世にも奇妙な鎮守府   作:夜間飛行

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閑話休題

古風な電灯がクラシックな部屋をぼんやりと照らす。そこに男が一人だけ座って本を読んでいる。

 

男「平和--国際関係で、戦争と戦争との間の騙し合いの期間。」

 

男はこちらに気がつき本を読むのをやめて、おもむろに立ち上がった。

 

男「みなさんお久しぶりですね。先ほど私が読み上げたのは、1911年にアメリカで発行された『悪魔の辞典』の一節です。一見普通の辞書のようですが、その内容が皮肉とブラックユーモアに溢れており、辞書パロディの元祖的存在となっております。」

 

ゆっくりと暗闇の中を進むと、一枚の肖像画の前に立った。

 

男「さて、この『悪魔の辞典』を書いたのは19世紀から20世紀初頭まで活躍したアメリカの作家アンブローズ・ギンネット・ビアス。彼は他にも『アウル・クリーク橋の一事件』など名作を多く残しています。」

 

男がさらに歩くと、1枚の古風なアメリカの地図の前に立った。その地図は茶色く日焼けしており、何年も使い古されたような地図だった。

 

男「1913年10月、71歳になったビアスは若い頃に関わった南北戦争の旧戦場を巡る旅に出ます。12月までにはルイジアナ、テキサスを通過、エルパソを抜け、当時メキシコ革命により混乱状態だったメキシコに入国します。そしてシウダー・フアレスで革命家パンチョ・ビリャ軍にオブザーバーとして加入、ティエラ・ビアンカの戦いを取材しました。」

 

男が説明すると同時に地図のセピア色の『Washington D.C.』の文字が血のように赤く染まった。そして男の説明と同時進行で赤い線が伸びていき『Louisiana』『Texas』『El Paso』『Ciudad Juárez』の文字が順々に染まっていった。

 

男「こののち、チワワ州チワワまではビリャ軍と行動を共にしていたことが分かっています。しかし1913年12月26日、この街から古なじみであるブランシュ・パーティントン(1866.11.15~1951.5.12)という女性へ向けて手紙を出しました。その内容は「私自身もまた、明日ここを去ればその先どこに向かうかはわからない」という謎に包まれた内容だったそうです。そして彼はこの手紙を最後に忽然と消息を絶ちます」

 

地図の赤い線がまるで何もなかったかのように消えた。

 

男「その後、彼の行方を探る試みは何度も行われてきましたが、今日に至るまで彼の死体はおろか、その後の行方すらつかめておりません。彼の行方に関しては戦場で横死した、チワワ州シエラ・モハダで銃殺刑に処された、そもそもメキシコに行ったという確かな証拠はないなど諸説あり、突飛な話ではありますが、彼はパナマ運河をめぐる国際的な陰謀を捜査するスパイだった、また探検家の冒険に同行し、マヤ文明の財宝を収集して歩いた、地元の部族に捕えられ、神として崇められたなど話題には事欠きません。中には横穴のない行き止まりの洞窟に入って行ったっきり二度と出てこなかったという伝説的な話もあります。」

 

男「さて、ここまで話してきましたが、まだまだこの世には奇妙な世界へ入ろうとしているものが多いようです。行きはヨイヨイ帰りは怖いと言いますから。どうぞ、皆さんもお気をつけて。」

 

男が振り返ると、慌てた様子で道に迷っているビアスが通り過ぎる。

 

男「…どうやら彼もまた奇妙な世界へ迷い込んでしまったようです。」

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