入団テストから1週間が過ぎた。
今日から合格者のトレーニングが始まる。
見事合格通知を手にした絢音は、学校終わりにヴァルキリアに駆け足で向かっていた。
「トレーニング前のアップには最適かも・・・・・ふう~・・・はぁ~・・・お、おはようございまぁぁぁす!!!!」
セーラー服で背中には今日から必要になりそうな物を一式詰め込んだリュックを背負った彼女の表情は生き生きとしていた。
入り口の前で落ち着く為に大きく深呼吸をすれば、扉が開いたと同時に大声で挨拶をすると90度を思わせるほどの綺麗なお辞儀を1礼した。
ゆっくりと頭を上げると練習などをされていた選手達は、ぽかんとした感じで固まって絢音に視線が集中していた。
すると奥の方からこちらに歩み寄って来る人物に絢音の全神経がざわめいた。
そう・・・目の前に現れたのはこのヴァルキリアの看板選手とも名高いランブル美星選手であった。
「やっほ~♪もしかして~今日からうちの団体の一員になる絢音ちゃん?」
「は、はい!!本日からヴァルキリアの一員として頑張って・・・・・」
「固いっ!固いよ~絢音ちゃ~ん♪もっと落ち着いて、落ち着いてぇ~」
「いきなり美星さんに話し掛けられたら普通の方は驚きますよ。私も最初はそうだったんですから」
「もぉ~アタシは仲良くなりたいだけなんだよ~?風香ちゃ~ん」
風斬 風香(かざきり ふうか)。
今の女子プロレス界に一迅の風を吹かせる1人と称されている。
女子プロオタクだった絢音からしたら目の前の2人は夢のような存在だった。
しかし、今では目の前にちゃんと存在し、これからは仲間・ライバルとなるのだ。
鼓動は急に早くなり、この瞬間・・・絢音は興奮していた。
「あ~~~や~~~ね~~~ちゃ~~~ん!!!!」
「ひぃぃっ!?ふがっ!?!?」
声の正体は、宮永沙織。
両手を広げて突っ込んで来る姿に恐怖を感じたが最後、容赦ないダイブが絢音を襲う。
避ける事すら許されない状況だった。目がマジなんだから。
「沙織さん・・・佐倉さんが怖がってます」
「あっ、あははは~♪ごめんごめん!」
「しゃっちょー!絢音ちゃんの相手アタシでもい~い?」
「OK!けど、手加減してあげなさいよぉ~?初日なんだし」
「はいは~い♪」
そう言って美星が奥に行ってしまうが、絢音からしたらなにがなんだかわからず小首を傾げてしまう。
コホンっと咳をすると風香が口を開く。
「実力テスト・・・ヴァルキリアの恒例行事の1つよ。貴女がどの程度の実力を持っているのかをみんなの前でお披露目する訳。それで、美星さんが貴女の相手を申し出た・・・理解出来た?」
「うえぇぇぇっ!?!?わ、私の初戦が・・・あ、あのランブル美星さんですか!?!?」
「初戦って言っても時間制限ありだし、向こうは手加減してくれる・・・はずだし、たぶん。まぁ、絢音ちゃんの全部あの子に全部ぶつけちゃいなさいな!!」
「おっふぅ!?わ、わかりました!!」
沙織に背中を思いっきり叩かれると根性が入ったのか拳をギュッと握り締めてそそくさと荷物を置きに行った。
「昔の自分を見ているみたいですね」
「おや、それならあの子も伸び代がありそうだねぇ~♪」
「それを見越してあの子を入団させたんじゃないですか?宮永社長」
「どうかしら~ん♪」
「絢音!お前もやっぱ合格してたか!!」
「玖珂さん!」
荷物を置く為に入ったロッカールームには、入団テストを共に乗り切った霞の姿があった。
大量の汗をみた所、練習の合間の休憩なのだろうか他にも選手がいた。
「お前・・・今から実力テストだろ?」
「えええっ!?な、なんでわかったんですか!?!?」
「ハッ!アタシらも入った途端に実力テストだったからな・・・ちなみに風斬さんだったよ」
「ホントに!?ど、どど、どうだったの?」
「・・・・・はぁ、全然だよ。体格差ではアタシの方が有利なんだけどよ・・・なんて言うか風・・・だな」
「やっぱり・・・噂通り擦り抜けるのかな・・・」
「んで?お前の相手は誰だよ」
「ランブル美星さん!!」
「あぁ~・・・それでか」
「?????」
「スッゴい上機嫌だったんだよ・・・美星さん」
鼻歌混じりにいつものリング衣装に着替えていたと霞が口にした。
その言葉に首を傾げながら絢音もジャージ姿に着替え終わる。
「そろそろいけそう?絢音ちゃ~ん♪」
「は、はい!いつでも行けます!!」
「じゃあ~いっちょやりますか~」
「お願いします!!」
「んなぁ~・・・・・カッチカチだねぇ~・・・絢音ちゃ~ん」
「・・・・・はい」
「いつも通りでいこ~♪」
「はい♪」
2人は顔を合わせると自然と笑顔となっていた。
そのおかげが緊張の糸が緩んだのか少し心の中にゆとりが出来た感じがした。
リングに向かう間も美星はずっと話し掛けていた。
まるで今まで友達だったかのように。
リング内に立つのは・・・、
ランブル美星。
佐倉絢音。
それと審判役として風斬風香がいた。
リングの周りには所属選手達が集まって観戦していた。
沙織の指示らしく逆にトレーニングをしている者は1人もいなかった。
「制限時間は5分。佐倉さんは全力で挑んで下さい。美星さんは・・・程々にお願いします」
「はい!」
「あいよ~」
「それでは、両者サイドへ」
自分のコーナーに戻って来ると真下には霞が声援を送ってくれているのに力が漲るのが実感出来た。
気合入れに両頬を叩くと大きく息を吸い込むと対峙する美星を睨んだ。
すると視線に気付いたのか美星も嬉しそうに睨み返す。
その2人の視線に気付いたのか風香は手を挙げると同時に両者に視線を送ってから勢い良く手を振り下ろした。
それを合図に2人は走り出すとリング中央で組み合う形になった。
力勝負は・・・!
