魔法少女リリカルなのは 『やがみけ!! とあるシスコンの話』 作:Arc.
感想などございましたらよろしくお願いします。筆者の励みになります。
打撃系など花拳繍腿、関節技こそ王者の技よ。「力こそ正義」をモットーとする魔法少女が言っていました。関節技なら私でも幾らか覚えられそうやな。
どうもこんにちは、八神はやてです。聞いてください。私、魔法使いって事が友達のなのはちゃんにバレてしまいました。それだけやないです。なんとそのなのはちゃんも魔法使いやったんです。同じ街に二人も魔法少女がいるって凄くないやろか? ヴィータも入れると三人や。これであとカエルになった魔女とかいると素敵やと思いませんか? 関西弁やし私が青い娘担当やな……。 出来れば闘いとかじゃなく、子犬が大きくなったりとかファンシーな出来事に巻き込まれる様な魔法少女になりたいわ。そう思う、今日この頃です。
「ここがスーパー。デパートとは違って食料品が中心のお店だ。タイムサービスやらセールやら安く買い物できる機会が多いから結構利用させてもらってるんだ。これから一緒に暮らすんだからお前達も利用する事が多くなると思う」
着いた途端に、兄ちゃんはヴォルケンリッターのみんなにスーパーの説明をしています。普段よりもちょっとテンション高めやわ。兄ちゃん、スーパーが大好きやからな。ポイントカードとかも溜めていて、エコバックも当然持ち歩いてるんですよ。ほら、今も誇らしげにエコバックを懐から取り出してるし。
「今日の夕飯ははやてちゃんが作るんだよね? 私も何かお手伝いしようか?」
「ええって、なのはちゃん。今日はお客様なんやし。せやねぇ、人数も多いしカレーにでもしようかな」
「はやてのカレーか。美味しいから期待して良いぞ、ヴィータ」
「いきなり頭撫でるなよ、嵐にいちゃん。でも、楽しみだな。はやての料理は食べるの初めてだし」
「にひひ、期待してくれてええよ。『会心の一食』を御馳走したるから」
兄ちゃんの読んでる漫画のキャラの真似をして私はヴィータに笑顔を向けました。だってあの華麗なるカレー屋さんも同じ関西弁だし親近感がわいてもしょうがないやん。
「はやて、また俺の本棚から漫画を読んだろ? アレは少しエッチだから読んじゃダメだって前にも言ったよな?」
「いひゃいいひゃい。もう、ごめんって兄ちゃん。だってあれのレシピって結構参考になるから」
まあ、バレるわな。兄ちゃんエッチいのとか情操教育に悪い物は私から遠ざけようとするんです。でも、兄ちゃんが学校行ってる間に勝手に読んだりネットしたりしてるから私が一枚上手や。
ただ、ほっぺを引っ張るのは禁止やよ。私の顔が公衆の面前で見せてはいけない様になってまうやん。まぁ兄ちゃんも私の玉の肌に傷が付かんようにちゃんと加減してくれてますけど。
「嵐さんとスーパーでお買いもの……。良いわね、こういうの。何だか夫婦みたい、アタッ!?」
恋人をすっ飛ばして奥様気取りのスイーツ騎士は、最近ツッコミにまわされる事が多くなったシグナムに頭をはたかれています。どこから情報を得ているのでしょうか……。まだアンタ達が現れて一晩しか経ってないやん。
「今は四時か……。ちょうど肉が安くなる時間だな。ザフィーラとシグナムは俺と一緒に精肉コーナーについて来てくれ。はやて達は残りの具材を頼む」
兄ちゃんの目が狩人の物に変わっています。この時間帯はセール品に主婦たちが群がるからな。あれ? シグナム、兄ちゃんの顔を見つめてるけどどうしたん? もしかして真剣な表情した兄ちゃんに見とれてたんかな。
「どうかしたか?」
「いっいや。何でもないぞ、嵐。では行ってきます、主はやて」
「何かあればすぐに戻りますので」
「はいな。行ってらっしゃい」
ザフィーラ、意外と過保護なんかな? 去り際にそんなん言うって。兄ちゃんは二人の手を引き、足早に店内へと消えていきました。
「私は置いてきぼりなんですか。シグナムとザフィーラだけずるい……」
「シャマル、此処のタイムセールは一種の戦場なんよ。たぶん兄ちゃんはフィジカルが強そうな二人を選んだだけやから。それより、私達も買い物行くえ」
