魔法少女リリカルなのは 『やがみけ!! とあるシスコンの話』 作:Arc.
はやてが少しだけブロンティストになってます。
鷹村VSホーク戦も良いですが、木村VS間柴戦も良いですよね。ドラゴンフィッシュブローって格好ええわ。シュッシュッ、平日の昼間は兄ちゃんもいなくて暇なので、ついつい電灯の延長コードでシャドーボクシングしてしまいます。今はヴォルケンリッターの皆が居るから自重せなアカンやろうけど。
皆さんごきげんよう、八神はやてです。昨日はヴォルケンリッターのみんなの買い物に行った筈が、なのはちゃんに魔法の事についてバレて、しかもなのはちゃんまでもが魔法使いだったという事が発覚するなんていう訳の分からない一日でした。夢みたいな出来事の連続だったけど、これ現実なんよな……。
「むにゃ? あっ、はやて。おはよう……」
「おはようさん、ヴィータ」
そうやった、ヴィータと一緒に寝てたんやっけ。私がまどろみの中、昨日の事を振り返っていると隣で寝ていたヴィータが目を覚ましました。私のお下がりでは無くデパートで買った真新しいピンクのパジャマを身につけています。ヤダ、この子。ホンマにかわええわぁ。
現在、朝の7時。日曜日なんで少し遅めの時間です。毎朝兄ちゃんが起こしに来てくれるんですけど、平日だとお弁当づくりもあるので、今日より一時間程早いんです。うちは両親が他界しているのでお弁当の用意とかは兄ちゃんが自分でやってるんです。
そろそろ兄ちゃんが起こしに来てくれるやろ? ほら来た。
「はやて、ヴィータ、おはよう!! 今日も良い朝だな!!」
寝室のドアが勢いよく開くと、キラキラした光が幻視しそうな位に爽やかな笑顔を浮かべた兄ちゃんが現れます。
「もう、朝から五月蠅い!! おはようさん、兄ちゃん!!」
「おや、寝起きで機嫌が悪いのか? ふふふ、仕方ないなぁはやては。ほら、可愛い顔をよく見せておくれ」
兄ちゃんはベットの傍に近付くとハンカチを取り出し私の目元や口元を拭います。それが終わると「うん、何時も通り可愛くなった」とか言いながら私の頬にキスをし、手櫛で寝癖を直してくれるんです。朝から相変わらずスキンシップが激しいですけど、言っても治らないし、治っても寂しいと思うので私はされるがままに身を委ねるんです。
「おはよう、嵐にいちゃん。なあ、はやて……。毎朝こうなのか?」
ヴィータはすっかり目が覚めたみたいやな。私達の朝の日課を少し呆れながら、そう言葉を放ちます。私は苦笑いしながら肯定の意味を込めて頷きました。
「おはようヴィータ。どうした? 寂しいなら、はやてと同じようにやってやろうか?」
「うえっ? 良いよ、そんなの!! 遠慮する、遠慮しときます!!」
流石にヴィータは嫌がる様やな。勢いよく首を横に振っています。まぁ、これは私の妹としての特権みたいな物やからなぁ。兄ちゃんもふざけて言っただけみたいで、「冗談だよ。そんなに嫌がらずとも良いのに」なんて笑っていました。
「もうすぐご飯の支度が終わるから、二人とも着替えてから下においで。ヴィータ、はやての着替えの手伝いを頼むな」
兄ちゃんはヴィータの長い髪を整えながらそう言います。朝からナチュラルジゴロモードは健在なようやな。
「あうぅ、分かったよ。任せろ」
「そうか。お願いするよ、ありがとう」
「ほなら、ヴィータ。頼むわ。兄ちゃん、私達着替えるから早よう出てってな」
兄ちゃんは自分で頼んでおいて、私の言った言葉に反応し少し寂しそうな目を向けてきます。何時までも妹離れが出来ない兄ですが、こういう部分が可愛いので大好きなんです。「私の兄ちゃんはこんなに可愛い」って声を大にして叫びたいのですが、それは流石にアレですね。
