出張で岡山に来てます。
SAO帰還者のIS
第八十二話
「キャノンボール・ファスト」
ついにキャノンボール・ファストの大会当日となった。
この日まで、出場予定の生徒は高速飛行に慣れる為の訓練を、整備科及び開発科の生徒は高速機動仕様の調整を只管続け、学んできたので、その結果が今日ようやく発揮される。
レース自体は1年生、2年生、3年生の順番に行われ、その後に1年生専用機持ちによるレースが開催される事になっていた。
これは今年の1年生の専用機持ちの数が例年より多い事から急遽用意されたプログラムであり、今年のキャノンボール・ファストのメインイベントと言っても過言ではないだろう。
「お~、流石楯無さんだなぁ」
自分たちの出番までまだ少しあるという事で一夏は夏奈子と百合子の三人で観客席に来ていた。
今行われているプログラムは二年生の部、二年生の専用機持ちであるギリシャ代表候補生フォルテ・サファイアと、専用機持ちではないがイギリスの代表候補生であるサラ・ウェルキン、そしてロシア国家代表である楯無が表彰台を独占するのは間違い無いと予想されているが、その通りだった。
現在、二年生の部のレースではトップを楯無が独走して、その後ろでサラとフォルテが2位3位争いをしている。
「フォルテ先輩の機体……コールド・ブラッド? どういう機体なのかな?」
「ん? 何でも中近距離に対応した機体らしいぞ。冷気を操る機能が第3世代武装になるらしい。それで氷の壁を作ったり氷の槍を降らせたり」
顔を見たことはあっても、会って話した事も無い先輩の専用機の情報など詳しく知るはずも無い。
因みにもう一人の知らない先輩であるサラに関してはセシリアのイギリスでの先輩という事で話には聞いた事がある。BT適正がセシリアと同レベルにあれば間違いなく彼女がブルー・ティアーズの操縦者になって、セシリアがサイレント・ゼフィルスの操縦者になっていたであろうという話だ。
だが、サラのBT適正は残念ながら低かったため、彼女には第三世代の専用機が与えられなかった。
「にしても、てっきりサラ先輩は訓練機のメイルシュトロームを使うのかと思ったけど、リヴァイヴなんだな」
「多分、汎用性を重視した」
「なのかね?」
メイルシュトロームはイギリスの第二世代機だ。ブルー・ティアーズやサイレント・ゼフィルスの原型となっているので、当然だが射撃主体の機体となっている。
「テンペスタ使ってる生徒もいるけど、やっぱ近接格闘戦重視の高速機動型のテンペスタだからって、トップになれるわけじゃないってことか」
テンペスタは正直、第二世代の中では強すぎる。何せ元々テンペスタが開発されたばかりの頃の、まだ量産される前のテンペスタの操縦をしていたのはイタリアの国家代表で、千冬が辞退した第2回モンド・グロッソ決勝戦の対戦相手でもあったのだ。
世界でも数少ない
「そういえば、夏奈子もテンペスタに乗ってたね」
「ん? うん」
一夏の膝の上に座ってリンゴジュースをちびちび飲んでいた夏奈子が、以前まで乗っていたテンペスタの事を思い出して百合子を見上げながらこくりと頷いた。
あのテンペスタは学園に回収された後、そのまま解体されて調査をしている。その後は再度組み立ててイタリアへ返却される予定になっているのだ。
「テンペスタって使い心地はどうなの?」
「ん……速い、動きがスムーズ」
聞いた話では白式が暮桜と打鉄をベースにした機体だという話だが、話を聞く限りだとコンセプトがテンペスタに近い気がする。
暮桜は高速機動近接戦闘型だが、打鉄は高速機動型ではない。だが、テンペスタは高速機動近接格闘戦型という事で白式はそれに近いのだ。
「さて、そろそろスタート控えの所に行かないとだな」
「うん」
「パパ、ママ……もう行くの?」
夏奈子を抱っこしたまま立ち上がった一夏と、それに寄り添う百合子を夏奈子が見上げて不安そうな顔をした。
幼いなりに、彼女も一夏達が感じている不安を感じ取っているらしい。もしかしたら、
「夏奈子は千冬伯母さんと束ママの所で待っていてくれ」
「ん」
「管制室でパパとママのレース、見ててね」
「うん」
千冬と束は管制室に居るので、夏奈子を預ける上では一番安全な所と言える。世界最強と世界最強よりも強い天災に守られる。これほど安心出来る事は無いだろう。
キャノンボール・ファスト三年生の部が三年生の専用機持ちであるアメリカ代表候補生ダリル・ケイシーの優勝で終了し、ついにメインイベントである一年生専用機持ちの部が始まろうとしていた。
既にスタート位置にて並んでいるのはスラスター及びエネルギー調整をした白式・聖月の一夏と紅椿の箒、打鉄弐式の簪、それから高速機動用パッケージを装備したブルー・ティアーズ・アンダインのセシリアと甲龍の鈴音、黒鐡の和人、瞬光の明日奈、槍陣の百合子の、合計8人だ。
「キリトさん、今日はユイちゃんは?」
