寿命延長の試練   作:速川渡

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序章:余命3日

「君のその右腕で自身以外の他人の顔を軽く掴むだけで、相手の寿命を自分に移すことができる」

 

 その神と名乗ったおっさんはまるで中二の病気でも患っているかのような、頭が痛くなる能力をいつの間にか俺の右腕に移植していたらしい。いや、おそらくは事実なのだろうけれど、起きたら体が奇跡的復活を起こしていたのだ。そんな異能力を持っていて授けることだってできるのだろう。その能力を使ってどういった試練をさせるというのか。

 

「そのなんかネット小説なんかでよくありそうな、ご都合能力で一体何をしろと?」

「うん。その説明の前に君の現状を語ろうか。君の体は健常体となり、これからもう病院のベットとはしばらく縁がないかもしれないな。しかし、君は退院のあと何かしらの形で死ぬ」

「………はい?」

「君の余命は退院までの三日間ということだよ。今のままではね」

 

 なるほど、あんな死に体だった体を治してくれて本当に感謝していたが根本的な問題は解決していないのか。退院してしまうその時が本来俺が死ぬはずだった日時でその運命自体は曲げられていないのだ。つまりは、このままだと青春どころか昔の日常を懐かしむ間も無く死ぬということだ。ここまで来てそれは流石にないと抗議を起こしたいが、このおっさんは人に試練を与えてそこから出た信仰を糧に生きるのだから、それをしてどうにかなるわけでもない。しかし、そうするとつまり──いや、待ってくれ……俺にそれをしろというのか? まさか。そんな、なんて残酷な……

 

「俺に人を殺して生き長らえろと言いたいのか?」

 

 震えた声でそう尋ねる。この右腕を使い他の病人や怪我人から寿命を巻き上げろと、そういう試練をこの男は俺に与えるというのか? 一度死にかけて、人がどれだけ生に執着しているのかそれを知っている俺には、重く残酷な試練だ。そうであって欲しくないと思う反面、それ以外に彼の試練(オーダー)が考えられない。俺はおそらく酷く怯えているのだろう。体はガタガタと震え上がっているし、心はイヤダイヤダという思考がマラソン大会のようにたくさん走り抜けていき、心臓はバクバクと音を立てていることがわかる。その様子を真正面に立って見ているその男は悪趣味な微笑みを見せて、言い放った。

 

「ああ、話が早くて助かるな。その通りだ。僕は君に他人の命より自分の命を取る狡猾さを得て欲しい。そして人の命の重さとそれを背負って生き続けるという覚悟を持ってもらいたい」

 

 ああ、後半のそれはありがたいな。理由付(いいわ)けをしてくれるとはなんともありがたい。ほんの少しだけ、罪悪感が薄れてしまいそうだ。そんな教訓を身につけて欲しいみたいなことを言っても、人を殺させようとしていることには変わりないけれどな。そう思ったところで、夢は覚めてしまい。

 

残り三日の余命のうちの一日目が幕を開けた。

 




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