SAO帰還者のIS
第七十七話
「白と無限の愛娘」
薬で眠っていた少女が漸く目を覚ました。
ゆっくりと瞼を開けたKの視界に最初に飛び込んできたのは真っ白な天井と、それから憎しみを抱いていた殺害対象である一夏と、その恋人だという百合子の姿だ。
「おり、む、ら……一夏! っ!?」
飛び掛ろうとしたが、身体が拘束されて身動きが取れない事に気づいて悔しそうに俯く。だが、ふと自分の左手が温かい何かに包まれている事に気づいてそちらに目を向けてみれば、一夏と百合子の手に、己の左手が包み込まれているではないか。
「何を……しているのです?」
「あ、これの事か? そうだな……特に意味は無いよ。それより、君は今の状況を理解出来ているかな?」
「あなたに負けて、拘束されている……尋問担当はあなたですか? 織斑一夏」
「いや、そういうわけじゃないけど……そうだな、ひとつだけ。君の名前を聞かせてくれるか?」
「コードネームではなく、ですか?」
「ああ」
「……K-075」
やはり、この少女には名前なんて存在しなかったようだ。コードネームであるK以外にこの少女を指し示すのは今少女が口にしたK-075という型番号だけ。
「そっか、ありがとう……それじゃあ、悪いけどこれから君には付いてきて貰わないといけないんだ。良いかな?」
「文句を言う理由はありません。私は、捕虜です」
「んじゃあ」
規則なのでまだ拘束を外す事が出来ないので、一夏はKをお姫様抱っこという形で抱き上げた
。
「っ! な、何を……?」
「いや、拘束が足まであるから歩けないだろ? だからこのまま連れて行くよ」
「そ、それは……ん」
何か言おうとしたKだったが、抱き上げられる事で密着して感じられる温もりに気づいて、何故か何も言えなくなってしまった。
「じゃあ、ユリコ」
「うん、先生には連絡入れたから、早速来てくれって」
「わかった」
Kを抱き上げた一夏と百合子が向かった先は生徒会室だ。そこには既に千冬と束、それから楯無が待っていて、生徒会室に入ってきた三人を向かい側のソファーに座らせた。
丁度、Kは一夏と百合子に挟まれる形で座り、その向かいのソファーに千冬たちが座っている状態だ。
「いや~、こうして見ると、ホントそっくりだねぇ」
束が改めてKの顔をまじまじ見つめて、自分と、それから一夏と似ている点を見つけて関心している中、早速だが尋問が始まった。
「まず名前を聞かせて貰えるかしら?」
「K-075」
「そう……それじゃあ、コードネームのKで呼ばせて貰うわね?」
「どうぞ」
「じゃあK、まず聞きたいのは、何故一夏君と束博士を殺そうとしているのかしら?」
Kが語った理由は前と同じ、一夏と束がKを生まれて直ぐに捨てたからというものだ。だが、真実を知った今となっては、それが何を意味するのか容易に察する事が出来る。
『一夏君……この子に、真実を教えるべきだと思う?』
『いえ、まだ早いんじゃないかなって思って……だから、少し誤魔化しながら話そうかと』
Kは、何も教えられてないのだ。己が作られた存在……一夏と束の合成クローンであるという事を。それ故に、組織から一夏と束の間に生まれた直後に捨てられたと教え込まれ、教育された。ある意味で洗脳を受けたのだ。
「なぁ、K……俺と束さんは、お前を捨てたんじゃない」
「そう、聞かされた」
「それは、あくまで組織の意見だろ? 俺たちにとっては、お前は誘拐された存在なんだ」
「誘拐……?」
「ああ、お前は生まれて直ぐに誘拐されたんだよ」
まだ幼いKに、真実を教えるのは酷というもの。だから、今はあえて真実を教えず、都合の良い言葉で誤魔化し、何とか組織から引き離す事を優先する事にした。
もうこれ以上、こんな幼い少女がテロリストとして活動するのを容認するわけにはいかない。
「でも、スカイが嘘を言うわけ……」
「スカイってのは、組織の人間かしら? はっきり言ってあげるわ、テロ組織はあくまで犯罪組織、そこにいる人間はみな犯罪者、犯罪者の言う言葉はほとんどが虚言よ」
「虚言……嘘?」
「ええ」
自分たちも嘘を言っているのだが、少女の為の嘘だと割り切って話す楯無を尊敬してしまう。流石は暗部組織の人間というべきか。
「じゃあ、織斑一夏は……敵じゃなくて、パパ?」
「ああ」
「篠ノ之束も……ママ?」
「あ~……」
そればっかりは、流石に困ってしまう。確かに遺伝子上の関係で言えば間違いではないのかもしれないが、実際の人間関係的に言えばそれを認めてしまうと一夏に血の雨が降る事になるのだ。
