戦乱の銀河に飛ばされた中年が勘違いして自滅する話の予定。
※最終加筆2019/09/02

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生きてます

 社員旅行で温泉に出かけた俺は、宴会が終わった後、一人で露天風呂に向かった。

 ババアなコンパニオン呼びやがって、無駄な金使ってるんじゃねえよ。

「わっしゃっしゃ」

 風呂に浸かりながらの読書が俺の趣味と言う訳では無い。ここの温泉では浸かりながら漫画が読めるのが売りだ。

 持っていった文庫は横山版三國志。こんな絵柄の古い作品が名作扱いされるのは、他に比較する作品が少なかった時代だから流行ったのだろう。同じ古い漫画なら『天地を喰らう』『龍狼伝』『蒼天航路』の方が突飛な展開や絵柄で好みだ。

「八百八屍(し)将軍ってネーミングセンスねえな。母ちゃん、ホウレイ線すげえ」

 突っ込みを入れていたら手が滑った。

「あ、やべ」

 油断からちゃぽんと文庫は温泉に沈んで行った。スマホなら終わっていた所だ。

 水分を吸い込んでシワシワになった文庫は捨てるしかないと思うが、ここの漫画は濡れるの前提で棚に並んでいる。だから損害賠償は請求されない。

 だけど読む気が失せたので、溜め息混じりに俺は風呂を出る事にした。

「うぇっ!?」

 足元が滑って俺は温泉に逆戻りだ。お湯が喉と鼻を襲う。咳き込み、もがく俺は意識を失った。

 

      ×××

 

 人の気配を感じた。微香をくすぐる微かな甘い香り。くんかくんかしたくなるこれは化粧品だろうか。

「気がつかれましたか?」

 鼻を鳴らすと声をかけられて俺は目を開ける。

(母ちゃん? いや俺の母ちゃんは既に亡くなっている。だったら……あの世!?)

 パッと起き上がると、傍らに金髪の美少女が居た。そして俺はベッドの上に寝かされていた。

 泊まってる旅館の部屋でも、何処かの病院でもない。

「ここは?」

 少女の差し出してくれた茶碗を受け取り、中の水を飲み干す。

「ここは阿曽主禅(あそうしゅぜん)が治める佐倉の延高城です。貴方は道で倒れていたんですよ」

 道ってどう言う事だ。それより聞き慣れない単語が幾つか飛び出していた。

「さくら? あそうしゅぜん?」

 確実に現代日本では無い。知らない時代、知らない世界、知らない国だ。

 俺は記憶喪失を装う事にした。

「そうですか。記憶を……」

 彼女は親切に、時事情報を教えてくれた。

 ざっくり言うと元魔(げんま)3年、神聖銀河帝国皇帝光輝(こうき)の崩御で13代、270年続いた帝国は分裂し、群雄割拠の乱世に突入した。

(三國志の漢王朝崩壊みたいな物か。うーん、割りと物騒な世の中なのかな?)

 戦争なんか怖いし誰かニートの為の国家、ニートリアを建国してくれないかな。……阿呆な事を考えたが、南天(なんてん)の五雄(ごゆう)──明(みん)、趙(ちょう)、練(れん)、孟(もう)、智(ち)、南蛮(なんばん)、西羌(せいきょう)とかますます古代中国っぽい国名が並んでいる。

 現在の勝ち馬は元帝国左将軍、比紀(ひき)弾正(だんじょう)。弾正は旧帝国残党と南天の征伐による銀河統一を目指している。

(弾正の立ち位置が一番、銀河統一に近いか?)

 曹州(そうしゅう)って奴が趙を治めてるそうだが、曹操みたいな凄さは無いらしい。それに南天連合なんて『キングダム』の合従(がっしょう)軍なみに踏み台っぽい臭いが漂っている。

 もし弾正が乱世の覇者に成るなら、戦禍を避ける意味でも今のうちに、弾正の治める五丈(ごじょう)とか言う国に移っておくべきだ。

「それで私は阿曽主禅の娘、紫門(しもん)です」

 誇らしげに名乗った少女を前に、相手が姫様だと認識する。あかん。危険なフラグが立ってる。

「紫門姫、知らぬ事とは言え失礼致しました。そして、この度は大変御世話に成りました。ありがとうございます。私はドンシャオピンと申します」

 相手が中華風の服装をしていたから、咄嗟にこの前読んでいた本に載っていた中共の指導者の名前を名乗ってしまった。

「ドンさんとお呼びすれば良いのかしら?」

 笑顔の可愛い御方だ。

 記憶が戻るまで何日でも居て良いと言われたが、俺は遠慮した。支那の歴史から考えて、巨大な王朝が崩れた後は強い国が弱い国を飲み込んでいく。この国は前者か後者かと言えば、後者だろう。

