SAO帰還者のIS
第七十話
「亡国の蜘蛛」
楯無達と別れた一夏と百合子は早速だが巻紙礼子を探して校内を歩き回っていた。
恐らく二人揃っていては見つかっても話しかけて来る事は無いだろうから、発見したら自然と相手にこちらへ気づいて貰い、そのタイミングで別行動するフリをする事になっている。
「居た。ナツ、あそこ」
「ん、写真の通りだな……じゃあ、自然と向こうの視界を横切る感じで行くぞ」
探し出して30分ほどで巻紙礼子を発見し、二人は腕を組んで歩いたままなるべく自然に巻紙礼子の視界を横切り廊下を歩く。
向こうも一夏の姿を確認してからは堂々と、それでいて周囲の出し物をキョロキョロ見渡しながら付いて来ているので、作戦の第一段階は完了だ。
「ナツ、ちょっとお手洗いに行ってくる」
「ん? わかった。じゃあ、そこの掲示板の前で待ってるから、早くな」
「うん」
自然な流れで百合子が近くの女子トイレに入ると、白式と槍陣のプライベートチャネルの起動、周辺音声録音モードに設定する。
そこで漸く一人になった一夏に巻紙礼子は急接近してきて、ごく自然な笑みを浮かべながら一夏の前に立った。
「あの、織斑一夏さんですよね?」
「はい?」
「私、IS武装開発を専門に扱っているミツルギという会社の営業担当をしています、巻紙礼子と申します」
差し出された名刺は偽物であろう。だが本物の名詞と見紛う程の完成度の名刺だった。
「ミツルギって確か近接戦闘系の武装を主に扱っている会社でしたっけ?」
「あら、ご存知でしたか?」
「まぁ、俺自身が近接戦闘タイプなんでそれなりに調べてますから」
「それでしたら是非、一度我が社の商品を使ってみませんか? こちら、カタログになるのですが」
カタログは本物だ。このカタログは一度職員室で見た事があるので間違いない。
「織斑さんは近接戦闘がお得意という事ですし、こちらの脚部に仕込むタイプのブレードなんかがオススメですね」
「へぇ、蹴り上げる時にブレードを展開して避けようとした相手の意表を突くタイプの武器か……面白いな」
「他にも同タイプの武装で腕部へ仕込むタイプもございます」
どうしよう、レクトには悪いが本気で面白そうな武装があったりするので困ってしまった。
やはり根っからの剣士、近接戦闘タイプの人間というだけあり、こういった近接戦闘用の面白い武装には心惹かれてしまう。
『ナツ……』
『わ、わるい』
プライベートチャネルで百合子に叱られてしまったので興奮しかけていた気持ちを抑えて本来の目的に移る事にした。
「あの、ミツルギって完全に近接戦闘用の武装しか無いですかね?」
「と、申しますと?」
「いえね? 実は俺の専用機に銃火器系の武装を搭載しようかって検討していて、それで色々な会社の銃火器武装を調べてるんですが、ミツルギはまだ調べてなかったんですよ」
「銃火器ですか……そうですねぇ。それでしたらこういうのもありますよ?」
巻紙礼子がカタログのページを捲ると、そこにあったのは所謂ガンブレードと呼ばれる武装と、銃剣と呼ばれる武装だ。
「ガンブレードは近接戦闘用と思われがちですが、一応は中距離でも戦える武装ですし、銃剣は基本銃として扱い、接近してきた相手には装着している剣で迎撃する事が可能となっています。当社のガンブレードはリボルバータイプなので装弾数は6発、銃剣ですとオートマチックタイプなので30発となっていますね」
本気で、欲しいと思ってしまったが、グッと堪えて悩むフリをする一夏。今度、レクトに頼んだ銃火器が搬入されてくるのを待つのだと自分に言い聞かせる。
「ちょっと、考えさせて貰って良いですか? まだ即決って訳にもいかないんで」
「ええ、よろしければカタログは差し上げますので、お考えください。本日は私も最後まで見学して行く予定ですので、もし考えが決まったのでしたら探して頂ければ」
「わかりました。それじゃあ、これで」
「はい、それでは」
一礼して去っていく巻紙礼子を見送り、一夏は女子トイレから出てきた百合子と合流。そして通信端末で楯無に連絡を入れる。
巻紙礼子と接触して、後ほど再接触する事になるであろうと説明すると、楯無の方でもそれに合わせて計画を練るとのことだ。
『そんな訳で、こっちの計画に一夏君を組み込むから、動いてほしい時には分かりやすい形で通達を出すから、合流をお願いね?』
「了解です。それまでは自由にしていても?」
『ええ、その辺は任せるわ。百合子ちゃんも、なるべく一夏君と一緒に動いてね』
「わかりました」
作戦の第一段階は終了した。第二段階に移るまでの束の間の休息を楽しむため、二人は学園祭の出し物を見て回る事に。
そこには戦士としての顔ではなく、年頃の恋人同士の姿があったそうな。
一夏達と別れてからの和人と明日奈は休憩時間終了まで他の出し物を見て周り、その後は教室に戻ってクラスの喫茶店の仕事に戻っていた。
