SAO帰還者のIS   作:剣の舞姫

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お待たせです。


第八十五話 「日本代表候補生シャルロット」

SAO帰還者のIS

 

第八十五話

「日本代表候補生シャルロット」

 

「そうなんだ……一夏が」

 

 キャノンボール・ファスト当日の夜、一日目の試験を終えて寮に帰宅したシャルロットが寮のロビーで事のあらましを明日奈と和人から説明されていた。

 一応の説明をしておくと、一日目の試験であるランク適正試験についてシャルロットは当然ながらランクA+を叩き出し、本日の受験生の中で最高ランクを記録したらしい。

 

「今、一夏は医務室に?」

「ああ、ユリコが付きっ切りでな……もう少ししたら俺が交代に行く事になってる」

「カナちゃんはその間、わたしが預かってるの」

 

 見れば、ソファーに座る明日奈の膝を枕にして眠る夏奈子の姿があり、その隣にはユイが立体映像となって見守っている。

 

「夏奈子ちゃん、寝ちゃったんだ」

「うん、さっきまでパパが起きるまで寝ないって言ってたけど、まだ子供だから睡魔には勝てなかったかなー」

 

 眠る夏奈子の頭を優しく撫でる明日奈の姿は、本当に母性に溢れていると思う。勿論、明日奈はユイの母親であって夏奈子の母親ではないのだが、それでもまるで親子であるかのような光景はなんとも心が温まる。

 

「ねぇ義兄さん、一夏はまだ?」

「主治医の話では今は麻酔が利いているから、たぶん目を覚ますのは明日くらいだろうって話だ」

 

 最近、シャルロットは時々だが和人の事を名前ではなく義兄さんと呼ぶ事がある。確かに、将来和人と明日奈が結婚すれば明日奈の義理の妹であるシャルロットにとって和人は義理の兄になるわけだから、間違いではないのだが、和人としては気恥ずかしさがまだ残っていた。

 それに、明日奈と結婚するにはまだまだ乗り越えなければならない壁がいくつもあるので、気が早いにも程がある。

 

「ねぇキリト君、カナちゃんもこのままだと風邪引いちゃうし、今日はわたし達の部屋に泊めてあげようか」

「そうだな……」

 

 そっと、和人が夏奈子を抱き上げると、その軽さに驚いた。

 今まで、SAOやALOでユイを抱き上げる事は何度もあったが、こうして現実で人間の子供を抱き上げる経験が無かったが、子供というのはこんなにも軽いのかと、改めて実感する。

 

『パパ』

「ん? どうした、ユイ」

『今夜、わたしも抱っこしてください』

「……ああ、そうだな。ALOにログインしたら、一緒に寝るか?」

『はい!』

 

 ユイの可愛らしい嫉妬にほんわかしていると、夏奈子が身動ぎしたので、和人はユイと共に直ぐに部屋へ夏奈子を連れて行き、明日奈とシャルロットはまだロビーに残っていた。

 

「ところでシャルちゃん、明日と明後日も試験だよね?」

「うん、勉強は確りしてるし、起動試験も今まで通りやれば良いかなってところかな……まぁ、試験機は打鉄だっていうのが不安ではあるけど」

 

 ずっとラファール・リヴァイヴを使ってきたシャルロットは打鉄に慣れていない。一応は学園の打鉄を使って練習はしているが、やはり彼女本来の実力はラファール・リヴァイヴでなければ発揮出来ないようだ。

 

「そういえば橙風ってどういう機体なのかな? オールラウンダーの極みってお義父さんが言ってたけど」

「ん~……確かラファール・リヴァイヴの流れを汲んで一から設計し直した第3世代って聞いてるよ」

「リヴァイヴ系列の亜種……ってところ?」

「たぶん、そうかな?」

 

 ラファール・リヴァイヴを参考にして一から設計したのが橙風だと明日奈は聞いていた。元々がシャルロットに合わせた機体だという話だから、それも当然なのだろうが、シャルロットに受領されるのが本当に楽しみだ。

 

「でも、新しい専用機を貰っても……その一夏を倒したって男には、勝てないんだよね」

「……そう、だね」

 

 あの男と戦うには本気の、殺す気で戦う一夏や和人、明日奈、百合子、楯無、千冬でなければまともに戦えない。勿論、それでも勝てるのかと言われれば無理だと断言出来る。

 だが、問題なのは千冬は殺しが出来ないということ、明日奈と百合子と楯無は殺す覚悟はあっても未だ殺しの経験が無い事だ。

 このIS学園で人を殺した経験があるのは一夏と和人、それからラウラの三人だけ。そして、いざという時に千冬だけが人を殺せない。

 

「でも、織斑先生が普通なんだよ」

「お義姉ちゃん……」

「本当は、人を殺すなんて、出来ない方が良いの。だから織斑先生は人としてわたし達よりずっとまとも……」

 

 明日奈の言葉を聞いていて、じゃあ自分は人を殺せるか、と自問自答してみたが、シャルロットにも人を殺すなんて出来ないという答えが出てきた。

 人を殺すということが、どれだけ重たい事なのか、それを考えたから。人殺しは犯罪だとか、そんな小さな事ではない、人一人のこれまでの人生やこれからの人生を奪い、背負うという事を考えれば、普通なら殺しなんて選択は出来ない。

 

「ねぇ、お義姉ちゃんも人を殺そうと思った事がある、そうだったよね?」

「うん、クラディール……彼を、キリト君が殺してなければ、多分わたしが殺してた」

 