何時も通りのやり取りをし、兄ちゃんが退室すると私達は着替えをし、洗面所へと向かいました。ヴィータもかいがいしく世話をしてくれて嬉しいわぁ。もう、この娘大好きや。
「おはようございます。主はやて、ヴィータ」
洗面所では下着姿のシグナムが首にタオルをかけて涼んでいました。髪が湿っていますし、朝風呂入ってたみたいや。シグナムはお風呂が好きみたいです。昨日も雑貨コーナーにいる時はバス用品を熱心に眺めているみたいでしたから。
「おはようさん、シグナム。ええ匂いや、昨日買った石鹸を早速使ってるみたいやな」
「おはよう、シグナム。朝から入るとかホント気に入ってんのな」
「以前の主の下では満足に入浴など出来なかったので……。それはヴィータも知ってるだろう? それにしてもあの石鹸は素晴らしいです。ほら、肌もすべすべですよ」
二の腕にそっと触れてみました。ホント、すべすべや。湯上りたまご肌って奴やな。にしても、ホンマ羨ましいスタイルやよ。女性らしさを失わず、それでいて鍛えこまれた肉体なんて。
「もうすぐご飯だからって嵐にいちゃんが言ってたから、早く来いよな」
「くれぐれも下着姿で出てこんといてよ。兄ちゃんかて健全な男子高校生やから。誘惑したいなら別やけど、私の目の黒いうちは許さへんえ」
「ゆっ、誘惑などその様な事は!? きちんと身なりを整えて参上しますから要らぬ心配です!!」
顔を真っ赤にして否定するシグナムを不覚にも可愛いと思ってしまいました。正直、その気になられたらシャマルよりも強敵になりそうやから気は抜けへんな。兄ちゃんが鈍感なんでそれほど心配はしなくていいかもしれませんけど、念の為にな。
「おはようございます、主はやて。ヴィータ、良い朝だな」
リビングのソファの上ではザフィーラがワンちゃんモードで寛いでいました。ワンちゃんから挨拶されるなんて、何か不思議な感じやよ。
「おはようさん、ザフィーラ。そろそろご飯やし人間モードに変身してな」
「承知しました」
ザフィーラはそう言うと人型モードに変身します。いや、さっきまでの姿がシュールでしたから。ソファの上で寝転びつつテレビを観ていたみたいなんですけど、内容がな……。
「ザフィーラ、もしかしてお前これ観てんのか?」
「ああ。中々興味深い内容だからな。この地球という星の文化は面白い。朝から戦闘を行う物が観られるなんて」
何を観ていたかというと、所謂ヒーロー番組でした。朝からワンちゃんがソファでヒーロー観てるって……。アカン、何やそれ。しかも人間モードでも真剣に観てるし……。想像してみてください。精悍な顔つきのがっしりした成人男性が子供番組を食い入るように観る姿を……。ヒーローの攻撃が極まった際に目を輝かせているザフィーラの姿を見て、我慢できずに噴き出してしまいました。
「あらあら、随分楽しそうな声が聞こえるわね。おはようございます。はやてちゃん、ヴィータちゃん」
「二人ともちゃんと起きてきたみたいだな。今日はお揃いの服か?」
キッチンの方からはシャマルと、先ほど私たちを呼びに来た兄ちゃんが現れました。二人ともエプロンを身につけているので、恐らく兄ちゃんがシャマルに料理の手解きをしていたのだと思います。その所為か、やけにシャマルからは幸せオーラが溢れだしています。
「おはようさん、シャマル。えろう嬉しそうやけど何かあったん?」
「はやてちゃん、私の事は義姉さんで良いのに。それよりも聞きたい? うふふ、嵐さんが包丁の使い方をレクチャーしてくれたの」
たぶん聞かなくても自分から言ったんじゃないやろか? シャマルが言うには、後ろから包丁を持つ手に手を重ねられたのが嬉しかったんやと。まるで抱きしめられてるみたいで、耳元でささやかれる声が堪らんかったとの事でした。ラブコメとかでよく見るアレかぁ。おのれ、シャマル!!
