどねー」

 

 そうなのかもしれない。いや、その通りなのだろう。不器用だからこそ、あの時、簪に投げ掛ける言葉を間違え、そして今までも上手く接する事が出来なくなってしまっていたのだ。それも、姉妹揃って。

 

「っ!」

 

 すると、楯無は頭に温かな感触がしたのに気づいた。見れば、明日奈が優しい笑みを浮かべながら楯無の頭を撫でているではないか。

 

「ユイちゃんがね、こうすると凄く喜ぶの」

「私、ユイちゃんじゃないですよ?」

「うん、でも落ち着くでしょ?」

「……はい」

 

 ずっと、更識家の人間として、当主として、姉として生きてきた楯無は、幼い頃なら両親に頭を撫でられた事はあれど、この歳になって誰かに頭を撫でてもらうなんて経験は無い。

 考えてみれば、学年こそ楯無の方が上だが、年齢で言えば明日奈は楯無の一つ上なのだ。

 

「大丈夫、楯無ちゃんが肩の力を抜いても、今度は簪ちゃんが支えてくれる。虚ちゃんが、本音ちゃんが、支えてくれる……楯無ちゃん一人が頑張る必要は無いんだよ?」

「……っ」

「それに、もし弱音を吐きたくなったら、私が聞いてあげる……これでも、楯無ちゃんよりお姉さんですから!」

 

 ああ、何となく妹が明日奈を慕う理由が判った気がする。こんなにも温かくて、優しい人を、慕うなという方が無理だ。

 だって、今……楯無もまた、明日奈という姉のような人の胸を借りて、更識刀奈という一人の少女として涙を流しているのだから。




IS学園2学期がついに始まった。
もう直ぐ迎えるIS学園学園祭の出し物を決める話し合い。
そして新たな仲間との出会いと、天災の赴任が新風を巻き起こす。
次回、SAO帰還者のIS。
「クロエ・クロニクル」
二人の銀の少女が、合い間見える。


あ、ヘカトンケイルですが、イメージはナイトウィザードに登場する志宝エリスのアイン・ソフ・オウルです。
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