「プロデビュー・・・ですか?」
「そうだよ~♪もう新人ちゃん達が来て随分経つと思うし、それに・・・そろそろプロのリングに立って暴れてみたいでしょ!」
とある休日だった。
いつもの女子プロレス観戦しに行こうとしたら社長さんから電話が入ったのだ。
急いで来て欲しいとの内容に絢音は駆け足で社長室に行き、現在に至る。
「私があのリングに立っていいんですか?」
「何言ってんのよ~!その為に今日まで必死になって練習積んで来たんでしょう?それともまだ自信がないのかしらん?」
「いえいえ!出たいです!わ、私も皆さんが光り輝くリングの上に立ちたいです!!」
「よろしい!!それじゃあ出発しよっか!」
「ふぇっ?ど、何処に・・・ですか?」
「決まってるでしょう、ヴァルキリアの試合観に行くに決まってるでしょ♪」
現在移動中のハイエースの中である。
運転しているのは、社長のマネージャー・・・富咲(とみさき)ひばりさん。
助手席には、社長。
後部座席には、自分と玖珂さん。
計4名が今日行われる興行3日目最終日の試合会場に向かっていた。
「やべぇ~・・・生で試合観んの初めてかも」
「そうなんですか?」
「あぁ・・・いつもテレビか動画でしか観戦してなかったからな。こうして試合会場に足を運んで観に行くのは初めてだな」
「そうですか、絢音ちゃんはいつもヴァルキリアの試合を欠かさず観に来てくれる常連様ですけど・・・」
「えっ!?富咲さん・・・私の事を知ってるんですか!?!?」
「はい、いつもリングの近くで食い入る様に試合を観る姿はハッキリと覚えていますよ」
「あははは・・・お恥ずかしいです」
「そんな方が私達の一員としてプロレスラーになるのを聞いた時は驚きましたけどね」
「大ファンがうちの門を叩いてくれてたなんて嬉しいなぁ~♪沙織、感激♪」
車内では他愛もない話で盛り上がっていた。
しかし、ふと絢音が横にある広告用のチラシに目が行くと手に取り、興奮したように凝視していた。
その異変にミラー越しに気付いた沙織はふとある質問を投げた。
「絢音ちゃ~ん♪今日のタイトルマッチどっちが勝つと思う?」
「・・・・・・・・・・」
「お、おい・・・絢音」
「VWQ王者の御堂さんの実力は計り知れないです。だから・・・普通に考えたら御堂さんが防衛すると思います。しかし・・・」
「しかし・・・?」
「今回挑戦されるのは、御堂さんとは逆のタイプの選手・・・愚麗怒婁(くれいどる)の期待の選手、来栖 美紅(くるす みく)さん」
「逆っつうと?」
「御堂さんは打撃を得意としますが、逆に来栖さんは極め技を得意とするんですよ」
「そこまで考察してるのねぇ~感心、感心♪」
「いえ、このタイトルマッチ凄く気になってたんで調べただけです」
真っ直ぐな絢音の目には、ココに居る3人が威圧を感じる程の空気を出していた。
しかし、会場が見えると表情はガラッと変わり、ご飯を待ち続けた子犬のように窓の外を食い入るように眺めていた。
大阪武道館。
関西のシンボルとも名高い武道館。
東京都にある日本武道館に並ぶほどの大きさを誇る。2大大型武道館の1つとも言われている。
武道を心得る者からすれば、聖地と言っても過言ではないだろう。
霞も武道を目にするといつもと違った雰囲気で武道館を見据えていた。
「じゃあ2人はここから自由行動でいいよ~♪試合を観るも良し!選手に会いに行くも良し!」
「い、いいんですかぁ~!?!?」
「但し、この証明カードはちゃんとぶらさげておきなさいよ~」
「は~い♪」
嬉しそうにスキップしながら武道館に入る絢音。
その後を追うように付いていく霞。
そんな姿を見て沙織はにやにやと笑っていた。
「顔がぐちゃぐちゃですよ・・・沙織さん」
「失敬な!私はちゃんと凛々しき女ですよ!!」
「またなにか企んでいませんか?」
「べつに~なんでもないわよ~」
「そろそろタイトルマッチですよ!!玖珂さん!!」
「だぁ~っ!!さっきから顔が近いんだよ!!」
「だって、だって!!こんなリングの真横で試合が観戦出来る事なんて滅多にないんですよ!?!?」
「だからってそんなに興奮する事じゃねぇだろ!」
「うへぇっへぇっへぇ・・・・・生の試合をこの眼前で拝める・・・・・」
「・・・・・あっちの世界に行ってる目だ」
タイトルマッチ戦前。
絢音と霞は特別に用意された席に着席して見学する事になったのだが、女子プロレスラー好き女子(通称:レス女)魂がインストールされた絢音は今か今かと食い入る様にリングを見つめていた。
霞も絢音程ではないが、今から始まる一戦に落ち着かないのか貧乏揺すりが目立っていた。
『これより今回のメインイベントを執り行います!!VWQ選手権の開幕だぁぁぁぁ!!!!』
いきなり響き渡るアナウンスに客は雄叫びのように叫び出し、一気に会場は盛り上がりを見せる。
その空気を浴びた2人も心に熱い何かを感じ取った。
『赤コーナー・・・VWQ王者!御堂ヒカァァァルゥゥゥ!!!!』
死神をイメージしたと言うセパレート型のリングコスチュームにフードローブを羽織った姿で現れた。
リングに上がる前に2人の前を横切ったのだが、一瞬だけ絢音は目が合った様な気がしていた。
『青コーナー・・・挑戦者!来栖美ィィィ紅ゥゥゥ!!!!』
