魔法少女リリカルなのは 『やがみけ!! とあるシスコンの話』   作:Arc.

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少しだけシリアス展開。


急展開。愉悦と魔法と呪いの本と

 ネコちゃんから人間へと脅威の進化を遂げたロッテさんとアリアさんは渋々と言った感じで家の中に入ってきます。ごめんなさい、此処は日本なんで土足厳禁です。そんな私の言葉に少々呆れつつも二人はしっかり靴を脱いでリビングへ入ります。いや、だって兄ちゃんが毎日掃除してるんやから足跡付けられてら嫌やろ? 一方でシグナムとヴィータは二人に獲物を向け、何時でも攻撃できる様に警戒しています。

 

 「で、何時から私達に気付いていたの? もしかして去年の夏から?」

 

 アリアさんが兄ちゃんに尋ねます。兄ちゃんは深く頷くと去年の夏にあった出来事を話しました。

 兄ちゃんはグレアムおじさんの家に行った時にニ匹の猫が二人に変身する場面を目撃していたそうです。そう言えば、滞在二日目に街へ観光に行こうとした時に兄ちゃんの様子がどこかおかしかったような気がします。忘れ物を屋敷に取りにいってから、兄ちゃんはグレアムおじさんと二人に対して警戒するようになったんです。

 聞いてみたらやっぱりその時だったそうです。その日以降、兄ちゃんはよく私を街に連れ出していました。私は二人っきりのイギリス観光が楽しくって全然気にしていませんでしたが……。二人で外出する時は、決まって私を庭に残していました。準備する事があるって言って20分位遅れて来る様になっていたんです。

 兄ちゃんはその時間に二人とグレアムおじさんの事を探っていたそうです。

 

 「はぁ……。はやてと違って嵐くんはごく普通の高校生だからあんまり警戒していなかったんだけど、失敗だったみたいね」

 

 「まさか、出し抜かれるんなんて思いもしなかったわ。家だからって油断し過ぎたみたい」

 

 ロッテさんがため息交じりに呟きます。アリアさんは兄ちゃんの行動を純粋に驚いているようです。私が関わった時の兄ちゃんの行動力を舐めてはいけません。

 

 「街に出た時に録音機材を購入していたんだ。其れを屋敷に仕掛けさせてもらった。そっちも監視していたんだからおあいこだろ?」

 

 うわぁ、兄ちゃん凄く悪い顔してます。

 

 「聞かせてもらったぞ、魔法の事も“時空管理局”って組織の事もな。それと“闇の書の封印”って言葉も聞いたが、其れはどういうことだ。俺達を監視してどうするつもりだったんだ?」

 

 時空管理局って言葉が出た瞬間、シグナム達の顔には先ほどとは比べ物にならない位の警戒の念が浮かびます。彼女たちとも関わりのある組織なのでしょうか? 闇の書について何か知られて困る事とかあるんかな。

 

 「そう、そこまで聞いてるんだ……。どうする、アリア? もう喋っちゃう? 隠そうとしても騎士たちを使って力ずくで聴きだしそうだけど」

 

 「お父様もそこまで知ってるなら喋って構わないって。もう滅茶苦茶だよ。お父様も半ば自棄になってるみたい。長い間計画していた事がこんな事で御破算になるなんて。ショックでお父様が倒れちゃいそうよ」

 

 アリアさんはグレアムおじさんとリアルタイムで通信しているみたいです。ひとり言の様に見えますが、これもやっぱり魔法なんでしょうか。

 

 「闇の書を使って何をするつもりか知らんが、はやてを利用するつもりなら全力で阻止させてもらう。ヴィータ、シグナム!!」

 

 「はい、兄上」

 

 「ああ、兄ちゃん!!」

 

 二人はロッテさん達の首元にそれぞれの得物を添えます。私よりも兄ちゃんの騎士って気がしてきます。

 

 「分かった、話すからデバイスを仕舞って!!」

 

 「抵抗する気は無いわ。この状況じゃ無駄でしょ?」

 

 それから二人はザフィーラの鎖(バインドって魔法だそうです)で拘束され、グレアムおじさんと企んでいた計画について話し始めました。

 何でもグレアムおじさんは時空管理局っていう組織の提督の役職に就いているのだそうです。時空管理局ってのは言ってしまえば宇宙人が作った警察みたいな組織で宇宙の平和を守っている組織らしいです。取り敢えず宇○警備隊みたいなものだと思う事にしました。じゃあ、グレアムおじさんも宇宙人なんかな?