兄ちゃんと別れた私達は一先ず野菜売り場へと向かいました。シャマルが私の車椅子を押してくれて、なのはちゃんのヴィータが両隣を歩いてくれます。ヴィータは物珍しいのかスーパーの中をきょろきょろ見回していました。
「ふふ。ヴィータちゃんって可愛いね」
「せやろ、なのはちゃん? ちょっと世間知らずなトコがマジプリティなんよ」
身体のサイズの合わないカートを押して周囲を見回すヴィータの姿が可愛らしくて、私となのはちゃんは思わず頬を緩ませます。
ちょうどお菓子売り場を通りかかった時も……。
「美味そうなお菓子が沢山!! なあ、はやて。買って良い?」
「一つだけならええよ。桃子さんに貰ったシュークリームが有るからな」
「分かった!! ありがとうはやて!!」
無邪気でかわいいわぁ。可愛いは正義ってある意味真理なんやなかろうか。
「ヴィータちゃん、楽しそう。あの子があんな風に笑うなんて、今までの主では考えられなかったわ」
兄ちゃんが居ない事に少ししょんぼりしていたシャマルが、そうポツリとつぶやきます。
「そうなん?」
「ええ。闘いの中に身を置かない日々って良い物なんだなって思っちゃいます」
そうやったな、ヴォルケンリッターの皆って騎士やから闘う事が仕事みたいなもんやろうからな。それに朝食の時の様子からも、私より前の主達からはそれほどいい扱いを受けていなかった様に感じられたし。
「はやてちゃんみたいな優しい主に出会えましたし。何よりも、嵐さんと出会えた事が……。ごめんなさい、はやてちゃん。私達って所謂プログラムだから、一人の女性としてあんな風に優しくされた事ってあまり無いんですよ」
そっか。朝に兄ちゃんに抱きとめられてからベタベタしてるんはそういう背景もあったんやねぇ。その惚れっぽさに納得したかも。
「じゃあ、シャマルも他の皆ももっと笑える様な日が過ごせるようにせんとな」
「そうですね。だから私の事はお姉ちゃんって呼んでください。将来そういう間柄になるし、義妹と仲良くする事も家庭円満には必要な事だと思いますから」
一瞬でも同情した私が間違いやったかも……。この女、言うに事欠いて義姉と呼べやと? ええ度胸や。
「はぁ? 認めへんえ!! 誰がシャマルに兄ちゃんをやるもんか。兄ちゃんはこれまでもそしてこれからも私の物や!!」
「あら? 兄弟では結婚なんて出来ないわよ、はやてちゃん? 私達騎士ははやてちゃんを守護する者だから私と嵐さんが結ばれてもずっと一緒なのに……」
「ダメや!! シャマルにも、もちろんシグナムにも兄ちゃんはやらん」
「おっ抑えて、はやてちゃん!! シャマルさんも喧嘩しちゃダメなの!! 他の客さんも見てるよ」
なのはちゃんが私とシャマルの間に入り仲裁します。そうや、此処はスーパーやった。私達は知らないうちに他のお客さんの注目を集めてしもうてたみたいです。うぅ、恥ずかしい。
「ごめんなさいね、なのはちゃん。はやてちゃん、私も大人げなかったみたい」
「兄ちゃんの事は認めへんけど、私にも非が有ったわ。大きい声出してごめんな、なのはちゃんもシャマルも」
「にゃはは。やっぱりみんな仲良くしないとね。ああ、良かった」
なのはちゃんに免じてって部分もあったけど、やっぱ喧嘩はアカンからな。シャマルも謝ってくれたし、此処は抑えとこう。
「でも、新鮮です。主とこういう言い争いをする日が来るなんて今まで考えもしなかったわ」
私がそんなことを考えていると、シャマルは笑顔でそんな事を言い出しました。せやったね。今の環境が新鮮なんやろうし、私達には言えない辛い事とか経験してるかもしれんし。
「良いじゃん、シャマル。だってはやても嵐にいちゃんも私達の事を家族だって言ってくれてんだし」
いつの間にかヴィータが戻ってきたみたいやな。その手にはビッグサイズのポテチが握られています。
「せやね、私達は家族なんやからこの位の言い合いならたまにはええかもな」
「ありがとう、はやてちゃん。それと私達の昔の事は気にしないでね。正直、暗い過去がとか影を落とすみたいなの私嫌いだから。はやてちゃん達が居るし、過去の事なんてどうでも良いわ。あと、シグナムに渡さないってのは同意します」
