世にも奇妙な鎮守府   作:夜間飛行

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耳かき

私の名は加賀。トラック鎮守府に所属。

 

先ほど私に出撃命令が下されました。目標は近頃近辺で目撃されている泊地棲姫の撃沈。一航戦の出番というわけです。今は出撃前の装備の点検を終えたところです。

 

出撃の時間にはまだ余裕がありますね。ちょうどいい。私にはまだやるべきことがあります。

 

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突然ですが、今自分の部屋にいます。なぜですって?それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『耳かき』をするためよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出撃前に耳かきをする」これが私なりの勝利のためのルーティンなんです。

 

そもそもこの子(耳かき)との出会いは、小学校2年生の春。母の膝の上でのことでした。それまで綿棒としか接したことのなかった私は鼓膜を破らんばかりの威圧感を持ったこの子が怖かった。ですが、次の瞬間。私の耳は快感と共に大空へと飛んで行ったのでした。あの時の快感は今でも忘れられません。

 

世の中には様々な耳かきが存在します。ループ型、スクリュー型、スパイラル型。最近では吸引式やスコープ搭載耳かきなどといったハイテクなものも存在します。昔はそんな連中に浮気したこともありましたが結局いつだってこのスプーン型のこの子の元に戻ってきます。

 

では、始めるとしましょう。

 

(加賀の脳内イメージ)

洞窟に入っていく加賀

 

おっ、さっそく見つけたようですね。今宵のダイヤモンドは何カラットかしら?

 

耳かきから取り出して確認する加賀

 

フッ。小物ですか。これでは消化不良です。耳の穴を変えて再挑戦、というのは愚行。その前に変えるべきは『手』。耳かきに加わる力の方向性が変わり、今まで足を踏み入れたことのない場所へとたどり着けます。

 

(イメージ)

洞窟内で横穴を発見

 

ほら、新たなスポットを見つけました。!!いる!先ほどのやつとは比べ物にならないくらいのが!!まさか主では……

 

(イメージ)

横穴を進んでいき、地面を掘り始める

 

耳の穴に古くから住み着く『耳の主』。

 

ん?根っこが見えないわ。今見えているのは奴の一部に過ぎないというの?慎重に、やさしく。太古の遺跡をスプーンで掘り起こすように……。いいわ。もっと。もっと奥から。奥に回り込んで追い詰めて。

 

(イメージ)

洞窟内を掘っていくが異変に気付く

 

ん?

 

不意に目の前にある鏡を見る加賀

 

え?いつの間にこんなところまで掘っていたのかしら。耳かきの長さは大体17㎝。そして、今耳から出ているのは長く見積もっても5㎝程度。となると……12㎝が中に!?そんな馬鹿な!!だってこうなってるってことでしょ!?耳孔を通って小脳あたりにまで届いてないとおかしいわ!そもそも鼓膜は?あのカタツムリ的なその他諸々はどうやって通過したのかしら?全然痛くなかったわよ?もしかして奇跡的にすべての器官をすり抜けている?となれば……

 

引き返しましょう。同じ道をたどれば生還できるはず。

 

(イメージ)

洞窟の中を引き返す加賀

 

間違って脳を引きずり出さないように慎重に……

 

少し引っ張るが激痛が走る

 

痛っ!少し引っ張っただけなのにこの激痛。先端がカタツムリ的なものを噛んでしまってるのかしら。想像するだけで痛いわね。

 

時計を見る加賀

 

まだ時間はあるわね。ここは明石さんに連絡を取って……

 

備え付けの受話器を取ろうとする加賀。だがすぐに受話器を放す

 

危ない!この状態で私はバカなの!?それに待って。私は明石さんに対して……

 

(加賀の想像)

加賀『あの、明石さん?ちょっと耳かきが取れなくなってしまって、来てくれないかしら』

 

なんて言うつもり!?それにもし伝えたとしてここじゃなくて工廠でってことになったら……

 

明石『皆さんどいてください!耳かきが刺さって抜けなくなった加賀さんが通ります!』

 

全員『耳かきが?』

 

明石『はい』

 

(加賀の想像終了)

 

ダメよ!!そんなことになったら私の一航戦の誇りが一気に消し飛ぶわ。ここは何とか自分で対処するしか……

 

(ノック音)

 

!?誰かしらこんな時に!!

 

瑞鶴「加賀さん、入るわよ」

 

瑞鶴!?こんな時に!!

 

瑞鶴が入ってくるととっさに横を向く加賀

 

加賀「五航戦が何か用かしら?」

 

瑞鶴「……いや、作戦時間がもうすぐだから。伝えとこうかと思って。ていうかなんで横向いてるの?」

 

加賀「来ないで!!」

 

これを見られたら私の名前に『耳かきが刺さった』という余計なレッテルが張られてしまう!『耳かきが刺さった加賀さん』だなんていわれたら私もう死ぬしかなくなるわ!