 ワクワクながら聞いてみましたがロッテさん達曰く違うそうです、残念。グレアムおじさんは地球人で、たまたま魔法の力を持っていたから時空管理局にスカウトされたんだそうです。流石イギリス人、きっとロンドン駅からは魔法の学校に向かう機関車が出てたりするんやろか?

 えっ? それも無いん? ガッカリや。話がそれましたが、地球にもたまに魔法の力を持つ人が居るそうです。しかも私もその中の一人何だとか。

 変な契約で愉悦される様な事はなさそうなんで安心しました。

 それから二人は“闇の書”について話し始めました。ヴォルケンリッターのみんなは何か言いたそうでしたが、此処は黙っているように命令します。

 アリアさん達の話によると闇の書ってのは古代から存在していて、本来は色んな魔法を記録しておく魔導書だったんだそうです。

 元々は“夜天の書”という名のデバイス(魔法使いの杖だと思って良いとの事です)だったとの事です。“夜天の書”という言葉を聞いた時、ヴォルケンリッターの皆は一様にはっとした表情を浮かべていました。

 蒐集っていうのは記録方法で、魔法使いの人からリンカーコアっていう臓器を奪ってその人の覚えとる技を盗んで記録するやり方らしいです。

 しかもそれだけじゃなく、闇の書のキャパが一杯になったら持ち主に願いをかなえる力を与えるらしいんです。それって魔力を集める願望器ってことでしょうか……。

 でもどうして“闇の書”と呼ばれているのでしょう。私の疑問にアリアさんが答えます。元々は魔法を記憶する事と主人を守る騎士たちを召喚する機能しか付いていなかった“夜天の書”だったのですが、これまでの主達が強引に機能を追加し暴走状態に陥ったのだそうです。そして主を変えながら色々な世界を破壊し厄災を振り撒いているのだと。その過程で“夜天”ではなく“闇”と呼ばれるようになったとの事です。

 願いを叶える願望器が昔の人のイラん事の所為で暴走するって、なんかそういう話知ってる。私の予想が当たってたらヤバいやん。愉悦が、愉悦が……。

 

 「なぁ、アリアさん、ロッテさん。それにヴォルケンリッターのみんな……。もしかして私の足って闇の書と何か関係あるん?」

 

 「いえ、主はやて。そのような事は無い筈ですが」

 

 シグナム達は知らんようやな。でも私の言葉にアリアさん達の顔色が変わりました。嘘や……、もしかして闇の書の力が強くなるにつれ、私が人としての機能を失っていくみたいな事があるんか。

 

 「兄ちゃん!! 私、本当に兄ちゃんの妹なんよね? 本当は調整された人造人間やとか、そんな事あらへんよね!!」

 

 「当たり前だ、はやて!! お前は本当に父さんと母さんの子供だよ。ちゃんと血の繋がった妹だ!! お前が生まれた時の事もちゃんと覚えている!!」

 

 不安になった私を兄ちゃんは力強く抱きしめます。兄ちゃんは安心させるように耳元で「大丈夫だ」って囁いてくれています。私は自分が不安に思っている内容を話しました。

 最悪や、嫌な予感が当たったみたいです。二人揃って視線をそらすロッテさんとアリアさんの反応で分かりました。さっき出現したばかりだからかもしれませんが、闇の書と私の麻痺の関係をヴォルケンリッターのみんなは知らなかったようです。

 

 「はやての言ってる事は本当なのか? 答えろ、ロッテ!! アリア!! 闇の書の所為ではやての足は動かないのか!?」

 

 アリアさんが答えにくそうにしながらも兄ちゃんに伝えます。

 

 「ええ。本当よ。はやての足は闇の書の力が関係している。闇の書の力が強くなるにつれてはやての麻痺は広がっていくの。最期には……」

 

 「嘘だ!!」

 

 アリアさんの言葉をヴィータが遮ります。

 

 「そんなの嘘だ!! 私達闇の書の騎士は主の為に蒐集して、願いをかなえる力を授けるんだ!! そんな……、私達の所為で主が、はやての命が危険にさらされるなんて、そんなの嘘だ!!」

 

