ソードアート・オンライン 黒と紅の剣舞 作:剣舞
喫茶店から出て、零士と別れた和人は午後から彼女である
待ち合わせ場所である大手門前にいくと、SAO時代に明日菜が所属していた血盟騎士団の服装を思わせる懐かしい色彩の服を着てたっていた。
ただその様子は何処かぼーっとしており、和人が正面にいるのに至近距離に近づき話しかけるまで明日菜は和人の存在に気づかなかった。
「もう、いきなりでビックリしたよ……あれ少し汗かいてるよ?」
「悪い悪い。ちょっと遅れそうだから急いだんだけど……間にあってよかったよ」
実は和人はいつもの癖で途中まで零士と会話しながら一緒に帰ろうとしてしまい途中で慌てて待ち合わせ場所に向かったため、汗をかいていたのだった。
「……もしかして零士君と会ってたとか?」
「あれ?零士から連絡でも行ってたか?」
「ハァー…………」
意外そうにいう和人の様子に明日菜は頭を押さえながらまたかと一つため息をした。
明日菜としてはもしかしたら程度の気持ちで言ったのだろうが、和人が肯定したことでその予想が当たっていることが証明されてしまった。
和人としては、零士と会っていたというだけで、なぜ明日菜が溜息を吐くかがわからなかった。
と言うよりは零士と会っているというと和人の身近な少女たち、アスナやリズベットやシリカ達はこぞって溜息を吐く。
SAO時代からそうなのだが、最近では妹の桐ケ谷直葉までそうなのだから余計にわからなくなった。
一方アスナ達はなぜそうなるかと言うと和人と零士の距離が近すぎるのが不安だからだった。
その距離も二人にそういう性癖や趣味がなく、付き合いが自分たちの中で一番深く長いからなのは理解しているもののそれでも不安なものは不安なのだ。
正直、明日菜としては和人と正式に付き合うようになってからでもその不安は残っており、むしろ彼女だからこそ二人の距離の近さを一番見ている為、余計に不安をあおる結果となってしまっていた。
女性陣達としてはこの不安を一刻も早く取り除くためにも零士に彼女を作ってほしいのだが中々うまくいってなった。
零士自身の容姿が服装次第ではパッと見、女性に間違えそうになってしまうためそれが余計に零士に彼女ができない理由の一つとなってしまっていたのだ。
零士本人からすれば不服の一言なのだが。
「……大丈夫か?」
「…………大丈夫。壁が色々大きいだけだから」
「?」
はたから見れば、頭を押さえる彼女を心配する彼氏の一般的な図なのだが……その内心はかなり複雑であり思い切りすれ違っていた。
………
……
…
和人と明日菜がデートしている最中GGOにある初心者用の銃を売っているガンショップの一つでは、紅い長髪の少女?と水色の髪の少女によって奇妙な光景が繰り広げられていた。
「ハハハ、シッテタヨ?オンナニマチガエラレルッテ。……リアルデモソウダカラゲームナイグライハッテオモッテタノニサ!!!」
「ちょ、目立ってる!!!謝るから!!私が悪かったから正気に戻って!!」
その様子はと言うと紅い長髪の少女?は何かをつぶやきながら商品が飾られている壁に頭を何度も打ち付けており、水色の髪の少女が慌ててその赤い長髪の少女?を羽交い絞めにしていた。
さらに言うとその紅い長髪の少女?は片手に紅い金属の筒のようなものを持っているものの、その目は何故か白目を向いており、目の焦点はここではないどこかを見ていた。
……そしてその人物はたから見ても放っておけば自殺しそうな哀愁が漂っており、その様子を周囲のプレイヤーたちは怪訝な顔をして近づくのをためらうかのようにその二人を見てこそこそと話していた。
……なぜこうなってしまったかと言うと話は少し前の時間に遡ることになる。