「ユイなら束さんに預けてあるよ。束さんがユイ用に作った携帯端末があるんだけど、そっちに移ってる」
「へぇ」
さて、そろそろ時間だ。スタートラインに全員が並び、カウントランプが点灯する。
全員、スラスターとPICを起動して一気にスタートダッシュを決めるために集中し、ランプが一つずつ消えていくのを見つめた。
そして、最後の赤ランプが消えて青いランプが点灯した瞬間、一斉に飛び出す。
「お先ですわ!」
「一気に行くわよ!!」
「負けないよ!」
最初のスタートダッシュを決めたのはセシリアと鈴音、それから明日奈の三人だった。セシリアがトップに立ち、その後ろを鈴音と明日奈が並んで、その後方には箒と和人が、そして最後尾には一夏と簪、百合子が並んでいる。
「お行きなさい! アンダイン! ディープブルー!」
トップに出ているセシリアが速度を落とすのを覚悟でBT兵器を射出し、後方の鈴音と明日奈にレーザーと突撃刃を向けた。
明日奈は持ち前の瞬発力で飛んでくるレーザーを避けながらランベントライトで突撃してくるディープブルーを弾き、鈴音は衝撃砲で迎え撃つ。
しかし、それが仇となったのか、三人の横を和人と箒が追い抜き、トップは和人と箒のバトルに突入した。
「このパッケージ、中々良いな……」
「くっ、こんなに速いのか!」
現在、和人と、それから明日奈、百合子が装備しているパッケージはレクトが開発した高速機動パッケージの閃空と呼ばれる装備だ。
その性能はスラスター及びブースターの増設だけではなく、ソードスキルの威力を下げる代わりに、その分のエネルギーをスラスター出力へ回す事が出来るという、速度を上げる事にのみ特化したパッケージなのだ。
「一夏、そろそろ行く」
「ん? 簪もか」
「そっちも?」
「おう、俺も百合子もそろそろ温まってきたからな」
「二人とも、負けないから」
「私、も……! 行こう、弐式!! ヘカトンケイル起動、モード“ギューゲース”!!」
「槍陣、閃空最大出力!!」
「行くぜ白式! 展開装甲起動、最大出力だ!!」
打鉄弐式がヘカトンケイルを
同時に、槍陣もブースター出力を最大まで上げて速度を上げ、白式も全身の展開装甲を開いて青い余剰エネルギーを放出しながら最大速度まで一気に高めた。
「まずはセシリア達を抜くぜ! 白式!!」
一夏は両手に今までとは違う武装を展開する。それは剣を使い続けてきた一夏のイメージを大きく覆す新たな武装。
「なっ!? 一夏が銃!?」
「なんですって!?」
白式の両手に現れたのはIS用の拳銃だった。それも、サイズをISサイズにしただけの銃に詳しい者なら一目で分かる銃だ。
「あれは、ブローニングハイパワーとコルト・ガバメントですわ!」
「ナツ君、GGOで覚えたんだ……」
IS用の拳銃、ブローニングハイパワーDAカスタム、コルト・ガバメントカスタム。白式の新たな武装として追加された白式の中遠距離用武装だ。
「さぁて! 銃はリアルで撃つのが初めてだから流れ弾注意だぜ!!」
前方に出ていたセシリア達に向けて引き金を引きつつ、それを迎撃または回避しようとしているのを尻目に一気に追い抜いていった。
残るはトップ争いをしている和人と箒の二人で、今度は両手のハンドガンを格納し、新たにスナイパーライフルを展開する。
「バレット……っ!」
「お、簪よく知ってるな」
一夏が展開したのは、一般的にバレットと呼ばれるM82A1という対物ライフルのIS用で、IS専用武装としての名はファイヤーバレットという。
その銃口から放たれる銃弾は本来のM82A1など比べ物にならない程の巨大な銃弾で、万が一生身の人間に直撃しようものなら跡形も無く消し飛ぶ程だ。
「い、一夏!? まさかそれを私達に……」
「ああ……ファイヤ!」
迎撃しようと剣を構えた和人と箒だが、その銃弾が二人の間をすり抜けていった事に唖然とし、そしてその直後だった。
「よく、気づいたな」
その手に持つスナイパーライフルで銃弾を受け止めたため、真っ二つになったスターブレイカーを持つサイレント・ゼフィルスと、その操縦者であるMが降り立った。
そう、一夏が放った銃弾は和人と箒を狙った物ではなく、その向こうから狙撃しようとしていたMを狙った物だったのだ。
「やっぱり来たか、
「ああ、織斑一夏……今日は貴様を殺してKを取り戻しに来たぞ」
そう言って、Mは折れたスターブレイカーを格納してナイフを展開すると、BT兵器を射出して銃口を一夏に向けた。
「そろそろ貴様は、この世界から消えるべきだ! 織斑一夏!!!」
「っ!!」
襲い掛かるレーザーの嵐に、一夏はファイヤーバレットを格納してトワイライトフィニッシャーとリベレイターⅡを展開して迎え撃とうと一気にスラスターを吹かして直進する。
その真上から、一夏の調度真上から降ってくる存在に、気づかずに……。
次回はついにあの男が動き出す!