 ヴィータはハンマーを振りかぶりアリアさん達に攻撃しようと飛び上がりました。

 

 「よせ、ヴィータ。良い、話を続けろ」

 

 ヴィータの姿を見て冷静さを取り戻したんでしょう。兄ちゃんの制止の声が掛かります。ヴィータは兄ちゃんに対してもくってかかりますが、ザフィーラとシグナムによって止められます。

 

 「私達は11年前に闇の書の事件に関わっている。お父様はその時に大切な部下の命を失ってる。だから、その悲劇を繰り返したくないから私達はお父様と過去の闇の書に関わる事件も調べたんだ。はやてを監視していたのだってそう。もう二度と闇の書に関わって不幸になる人を見たくない」

 

 アリアさんに代わりロッテさんが続けます。11年前、ヴォルケンリッター達は闇の書の蒐集の為に数多くの犠牲を出していたそうです。其れを止める為にグレアムおじさん達は動いていたそうなんですが、その時におじさんは部下と戦艦を失ったそうなんです。なんとか騎士たちと先代の主を止める事が出来たそうなんですが、闇の書には新しい持ち主の下に転生する機能が付いていたんだそうです。そしてその新しい主に選ばれたんが、産まれたばかりのこの私……。時間が経つにつれて闇の書の力が強まっていたってわけか。だから、成長するにつれて私の足もだんだん動かんように……。

 

 「闇の書がはやての影響に影響を及ぼす程結びついているという事は……。お前達、はやてごと闇の書を封印しようと計画していたのか!!」

 

 私やヴォルケンリッターのみんなが否定したいと思いつつも可能性の一つとして考えた事を、兄ちゃんが声に出しました。

 

 「ええ、そうよ!! 私達ははやてごと闇の書を封印するつもり。まだ幼いはやての身体は闇の書の力に耐えられなかった。だから麻痺が広がっているの。私達の考えた方法では闇の書が完成した時しか封印が出来ない。だからその日まで、はやてにはここで穏やかに生活して欲しいのよ」

 

 現実とは残酷です。私の命は闇の書の完成までだと告げられました。いやや、死にたくない。シャマルも不安な表情を浮かべながら私を抱きしめます。そうやな、自分の存在意義を否定されてんのと同じやもんな。

 

 「それなら我々が蒐集しなければよいのだろう」

 

 シグナムが辛そうに言葉を発します。

 

 「それも得策かどうだか。今の闇の書は文献によれば暴走状態にあるのよ。あなた達は今までの主達の最期の姿を覚えてる?」

 

 4人は沈黙します。ロッテさん達曰く其れが闇の書の暴走の証拠だそうです。闇の書は完成すると暴走を始め、その場にある全ての物を破壊するそうです。

 

 「蒐集を行わなくてもはやての身体はどんどん蝕まれていく。はやてのリンカーコアと闇の書の結びつきはとても強いの。身体の麻痺という形で影響が出ている事からも分かるでしょう? 私達の計算だと10歳になる頃にはほぼ間違いなく命を落とすわ」 

 

 「そんな!! 嫌や、死にたくない!! 嫌やあああ!!」

 

 まさか誕生日の日に自分が死ぬ運命にある事を告げられるなんて。私は家族が増えて嬉しい気持ちから、絶望の底に叩き落とされました。

 

 「大丈夫だ、はやて。兄ちゃんが何とかしてやる。なあ、アリア。俺が闇の書の主になることは可能か?」

 

 ダメや兄ちゃん!! 其れは、それだけは!! 兄ちゃんを犠牲にして自分だけ生き残るなんて、そんな……。私はずっと兄ちゃんと一緒に居たいだけなのに。

 

 「其れは無理ですよ」

 

 兄ちゃんの問いにアリアさん達ではなくシャマルが答えます。

 

 「何故だ!! 血の繋がった兄妹なんだからそのリンカーコアとか言う物を俺に移植すればはやては助かるのではないのか?」

 

 「お兄さん、リンカーコアは魔術師の身体でしか存在しえない物なんです。残念ながらお兄さんには魔法の適正が有りません。それにリンカーコアはとてもデリケートなもので移植するなんて事、無理です。いくら身体の構成が近い血縁者でも其れは不可能なんです」

 