「その一点なら協力できそうやな」
私とシャマルは目から火花を飛ばしつつも硬く握手をしました。これから私とシャマルの関係は兄ちゃんをめぐるライバル兼戦友として定着しそうです。ヴィータも来た事ですし、そろそろ野菜売り場に移動しようか。
「普通のカレーもええけどせっかくやしシーフードカレーにでもしようかな?」
途中にある鮮魚コーナーでどうやらセールがあってるみたいでした。ふとそんな事を呟くとなのはちゃんが口を開きます。
「だめだよ、はやてちゃん。シーフードなんか入れたらカレーが死んじゃうよ」
「いやいや、なのはちゃん。カレーは強いんよ。シーフード入れた位じゃ死なんって」
「美味しいならどっちでも良いよ。早く野菜も買っちゃおうぜ」
私となのはちゃんがカレーの具材の好みで話しているとヴィータが買い物かごの中にイカとエビのパックをねじ込みます。気勢がそがれたな。
「ごめんな、なのはちゃん。今日はシーフードが入る事は決定みたいや」
「うん。ヴィータちゃんが食べたいなら反対するのもアレだしね」
その後、ジャガイモとニンジンと玉ねぎを買い終えた私達はレジの所で兄ちゃんたちと合流しました。それにしてもザフィーラが良い顔しとるな……。兄ちゃんは満足げって感じで微笑んでおり、一方でシグナムは少々ボロボロと言った様子でした。
「主婦という者があれほどパワフルとは思いませんでした……」
ああ、シグナムは商品に群がる主婦から洗礼を受けたんかな。きっと、普通に突撃したんやと思うけど、それじゃアカンよ。
「目的の物も買えたし、嵐には指揮を執る才能が有るかもな」
「そんな事は無いさ。ザフィーラが俺の指示通りに動いてくれたから買えたんだよ」
帰り道では兄ちゃんとザフィーラがセールの様子を語ってくれました。タイムサービスが開始された途端に、兄ちゃんの制止を振り切ってシグナムが突撃したみたいなんですけど
歴戦の猛者たちに撃退されたんだとか。私の予想が当たりました。次に兄ちゃんの指示を受けたザフィーラが突入して、見事目的のお肉を買えたんだと。
「あれほど動きやすい指示は中々ない。参謀であるシャマルに匹敵するか、もしくはそれ以上かもしれん」
ザフィーラはよっぽど楽しかったのでしょう。興奮気味に事のあらましを語ります。これなら今度から買い物担当になってもらうのもええかな? 兄ちゃんやと色々と心配せなアカンかったし。前に観た時は主婦の人らが商品でなく兄ちゃんに群がりそうになってたんよ。じゃあ今までは如何してたのかって? タイムセールの際にに態々変装してたんです。キャップとグラサン程度ですけど。今回素顔で来たのはヴォルケンリッターていう駒が手に入った事で勝算があったからやろな。
「持ち上げ過ぎだそ、ザフィーラ。俺の憧れる人物が軍略を得意としていたんだ。だから俺も真似して色々学んでいたら身についたってだけさ。チェスってボードゲームとかに手を出したりさ」
そうやね、懐かしいわ。例のアニメの放送当時、兄ちゃんって出来もせんのにチェス盤買って来て、ルールブックとにらめっこしながら覚えたりしてたわ。それよりもシーツとフルフェイスのヘルメット被って夜な夜な高笑いの練習していたのが印象深いけど。兄ちゃんに憧れを抱く女の人達には絶対に見せられん様な中学生やったな、当時は。その姿を見て『厨二病』というものを“頭”ではなく“心”で理解した八神はやて五歳の春でした。
「嵐さんも軍略が好きなら一度じっくり語り合いましょうよ。部屋のカギは空けておきますから夜通しでじっくりと。それにチェスってボードゲームにも興味出てきました」
「そうか。それなら今度一緒にチェスを打とう。それに参謀のシャマルなら俺の知らない戦略とか色々教えてくれそうだな」
「本当ですか? 嬉しい♪ 勿論ですよ。色々とお互いの事を知っていきましょう」
シャマルってば、兄ちゃんの手を両手でぎゅっと握ってるわ。何処のラブコメや。兄ちゃんの趣味を持ちだし部屋に呼ぼうだと? こんな悪魔の様な策略を思い付くとは……。おのれ、シャマル!!