私がシャマルに対抗意識を燃やしている中、突然兄ちゃんに抱きしめられました。しかも私とヴィータを同時にです。
「似合ってるぞ、二人とも。食べてしまいたい位可愛いな。我が家のリビングに二人の天使が舞い降りたみたいだ」
「うわっ、苦しいって兄ちゃん」
「そうだぜ。離せよ、嵐にいちゃん」
今日の私とヴィータの服は昨日デパートで買った色違いのラグランTシャツとデニムのホットパンツです。私が黒でヴィータが赤って感じになってます。夏やし涼しい恰好がしたいからな。二人で選んだんやけど、似合っとるんかぁ……。それなら良かったわ。
でも、その所為で兄ちゃんが暴走気味やな。頬ずりなんて恥ずかしいわ、私はもう三年生なんよ。ホント兄ちゃんのスキンシップは困ったもんやよ。
「はやてちゃんもヴィータちゃんもずるい!! 嵐さん、私もギュッとしてください!!」
「ほう、地球でも少女が闘うのか……。見事な体捌きだ」
シャマルは私達に対抗して兄ちゃんに縋りついてきてますし、ザフィーラは私達よりも後番組の闘う魔法少女に興味深々です。少し前までは考えられなかった様な朝の風景が広がっています。
「何を騒いで? コラ、シャマル!! 朝から何を!? 嵐も主はやてとヴィータを放せ!! ザフィーラも少しは止める様にしろ!!」
リビングの喧騒はシグナムが来るまで続きました。シグナム本人も面喰らってるみたいですけど。
「サンキュー、シッグ!!」
思わずネットスラングを口にしてしまいましたわ。なん○? さて、何の事やろうか? 一先ず、シグナムの一喝でこの場は収められました。そういう所は流石、ヴォルケンリッターの将やな。
それから私達は全員で食卓を囲み朝食を摂りました。食事の途中、兄ちゃんが闘う魔法少女のエンディングに反応し、身体が動きそうになっていたり、ザフィーラが何気なくその振り付けを真似て私達女性陣に白い目で見られるなんていう一幕も見られましたが……。
そんな感じで進んでいた食事中に、私は魔法の鍛錬の事について切り出しました。時間的にはグルメバトルアニメが始まる頃でしょうか。別に細胞のレベルが上がるって言葉で魔法の鍛錬を思いだしたわけやないから……。
「なぁ、私に魔法の練習付けてくれるのは何時からなん? 侵食を遅らせる為にはリンカーコアってのを活性化させて身体を慣らさんとアカンのやろ?」
「そうよ、はやてちゃん。でもまずはリンカーコアや魔法について知っておいて欲しい事が有るの」
普段とは打って変わってシャマルが真面目に話を始めます。リンカーコアとは魔導師を魔導師たらしめる臓器であり、普通の人間には存在しないという部分は以前説明を受けました。では具体的に何をする器官なのかというと、空気中にある魔力素とかいう物質を吸収して体内に溜め込む働きが有るそうなんです。そして溜め込んだ魔力素を魔力として変換して放出出来るのだとか……。なんや、自前で魔力を生成する器官じゃないんか。
「本来なら膨大な魔力にも耐えられるように身体が育つ筈なのに、はやてちゃんは闇の書の影響か身体とリンカーコアの成長のバランスが崩れているの。リンカーコアの発達に身体が付いていってないのよ」
崩れたバランスを持ち直す様にせなアカンって事やな。基本的にシャマルの監督の下、鍛錬を行っていくそうです。まぁ、鍛錬と言うよりリハビリって言うた方が良い内容かもっていうのがシャマルの言葉ですけど。
でもリンカーコアかぁ……。生成は出来んけど貯蔵と放出は出来るって事はつまり、コンデンサーみたいなもんやな。ダブルはやてちゃんライザー・魔力コンデンサータイプの誕生フラグが立つかも。私がガン○ムや!!