 シャマルが首を横に振りながら暗い声で説明しました。シャマルは蒐集する際、リンカーコアを扱う事がメインなのだそうでヴォルケンリッターの中では一番造詣が深いのだそうです。

 

 「お前達の技術では無理でも……。ロッテ、管理局の技術ではどうにか出来ない物なのか?」

 

 「現代の私達の技術でもそれは無理。むしろそっちの騎士さんの方が技術は上の筈よ。現代では失われて技術も蒐集したもの残っているでしょうし、彼女が無理って言うなら私たちじゃ力になれないわ」

 

 願いを叶える力を持ちながらも、そのあり方を歪められてる呪いの魔導書……。どうしたら良いんよ。

 アリアさん達の話は続きます。騎士たちの不完全な記憶の引き継ぎも、過去の持ち主による闇の書の改変が影響しているそうなんです。

 

 「“闇の書”は完成させれば願いをかなえる力を持ている。それを利用して“闇の書”を封印すれば、主は助かるのではないのか? 我々は主が助かるのなら封印されても構わない」

 

 「いや、其れは早計かもしれない」

 

 兄ちゃんはザフィーラの提案を否定します。暴走状態の闇の書を使ったら大変な事になるんだし、願いを聞き届けることは無いのではないかと。

 

 「本当に鋭いわね、管理局に嵐君が欲しい位よ。そうよ、“闇の書”には願いをかなえる力なんて無いわ」

 

 アリアさんの言葉は騎士たちに衝撃を与えました。アリアさん曰く願いを叶えるってのは、膨大な魔法を得る事によって大いなる力を手にするって事が歪曲されて伝わっているのだと。騎士達も改変の影響で完成後の事を覚えていないのだから勘違いしていても仕方がないって。それに完成すれば十中八九この海鳴市は壊滅してしまうとの事です。其れは最低の場合で、最悪は地球だけでなく周囲の星も巻き添えになるとか。

 アリアさんの言った言葉に私は恐怖を覚えます。私の知っている物語に出てくる物とは比べ物にならない規模です。

 

 「なら猶更蒐集なんて出来ないじゃないか!! ならなんで完成させる必要があるんだよ」

 

 「気持ちは分かるが落ちつけ、ヴィータ。それより、お前達はどのような方法で闇の書を封印しようというのだ。一度完成させる必要がある事は分かったが具体的な方法は? 主を救うためなら我らはどうなっても構わない」

 

 シグナムの言う通りです、一番肝心な部分がまだ聞けていません。それからアリアさんは告げます。彼女達の考えている封印法とは、完成した瞬間に出来る無防備な状態を狙って闇の書と私を魔法で永久凍結させるのだそうです。

その時以外、闇の書によるレジストの所為で封印するチャンスが無いのだそうです。

 兄ちゃんは黙って話を聞き続けていました。恐らく兄ちゃんは闇の書をどうにか出来ないか必死で考えているのだと思います。

 一方でヴォルケンリッターのみんなはとても辛そうでした。八方塞といった状況です。それに自分達が暴走状態にあるってことも知らなかったし、歴代の主や周りの人間を不幸にし続けていたという事実を突き付けられているんですから。

 その場を沈黙が支配します。

 

 「お前達が言っている事がおおむね正しいという事は理解した」

 

 そんな中、兄ちゃんが口を開きます。

 

 「お前達の事はある程度信用しよう。だが、情報源は何処だ? グレアムさんの胸三寸という事ではあるまい?」

 

 それに対しアリアさんとロッテさんは“無限書庫”というものの存在を告げました。それは時空管理局が管理している世界の様々な本が収められているデータベースの様な物だそうです。彼女達は提督であるグレアムおじさんの指示で其処から情報を収集したのだそうです。そこは無限書庫の名前に負けない位、膨大な量の本が収められているんだとか。

 

 「無限書庫にはある程度、闇の書のデータがあるってことか……。お前達は本当に全てを調べたのか?」

 

 「いえ、それは不可能に近いの。蔵書の量はきっと嵐君が想像している物よりもはるかに多いから」

 

 ロッテさん達の持つ情報が全てではないという事に私は少し安心します。まだ、どうにかできる見込みが有りそう……。でも、アカンわ。兄ちゃん相当頭にキてる。額には青筋が浮き出ています。情報収集が完璧でないのに行動を起こすのは愚かだ、不確定要素もあるのに貴様らははやてを犠牲にしようとしたのかって二人に対して怒鳴ります。