 残れば徴兵されるだろうけど、俺に救国の英雄を演じるのは無理だ。チート能力無しの兵隊は消耗品、俺には未来がある。命を粗末にする積もりは毛頭無い。

「何とか自分を取り戻したいと思います」

 そう言って俺は姫様の元から逃げ出す事に成功した。大それた野心で身を滅ぼすよりましだ。

「そうですか。お気をつけて下さい」

 姫様は別れの時に路銀までくれた。マジで良い人。これで姫様じゃなかったら惚れてしまうやろ。

 町に出て俺はこの世界にはアンバランスな文化や技術が入り乱れていると実感した。明らかに古代中華な町並みで衣類や生活習慣もそんな感じだが、銀河を行き交う宇宙戦艦と言うオーバーテクノロジー。どうなってるのかマジで分からん。

 とりあえず五丈に行く手段は宇宙船に乗るしかない。旅客船に乗るには金が足りない。うーん、バイトでもするか。

 手っ取り早く飲食店の求人でも探しに行くと虎が二足歩行していた。筋骨粒々としており甲冑を身に纏い、猛者と言う空気を醸し出している。

「うわ、虎が歩いてる。マジで格好良い!」

 思わず呟くと若いあんちゃんから話しかけられた。

「あの方は五丈四天王の骸羅(がいら)将軍ですよ」

「四天王?」

 他に玄偉(げんい)、鳳鳴(ほうめい)、狼刃(ろうは)の三人が居るそうだ。ふーん四天王ねえ。

「ええ、五丈から使者で来られているそうです」

 敵対関係とは言っても外交関係は切れていないらしい。ほーん。

「かく言う私も五丈から商いで来てるのですが」

 そう笑う青年は大覚屋(だいがくや)英真(えいしん)と名乗った。

 商家の次男さんだそうだ。

「兄弟居ると比較されたり大変だな」

「そうなんですよ。うちの兄は賢いのに遊んでばかりで」

 愚痴を聞いてる内に意気投合して南京楼(なんけいろう)まで商船に載せて貰える事になった。こいつ良い奴だな。

 

      ×  ×  ×

 

 南京楼で俺は英真の手伝いをしながら職探しをした。

「このままうちで働いたら良いじゃないですか」

 英真は本当に良い奴だ。イケメンにそう言われたら男である俺でも落ちそうになる。

「好意にいつまでも甘える訳にいかないよ。それに色々、経験をしてみたくて」と誤魔化しておいた。

「そう言えば骸羅将軍の末弟であらせる骸延(がいえん)様が師を探してるそうです。流石は李張(りちょう)老師の門下生。向上心を持っておられる方だと噂になっています」

 李張老師は弾正の軍師を勤めた学士だそうだ。その門下生と言う事はかなりの切れ者だろう。

 これはチャンスだ。

 これまで聞いた話を総合した所、後漢時代の歴史をたどっている様な気がした。

(いずれ黄巾の乱や反董卓連合の戦いみたいなのが起きるはずだ)

 俺はこの中途半端な文明レベルの世界で、知識を上手く使えば立身出世は無理でも平穏に暮らせると確信していた。有力者に取り入る事こそ近道だろう。

 でも俺に何が教えられるか。いくら古代中国風な文化レベルと言っても、宇宙船が飛ぶ世界だ。惑星が丸くて自転して太陽の周囲を公転してるとか伝えて、尊敬得られるほどちょろくも無いだろうな。

 上の兄二人は実戦部隊の指揮官、末の弟である骸延さんは軍師向きらしい。

(鎧着て刀剣類で戦うってどうなってるんだ)

 全くわからん。だけど就職活動の一環として戦について下調べする事にした。

「兵法書? うん、兄の読み終わった物が倉に直し込んで居たはずだから、好きに読んで良いよ」

「ありがとう」

 英真から借りた本の挿し絵を見比べながら読んだ所、艦隊決戦で負ければ制空権なんて喪失してる訳で、陸戦は重視されていない。剣や槍、弓矢で戦うなんてむしろ退化してるんじゃねえのか?