「束さんは、確かに血縁上ではママかもしれないけど……パパが結婚してるのは、このユリコなんだ。だから、もし君がパパと一緒が良いと思うなら、ユリコがママだし。束さんと一緒が良いと思うなら、束さんがママだ」
その場合、一夏もパパは名乗るがKと一緒に居る事は出来ない。束の下へ預ける事になってしまう。
「ん……じゃあ、百合子……ママ?」
「うん」
「篠ノ之束は……束ママ」
「えっと、良いのかな……ゆりりん?」
「私も、ママですから……良いです」
結局、Kは一夏をパパ、百合子をママ、束を束ママと呼ぶ事で落ち着いた。後は、Kの名前を決めるのと、それからKが知る限りの
「名前か……一夏、決めているのか?」
「ああ、この子が名乗ったK-075って番号を聞いてから、ずっと考えて、ようやく決めた名前がある」
一夏はKを抱き上げて膝の上に向かい合わせで座らせると、真っ直ぐ同じ色の瞳を見つめる。
「夏奈子、織斑夏奈子……それが、今日この瞬間から、君の名前だ」
「私の、なまえ……?」
「ああ、俺と、ユリコの娘、織斑夏奈子だ」
まだまだ父親、母親になりたての未熟な両親かもしれない。だけど、こうして名前を付けて、親になると決めたからには、全力で愛情を注ごう。
一夏と百合子はきょとんとしているK改め、夏奈子の頭を撫でて、そっと抱きしめて、父親と母親の温もりを教える。
「それじゃあ、かなちゃんの戸籍偽造は束さんにお任せだよ!」
「良いんですか?」
「もちだよいっくん! 取りあえずいっくんの義理の娘って事で戸籍作っておくね~」
養子申請を正規の手続きで行う場合、一夏では夏奈子の養親にはなれないが、戸籍を束が作成するのであれば問題は無い。
正直、事情が事情なので正規のルートで手続きが出来ない以上、束か楯無の力が必要だったので、色々と無茶が通るのだ。
「さて、と……それじゃあ、最後にK……いえ、夏奈子ちゃんね。夏奈子ちゃんに聞きたいのは、
なるべく聞き出したいのは首領の正体や幹部の人数に名前、構成員や本拠地などについてだが……。
「首領の名前は、知らない……コードネームはスカイ」
「スカイ、さっき出た名前ね……そう、首領だったんだ」
「本拠地は、わからない……思い出せない」
「思い出せないだと? おい、束……もしや」
「暗示、だろうねぇ」
構成員には予め暗示が掛けられていたのだろう。敵の捕虜になった時の為に、一度本拠地から離れたら、幹部の人間と共に戻るまで本拠地の場所を思い出せなくする為のものが。
だが、本拠地以外のことであれば、だいぶ聞き出せた。幹部の人数や、夏奈子が知る限りの幹部のコードネーム、それに夏奈子の直属の上司についても。
「スコール・ミューゼルねぇ……名前からして、アメリカ人辺りかしら?」
一先ず、夏奈子の話で判明したのは、夏奈子が所属していたチームのリーダーが幹部の一人であるスコール・ミューゼルという女性で、その下には夏奈子の他にオータム、M、Poh、ザザ、ジョニー・ブラックが居るという事。
それから、あの須郷もまた、
「んぅ……」
「ん? 夏奈子……眠いのか?」
「疲れた……パパ」
「喋り疲れたんだね……夏奈子、ママのお膝を枕にする?」
「ん……」
夏奈子が一夏の膝から降りてソファーに座りなおすと、そのまま横になって頭を百合子の膝の上に乗せた。
一夏が制服の上着を脱いで夏奈子に掛けてあげると、そのまま夏奈子は目を閉じて上着に包まりながら頭を百合子の膝に擦り付けるようにして眠ってしまう。
「今日は、この辺にしましょう。こんな小さな子に長い時間尋問するのも可愛そうだし」
「では、私は今日の話を報告書に纏めなければならん。先に失礼する」
「束さんもかなちゃんの戸籍作るから先に戻るね~!」
千冬と束が生徒会室から出て行き、一夏と百合子、楯無、それから寝ている夏奈子の4人が残された。
「一夏君、百合子ちゃん……強くなりなさい。今よりもっと、もっと。今日から、二人は命を掛けて守らないといけない存在が出来たんだから」
「「はい」」
いつの間にか、百合子の手を握り閉めながら寝ている夏奈子に目を向けると、可愛らしい寝顔で小さな寝息を立てる姿がそこにあった。守らなければならない、一夏と百合子にしか守れないものが……。
実は、スランプまだ続いてるみたいです。
戦闘シーン以外が全然進まなくなってしまって……どうなるのか。