 

 「書庫と言う位だ。当然、司書もいるのだろう? ロッテ、自由に使える数は?」

 

 怒りを吐き出した兄ちゃんは再び冷静になり質問を続けます。要らん感情をため込んだ状態では判断力が鈍るって兄ちゃんは前に言っていました。

 

 「無限書庫の司書は管理局の要請で調査を行っているけど、膨大な量の蔵書を少人数で調べるから余裕がないの。お父様の名を使っても5人位……」

 

 兄ちゃんには何か案が思い浮かんだのでしょうか。私はそれに懸けるしかありません。でなければこのまま封印されてしまうのですから。

 

 「そうか。なあ、ロッテ。デバイスとはある意味コンピュータの様なものと考えて大丈夫なのか?」

 

 「まあ、色々違う部分はあるけどそれで良いと思う。魔術師の演算を補助するための物だから。実際AIを積んだデバイスもあるし」

 

 「闇の書もそうなのか、シグナム?」

 

 「はい、デバイスは先の説明にも有りましたが魔導師の杖の様な物です。我々も主を守護する為のプログラムにすぎません」 

 

 「完成させるには魔法使い達からリンカーコアって物を奪うしか方法は無いのか? 代替品を用いる方法は? 必要な量は? 答えられるか、シャマル?」

 

 兄ちゃんはロッテさんやヴォルケンリッターのリーダーであるシグナム、リンカーコアの知識が優れているであろうシャマルに矢継ぎ早に質問をします。

 

 「蒐集自体は魔導師だけでなく魔法生物からも行えます。だからもしかすると魔力炉のような物からも行えるかもしれません。完成に至る量は闇の書のページが666ページ全て埋まる分という事までしか」

 

 シャマルの答えに何か思い当たる事があるのかアリアさんが口を開きます。

 

 「非生物からでも蒐集が可能なら代替品に当てがあるかも知れない。ついこの間ロストロギアが地球にばらまかれたって事件があったの。その時ばらまかれたのがジュエルシードって奴で高出力の魔力を持っているってデータが提出されたわ。しかもジュエルシードは願望を叶える力も持っている」

 

 「なあ、ならそのジュエルシードってので闇の書の暴走を止めたりとか出来んの?」

 

 そのジュエルシードって奴で願いを叶えてしまえば良いやん。闇の書のバグを直しいてくださいってお願いすれば解決やな。

 

 「主はやて、その方法は難しいかもしれません」

 

 私の提案はシグナムに却下されました。古代から存在するヴォルケンリッター達もジュエルシードについての知識を持っているそうなのです。ジュエルシードの願望を叶える力は不安定で少しでも雑念が有ったりした場合、願いを聞き届けることは難しいと。ジュエルシードの使い方は元々その高出力な魔力を利用した魔力炉なのだそうです。

 

 「そうね、ジュエルシードは研究目的なら使用できる可能性はあるけど、願いを叶えるために使いたいっていうのでは貸し出しの申請は間違いなく通らないわ」

 

 グレアムおじさんの名前を使えば、ジュエルシードを貸してもらえること自体は出来なくもないとの事でした。

 ジュエルシードは発掘したスクライアって一族が、事故で地球に落としてしまったのだそうです。最近になって回収が終わり、現在は時空管理局が保有しているのだとか。そういうヤバいものを保管しとくのも時空管理局の仕事なのだそうです。そこでグレアムおじさんの名前と提督って役職が利用できそうなのです。

 

 「魔力炉としての側面から、願望器として使うよりも蒐集用に使う方が危険性は低いと思います。一番確実なのは、やはり魔導師や魔法生物からの蒐集ですけど」

 

 情報としては知っているけど実物は見た事が無いので確実ではないですが、とシャマルは付け加えます。彼女自身の意見としては可能だろうとのことで、僅かですが希望が見えてきました。

 

 「前の闇の書事件からは11年しか経っていないのだろう? なら被害者家族の数も多いのだろうな。もしはやてが主だという事が分かれば風当たりは強いのか?」

 

 「そうね、被害者はかなりの数に上るわ。勿論管理局の中にも」

 

 「いくらはやてに責任がないとしても主という立場だけで責められる可能性も無いわけではないわ」

 

