「夏と言えば・・・・・」
「「海っ!!」」
「強き乙女は・・・・・」
「「私達っ!!」」
「サマーっ!」
「ヴィィィナス!!」
「ウェストォォォォォ!!!!」
会場前で騒ぐランブル美星、歌彩優奈、佐倉絢音。
それをスマホで動画に収めているライオネル神威。
そんな光景を目の前に風斬風香は呆れた素振りを見せていた。
よく見れば、絢音の体はこんがりと日焼けで小麦肌になっていた。
SVW1日目。
まだ開演より早い段階で今回参加するメンバーだけ準備もある為にやって来ていた。
他にもぞくぞくと選手は会場に入っていた。
関西での大きなイベントと言う事もあり、若手からベテランまでよりどりみどりである。
「あぁぁっ!?!?」
「どったの?絢音ちゃ~ん」
「て、てて、天鳳院ほむらさんですよっ!!」
「んっ?ほむほむちゃ~ん♪」
「いぃっ!?!?」
自然とあだ名を口にして手を振る美星。
そんな彼女の姿に絢音は、はわはわしたように震えていた。
しかし、向こうも気付いたのか笑顔で返したのだ。
そのやり取りに驚愕した絢音は固まってしまう。
「神威さん!絢音ちゃん固まっちゃいましたよ?」
「あっはっはっ!駿河の言う通りだねぇ~♪レス女のあの子には衝撃が強そうだねぇ~」
「本当に絢音ちゃんは女子プロレスラーが大好きなんですね」
などと会話していたライオネルと優奈だったが、固まってしまっている絢音の元にとある人物がやって来た。
「お前、もしかして・・・・・佐倉絢音か?」
「・・・はい・・・・・って、うえぇっ!?」
「おぉい、驚き過ぎだぜ?あたいは化け物かなにかか?」
名前を呼ばれて振り返ったが、目の前に居る相手を確認した瞬間に心臓が飛び出そうな声が出てしまった。
そんな反応に対して笑いながら絢音の背中をバンバンと叩いてくる人物。
そう・・・彼女こそ注目選手でもある伊里内 真選手であったのだ。
「ち、違いますっ!伊里内選手に会えるのが嬉しくてですね・・・・・」
「そう言う事か!あたいもお前に会うの楽しみにしてたんだぜ?」
「ど、どど、どうしてですか?」
「それは・・・闘う為に決まってるだろう」
「・・・・・すみません、私・・・特別枠なんです」
「・・・マジかよ」
特別枠・・・それは本戦ではなく、会場で開催されているイベントやらを盛り上げたりする言わば、イベントコンパニオンみたいな枠なのである。
基本的に新人が選ばれる事が多い為に今回は絢音が選ばれてしまったと言う事である。
「お~い!ライオネル!!どうにかなんねぇのか?」
「アタシに言われても知らねぇさ!」
「かあぁぁぁっ!!お前ん所の社長はなに考えてんだよっ!こんなに面白いヤツを本戦に出さないなんてよ」
「最近あの娘試合出っぱなしだったから息抜きだって聞いたよ~ん♪」
「それでも最終日にあるエキシビジョンマッチならチャンスがあるんじゃないかい?アレは確かファン投票で6人選ばれるんじゃなかったかい?」
「それだっ!!」
と叫んだ真は嬉しそうに絢音の頭をくしゃくしゃと撫で回した後に少し上機嫌になって走っていった。
「まこっちゃんっていつも風のように来ては風のように去って行くよねぇ~」
「あのバカ・・・本戦があるの忘れてないかね」
「・・・大丈夫だと思いますよ」
「じゃっ!絢音ちゃ~ん♪行ってくるよ~ん!!」
「はい!皆さん、頑張って来て下さい♪」
本戦に出場する選手達とは控え室が違うのか絢音は大きく手を振って見送った。
ぽつんと残された絢音。
よく考えると1人で行動をするのはプロになってから初めてのような気がする。
きょろきょろ見渡しながらも展示されている進路を信じて進んで行くとたくさんの選手が集まっているのが見えた。
絢音もこそこそと奥に進んで行くと1日目の日程が提示されていた。
だが、絢音は今日の仕事内容に嬉しい気持ち反面、ド緊張の半分で心臓が高鳴っていた。
その内容が・・・・・。
『対決!覆面レスラーVS正義レスラー』
と言う題名のイベントなのだが、絢音は用意された衣装とマスクを装着していたのだ。
なんと覆面レスラー側に抜擢されてしまった絢音だったのだが、それだけではなくこの試合は3VS3。
横では同じ陣営の選手が2名控えていた。
「なに?私になにか用?」
「いやいや!本日は一緒に戦える事に・・・う、嬉しく思っていまして・・・・・」
「そう・・・変わった娘だ。私と一緒に試合したいなんて娘はかなり珍しい」
十六夜 美響(いざよい ひびき)。
偶然なのかどうかは不明だが、居るだけで周囲に災厄を振りまいてしまうという不思議な体質を持つと言われている。