 だから、明日奈も人を殺そうと思えば殺せる。それだけの実力も、覚悟も、意思もあるのだから。

 

「シャルちゃん、シャルちゃんは絶対に、人を殺すなんて選択、しないでね?」

「え……?」

「わたしとユリコちゃんは、キリト君とナツ君の業を一緒に背負うっていう覚悟があるから、殺せって言われれば殺せるけど、シャルちゃんは、ううん……箒ちゃんも鈴ちゃんもセシリアちゃん、簪ちゃんも、みんなそんな覚悟を持っちゃ駄目」

 

 それは、とても重たく、大きな決断をしなければならない事だから、絶対に彼女達には選択させたくない、それが明日奈の気持ちだった。

 

「わかった……」

 

 だけど、本当にそれで良いのか、シャルロットは疑問を抱きつつも明日奈の言葉に頷くのだった。

 

 

 数週間後、シャルロットの日本代表候補生試験が全て終わり、いよいよ結果が出る日を迎えた。

 一夏についてだが、あの翌日には麻酔が切れて目を覚まし、先日ようやく退院して寮に戻ってきている。

 

「シャルロットさん、日本代表候補生就任おめでとうございます!」

『おめでとー!!!』

 

 ちなみにシャルロットの試験の結果は、セシリアの音頭で行われた乾杯を見れば明白だろう。

 現在、寮の食堂では1組の生徒と鈴音、クロエ、簪も交えてシャルロットの日本代表候補生就任を祝うパーティーが行われていた。

 生徒だけではなく、束や千冬、真耶といった教師陣に、夏奈子とユイという子供達も参加しているので、食堂内は相当に賑わっている。

 

「シャルロット、これで私と同じ……」

「うん! 改めてよろしくね、簪」

 

 日本代表候補生の先輩として簪がシャルロットに激励をしている。ただ、激励だけではないらしいが。

 

「来週から、だよね? 新人候補生の就任合宿」

「そう聞いてるよ」

「……相当、辛いよ」

 

 日本の代表候補生は就任した翌週から1ヶ月ほど合宿に参加を義務付けられている。シャルロットもその例に漏れず来週から合宿へ参加する事になっているのだ。

 合宿経験者である簪は、その合宿が如何に大変なのか、辛いのかを知っているからこそ、神妙そうな表情で、そしてどこか憂いを帯びた表情でシャルロットに同情的な視線を向けている。

 

「え、何……? 合宿で何があるの?」

「そうか、更識もアレの経験者だったか……」

「織斑先生も……?」

「私もですよ……」

「や、山田先生……」

 

 元日本国家代表の千冬と元日本代表候補生の真耶も、当然だが合宿経験者だ。二人とも簪と同じような視線をシャルロットに向けるものだから、シャルロットの不安がより大きく煽られる。

 

「な、なんなのもー!!」

 

 そんなシャルロットの様子を車椅子に座りながら遠目に見ていた一夏は膝の上に座る夏奈子が小さな手で差し出したシュークリームを笑みを浮かべながら食べていた。

 

「パパ、美味しい?」

「ああ、夏奈子に食べさせて貰ったから余計に美味しいな」

「……ん」

 

 頭を撫でれば嬉しそうに目を閉じて頭を一夏の胸に擦り付けてくるのが本当に可愛いと、見ていた女子達がキャーキャー言っている。

 

『パパ』

「何だ? ユイ」

『えへへ、どうですか?』

「ああ、ママとお揃いなのか……うん、可愛い」

 

 見れば和人もまた、ユイが立体映像で明日奈と同じ髪型にIS学園の制服姿を見せているものだから親馬鹿な顔を見せていた。

 

「ねぇ箒」

「何だ? 鈴」

「一夏のあの親馬鹿な顔見てたらさ」

「……言いたい事はわかる」

 

 一夏に恋していた少女二人、親馬鹿と化してしまった初恋の少年の姿に、なんとも複雑な表情をしている。

 そして、そんな二人を慰めるようにウーロン茶を差し出したラウラは……何故か束に着せられた黒ウサギの着ぐるみ姿で、周りの女子生徒に愛でられていた。

 

「束様、どうされました?」

 

 そんな中、束が一人で壁際に背を預けながらカクテルを飲んでいたのをクロエが見つけて、ラウラと同じく束に着せられた白ウサギの着ぐるみ姿でリンゴジュースの入ったグラスを両手に持ちながらてこてこと近寄って来た。

 

「くーちゃん……うん、実はアレが、完成したんだけど」

「っ! ついに、ですか……お兄様が喜びますね」

「それが……思うように出力が上がらなくってね」

「出力が、ですか」

「そう、それをどうしようかと考えてたんだ」

 

 束が何を考えているのか、助手としてずっと一緒に暮らしてきたクロエには理解出来た。だからこそ、クロエが取れる選択はただ一つ。

 

「でしたら、彼女を使っては如何でしょうか? 彼女でしたら、きっとお兄様の力になってくれる筈です……自分の担い手の父であるお兄様であれば、きっと」

「……それしか、無いか。いつか、近い未来でカナちゃんの専用機を作ろうかと思ってたけど、それで解決するなら」

 

 束は、白衣のポケットにずっと入れたままにしていたある物を取り出した。それは、ISを知る者であれば誰もが何なのか理解出来るだろう。

 何故なら、それは……ISのコアだったのだから。




次回からシャルロットは暫くお休み。
そして舞台は専用機持ち限定タッグマッチトーナメント編に入ります。
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