「ごほん。私もヴォルケンリッターの将として戦略を知る事は必要だと感じる。だから嵐よ、私も一緒に良いか?」
「ええぇ、シグナムは別に良いでしょ?」
「良いじゃないか、将なら指揮を執る立場なのだし。俺は構わないよ」
「そっ、そうか。楽しみにしている!!」
此処に来てシグナムも参戦か。此処で退いたら女がすたるわ。
「チェスも良いけど日本には将棋って物もあるんよ。こっちなら私は兄ちゃんより強いんや。せっかくだからリビングにいる時に皆で交代でやるってのも楽しそうやないかな?」
「そうだな、皆で覚えて遊ぶって方が良いかもな。良い提案だ、はやて。愛しているぞ」
んふふ、私も愛してるで。兄ちゃんからご褒美のナデナデが入りました。ふふん、シャマルのシグナムも甘いわ。これが幼いころから共に暮らす妹の実力やよ。
「嵐さんってやっぱりシスコンですね。うちのお兄ちゃんでもそこまでは流石に……」
「シスコン? なのは、俺ははやてを誰よりも愛している。シスコンとは俺にとって誉め言葉だ。シスコンとは忠義いや、はやてに対する愛情の名だ」
「いや、それもどうかと思うよ」
「うんうん」
私の言葉をなのはちゃんは首を縦に振って肯定します。こういう所で意見が一致してるのも仲良い理由の一つかもしれんわ。あと、なのはちゃんもお兄ちゃん大好きって事は知ってるしな。高町家は互いの事をオープンにしないみたいやけど、我が八神家は愛所表現は全開です。
それから五分程歩き、私達はようやく自宅へと到着しました。随分と長い間外出してた様な気がするけど、きっとそれは気のせいや。
「よし、今日はこのはやてちゃんが腕によりをかけて御馳走するから皆期待しとってな!!」
家に着くと、先ずは全員で手洗いなどを済ませ、なのはちゃんをリビングに案内しました。私はそれから兄ちゃん手作りのエプロンを身につけキッチンに向かいます。
「妻たる者、料理は出来ないとね。私も手伝うわ、はやてちゃん」
シャマルが待ち構えているだろうという事は予想していました。まぁ、手伝う事を許したろうかな。
「じゃあ、なのはちゃんにお茶を出してな。ヴィータの分も頼むで」
他の三人は今日デパートで買った物を出したり、部屋を整理したりしてる筈です。兄ちゃんが居るから何の問題もあらへん。シャマルは少々危なっかしい手つきでお茶を入れるとリビングにいる二人の元へ向かいました。うん、やっぱあの手つきを見る限り料理は地雷っぽいな。朝の洗い物でもヤバそうやったし、リスクを冒す必要は無いやろ。料理は時間のある時に兄ちゃんか私で……、いや主である私が教えてあげればいいか。今日は簡単なサラダでも作ってもらおう。
「美味しい!! はやてちゃん、腕をあげたね」
「良かった、シーフード入りもイケるやろ? なのはちゃん」
「うん、カレーって強いね。死んでないよ、全然」
私達の会話を聞いてスーパーで一緒にいなかった兄ちゃんたちはキョトンとしていました。うん、今回も良く出来てるわ。魚介を石田先生が置いていった白ワインででフランベしたのが良かったかな? 嫌な臭みは抜けてるのに魚介の風味はちゃんと残っとる。
「嵐にいちゃんの言ってた事は本当だったな!! はやての料理もギガ美味だ!!」