「ふぬぬぬぬっ!!」
「(くっ・・・アタシが押し負けちゃってる!?)」
小柄な少女は突き上げるように美星を押し返す。
その現状に対峙している美星も驚きを隠せない。
しかし、それ以上に美星は目の前の小さな戦士に昂っていた。
力を制した絢音はその勢いのまま美星をロープへ振った。
それに合わせて絢音も反対側のロープに走ると反動を手に入れて、美星の元に走った。
そして、交差するように片腕を出すと相手の首に片腕を巻き付けて空中で旋回。
そしてその遠心力を利用して自分は背中からマットへ倒れ込み同時にその勢いで
相手を背面からマットへ叩き落とした。
「なっ!?!?」
「今の・・・ネックブリーカーなのか?」
「いや、360度回転してから叩きつけていたから違うんじゃないか?」
まさかの大技に驚いていたのは、美星だった。
急に首が苦しくなったと思ったと同時にいつの間にか視界が揺らぎマットに叩きつけられたのだ。
あまりの速さに目をぱちくりさせていた。
すると審判役でもある風香が呆れたような顔で覗かせて来た。
「試合・・・続けますか?」
「えへへ~油断しちゃったよ~」
「それにしても・・・速い技ですね」
「初めての相手だからさ~対処がわかんなくて困っちゃうよねぇ~・・・・・でも」
「・・・でも?」
「たのし~♪」
大の字になって寝そべっていた美星だったが、勢い良く跳ね起きるとニィッと絢音を見ている。
そんな視線にビクッとする絢音だったが、その隙を美星は見逃さない。
スッと間合いを詰めてのボディストレート。
単純な攻撃だが、油断していたボディには綺麗にヒットした。
不意の一撃を喰らって前屈みになってしまった絢音に美星は流れるように技を仕掛ける。
両膝や太ももで相手の頭を挟み、相手の胴周りをクラッチし持ち上げ、頭から背中にかけてマットに叩きつける。
美星が手を離すと衝撃のせいか絢音がマットの上を後頭部を押さえながら転げ回り悲痛な声を上げていた。
「しまった~!モ、モロに入っちゃった・・・・・」
「美星さん」
「お、怒らないでよぉ~・・・風香ちゃ~ん」
つい本能的にやってしまった事に気付く美星。
そんな彼女に審判役の風香はどことなく鬼のような形相に変わっていた気がする。
転げ回り続けていた絢音だったが、近くのロープを掴むとゆっくりと立ち上がりファイティングポーズを構えた。
それには周りに居た選手達からエールの声が飛び交った。
しかし、足は震えており立っているのもやっとだろう事は見ている全員が見て分かっていた。
だが、誰も止めようとはしない。これが・・・プロレスだから。
「残り1分!絢音ちゃん、イケそうかしら?」
「はいっ!!!!」
「じゃあ最後に全力をぶつけて来なさい!!」
沙織の声に全力の声で返事を返した絢音は走り出す。
その姿に美星は身構えるように重心を落とした。
絢音は相手の体勢を利用するかのように組んだ。
がぶりの体勢から、相手の胴を両手をクラッチして相手の背中が肩にくるようにして担ぎ上げたのだ。
体格差もある美星を軽々と・・・。
その光景には周りの選手も呆気に取られていた。
しかし、絢音はそれだけでは治まらず、担ぎ上げたまま一回転するとその勢いのままマットに美星を叩きつけたのだ。
技を受けた美星も技を放った絢音もリングの中央で大の字に倒れたまま動かなくなった。
それと同時に試合終了の合図もあり、実力テストは終わりを告げた。
「絢音!生きてるか!?」
「な、なんとか生きてますよ・・・・・あはは・・・・・」
「念の為に医務室に連れて行ってあげなさい」
「「「はい!!」」」
沙織の指示を受けると周りの選手達はすぐさま絢音の元に向かうと即座に担架に乗せるとそのまま即座に医務室へと輸送された。
1人リングの中央に残されていた美星だったが、何事もなかったように飛び跳ねて起き上がった。
「美星さん・・・大丈夫ですか?」
「かなり効いたよ~・・・特に・・・あたたっ、背中がねぇ~」
「面白そうな子でしょ?あの子」
「しゃっちょーから聞いてた通り面白くなりそうではありますねぇ~・・・まぁ、まだまだ課題点はありますけどねぇ~」
「じゃあ今日は私の奢りで焼肉連れて行ってあげるから絢音ちゃんが帰って来たら出発するよ~!!」
「よっ!太っ腹~♪」
「わかりました」
その夜、新人歓迎会と言う名目で焼肉パーティーが執り行われた。
会場では、試合の成果なのか先輩達から声を掛けられる絢音ではあったが、人見知りもあるのか終始ガチガチに固まっていたそうな。