零士は和人と別れた後すぐに乗ってきた愛車のバイクに乗って、とっとと文京区湯島にあるアパートの自宅へと帰り、GGOにALOのゼロのデータをコンバートしてダイブした。
ダイブして目を開けるとそこにはALOで見慣れた草原や青空はなくSF染みた鋼鉄の建物が多く存在し、空は曇天で何処か荒れ果てた世界と言う印象を受けた。
「おおぉ……」
そしてその景色にゼロは圧倒されていた。
と言うのも一応SAOやALOで色々ファンタジーな建物を多く見慣れてはいるものの、GGOの建物はまるで違うからだ。
鋼鉄な高層建築物が天を突くように辺り一面にそびえ立っており、ビルの谷間や道のわきになど色々なところにホログラムの映像があちらこちらに流れていた。
その光景に少し目を奪われながら初期スタート位置らしきドーム状の建物からから少し歩きだし周囲を眺めていると、そこを偶然通りかかった男性プレイヤーがゼロに声をかけてきた。
「おっ君、運がいいね!!」
「はい?」
「君のそのアバターはF一三〇〇番系だろ?結構レアなんだよ、その
その言葉にゼロは耳を疑った。
背中に嫌な寒気差を感じ、弾かれたかのようにゼロは慌てて近くの窓ガラスに顔を近づけると―――そこには紅い長髪で見事に男と言うよりも女と言われても違和感がない顔があった。
それが余計に不安をあおり慌てて、胸や男の大事な部分を確認するが胸は平たんで男にとって大事なものもきちんとあった。
つまるところ今のゼロの容姿は……俗にいう男の娘だった。
「ど、どうしたのかい!?」
「お、俺男なのに……」
「えっ!?ってことは、M九〇〇〇番系!?それすごいレアなんだよ!!!」
両の手を窓について絶句しているゼロを心配してきた男性プレイヤーはゼロの発言に先ほどよりも目を光らせゼロに迫る。
それにいや知らんしと内心答えるゼロ。
世の中にはゲームの世界では女性になって楽しむ人やネカマ、お姫様プレイと言った人々がいるがゼロにはそんな趣味は無い。
むしろゼロは現実では女に間違われることがあるのだからゲームでは……と思っているのだ。
しかも最悪な事がある。
「ザ・シード」関係のVRMMOには同じ「ザ・シード」関係のVRMMOにコンバートすることができる機能があるのだが、これで一度始めるともう二度とそのデータではアバターは変更できない。
わかりやすく言うとリセマラをすることは無理だということである。
つまるところゼロはGGOをやる際は一生この男の娘のアバターを使い続けなければいけないということがここに決定してしまったのだ。
「いや~うらやましい……そのアバター嫌いならアカウントデータ売ってくれないかな?すごくレアなんだ」
ゼロが落ち込んでいるからか、目の前の男性はゼロのアバターを売ってくれと交渉してきていた。
ゼロとしても速攻で売りたいものの、これはALOで使っている本命アカウントなのだ。
はい、どうぞと売り払うわけにはいかなかった。
「……申し訳ないけどこのデータはコンバートした奴なんで売るわけにはいかないんで」
「そうか……参考までに総プレイ時間を聞いてもいいかな?レアなアバターはプレイ時間が多いほど出やすいらしんだけど……」
「た、大したことないですよ?ただの運ですよ、運!!それじゃ!!」
そうまくしたててゼロは焦りながらその場から去っていった。
というのもゼロのこのアカウントデータはSAO》時代から使い続けているものだ。
したがって総プレイ時間は軽く一万時間は越える。
それを馬鹿正直に言えば速攻でSAOプレイヤーだということがばれてしまう。
SAO時代に色々やらかしている身のゼロとしては身ばれは避けたかったのだ。
その後、残された男性はその行動の意味はもちろん分からず、ただひたすら首を傾けけていた。