ヴィータの満面の笑みを見て頑張った甲斐が有ったと思います。美味しそうに食べてくれて、料理人冥利に尽きるわ。
「これがあの肉か……。美味い」
ザフィーラは自分が手に入れた肉を感慨深げに見つめると、記憶に刻むかのように良く味わっていました。大げさやなぁ。でも頑張ってゲットしたみたいやし気持ちは分からなくもないわ。
「嵐さん、このサラダは私が作ったんです。沢山食べてくださいね。はい、あーん」
「ああ、ありがとうシャマル。うん、美味しいよ」
シャマルは兄ちゃんにフォークでサラダを差し出しています。兄ちゃんは其れを照れる事無くパクリと食べました。シャマルは頬を染めて喜んでいますけど、もしかして間接キスか? 何か物凄く幸せそうな顔してるので此処は我慢してあげとこうか。
「そのだな、嵐。良かったら私の分も食べて良いぞ?」
「いや、せっかくシャマルが作ったんだから食べてあげろよ」
「それならあたしが貰ってやるよ。サンキュー、シグナム」
ありゃあ、シグナムは兄ちゃんに差し出したは良いけどヴィータに食べられてるわ。今回はシャマルが優勢か。まあ、元気出しいてシグナム。もしかしたらシグナムも何か手料理作れば兄ちゃんが食べてくれるかもしれんで。そんな感じで励ましたら、シグナムの目に光がともりました。これは敵に塩を送ってしまったようや。今度の休みははやてちゃんによるシャマルとシグナムへのお料理教室を開催せなアカンかな。
そんな感じで夕飯を食べ終えたらいよいよ本題へと移りました。片付けを終えて食卓で、私達となのはちゃんの会談が始まります。テーブルを挟んで私となのはちゃんが向きあい、私の後ろにはヴォルケンリッターの皆が控えてくれています。私の友人と言う事もあり、昨日のロッテさん達とは違い警戒心は薄いように感じます。まぁ、同じ釜の飯を食った間柄やしな。兄ちゃんは所謂お誕生日席で私達の事を見守っています。ってか兄ちゃんはリラックスしすぎやよ。何一人だけ紅茶を啜ってるん。
「知ってると思うけど、私は魔法使いなんよ。なのはちゃんもそうなんやってな?」
「うん、そうだよはやてちゃん。暫らく会えなかった事もあったけど、その頃に魔法に関わってね」
「そうなんか。なら私の先輩やな。私が魔法に関わりを持ったのは昨日からや」
「ええっ!? じゃあ、はやてちゃんは時空管理局って組織は知らないよね?」
「うんにゃ、知っとるよ」
あれー? これは思いのほか簡単に片が付くかも……。何か、兄ちゃんが余裕な理由が分かったかもしれへんわ。
「ほら、私達の後見人にグレアムおじさんっておったやろ?」
「うん。はやてちゃんと嵐さんの口から何度か耳にした覚えが有るけど……」
「そのグレアムおじさんって管理局のお偉いさんやよ」
ああ、なのはちゃんが固まってる。其処からは簡単でした。私達兄妹とグレアムおじさんの関係を、昨日兄ちゃんが考えたシナリオ通りに説明しただけです。勿論、闇の書と私の身体の関係の事も含めて。なのはちゃんに嘘をつくのは心苦しいものがあったけど、アレがベストやと思ってるからな。まあ、誤算と言えばその話での私の境遇を聞いたなのはちゃんが泣きだしてしまった事やろうか。