「出来るだけ負担が少ない様にするつもりだから安心してね。そうね、まずはあのなのはちゃんと念話でお喋りしてみたら? 事情も知ってるから手伝ってくれると思いますけど」
なるほど……。それから私はシャマルを始めとするヴォルケンリッターの皆から念話のやり方のアドバイスを貰って、早速なのはちゃんへと送信してみました。昨日の様なミスが無い様に、範囲の指定やら使用する魔力量にもちゃんと気を使ってます。
結果から言うと、急なお願いでしたけどなのはちゃんは快く引き受けてくれました。本当に優しい子や。
シャマルの見立てでは、私は膨大な魔力を行使する下地が有るみたいなんやけど細やかな制御が苦手っぽいとの事です。制御が上手い人なら初めてでも念話のミスなんてしないんだとか。隣でアドバイスを受けつつなのはちゃんとおしゃべりをしてみます。
それにしても念話って便利やな、携帯の料金の節約にもなるわ。うん、なのはちゃんもそれには同意してるし。何や? 私となのはちゃんが何を話してんのかって? それは乙女の秘密やよ。
「そう言えば、お前達は騎士なんだから甲冑的な物とか持ってないのか?」
私が食後に念話でなのはちゃんとのお喋りを楽しんでいると、キッチンで洗い物をしていた兄ちゃんがそう言葉を告げました。確かにそうやね。初めて見た時は黒いインナーみたいな姿やったから。
「我らの騎士甲冑はその時の主によりデザイン等を変更されるようになっている。まだ主はやてに決めて戴いていなかったな」
私についてくれているシャマルと変わって、兄ちゃんの隣で食器拭きを手伝っているシグナムがその疑問に答えました。
それ面白そうやな。ちょうどなのはちゃんも、この後すずかちゃんとか学校の友達と遊びに行くって事やから念話もこの辺にしとこうかって話になってるし、今日はヴォルケンリッターの皆の甲冑のデザインをやってみようかな? 「ほなな、ありがとう」、そう言って私はなのはちゃんとの念話を切り、兄ちゃんたちの話に加わりました。
「それやったら不肖、この八神はやてが皆の甲冑のデザインをやらせてもらうわ。ヴィータ、そこの本棚にスケッチブックと色鉛筆が有るから取ってもらって良いか?」
「良いよ。甲冑を決めてもらうんだしお安いご用さ」
ヴィータに道具一式を貰い、早速私はヴォルケンリッター達の騎士甲冑のデザインを始めました。うーん、どんなのがええやろ? 騎士よね……、でもヴィータは魔法少女でもあるしな。こんなんどうやろうか?
「おい、はやて。それってさっきテレビでやってた魔法少女の服だろ?」
「何や、ヴィータ。キラキラ輝く未来の光を身に纏いたくないんか?」
「ヤダよ、そんなピンク色。ぜってー闘いに向いてないじゃん」
「何だと……? 其れは聞き捨てならんぞヴィータ!! あの魔法少女の服は毎回シリーズごとにデザインは変わるが、代々続いた由緒正しき戦闘服なんだぞ。スカートの中は絶対に見えないようになっているし戦闘にもってこいの衣装だ」
「そうだ、嵐の言う通りだ。彼女たちの戦いは参考にしたい位の物だ。馬鹿にするのは許さんぞ」
何故かヴィータの発言に兄ちゃんとザフィーラが喰いつきます。ってか、ザフィーラ……。アンタ、あのアニメをよっぽど気にいたみたいやな。
「馬鹿にしてるわけじゃないけどさ……。それならザフィーラのから決めていけばいいじゃん」
確かにそれも一理あるわ。それじゃあ……。私は画用紙に筆を走らせました。せっかくやし幾つか書いて、それを見せるって形にしてみようかな? 私は暫らくデザインに集中します。
ふと気付けば、片付けを終えた兄ちゃんとシグナムもリビングに戻ってきており、食事と同様みんなでテーブルについて私が書き終わるのを待っているという状況になっていました。
「こんなんどうや? 騎士っぽいデザインやと思うけど?」
「はやて。それはどこのネトゲ装備だ。黒のコートは確かに格好良いが、ログアウトできなくなりそうで縁起が悪くないか? それに騎士っぽいかというと疑問が残るぞ?」
兄ちゃん的にはお気に召さないみたいです。最近人気のアニメのデザインやし良いと思ったのにな……。
「これもアカンのん? じゃあこっちは?」
「なるほど、白い甲冑で中々良いと思いますよ」
おっ? 次のデザインはシグナムからは良い評価がもらえたみたいや。
「それもネトゲだろ? どこの謙虚な騎士だ。ザフィーラの日本語が怪しくなったらどうする?」
おいィ? これのどこが謙虚な騎士って証拠だよ。ザフィーラは“盾の守護獣”らしいし、このデザインも良いと思ったんやけどな。盾役と言えばこの謙虚な騎士様やろ? でもあかんかぁ……、このデザインは早くも終了ですね。
「俺はこっちでも十分だが……」
「それはやめろ(止めろって、アカン、やめておけ、ダメよ)」
ザフィーラはヴィータが初めに没にした衣装でも良いみたいです。兄ちゃん、ヴィータ、私、シグナム、シャマルの順で其れを却下します。だってマッチョな青年のミニスカ姿なんて誰得やよ。
それから幾つか書き直し、ザフィーラの甲冑はノースリーヴに手甲と足鎧って物に決まりました。手甲のデザインは某侍漫画の無敵なアレを参考させてもらったわ。剣だろうと銃弾だろうと受け流す、まさに“盾の守護獣”に相応しい装備やと思ったからな。
「なかなか良いと思います。ありがとうございます、主はやて」
ザフィーラ本人も気にいたみたいなんで良しとしますか。
じゃあ次はヴィータ、行ってみようか? 参考になる様にどういうコンセプトにするかをヴィータに確認してみました。ヴィータ的には可愛くて戦闘に耐え得る物が良いそうです。そんならこれよ!!