GGOの中心都市であるSBCグロッケンを一人の少女が当てもなく歩いていた。
彼女、シノンはGGOのトッププレイヤーの一人とも言って良いのだが、なぜ当てもなく歩いていたのかというと単純に時間つぶしであった。
というのも、今日シノンは現在パーティーを組んでいるダインと言うプレイヤーたちとPVPをすることになっている。その為召集を受けているものの、集合時間までしばらく余裕があり、準備も済んでいるためすることがなかったのだ。
シノンはGGOをある目的から始めたのだが常に気を張っているわけでもなく好きに過ごしていることもある。
そのため現在は時間まで適当に時間でもつぶそうかと歩いていたのだが、ちょうど小道から出てきた時に横から走ってきた人物とぶつかってしまった。
「あっ、悪い。大丈夫か?」
「っ、ええ……大丈夫よ」
もう少し周りに気をつけなさいよと内心思いつつも相手を見るとそこにはGGOでは珍しい自分と同じ女のプレイヤーがいた。
GGOは銃と鋼鉄が支配する世界である。
そのため参加しているプレイヤーの大半は男性であり、しかもGGOは始めるさい性別を偽ることができないため女性プレイヤーの数は本当に少ない。
そういう事情で、同姓のプレイヤーに遭うこと自体が少ないのだ。
それにこの人物は、ぱっと見た限り初期装備のようにも思える。
そんな始めたばかりの初心者にあまり悪い印象をシノンは付けたくはなかった。
「………そんなに急いでどこに行こうとしてたのよ」
「えっ、いやとりあえず最低限の装備をそろえようかな~と適当に走っていただけなので………」
GGOの首都であるSBCグロッケンは一部は迷路のような構造をしており、初心者は割と迷うことがある。
このプレイヤーもその初心者にありがちな迷子になってしまったのであろうとシノンは予想していた。
まあ、これも何かの縁だと案内の一つでもしようかと思い、何処に行こうとしていたのかと聞いてみれば予想通りの迷子であった。
「……貴方初心者よね?」
「まあ……」
「……適当にやってるとカモられるわよ」
「えっ!?」
シノンの発言に心底驚いたように目の前の少女は絶句する。
言っていることの意味が分からないと言わんばかりに。
「……貴方本当に何も知らないのね。それでよくGGOをやろうと思ったわね」
「アハハ……まあ、ちょっとやりたいことがあって」
「やりたいこと?」
「まあ。……何かは言えないんだけど」
シノンもGGOを始めた切っ掛け自体は友人の新川に誘われたからだが、同時にGGOで求めるものがあったから今も続けている。
それはGGOの強者が持つ強さを得ることで自分の過去からのトラウマを克服をすることで弱い自分を無くすことである。
だが、この子はGGOのことをほとんど調べずにGGO始めている。
彼女は何を求めてGGOを始めたのだろう?
そのことに少しだけ興味がわいたシノンは少しだけ彼女に付き合ってみようと思った。
「何も知らないのね……予定まで時間があるし少しだけレクチャーしましょうか?」
「……お願いします」
「OK。それじゃあ、まず近くのガンショップに行きましょうか」
そう言ったシノンは、知っている初心者用のガンショップへ向けて歩き出す。
その後ろ姿を慌てて紅い髪の少女は追いかけるものの、二人ともある勘違いをしていることはこの時点では気づいていなかった。
右に曲がったり小道を左にかと思ったら動く歩道に動く階段など複雑怪奇な道を先導する彼女を見失わないようゼロは必死に追いかけた。
一人だと絶対に覚えられないと確信しながら彼女と話しながら数分ほど歩いてくと急に大通りに出る。
そこには少し大型のスーパーを思わせるような店舗があった。
「あそこだよ」