「うっ……、ぐすっ。はやてちゃん、辛かったんだね……。グレアムさんも頑張ったのにこんなの悲しいよ……」
うわぁ、無茶苦茶心が痛い。純粋な子に嘘をつくのって相当こたえるわ。大筋は本当の事やけど、全部真実を語ってしまったら兄ちゃんの計画は台無しやからな。ごめん、なのはちゃん。
「だっ、大丈夫やよ。兄ちゃんも、それにヴォルケンリッターの皆もいるし。それになのはちゃんだっていてくれてるんやから」
動揺した為か少し早口になってしまいました。
「ヴォルケンリッターの皆さんも辛かったですよね。ひっぐ……、可哀想。可哀想だよぉ……」
「いや、高町。過去の我々は主の命令に従っていたに過ぎない。それに今は主はやての命が大切だ。主はやての為なら我々の存在など惜しくない」
なのはちゃんは遂に声をあげて泣き出してしまいました。アカンって、シグナム。日本人てのは愚直なまでに主に従う姿や献身的な忠義だとか、そういうんには弱いんやで。取り敢えずなのはちゃんにハンカチを渡し、泣きやむまで待ちました。どうしてこうなった……。
なのはちゃんが泣きやんでから、私達は一人で余裕ぶっこいてる兄ちゃんに矛先を向けました。
「なぁ、兄ちゃん。何でそんなに落ち着いてんよ?」
「そうですよ、嵐さん。私はやてちゃんがこんな状況だって知りませんでした。もし私がはやてちゃんと敵対する事になったらどうしたんですか?」
兄ちゃんは優雅にティーカップを置きます。悔しいけど、相変わらず様になるわ。
「いや、なのはがはやてと敵対するなんてありえないだろう? それにな……」
そう言いながら兄ちゃんはポケットから携帯電話を取り出し不敵に微笑みます。なるほどな、そういうことか。
「俺に魔法は使えない。だが魔法以外のものを使えばどうとでもなる。荷物の整理をする時に国際電話でグレアムさんに連絡を取ったんだ。その時なのはの事も聞いたよ。それにハラオウン親子の事もな」
何でそんな重要な事を黙ってんねん。それじゃ今までのやり取りは無駄になるやん。ってかハラオウン親子って誰よ?
「ハラオウンって、じゃあ嵐さんはリンディさんとクロノくんの事を知ってるんですか?」
「いや、直接の面識は無い。だがこの親子は俺達と無関係とは言えない」
兄ちゃんの説明によるとそのハラオウンさんって方達はグレアムおじさんが闇の書の事件の際に亡くした部下であるクライド・ハラオウンさんの遺族なんだそうです。奥さんのリンディさんは時空管理局の提督で、息子のクロノさんは執務官って役職についてるんだとか。しかもそのクロノさんってロッテさんとアリアさんのお弟子さんらしいです。
「クロノくん達も闇の書の被害者だったんだ……」
「なぁ、なのは。お前が魔法に触れるきっかけとなった事件と言うのはジュエルシードの一件なのだろう?」
「はい。ユーノくんって子の念話を拾った事でジュエルシードの回収のお手伝いをする事になって。その時管理局が派遣したのがリンディさんやクロノくん達なんです」
そっか、だからなのはちゃんは暫らく会えへんかったんか……。って、ジュエルシード!? ロッテさん達の言ってた事件に関わってたん!?