試合においては、その災厄を相手に叩き付けるというパワーファイトを得意とするヒールレスラーとして活躍されている。
「まぁ、そんなに緊張しぃなや!佐倉ちゃ~ん♪うちがズバっとかっこようやってズババっと決めたるさかいに!なっ?」
「は、はいっ!!」
洌崎 薫子(すざき かおるこ)。
浪速のスピードスターとしてスピードを得意とするレスラーである。
あの風斬風香を降して関西Jrチャンピオンの称号を手にした人物。
浪速道!に所属するレスラーである。
「貴女達・・・準備はどう?」
「まかせとけやっ!災厄のねぇちゃん!!うちがおったら百人力やで!!」
「そうみたいだけど、もう一人は大丈夫かしら」
「・・・・・っ!!いけますっ!!」
「・・・頼もしい顔立ちね」
そんな2人とチームを組めるだけでも嬉しくて緊張で死にそうな絢音だったが、顔を思いっきり引っ叩いて気合を入れると対戦相手の待つリングへと歩いて行った。
するとリング上には、やる気マンマンのように見える3人が待ち構えていた。
「・・・・・来たか」
中森 あずみ。
リング上での闘いを仕事と割り切るその態度は、「リングの仕事人」と称される。
ワールド女子プロレスに所属するベテランレスラーである。
「特別枠と聞いていたが、よもやこのような余興に参加出来るとは・・・」
ロイヤル 北条。
元フェンシングの選手で、さらなる強敵を求めてプロレスに転向して来たと言う実績の持ち主。
あずみとも交流があり、良きタッグパートナーである。
「・・・・・大先輩の2人の足を引っ張らないようにしなくちゃ」
一文字 倖兎(いちもんじ ゆきと)。
元・自衛隊出身でオールラウンダーを得意とする。
レスラーとしてはデビュー仕立てで、絢音とは同期にあたる。
Dream☆Paradiseに所属するレスラーである。
両者3人同士が対峙するのだが、絢音側陣営は全員覆面を装備していて素顔はわからない状態ではある。
レフェリーがこの試合の内容を説明するが、試合ルールは無制限の1本勝負。
どちらが勝とうが問題ないと言う事だ。
すると美響はマイクを手にしたかと思うとこう口にしたのだ。
「正義レスラーの皆様に本日は敗北を献上しましょう♪」
その言葉に相手の3人の鋭い目つきが美響に集まる。
しかし、ヒールレスラーでもある彼女はその視線に対してもいやらしく手招きをして挑発を続けた。
自コーナーに戻って来た美響は、2人の頭を撫でると口端を上げる。
「こう言う盛り上げ方は嫌いだった?」
「かまへん、かまへん!向こうの方が実力的に上なんわ解ってたんや!アレぐらいかましたって大丈夫やっ!!」
「・・・・・大丈夫です」
「一番手・・・任せるわ」
「いっちょ派手にかましたれっ!!佐倉ちゃ~ん♪」
「全力で行きますっ!!」
ゴングが鳴ったと同時に絢音は走り出した。
向こうの一番手はあずみだ。
リング中央で2人は捨て身のタックルがぶつかり合う。
「なっ!?」
尻餅をついたのは、あずみだった。
呆気にとられている間にも絢音はロープに向かって反動を使って加速すれば、尻餅をしているあずみに低空ドロップキックを放ったのだ。
それを受けて転がるようにリングの外に出されたあずみ。
しかし、まだ絢音の攻撃が終わりを告げた訳ではなかったのだ。
「りゃあぁぁぁっ!!」
「んぐっ!?」
リング下にいるあずみが落とした相手の方を見た途端にその人物はロープを掴み、反動を利用してジャンプし
てくると場外にいるあずみにボディアタックを仕掛けてきたのだ。
このスピーディーな展開に翻弄されて下敷きになるあずみ。
しかし、あずみはすぐに抜け出すとまだ横たわる絢音を引き起こす。
「やって・・・くれたなっ!」
「かはっ!!」
お返しとばかりにリング下で軽々とキャプチュードをお見舞いされた絢音。
マットが1枚敷かれているだけという事もあるのかかなりの衝撃を受けたのが表情を見ただけでもわかる。
技を仕掛けたあずみは追い討ちをする事はせずにリングに絢音を転がすように戻すと自分はタッチした。
すると今度リングに入って来たのは、倖兎だった。
「敵ながら見事な動きだが、手加減はしないっ!!」
「私も・・・ですっ!!」
「んんっ!!」
ロープに振られた絢音ではあったが、反動で加速をつけるとそのままJネックブリーカーを綺麗に倖兎に放った。
急な一撃に防御も間に合わなかった倖兎はモロに直撃を受けてリング中央に倒れてしまう。
その隙にタッチをした絢音だったが、もう交代相手はトップコーナーに立っていた。
「スカァァァイ!ハァァァァイ!!!!」
「がはっ!!」
大声と共に飛び出した薫子の体は起き上がろうとした倖兎をプレスするように綺麗に決まった。