そう言って道を横断している人波にのみ込まれる彼女を見失わないようにと慌てて目を離し止めていた足を再び進める。
人波をかぎ分けていった先で先導してくれた彼女がお店に入っていくのを見てゼロもあとに続く。
店の中に入るとそこには様々な色や喧噪に満ち溢れていた。
同時にNPCであろう美人の女性が露出の多い服で片手に銃を持ち営業スマイルを向けていた。
「……銃しかない」
「そりゃあねGGOだもの。本当ならもう少しディープなお店の方が掘り出し物とかも多いんだけど……貴方、お金ないでしょ?」
「……初期金額しかないはず」
ALOの時みたくバグが起きていなければと内心つぶやくものの所持金を確認してみると予想通り初期金額分しかなかった。
「やっぱり千クレジットか……大したものは買えないけど……」
レイガン…いや、中古のリボルバーなどと色々言っているもののゼロとしては銃よりも買いたいものがった。
「あー申し訳ないけど剣ってない?もしくはナイフでもいいんだけど……」
「その所持金だとサブウェポンはまだ早いと思うよ?……あとここはGGOだからね?」
「やっぱり無いか……」
ここは銃の世界なんだからそんなものないだろと暗に言われはたから見てわかるぐらい落ち込むゼロ。
そのあからさまに落ち込むゼロを不遇に思ったのか同情したのか、彼女は少し考えるそぶりを見せて先ほどの説明に補足する。
「……まあ、無くはないよ。ただどれもちょっと値が張るから千クレジットだと無理かな」
その発言につい今しがた落ち込んでいたはずのゼロの目に光が戻る。
ようはお金が無いからいけないのであってあれば問題なく購入できるということである。
つまりだ―――
「なるほど。つまり、ギャンブルをしろと」
「いや、そこまでは言ってないから」
彼女はゼロの発言に苦笑を交えながら返答する。
とはいえ実際問題、強い武装を入手しようとすると現状の手持ちでは無理なのは明らかだ。
そして、目の前の彼女も武器を無償で譲ってくれるほどお人よしでもないだろう。
それにゼロとしてはあまりGGOに時間をかけるわけにもいかず、できる限りナイフや剣を速く入手したい。
となれば、現実的な問題としてギャンブルで稼ぐのが手っ取り早く確実だというのがゼロの決断であった。
「で、おすすめのギャンブルは何かある?」
「いや、ギャンブルは大きいのや小さいのはあるけど勝つ前提は止めた方がいいと思うよ?一応このお店にもあるにはあるけど……」
そう言って彼女はチラッと人だかりができている方を見る。
そこには電飾が光っている巨大な装置が見えた。
近づいてよく見てみるとゲームと言うにはかなり巨大な代物が鎮座していた。
その大きさと言えば幅は約3mの長さは約20m程の金属板が敷かれており、その先にはアメリカの西部劇に出てくるガンマンの格好をしたロボットが銃を片手にもてあそんでいる。
その真上にはこのゲームのタイトルであろうか[
「……これがギャンブルゲーム?」
どう見ても早打ち勝負とかにしか見えないのだが……と内心思っていると先に言ったゼロを後から追いついてきた彼女が説明する。
「そう。やることは単純にあの通路を走って何処までいけるかってゲーム。到達場所に応じて金額がもらえるんだけど、ガンマンに触れられれば今までプレイヤーがこのゲームにつぎ込んだ金額を全額もらえるの。もちろんガンマンが射撃してその邪魔をするけどね」
「へー。それじゃあ上のあの数字がキャリーオーバーか……30万!?」
「そう、と言っても無理だけどね。あれ、途中から結構射撃速度がえぐくなるの。ほら、あそこ。発行する線が見えるでしょ?あそこが現在の最高記録」
そう言って指をさされた場所を見ると全体の大体3分の2のところにその線はあった。
「うわー……」