「そうか。なのは、頼みが有る。俺たちに協力してくれないか? このままだとはやては10歳まで生きられないかもしれないんだ」
それから兄ちゃんは闇の書のバグ修正計画についてなのはちゃんに語りました。管理局を利用するとか、そういう部分は手伝ってもらうとかそんな感じに言い換えて。やること自体はこの世界を救うことにも繋がりますから、なのはちゃんは説明を聞き終えると協力の意思を示してくれました。
なのはちゃんとの会談は正直拍子抜けって感じでした。それから私達は翠屋でいただいたシュークリームを食べて、ティータイムを楽しみました。
「へぇ、魔法ってビームが撃てるんか? 凄いな」
「ビームとは違うけど……。あと、バインドとかプロテクションとか色々あるんだよ」
「じゃあ私もビーム撃ったりバリア張ったりできる様になるんかな?」
「あたし達のはベルカ式だからなのは達のとは違うぜ。まあ砲撃魔法も防御魔法もあるけど」
私となのはちゃんとヴィータが中心になって魔法談議に花を咲かせます。なのはちゃんは魔力量や収束能力に優れているらしくて堅牢な防御と行為力の砲撃が自慢なんだとか。ああ、やっぱり闘う魔法少女なんか。
「でも羨ましいわ。防御と攻撃の両立って絶対○護領域と拡散○造相転移砲持った蜃○楼みたいやん」
「私って、ロボット扱い!? ふははとか笑ったりしないよ」
なのはちゃんってゲームもやるからネタについて来てくれるんよな。空高く舞い上がったなのはちゃんからの砲撃。何でやろ? 一瞬、蜃○楼よりもっと別の物が浮かんだわ。はっ!? 天空要塞“なのクレス”……。アカン、これは恐ろしい。
一方の兄ちゃんはというと早速部屋からチェスボードを持って来て、他の三人にむけてルールの説明などを行っていました。
「此処からだと、ポーンはb-5に動かせる」
「なるほど。でもこのナイトって駒の動きは独特ですね」
「シャマル、嵐にくっつき過ぎだ」
兄ちゃんとのチェス談議はヴォルケンリッターの参謀であるシャマルが中心になってるみたや。シャマルの過剰なスキンシップはシグナムが防波堤になってくれてるみたいやから、まあ安心かな。ザフィーラは兄ちゃんの持ってきたルールブックをじっくりと読んでるみたい。チェスは兄ちゃん程じゃないけど私も打てるから、皆でやる時は腕を披露せんとな。
「今日は楽しかったよ。ありがとうね、はやてちゃん。嵐さんもヴォルケンリッターの皆さんも、お世話になりました」
「ええよ、なのはちゃん。また来てな。あと、今度からはメールやなくて念話でも連絡取れるな」
「そうだね、何かあっても無くっても連絡してね。私からも色々送るから」
「うん、勿論やよ。何時でもおしゃべりできるな」
「もう帰っちゃうのかよ。何時でも来いよ、なのは。またおしゃべりしような!!」
「うん、ヴィータちゃんもまたね」
「気を付けて帰れよ。おうちの皆さんにもよろしく言っといてくれ。ザフィーラ、頼んだぞ」
「任せろ、嵐。それでは行くか、なのは」
「はい、お願いします。ザフィーラさん」
時間が九時をまわる頃、なのはちゃんは帰宅の途に着きました。子供の一人歩きは危険やからザフィーラに家まで送る様にお願いしてます。なのはちゃんは魔法もあるし悪いよって遠慮してたけど、そういう事はちゃんとしとかんとな。なのはちゃんは玄関先で見送る私達に手を振りつつ帰っていくのでした。
「なのはがジュエルシード事件に関わっていたのは嬉しい誤算だった」
なのはちゃんの姿が見えなくなると兄ちゃんはそんな事を呟きます。
「ユーノというのは恐らくスクライア一族……。闇の書事件の遺族であり管理局内でも力を持つであろうハラオウン親子とも繋がりが有るか。ふははははは」
また悪い顔して高笑いしてるわ。兄ちゃんこの時間やとご近所の迷惑になるから自重しような。
リビングに戻ると私は兄ちゃんに何故なのはちゃんと私に話し合いをさせたのか問いました。兄ちゃん曰く、事情は本人から伝える方が良さそうだったからと。それに友人同士だから心象も良くなるだろうからって。そうやね、確かにそうかもしれんわ。なのはちゃん、ごめんな。私も命が懸かっとるから、これから色々と協力してもらうことになりそうやよ。
それから私はヴィータと共にお風呂に入り、二人で就寝しました。誕生日とか特別な時やないと兄ちゃんと寝れんのですよ。今日は長い一日やったな……。おやすみなさい。