真っ赤なミニチャイナドレスに孔雀のような色合いの扇子を片手に登場した。
2人がリングに上がったと同時に凄まじい威圧を肌に感じ取れたのは言われるまでもなかった。
2人が試合が始まるのを待ち遠しく見守っていると不意に背後に誰かが居た事にやっと2人は気付く。
するとそこにはランブル美星の姿があった。
「今日の美紅ちゃん・・・やる気マンマンだったよ~」
「言われてみればいつもと雰囲気も少し違いますね」
「解るのかよ!?!?」
「いつも美紅さんならファンに対してセクシーパフォーマンスをするはずなんですが、今回はなにもされずに自陣ポストにいます」
「集中してんのさぁ~ヒカルちゃん相手に真剣にやらなきゃ一瞬でリングに沈んじゃうからねぇ~」
3人が賑わっている最中ゴングが鳴り響く。
するとリング中央で組み合おうとする2人。
しかし、掴み合う瞬間に美紅はヒカルの利き腕を掴んで強引にアームロックを仕掛ける。
「やっぱり美紅さんも利き腕を狙いに・・・・・」
「定番だねぇ~・・・しっかし、ヒカルは簡単には崩せないんだよねぇ~」
表情を歪める事もなく、柔軟に身体を動かすとアームロックを簡単に外して、得意技であるハイキックを素早く放つ。
迫り来るハイキックを受けるも美紅の身体は衝撃のせいか身をよじらせる。
そんな美紅に2度、3度とヒカルはハイキックを放つ。
「逃げれない・・・上手い攻め方だ」
「えっ?」
「足元を見てみろ。受け側は両脚が微かにだが浮かされている・・・だから、次の行動に移ろうとした瞬間にはもう一度ハイキックが迫って来る」
「振り子・・・みたいだねぇ~」
「それじゃあ!もう美紅さんに勝ち目はないんじゃ!?」
「そんな簡単に諦める子じゃないよ~」
『うおおぉぉぉ!!』と大きな歓声がしたと同時に試合に動きがあった。
反撃は出来ないと思われていた美紅。
しかし、彼女は自分に迫り来る足を掴んだかと思うと素早く内側にきりもみ状態で倒れこみ、ヒカルを回転力で投げ飛ばしたのだ。
これには、投げ飛ばされたヒカルは掴まれた足を撫でながら苦痛に表情を歪めていた。
「ドラゴンスクリュー!?!?」
「利き足を狙うつもりみたいだねぇ~」
「この方法ならヒカルさんの得意技を封じられる・・・と言う事ですかね」
「普通の選手ならそうなるだろうねぇ~」
「えっ?」
論議をしている最中もリング内では激しい攻防が広げられている。
攻守は逆転し、美紅のペースで投げ技が次々にヒカルを襲う。
しかし、その表情は苦痛にではなく不敵な笑みに変わっていた。
次の瞬間。
勢いに任せて攻め寄ろうとした美紅に痛烈な一撃が炸裂する。
それは・・・力任せのフルスイングのラリアット。
そう・・・『デスサイズ』。
「うっは~モロに受けちゃったねぇ~」
「今・・・バウンドした上に一回転しなかったか・・・?」
「アレが・・・何人もの選手を刈り取って来た死神の鎌・・・・・その名も、『デスサイズ』」
「良い作戦だったんだけど、一瞬の油断が勝敗を決しちゃったねぇ~」
会場に響き渡るゴングの音と共に勝者であるヒカルは高々と拳を上げた。
その姿に会場からは歓声が巻き起こり、絢音と霞も自然と拍手をしていた。
全試合が終わった後に絢音と霞は選手控え室にいた。
美星に連れられて近くのソファに2人はぽつんと座っていた。
周りには今日の試合に出ていた選手達がうろうろとしている様子だ。
「なんだか・・・こんな夢の世界のど真ん中にいるの凄く落ち着かないです」
「落ち着け・・・アタシも一緒だからな」
「お疲れ様・・・2人共」
「「風斬さん!お疲れ様です!!」」
2人に気付いて声を掛けて来たのは、帰り支度を済ませて私服姿の風香の姿であった。
少しは話した事のある人物の顔を見て、落ち着いたのか2人は少しホッとしていた。
「風斬さんのタッグマッチ!凄かったですね!!」
「そうかしら?まぁでも、パートナーのライオネルさんのおかげかしらね」
「ライオネル神威・・・獅子の力を備えた最強の選手・・・ですよね!!」
「・・・・・実物を見るの初めてだったけど、あのライオンのような鬣は本物だった事に驚いたわ」
「んっ?アタシになにか用かい?」
「ラ、ライオネル神威さんっ!?!?」
「はっはっはっ!!そんなに怖がらなくたってとって喰っちゃわないさ!!」
噂をすればなんとやらできょとんとした表情でこっちを見る本人の姿があった。
まさかの出来事に絢音は、震えながら本人を指差してあわあわとしていた。
「ライオネルさん・・・まだ帰られてなかったんですか?」
「あぁ!今日はこれから焼肉に行くからな!!良かったら風香も行かないかい?」
「この後に予定もないので、お付き合いさせて頂きます」
「ヨッシャァ!!お前らも行くぞ!!」
「ええっ!?いいんですか?」
「賑やかな方が楽しいからな!」
「けど、社長に許可もなく行くのは・・・・・・」
「行ってらっしゃい♪」
「「社長!!」」
「おしっ!行くぞ!!お前ら!!」
「「は、はい!!」」
ライオネルの両肩に抱かれる2人は社長と一緒に来た事に気付いていたが、いつの間に現れたのか社長の一言で一行はその場を後にする感じとなった。
残された沙織は、にやにやと笑いながら返事の返って来た携帯の画面を見つめるのであった。