「あれリボルバーのくせに8m超えると、高速リロードからの3点バーストやってくるの。おかげで予測線が見えた時には手遅れなのよ」
「予測線?」
聞きなれない単語が聞こえてきたのでゼロは彼女の方へ顔を向け聞き返した。
まあ、ゼロにとっては3点バーストもよくわからないのだがなんとなく予想はつくのであえてスルーする。
「簡単にいうと弾丸が来る位置が目に移るのよ。ほら、また誰かが挑戦する」
そう言われスタート位置を見るとひとりの男性プレイヤーがそこにいた。
迷彩服を着た男性がスタートが友人らしき3人にはやし立てられゲームを始める。
「なにやってんだ?」
数m進んだあたりで右腕をあげ左足一本で立つという奇妙な体勢でその場に止まった。
それはさながら、だるまさんが転んだをしている時のような感じでゼロからすれば奇妙な体勢だった。
だが次の週間その奇妙な体勢の脇を通り過ぎるかのように銃弾が通り過ぎる。
「まぐれ……じゃないよな?」
「ええ、まぐれじゃないわ。彼には予測線が見えてるのよ」
「予測線……もしかして銃弾の軌道が目に見えるのか!?」
「その通りよ」
目の前のゲームをプレイしているプレイヤーの奇妙な動きと予測線と言う言葉からゼロがあのプレイヤーには弾道の軌道が見えてるのではと予想した。
彼女はゼロの予想が正しいことを頷いて肯定し、補足の説明をする。
「防御的システムアシスト
「
―――個人的な目的にも役立ちそうだし。
言葉に出さないもののそうつぶやきゼロは笑う。
その様子に水色の髪の少女は気づかず目の前でゲームを続けるプレイヤーへと視線は注がれていた。
プレイヤーは、そのまま走ったり止まったりするものの水色の髪の少女が言っていたように8mぐらいで銃弾を避けられず撃たれてしまいゲームオーバーとなってしまった。
「…ね?左右に大きく動けないし、ほぼ一直線に進む関係上あの辺が限界なのよ」
そう言って水色の髪の少女はかすかに笑いながら肩をすくめる。
暗に別のゲームの方が勝率があるわよと言っているかのようだった。
だが、ゼロはその意図を察せず、むしろ―――
「うん。最初聞いたよりも簡単そうだわ。……1回五百クレジットだから2回行けるし余裕かな」
隠し玉が無ければ。
そう内心つぶやき軽い足取りでゲートへ向かって歩き出す。
水色の髪の少女は何言ってんだこいつと言わんばかりにゼロの方を見るがゼロはそんな視線を気にせずゲームを開始した。
「何やってるのよ」
とシノンは額に手を当ててつぶやく。
とはいえ、さっきのゲームを見て余裕だとか言っている初心者は多少なり痛い目を見た方が今後のためになるのかなとも思い複雑な心境でそれを見ていた。
「おっ、今度はルーキーが挑戦か?」
いつの間にか先ほどのギャラリーが増えていた。
おそらく先ほどのギャラリー加え、紅い髪の少女の容姿があれなので余計に人を集めてしまい先ほどよりも人が集まってしまったのだろう。
少しだけ周囲に目を配らせゲームを開始した先ほど知り合った紅い髪の少女へと視線を戻す。
「何やってんだあのルーキー?」
近くのプレイヤーがそう言うのも当然な行動を紅い髪の少女はとっていた。
紅い髪の少女はゲームが始まったのにも関わらず少しだけ前を進んで以外その場から動こうとはせず、立ち止まっていた。
シノンを含めた全員が紅い髪の少女へ怪訝な視線を向けるものの彼女は動かず結局ガンマンの方が先に射撃を開始した。
動きがあったのはその瞬間で、
次に左にずれ銃弾が走ったと同時に紅い髪の少女は走り出した。
「は、はえぇぇ!?」
そう周囲のプレイヤーの誰かがつぶやく。
実際、シノンも口には出さないものの驚嘆していた。
確かに速い。
だが、初心者にしては速すぎではないだろうか?