 アリアさん達の言葉を聞いて私は悲しくなりました。だって私のせいではない罪まで背負わなアカンとか理不尽過ぎるでしょう。それを被害者遺族は分かってくれないかもしれんなんて。私より前の主達に会えるなら一度ぶん殴ってやりたいわ。

 

 「しかしはやてはまだ何の罪も犯していない。仮にお前達の計画とは違う方法で闇の書をどうにか出来そうだといったら、管理局は協力出来るか?」

 

 「仮にあるのだったら話だけは聞くわよ。でも、別の方法が有るなんて思ってるの?」

 

 「ある。前提条件は全てクリアだ。合法的な手段で、尚且つはやてを犠牲にせず、被害も最小限に食い止める方法を思い付いたぞ」

 

 兄ちゃんが打開策を思い付いたみたいです。やっぱ私の兄ちゃんはここぞという時で違います。

 

 「ロストロギアである闇の書を時空管理局に渡す」

 

 「はぁあ!? 主の兄ちゃん、なんて事言ってんだよ!!」

 

 「そうです!! 何をおっしゃるのです!!」

 

 兄ちゃんの言った事に、ヴィータだけでなく寡黙っぽい雰囲気のザフィーラですら思わず叫んでしまっていました。シグナムとシャマルも何を言っているのだと唖然としています。

 

 「話は最後まで聞け。俺の考えている案はヴォルケンリッターと時空管理局の協力が必要不可欠だ」

 

 兄ちゃんの計画は闇の書をロストロギアとして管理局に預け、研究という形で封印以外の方法で暴走を食い止めるという物でした。管理局の研究機関を利用するか専門の部署を設立して解析にあたれば良いのではというのです。その際、ヴォルケンリッター達のデータも採取し闇の書のバグを修正できるのではないかと。

 無限書庫からの情報収集も公的な立場ならアリアさん達が知りえない部分も深くまで探す事が出来る。蒐集を行わない場合、まだ一年近く猶予はあるから不可能ではないんじゃないかと。間に合わなければ、ジュエルシードを利用し生き物のいない場所で完成させ封印すれば良いって兄ちゃんは言います。

 失敗したら兄ちゃんも一緒に封印されてやる。だから寂しくは無いぞなんて言われたら反対できなくなるやんか。

 

 「無茶だよ、そんな簡単に管理局を動かせない」

 

 「いや、ロッテ。方法はある。世論を利用するんだ。その為にはやて、お前のプライバシーが無くなるかもしれない。それにヴォルケンリッターも不名誉な扱いになるかもしれないが、良いか?」

 

 「私は兄ちゃんと一緒にいられるなら……、プライバシーなんか無くても構わへん」

 

 「主はやてを封印などさせない。主を救うためならどのような汚名でも被ってみせましょう」

 

 「騎士の誇りとはやての命なら比べるまでもねえ」

 

 「はやてちゃんが助かるんでしたら構いません」

 

 「主を守る事こそ我らの存在意義。我々の事なら気にするな」

 

 私の決定という事もあるでしょうが、ヴォルケンリッターのみんなも兄ちゃんの案にのる事に賛成しました。

 兄ちゃんの計画は私の存在を管理局のお膝元で公表し、世論を味方にして管理局に働きかけるという物です。その為には私の足の事や、それと闇の書の関係、私の命のリミットを公表する必要があるんやって。

 

 「みんな好きだろう? “悲劇のヒロイン”は。はやての境遇を知れば被害者遺族以外の支持を得られる筈だ。其処に提督であるグレアムさんの名前まで加われば管理局も動かざるを得なくなるんじゃないか?」

 

 兄ちゃんにエンジンが掛かったようです。こういう時の兄ちゃんの口のうまさは、とても私では敵いません。気付いたらうまい事言いくるめられるんです。

 兄ちゃんの考えたシナリオはこうです。

 11年前の事件に関わりの深いグレアムおじさんは数年後、故郷に残る友人を失う。友人には息子と娘がおり、自分は両親を失った二人の後見人に就いた。

 それから数年間、何事もなく過ごしていたが、ある時から娘は原因不明の難病に苦しまされる。

 原因を調べていたグレアムおじさんはそれが闇の書の影響だと知る。そう、あろうことか闇の書は友人の娘の下に転生していたのだ。闇の書の事は医療関係の事を調べていたので発見が遅れた。責任を感じたグレアムおじさんは友人の娘の命を救うために闇の書の封印を計画する。

