季節は夏。
ヴァルキュリアのメンバーも夏休みと言う名の1週間の休暇をもらっていた。
帰省する者、休暇を満喫する者、トレーニングに励む者・・・色々である。
そんなヴァルキュリアの入り口の前に1人の女性が立っていた。
月刊ヴィーナスの新人の高嶺智枝だ。
「先輩から行って来いって言われたけど、1人で大丈夫なのかな?」
額の上を流れる汗をハンカチで拭いながら腕時計を確認する。
予定時刻より10分も早く到着した智枝は恐る恐るノックをした後にヴァルキュリアの扉を開ける。
するとトレーニングをしていた選手達は手を止めて急に現れた来訪者に視線を向ける。
慣れていないのか自分に向けられる視線に挙動不審になる智枝であったが、そんな彼女に1人の選手が近寄って来た。
大空ゆかなであった。
「どちら様ですか?」
「え、えっと・・・月刊ヴィーナスの高嶺智枝と申します!宮永社長はいらっしゃいますか?」
「あっ!!その件なら聞いてます。社長なら社長室に居ると思いますのでご案内しますね」
「は、はい!ありがとうございます!!」
名刺を受け取ったゆかなは思い出したようにぽんっと手を叩いてみせると自分のタオルと飲料ボトルを手に取ると小休憩をはさんだ後に2人は社長室へと歩き出した。
初めての訪問なのかそわそわと周りを見ていた。
「高嶺さんは今回が初めてですか?」
「はい!今回からヴァルキュリアの担当になったんで、これからは何度もお邪魔するかもしれませんので・・・」
「そうなんですね、うちの社長はお優しい方なので緊張なさらずとも大丈夫だと思いますよ?」
「あはは・・・そう言って頂けるとちょっと安心します」
「ここに社長がいらっしゃいます・・・社長、よろしいですか?」
「は~い、どうぞ~」
ノックをしたら部屋の中から返事が返って来たので部屋の扉を開けるとそこには2人の女性がいた。
椅子に腰を掛けている女性はにやにやとした雰囲気で笑っていた。
その横に立つ女性はお辞儀をして入ってきた高嶺を歓迎する。
「いらっしゃい!貴女が月刊ヴィーナスの新人さんね?」
「あっ、はい!本日から担当になりました、高嶺智枝と申します!!」
「硬いっ!!すっごく硬いよl!!もうリラックスしちゃいなよぉ~♪」
「社長、初見での激しいスキンシップはどうかと思いますが・・・・・」
「そ、そうだよねぇ~・・・・・」
飛びつこうとした沙織の手をがしっと掴んだひばりが念を押すように忠告すると沙織は引きつった笑みを浮かべてからソファに座った。
その2人のやり取りに苦笑いを浮かべているとひばりが対面のソファを勧めた。
「あ、あの・・・本題に入らせてもらっても大丈夫ですか?」
「仕事熱心だねぇ~・・・なんでもどうぞ♪」
「それでは・・・今回のSummerVenusWestの出場選手に関してです」
SummerVenusWest・・・通称SVW。
夏の定番となっている西日本の女子プロレスラーが集まっての祭典。
今回で5回目となるのだが、色んな選手が集合すると言う事もあり世間は出場選手に注目しているのだ。
それをいち早く掲載させているのが毎回月刊ヴィーナスの仕事である為に今回やって来た理由である。
「そうね・・・今の所予定しているのは、ライオネル神威・ランブル美星・風斬風香・セイレーン・歌彩優奈の5人かな?」
「御堂選手は参加されないんでしょうか?」
「ヒカルはとある事情で参加出来ないからそこは内密にお願いね?」
「か、畏まりました・・・・・」
「あと、特別枠には佐倉絢音を予定してるわね」
「あっ!そうなんですねっ!!」
急に大声を出して前のめりになった自分にハッとしたように顔を真っ赤にする俯く智枝。
そんな反応に2人は顔を見合わせるも沙織は腕を組んでから口を開く。
「彼女は一番の注目株ね!まだ1年目なのに面白い娘なのよね~♪」
「・・・あの、その佐倉選手はいらっしゃいますか?」
「絢音ちゃんは夏休みを与えたらすぐに帰省されていて実家にある農業をお手伝いされています」
「農業・・・ですか?」
「そっ!いつもこの時期は実家のお手伝いをしている偉い娘なの。私も久し振りに帰ってみようかしら」
などと話が脱線してしまったが、智枝は質問を口にする。
「私、まだあまりSVWの内容を詳しく聞かされていなくて教えて貰っても大丈夫ですか?」
「もう・・・ちゃんと内容も把握してから仕事を受けなさいよ?そんなんじゃ一人前の記者になれないわよ」
「・・・恐縮です」
「まぁいいわ・・・基本的にみんなタッグ戦で戦い続けてもらうんだけど、1つだけ特殊なルールがあって毎回パートナーはチェンジして戦うの」
「毎回・・・ですか?」
「だから一緒に戦ったタッグパートナーが敵になる事もあるわね・・・まぁ、決勝戦は確実にそうなってしまうわね」
「ドリームタッグ戦ですか・・・楽しいイベントですね♪」
「後は、試合以外にファンイベントがあったりする3日間のお祭りね」
と話が終わったと同時にひばりがとある大きめの封筒を手渡す。
「コレは・・・?」
「今回の詳しい内容をまとめた資料です。本日はこれを受け取るのは聞いてませんでしたか?」
「・・・・・あっ」
「ふふっ・・・やっぱ面白いねっ!智枝ちゃ~ん♪また機会があったら存分に語り合おう♪」
「はいっ!!本日はありがとうございます!!」
大きめの封筒を受け取ったと同時に満面の笑顔でお辞儀をした智枝は社長室を後にしたのであった。
そして、残された2人はひばりが淹れたコーヒーを口にしていた。
「社長・・・この件は伝えているんですか?」
「んっ?誰に?」
「絢音ちゃんにです」
「・・・・・まだ」
「はぁ・・・・・早急にお願いします」
「わ、わかってるよっ!!」
ひばりの鬼のような形相を目にした沙織はすぐさま絢音に今回の件を話した。
それを受けた絢音の反応は、大声を出して驚いた模様で沙織は受話器を一度離して苦笑いを浮かべていた。
そして・・・SVW開催の日は始まりを告げる。