「はやて、これはどう見てもセーラー服だ……。色々とダメだろ?」
「何でや、兄ちゃん。これは美少女戦士が着る戦闘服やよ。しかもピンクで月のプリンセス仕様や」
「はやて、これは可愛いと思うけど甲冑じゃないだろ。あたし、やだよ」
「そうね。嵐さんやヴィータちゃんが言う通り、騎士の服って感じじゃないわね」
「主はやて。魔法少女で無く騎士してデザインしてあげられないでしょうか……」
これも不評か……。最強の魔法少女の一人娘の服なのに。じゃあ、コレは? 私が次のデザインを見せようとした時、兄ちゃんにスケッチブックを奪われました。
「こっちは魔女見習いだな。それとこっちのは槍使いの腹ペコ魔法少女のヤツか」
「ああっ、見たらアカン!! せやったら兄ちゃんもデザインするの手伝ってや!!」
勝手に見んといてって、もう。兄ちゃんが文句ばかり言うので巻き込む事にしました。
「ふっ、良いぞはやて。既に45通りのパターンは思いついている」
本人はニヤリと笑って快諾します。ああ、やってみたかったんやね……。乗り気やん。それから兄妹二人で騎士甲冑のデザインをする事になりました。兄ちゃんはどっかの皇子様みたいな事を言うだけに本当に色々考えていたみたいで、すらすらと手を動かしていました。中身はお互いに隠して、せーので見せあうって感じにしてます。その方が楽しいですから。
「どうや、ヴィータ。可愛さと機能性を追求したデザインやろ?」
「はやて、それはパンツではないから恥ずかしくないとか言う魔法少女の服じゃないか。破廉恥だぞ。ヴィータ、俺の方のはどうだ?」
「うーん、正直どっちも……」
私の兄ちゃんも思わず肩を落としてしまいました。ちなみに兄ちゃんの提案したデザインは、並行世界にアクセスできる赤い猫耳魔法少女風の衣装でした。何かその衣装には親近感を覚えるな……。
結局ヴィータの衣装は、その後幾つか出したデザインの中からベースを決めて色々加えていくって形で決めました。赤い帽子と上着とスカートのゴスロリ系なデザインになったんやけど、これって騎士かいな?
「これなら可愛くって闘いも出来そうだ。ありがとう、はやてと嵐にいちゃん」
私も兄ちゃんも釈然としない物はありましたが、ヴィータが良いというならそれでも良いでしょう。
次のターゲットはシャマルです。シャマルは“湖の騎士”とのことでコンセプトは簡単に決まったわ。兄ちゃんも何や楽しそうにスケッチブックに絵を描いていってます。
「どうや、騎士っぽいやろ!!」
「はやてちゃん、何でロボットなの!?」
「シャマルならこっちを気に入ってくれると信じているぞ!!」
「嵐さん、何ですか? その禍々しい甲冑は?」
シャマルが突っ込みにまわるなんて初めてやないかな……。私のデザインはズバリ、ランスロット!! 足にもちゃんとホイール付けてますよ。やっぱ空を飛ぶよりラ○ドスピナー使った地上戦が好きやから。兄ちゃんも、そう来たかと言いたげな表情でした。ふふん、どうやよ。
一方の兄ちゃんのデザインは狂ってる方のランスロットです。いやぁ、これは女性が着る様な甲冑のデザインやないやろ……。確かにそれも“湖の騎士”やけどさぁ。
「もう、大枠は私が決めます!! 嵐さんとはやてちゃんは私のデザインを修正してくださいね? 返事は?」
「「イエス、マム!!」」
シャマルの騎士甲冑は結局本人がデザインした物に私達が手を加えるって感じで決定されました。緑色の帽子とドレスで、いかにも後方支援って感じのデザインになってます。兄ちゃんと胴体の部分に鎧を書き足したんですけど、折角なんで某騎士王風の鎧にしてみました。
最後はリーダーであるシグナムの騎士甲冑です。見るからにこれぞ女騎士って姿なんで、色々とアイディアが浮かぶわ。兄ちゃんもスケッチに絵を描くスピードが上がっているみたいで、何枚かデザインを書き込んでいました。