いつ襲撃があっても対応出来るように常に気を張っているが、それを周囲に悟られず表面上は普段通りにクラスメートと接し、来場したお客さんに接客している。
「ふぅ……とりあえずピークは過ぎたな」
少し忙しかったのも何とか片付き、バックヤードに入って椅子に座った和人が一息吐いていると、目の前にティーカップに入った紅茶が差し出された。
見れば、もう片方の手にも同じくティーカップに入った紅茶を持つ明日奈が微笑みを浮かべている姿がある。
「お疲れ様、キリト君」
「ああ、明日奈も急にホール頼まれて疲れただろ」
「うーん、ちょっとだけ、かなぁ」
明日奈から受け取った紅茶を飲みながら和人はホールの視線を向けた。
お昼のピークを過ぎてようやく落ち着きを取り戻したので、現在はそれほど忙しくないようで、ホールに出ているクラスメート達も何人かは談笑したりしているのが見える。
「ユイ、どうだった?」
明日奈が隣に腰掛けたところで和人は愛娘を呼んだ。実はユイに学園の監視システムへ侵入してもらって不審者の動向を探らせていたのだ。
『はい! どうやら二グループに分かれて纏まっているみたいですね。片方はナツお兄さんやユリコお姉さんの居る講堂側の方へ。もう片方は校舎の方に集まっています』
最近のお気に入りらしい明日奈と同じ髪型にして、メイド服を着たユイが立体映像となって現れ、調査報告をしてくれる。
人数としては一夏達の所に三人、和人たちの所に三人、これが恐らくメインの実働部隊で、他に数名補佐的な人材が紛れているらしい。
「14~5人って所かな?」
『そんなところでしょうか。ただ、こちらは数が多いとは言えど専用機持ちも多く居ますから、対処は
「……いや、恐らく来てる。あの背筋の凍るような殺気は、奴らに間違いない」
随分前から、学園内の何処からか感じられる冷たい気配、これが奴らじゃなければ何だと言うのか。
「アスナ、セシリア達には?」
「警戒しておくように伝えてあるよ。シャルちゃんには万が一のときの為に生徒達の避難誘導を頼んであるし、鈴ちゃんにはクロエちゃんの事を頼んであるから」
「となると、こっちで戦えるのは俺とアスナとセシリア、簪、箒の5人か……ラウラは?」
「ラウラちゃんは白兵戦が必要になった時に対処をお願いしてるよ。元軍人だし、非常時に白兵戦する分には戦力として申し分ないから」
ならば、後は招かれざる客を待つだけだ。気合を入れ直した二人は、休憩を終えてホールに出たのだが……最悪は、すぐ目の前にあった。
「やあ、キリト君、明日奈さん、お久しぶりですねぇ」
「須郷……っ!?」
「須郷さんっ!?」
平然と、爽やかな笑みを浮かべながら客としてコーヒーを飲んでいる青年、須郷伸之。因縁と、ついに巡り合う事となった。
講堂では現在、生徒会主催の出し物である演劇が行われていて、一夏と百合子はその手伝いという名目で裏方の手伝いをしていた。
そして、一夏が一人で倉庫から荷物を持ってくる為に移動していた時、ついに亡国の影が動きを見せる。
「こんにちは織斑さん、今お時間……よろしいですか?」
「……ええ、まだこの荷物をステージまで持っていくには時間に余裕あるんで、大丈夫ですよ」
「では、ちょっとこちらへ」
そう言って、巻紙礼子が案内したのは更衣室だった。今の時間は使う者が居ないので、薄暗くなっているこの場所を選んだということは……仕掛けてくるらしい。
「それで、お話って何ですか?」
「はい。実は、是非ともあなたの持つ白式を頂きたく思いまして」
「……やっぱりな。そんな事だろうと思ったぜ
いつの間にか、一夏の手にはブローニング・ハイパワーと呼ばれる銃が握られており、その銃口は巻紙礼子へ向けられ、驚く彼女に向かって引き金を引いた。
「チッ!」
一瞬の出来事だった。一夏が引き金を引くのと同時に、巻紙礼子は光に包まれ、アメリカ製の第2世代型ISアラクネを纏って銃弾を弾き返したのだ。
「テメェ、いつから気づいてやがった!?」
「んなもん、最初からに決まってるだろ。もう少し素人に成り切る練習くらいしとけよ、おばさん」
「おばっ!? 俺はおばさんなんて歳じゃねぇ! 頭に来たぜ、テメェはこのオータム様が直々にぶっ殺して白式はその後に頂いてやる!!」
「やれるもんなら、やってみろ!!」
一夏も白式を展開し、トワイライトフィニッシャーの切っ先を巻紙礼子改めオータムに向ける。
生憎この狭い空間では展開装甲は使えないし、リベレイターⅡも邪魔になってしまうので出していないが、長いこと剣一本で戦ってきたのだ。盾が使えないから、翼が使えないから戦えないなどという事は、ありえない。
「来いよ
祭りは終わりを告げ、戦いが始まった。
白と無限と水の乙女に襲い掛かるは蜘蛛と運命と毒。
黒と閃光達を襲うは蝶と棺桶と泥棒の王。
戦士達が戦う中、蒼き雫の少女が進化へと一歩足を踏み出そうとしていた。
次回、SAO帰還者のIS「
ノブレス・オブリージュを掲げし少女の、新たな始まり。