絢音は同期の飛び技を目にした事は数多かったが、他の団体の技を目にして胸が躍っていた。
そのワクワクした表情の彼女を横目に美響は少し嬉しげな感情が出ていた。
「おらおら!いつまで寝とんねんっ!次、行くでぇ~!!」
「そう・・・何度もっ!!」
「遅いでぇ~!!」
倖兎を無理矢理起こしてロープに走らせるが、倖兎も絢音のようにラリアットを狙いに行くも下を潜り抜けた薫子はそのままエプロンサイドに飛び出るとすぐさまトップロープに飛び乗りロープの反動を使って倖兎に飛び掛るのであった。
「スワンダイブ式フランケンシュタイナーやぁ~!!」
「あはぁっ!!」
目で追うのも難しい早業に成す術もなく放り投げられた倖兎はリング中央で仰向けになって倒れたまま動けずにいた。
技を決めた薫子はと言うと観客からの歓声を浴びるように両手を広げてアピールをしていた。
しかし、不意に手を出す美響に気付いたのか心地良くタッチすると今度は美響がリングの中へと出向く。
リングに入るも身動きしない美響にチャンスとばかり陣営に戻った倖兎は北条とタッチをした。
「随分と余裕だな」
「弱い者いじめは興味ないから」
「・・・フンッ!」
「くっ・・・力比べなら受けて立ちます!」
リング中央で睨み合う2人。
先に攻撃を仕掛けたのは、掌底を放った北条。
一瞬衝撃で後退る美響だが、お返しとばかりに逆水平チョップを放つ。
「うっ・・・らあっ!」
「ぐっ!・・・しぃっ!!」
「がぁっ!・・・はぁぁっ!」
「かはっ!?」
「たあぁぁっ!!」
「うぅっ!!」
北条のエルボー、美響のJ・ニーパッド。
互いの攻撃がぶつかり合う最中北条はここぞとばかりに美響の腹部に下から突き上げるような膝蹴り・・・ニーリフトを放ったのだ。
突如とした一撃に崩れそうになる美響だが、北条はそのまま畳み掛けるようにダブルアーム・スープレックスで美響を放り投げたのだ。
「まだっ!」
「続けては・・・受けないっ!」
「あぁっ・・・」
休ませないように畳み掛けようと駆け寄る北条。
しかし、美響はもう臨戦態勢に入っていて鋭い延髄蹴りが迎撃とばかりに炸裂する。
油断はしていなかったものの素早い対応に攻撃を受けた北条は崩れ落ちる。
うつ伏せに倒れる相手を仰向けにしてフォールに入る美響だが、カウント2.5であずさがカットに入る。
「簡単に・・・逃がすかいなっ!!」
「うっ!!」
自陣へ戻ろうとしていたあずさの背中に強烈なミサイルキックを放つ薫子。
自陣から相手陣までかなりあると言うのに軽々とトップロープの反動を使い、あずさをリング下へと吹っ飛ばす事に成功する。
すると薫子は美響の方を見てからグッドサインをすれば、絢音に向かって急かす様に手招きをする。
「派手に行けやぁ~佐倉ちゃ~ん♪」
「い、いい、いきまぁぁぁぁす!!」
そう言った2人は勢い良くエプロンを疾走するとリング下にいる相手の2人に目掛けてトペ・コンヒーロを放ったのだ。
まさかのユニゾンアタックに会場は盛り上がりを見せるとリング上でも動きがあった。
「災厄の恐ろしさ味わいなさいっ!!」
「かはっ!?!?」
北条の喉元を片手で正面からつかみ、もう片方の腕を添えてそのまま相手を上方へ持ち上げていた美響は勢い良く北条を背面からマットに落とした・・・これが彼女の得意とする必殺技『災厄降臨』である。
いつもより長く持ち上げられていたのか苦しんでいる間にもまだ攻撃は終わらない。
「これで落ちなさいっ!!」
「・・・・・・・・・・っ!?!?」
まだ意識もはっきりとしない相手を持ち上げると仕上げとばかりにライガーボムをリング中央で放った。
そのままレフェリーがカウントに入るも北条は身動きすら出来ずに3カウントを取られてしまう。
美響が解放すれば、倒れたまま動けずにいた。
試合終了のアナウンスが鳴れば、歓声と共にリング下に居た2人も嬉しそうにやって来た。
「早い決着やったのぉ~まぁ今日はあんさんらに会えたから良かったわ!」
「私も楽しめたわ。また一緒に遊びましょうね?」
「は、はい!!あのサイン貰ってもいいですか!!」
「ええでぇ~♪うちのサインで良かったらバンバン書いたるわ!」
「別に構わないわ」
「あ、ありがとうございますぅぅぅ!!」
試合後記念写真と言う事で覆面を外した姿で舞台裏で撮影会があった。
美響を真ん中に2人を両脇に抱くように撮ったのだが、絢音は嬉しさのあまりずっと号泣してたとかしてないとか・・・・・。
しかし、まだ絢音は気付いていなかったのだ。このイベントがまだ第1部と書かれている事に・・・・・。