 しかし自分が考えた方法では娘が助からない。娘の身体に影響は出続けているが、闇の書自体は沈黙を保っているので迂闊に手を出す事は出来ない。

 グレアムおじさんが苦悩する中、遂に闇の書は復活の兆しを見せ、ヴォルケンリッターが姿を現す。娘への情を捨て切れないおじさんは、ついに魔法世界の技術を最大限に使う事を決意する。大体こんな感じです。

 

 「グレアムさんは黙っていたと責められるかも知れないが、最近になるまで知らなかった。友人の娘の命と提督としての立場で悩んだ結果だと言えば風当たりは弱くなるのではないか?」

 

 「でも被害者遺族は? はやての事など構わず封印してしまえばって意見が出るんじゃない?」

 

 多くの人の支持は得られるかもしれませんが、アリアさんの危惧の通り被害者遺族は納得しないかもしれません。

 

 「被害者遺族の説得は任せろ、考えが有る。それに俺は奇跡を起こす男だ。説得にはヴォルケンリッター達の協力が必要となる。お前達、俺がたとえどんな命令を下しても絶対に従う事が出来るか?」

 

 兄ちゃんの口のうまさは私が保証します。其れにあれだけ自信満々何だから秘策があるのでしょう。私は信じます。妹である私が信じずして誰が信じるというのでしょう。

 

 「お願いしてええか、みんな?」

 

 「「「「イエス、ユアマジェスティ!!」」」」

 

 それでこそ私の騎士団や。

 

 「身体への影響はリンカーコアとかいうのの未熟さが原因なのだろう? だからはやて、お前は魔法を学ぶ必要がある。はやての身体を魔法に適合させ、少しでもリミットを伸ばす。其れを闇の書の研究と並行させれば成功率は上昇する。どうだ、のるか?」

 

 兄ちゃんの話が終わると、暫らくしてロッテさん達を通してグレアムおじさんからの答えが伝わりました。結果は兄ちゃんの賭けにのるとの事です。失敗した際はグレアムおじさん達が考えていた封印法を取るのだから、悪あがきに賭ける気になったのでしょう。

 

 「それではアリアとロッテ。お前達はグレアムさんの元へ戻り、計画の準備を行ってくれ。管理局の本拠地で動くための足がかりが欲しい。それと闇の書が見つかったという噂を流せ」

 

 兄ちゃんは闇の書をアリアさんへ投げ渡します。ナイスキャッチ!! ヴォルケンリッターの皆はあまり良い顔していませんが。そりゃあ自分達も本体を粗末に扱われれば仕方ないかもしれへんな。でも、兄ちゃんにとっては私の命を脅かす呪いの書なんやから、其処は我慢してもらわんと。

 

 「分かったわよ、私達の都合の良い様に情報を操作しておけばいいのね」

 

 「長くても二カ月以内に呼べるように努めるわ」

 

 そう言うとロッテさんとアリアさんは再び猫の姿に戻り窓の外へと去って行きました。

 

 「はやて、俺達はロッテ達の準備が整い次第、管理局の本拠地へと乗り込むぞ。ヴォルケンリッターは其れまで俺達の警護とはやてへの魔法の指導を行ってくれ」

 

 「「「「イエス、ユアハイネス!!」」」」

 

 それからようやく私達は就寝する事が出来ました。時計を見れば夜中の三時。こんな遅くまで起きていたのは生まれて初めてです。私は再び兄ちゃんと一緒のベッドへ。ヴォルケンリッターの皆はそれぞれ空き部屋に寝る様に指示しました。空き部屋と言っても兄ちゃんが日ごろから掃除しているのですぐに使っても大丈夫なようになっています。

 本当に怒涛の一日やった。幸せな誕生日の筈が、自分の騎士団を持ったり、魔法の存在を知ったり。あろうことか私の命の期限を知ったのが一番シンドかったわ。

 でも、兄ちゃんたちが居てくれる。私も出来る事をやって絶対生きのびてみせる。

 

 「おやすみ、はやて」

 

 兄ちゃんは私を抱きしめて髪に優しくキスを落とします。私は兄ちゃんの腕に包まれて眠りに就くのでした。

 

 「おやすみ、兄ちゃん……」

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