そう内心疑問に抱くものの、紅い髪の少女はそんなこと梅雨しらず走り続ける。
先ほどのプレイヤーと違い彼女は左右にぶれながら狙いを定められないようにガンマンの銃口をぶれさせる。
だがすぐにガンマンのもつリボルバーから銃弾が放たれるものの、彼女は止まることをせず左右への最小限の動きで躱していた。
「……そういうことね」
この時点になってようやくシノンも彼女の最初の奇妙な行動の意図が理解できた。
彼女は彼女の証言通りなら今日始めたばかりの初心者だ。
だから
そうやって走り続けあっという間に10mを過ぎる。
その瞬間、ガンマンの反則染みた高速リロードからの射撃が来る。
「嘘!?」
次の瞬間、誰もが驚愕した。
誰もが倒されてきたその射撃に紅い髪の少女は止まる訳でもしゃがむわけでもなく
とはいえ、前方にただ跳躍すれば当然一発や二発は当たってしまう。
だが、紅い髪の少女はあろうことか前方に跳躍しながらまるで弾丸かのように体をひねる。
その結果、ぎりぎりのところで銃弾は紅い髪の少女の体には当たらずそのまま後ろへと抜けていく。
あと一歩踏み込めば届くという距離まで進み、誰もがクリアしたと思ったが紅い髪の少女は着地した瞬間片足だけの無理な体制なのにもかかわらず上へと跳躍する。
ここまでの一連の動きには一切の乱れは無くまるで慣れ親しんだかのような綺麗な動きだった。
……ただ一点、なぜか両腕は左腰に当てられているのが奇妙に見えたのだが。
辺りのプレイヤーがその奇妙な行動に疑問を覚えたのも一瞬で、次の瞬間には弾切れのはずのガンマンの銃から6つのレーザーが紅い髪の少女の着地地点だった場所へ放たれていた。
流石にこれはシノンを含めた周囲のプレイヤー全員が予想外で絶句していた。
そして紅い髪の少女は見事にガンマンの目の前に着地してそのままガンマンをタッチする。
一拍後、ガンマンは「NOoo!!」と言ってひざを折ると同時に後ろの家からクレジットが大量に出てきたのだった。
今まで誰もクリアしたことのないゲームを見事にクリアしたゼロだが、その内心は穏やかではなかった。
(何あの初見殺し)
確かにゼロは警戒していた。
まだ誰も言った事のラインまでいけば何か隠し玉の一つや二つあるのではと思ってはいたのだ。
だからリロードせずこちらに銃口を合わせようとした動きを警戒してとっさに跳躍したのだがレーザーが出てくるとかは流石に予想外もいいところである。
このゲームを考えた奴は絶対正念が腐ってるなと内心と皮肉りながらゲートをくぐるといつの間にか水色の髪の少女が心底驚いたという顔をしながら近づいてきていた。
「……貴方、どういう反射神経してるのよ?あの避け方にしてもそうだけど、あんな……2mくらいのレーザーを避けたし……あんなのもう
「いや、半ば勘だし……予測できてたし……」
その言葉を聞いて水色の髪の少女はまさか、と言う顔で言葉をつづけた。
「……
「いや、だって……そういうゲームじゃないのこれ?」
ゼロのセリフに完全に絶句した水色の髪の少女。
ゼロは俺が間違ってるのと!?と言わんばかりに慌てて周囲を見渡すが、ギャラリーは全員水色の髪の少女と同様に絶句しており何言ってんだこいつと言わんばかりの顔であった。
そして、それを見てものすごく申し訳ない気持ちになるゼロだった。
ゲームが終了してしばらくの間はギャラリーも残っていたが、数分もすればギャラリーもほとんどいなくなった。
そうなってからシノンは紅い髪の少女をゲームで手に入れたクレジットで武器を購入するためにショップのある一角へと案内していた。
「……はい、ここよ」
「おおぉ……」
シノンが紅い髪の少女を案内してたどり着いた場所、そこには金属の筒のようなものが棚に一列で表示されていた。
「…こ、これがライトセイバー!!!」
「……正式名称は光剣だけどね。まあ、みんなビームサーベルとか色々言ってるから好きに呼べばいいと思うけど」
目を光らせ、ささっと光剣を購入する紅い髪の少女を若干引き気味でシノンが見ているが紅い髪の少女はそんなのを一切気にせず買った光剣を右手に装備し試し切りをするかのように振り回す。