 

加賀「用が済んだんだったら早く出て行って!」

 

瑞鶴「何よ!人がせっかく親切に教えてあげたのに!あんたのその態度すごいムカつくんだけど!!」

 

思いっきりビンタをくらわし部屋を出ていく瑞鶴

 

ちょっと!?耳かきが刺さった状態でなんてことを!?

 

鏡を見る加賀

 

え?さっきより耳かきが出てきたような。まさか今の衝撃で?

 

廊下に出る加賀

 

加賀「待って!」

 

瑞鶴「?」

 

カニ歩きで瑞鶴に近づく加賀

 

加賀「もう一回お願い!」

 

瑞鶴「はぁ?」

 

加賀「もう一回、頬を叩いて!お願い!」

 

瑞鶴「えぇっ!?ちょっ……た、助けてぇ!加賀さんがおかしくなった!!」

 

加賀「あっ……」

 

反対側から人が来たのに気が付き反対向きになる加賀。そしてさっきと同じ要領で部屋に戻っていき、扉を閉める。

 

部屋の外は危険ね。だけど、さっきよりも出てきているのは事実。叩かれた衝撃でカタツムリ的な部分を外れたのかもしれない。

 

そっと引き抜こうとするが激痛が走る

 

いっ!さっき以上の激痛が!!耳かきとカタツムリの絆がより深まってしまったようだわ。まずい。もしこのまま耳かきとの共同生活が続くことになったら……

 

(加賀の想像)

戦闘中

 

加賀『みんな優秀な子たちですから』

 

弓を放つが弦が耳かきに当たり発艦失敗

 

秘書艦

 

提督『……お、お前、み、耳大丈夫、か……?』

 

加賀『……』

 

耳かきが気になり提督の仕事に支障が出始める

 

もし休暇中に旅行になったら

 

空港の金属探知機

 

ピーピーピー

 

警備員『これを外してもう一度通ってください』

 

加賀『これ外せないんですよ。刺さったままじゃだめですか?』

 

(加賀の想像終了)

 

そんな交渉死んでもしたくない。どうしようかしら。何か方法はないの?……いっそのこと押し込んで逆の穴から出してみるっていうのはどうかしら?引いてもだめなら押してみるのよ。

 

試しに押して見る加賀。

 

……!痛くない!いける!いけるわ!耳の奥に希望の光が!!

 

(イメージ)

光に気づきその方へと進んでいく。

 

いいわよ。徐々に。出てきなさい。ヒッヒッフー。頑張って!ヒッヒッフー!

 

(イメージ)

出口へ向けて進んでいく

 

もう一息!ヒッヒッフー!

 

(イメージ)

出口は目前だがまたもおかしなことに気づく

 

よし。押し込んだわね。それでもって今度は反対側から……

 

つかもうとするとつかむはずの耳かきがないことに気が付く。何も言わずに水を飲み干しベッドに座る加賀

 

加賀「しまったぁ!!」

 

すっぽり入ってしまったわ!なんて愚かなことを!どうしてちゃんと長さを計算しなかったの私は!!何がヒッヒッフーよ!!耳かきのすべてが私の中に!!来た道を戻ることもできないじゃない!!

 

時計を確認する加賀

 

作戦時間までもうすぐ。どうする!?……!耳かきが完全に入ってしまった今、耳かきの感触がまるでないわね。見た目にも耳かきが内蔵されているなんて気づく人間はいないでしょう。耳かきが入ったままで出撃していいのかしら?被弾の衝撃で耳かきが脳に刺さる可能性も。その場合の傷は入渠で治るけがなのかしら。

 

いや。艦娘というのは常に危険と隣り合わせよ。今日一緒にご飯を食べた、話をした相手が明日もいるとは限らないわ。今まで幾度となく耳かき以上の危機を乗り越えてきたじゃない!耳かきを恐れる必要はない。それよりも恐ろしいのは作戦が失敗し一航戦の誇りを完全に失うことよ。そう。今やるべきことはいつも通り淡々と仕事をこなすことよ。もう時間ね。行きましょう。

 

【カレー洋リランカ島沖】

 

泊地水鬼「マサカ、ココマデトハナ」

 

泊地水鬼を発見した私達は直ちに交戦を開始しました。泊地水鬼以外の全艦を撃沈しましたが、こちらも私以外の全艦が大破状態、私は運良く小破で済んでます。そして泊地水鬼も大破していて、私が攻撃すれば撃沈です。

 

泊地水鬼「悔シイガココハ一時撤退ダ」

 

金剛「カガ!逃しちゃNOネ!!」

 

吹雪「もう少しです!!やっちゃってください!!」

 

加賀「分かっているわ」

 

私は矢をつがえ放つタイミングを待った。

 

加賀「ここは譲れませ……!?」

 

泊地水鬼「ハハッ」

 

なんで!?なんで泊地水鬼はこっちを見て笑ってるの!?

 

海面に映り込んだ自分の顔を覗き込む。鼻から耳かきが出来ていた

 

加賀(エェーーーーーッ!?!?)

 

呆然と佇む加賀を尻目に泊地水鬼はその場を去っていった。

 

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