「これは自信作やよ!! ビキニアーマーや!!」
「なっ、何ですかそれは!?」
「はやて、破廉恥な物はダメだと言ってるだろ? どうだシグナム? “烈火の将”という事で炎の騎士をモチーフにしてみたぞ」
「今度は嵐がロボットか!?」
「腕が救急車になってるやん。兄ちゃん、それも確かに炎の騎士やけどさ。どっからどう見ても勇者警察の二号ロボやん!!」
どちらもお気に召さないみたいや。シグナムは気に入った物が既にあったのか、没案の中から一枚の絵を取り出しました。
「それなら私は先ほどのザフィーラの甲冑で……」
「ガ○ントアーマーか。謙虚やな、憧れちゃうなぁ」
「其れは止めておけ。それより、これでどうだ? 某赤い騎士皇帝の甲冑で」
「ほう、それは……。悪くは無いな」
兄ちゃん、破廉恥なんはダメとか言ってたやん。それって胸も強調されるし、足の部分がシースルーやし十分破廉恥やよ。って、おいシグナム!! 何で気にってるん!?
その後、シグナムの騎士甲冑は足の部分がむき出しのボディスーツに白い上着って装いになりました。手と足にはザフィーラとは違う感じの手甲と足鎧を装備する様にしてみました。勿論、胸の部分のデザインは凶悪な武器を封じる為に変更しましたよ。喉まできっちり締めるタイプにね。
脱線する事が多かったんですが、お昼御飯の前までにはヴォルケンリッター全員の騎士甲冑のデザインを終える事が出来ました。最終チェックの意味を込めて一度みんなに騎士甲冑を着てもらう事にしたんですけど……。
「うわぁ、皆格好ええで!! 騎士団って感じがするわ!!」
「確かに壮観だな。これがはやての騎士達の姿か。俺も黒の皇子の衣装を作ろうかな?」
「其れは止めてや兄ちゃん!! あのヘルメットはアカン!!」
騎士団に対抗してチューリップみたいなヘルメットを用意しそうな兄ちゃんを制止しました。兄ちゃんってリアル中二の頃に一度作ってるんよな、あの衣装。
「この手甲、中々機能性に優れていそうだ。気に入った」
「へー、結構いいじゃん、ザフィーラ。でもあたしの甲冑も良い感じだぜ」
ヴィータとザフィーラは着心地を確かめた上で、改めて気に入ってくれたみたいです。良かったわぁ。
「どうですか、嵐さん? 似合ってます?」
もじもじしながらシャマルは兄ちゃんの前に立ってます。ラブコメレーダーに反応が有りました。早く阻止せねば。
「私の方もどうだ、嵐? お前の考えてくれたものに結構近いと思うが」
はい、シグナムも参戦。シャマルとシグナムは目から火花を散らしつつ、それぞれ兄ちゃんの手をとります。
「二人とも良く似合ってるよ。可憐な戦乙女を前にして、鼓動が高鳴るのを抑えられないみたいだ。美しいだけでなく、身を守る棘もある。まさに薔薇の花だな」
兄ちゃんも平常運転。相変わらず気障ったらしいセリフを言ってますが、それを気にさせない程のイケメンやからな。悔しいけど似合ってます。二人とも兄ちゃんに褒められて、頬を染めてポーっとなってるわ。
「こら、二人とも!! 兄ちゃんを誘惑すんな!!」
「ええぇ? はやてちゃんのケチんぼ」
「主はやて、私はその様なつもりは」
「はやても寂しかったか? ほらこっちへおいで」
兄ちゃんはそう言って私を抱きかかえ、頬ずりしてきました。ちょっと心配にはなったけど、兄ちゃんの一番はやっぱり私みたいです。自惚れやないで、これは確信というもんや。
それから私は兄ちゃんと一緒にお昼の支度をしました。今日は熱いし冷やし中華やな? 兄ちゃんとヴォルケンリッターの皆との日々は騒がしいですけど、とても楽しいです。こんな日がずっと続けばいいって思います。
男兄弟がいると少年漫画を読む様になるって事はあると思います。