左腰から抜刀するかのように一閃し続けて袈裟切り、右薙ぎと振う。
「へえ~けっこうサマになってるのね。
その姿に驚きと感心を混ぜたのような顔で手を叩きほめたのだが何かが気に障ったのか紅い髪の少女は動きをピタッと止め次の瞬間腕や体がぴくぴくと震えだす。
その様子にシノンは何か不味いことでも言ってしまったかと紅い髪の少女の顔を見るが紅い髪の少女はと言うとそれどころではなかった。
なぜなら紅い髪の少女にとってとても聞き捨てならない一言が聞こえてきたからだ。
「……い、今なんて言った?」
「えっ?『
「………ゴフッ」
「……えっ!?ちょっと大丈夫!?」
その言葉が聞き間違いでないことがわかった紅い髪の少女は今までの様子から一変しひざを折って両手を地面へと付いていた。
シノンは慌てて近づき肩を貸そうとするがそれよりも早く今度は紅い髪の少女がシノンにとって聞き捨てならない言葉を吐いた。
「…お…こ…」
「えっ?今なんて……」
「……俺は男だよ」
「……えっ?……お、男!?その容姿で!?」
一瞬声が小さいため聞き間違いかと思い、シノンは聞き直すものの、もう一度紅い髪の少女が今度はきちんと聞こえる声で言ったため先ほどの言葉が間違いでないことを悟った。
「あ、貴方、い、今まで私を―――」
騙していたの!?とシノンは叫ぼうとしたが叫べなかった。
それよりも早く紅い髪の少女が突然ショップの棚に頭を打ち付けだしたからだ。
「……えっ?」
さっきから驚愕の連続で紅い髪の少女の行動も一瞬訳が分からなかったが次の紅い髪の少女のセリフでようやくシノンはその行動の意味を理解したのだった。
「……男の娘だっていうのはわかってたよ!!だけどさ……本当の女子にまで女に間違われるってなに!?リアルでも間違われることがたまにあるんだからゲームで位止めてくれよ!!!何度目だよ!!」
つまるところ紅い髪の少女…いや、少年はリアルでもどちらかと言うと女顔で間違われることがあるのだろう。
そして彼はそのことについてものすごく気にしているのだ。
しかも、本当の女であるシノンに女と間違われたことが余計にショックを与えているのだろう。
「あの……ごめんなさい」
そう言えば直接性別とかも聞かず外見で判断したのは自分だったと思い出し、同時に自分にはわからない辛さを与えてしまったことにシノンも流石に悪く思ったため素直に謝る。
だが、シノンは知らない。
時にはその素直な謝罪がダメージを与える事を。
「ハハハ、シッテタヨ?オンナニマチガエラレルッテ。……リアルデモソウダカラゲームナイグライハッテオモッテタノニ!!!」」
先ほどよりも激しく大きな音を立てて壁に紅い髪の少……少年。
どうしたものかとシノンが悩むが、その瞬間視線を感じたため慌てて周囲を見回す。
すると周囲の客がシノンと紅い髪の少年の方をみてヒソヒソ話をしているのが目に見えた。
それを見てシノンはしまったという顔をする。
シノンは容姿もそうだが銃の腕もトッププレイヤーの一人であるためGGOでは有名な分類に入る。
そんなシノンが初心者用のショップとは言え初心者らしき人物と一緒にいて、かつその初心者がシノンにも負けず劣らずのパッと見が美少女で、ショップの棚に頭を打ち付けるという奇行をすれば噂にならないわけがなかった。
このままだと今後のプレイだけでなく最悪BOBにも支障をきたすのではと言う考えがシノンの頭によぎる。
と言うか非常に不愉快な二つ名を付けられかねない。
例えば初心者いじめとか。
それはシノンにとって絶対に許容するわけにはいかなかった。
「ちょ、目立ってる!!!謝るから!!私が悪かったから正気に戻って!!」
「ハハハ。カオ?カオガワルイノカ!!!」
背中を羽交い絞めにしてそれを止めようとするものの
「ああ、もう!!しばらく面倒見てあげる!!だからお願い、正気に戻って!!!」
それから紅い髪の少年―――ゼロの奇行が止まるまで数分はかかってしまった。
……これBOBはいつになるんだろ?
感想や誤字など、ご指摘があればお願いします。