 宇宙で艦隊戦してると言っても接舷して抜刀隊で切り合ってるそうだから意味が分からん。ミノフスキー粒子も無いんだからアウトレンジで敵を潰せば良いだろう。

 ゼッフル粒子のある銀英伝の世界でもあるまいし、何で火器が普及してないんだよ。その癖、機関銃や手榴弾は標準装備であるらしい。

 そんな事を考えながら読み耽っていると、ギシギシと足音を立てて、倉に英真が入ってきた。

「ドンさん、おはよう」

 軽く朝の挨拶をされて気付いた。既に夜が明けていた。

 催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。

 ラノベを大人買いして、シリーズを纏め読みした時以来の集中力だった。

「おう、おはよう。徹夜してしまったぜ。ふははは」

「元気だね。今日はどうするの?」

「一眠りしたら骸延様の所に行ってみようと思う」

 英真は目をぱちぱちとさせながら問いかけてきた。

「本気かい?」

「おうよ。俺って結構、物知りなんだぞ」

 呆れた様に英真は言ってきた。

「ついこの前まで読み書きも出来なかったのに?」

「俺は過去ではなく今を生きる男だ。細かい事は良いんだよ」

 英真は何か言っていたが、俺はそのまま横に成るとたっぷり昼まで寝た。

 

      ×  ×  ×

 

 起きた俺は遅めの朝食兼昼飯を食べた。そして、遂に就職面接に挑む。

 骸延様の面接では自己アピールの時間があった。合否判定はその場で行われている。

 肩を落としたおっさんや若者が屋敷の門から出てくる。

「次の者」

「はい!」

 俺は今後の銀河統一に対する展望を語った。朝廷の宦官が、具体的に弾正の力を削ぐ為に反乱を扇動する可能性がある。そして反乱鎮圧後は宦官や不穏分子が一掃されるだろうと。

 骸延様はなぜか表情を強張らせていた。

「先生、貴方は名を何と仰いましたか」

「タオイェンと申します」

 この機会にドンシャオピンの名前は改名する事にした。討厭(タオイェン)、支那の言葉で大嫌いと言う意味だ。人に付ける名前じゃないが、なんちゃって中華な世界なら別に問題無いだろう。

「タオ殿、貴方は大殿が宦官共に害されると、そう言われるのですな」

 骸延様は口髭を弄って溜め息を吐いた。何か外したか? 「てへっ♪」と舌を出して誤魔化す雰囲気でもない。そもそも男がやってもキモいだけだ。───だから内心でびびりながらも俺は真面目に答えた。

「だいたいその通りです」

 生きると言う事は欺瞞の無限螺旋(インフィニット・スパイラル)らしいが、俺の場合は知識の隠匿と言う事で、それっぽく小出しにするだけだ。

(違ったら墓穴へまっしぐらだ)

 黄巾賊の乱は宦官が諸侯の力を削ぐ為に長引かせたと言う説がある。その後、皇后の外戚である大将軍何進が殺され、宦官は袁紹にぶっ殺された。その後、董卓がやって来た。

 董卓は秀吉とは違い、権力の継承手段に失敗した。

 もしも骸羅将軍が弾正の仇討ちで動くなら、骸延様は黒田官兵衛の様に支えるだろう。

「分かりました。先生、実は公家の連中に妙な動きがあると言う情報がありまして、我々も警戒してはいるのですが、まだ謀叛を起こすと言った確たる証拠や情報は入って無いのです。ですが貴方はそれを見破られた。貴方には食客として我が家に逗留して頂き、その御力で分析をお願いしたい」

 あれ、宦官じゃなくて公家なのか。だけど何か採用されたみたいだぞ。

 そうだな。生存戦略ってのは自ら動かなきゃ。動く者こそ結果が生まれる。

 やったぞ、俺。安定収入ゲットだよ。ぐふっ。

 そして俺は後で後悔する事になった。───やはり俺の生存戦略は間違っている。

 

      ×  ×  ×

 

 あれからしばらくして、俺は骸延様に従い武王都に来ていた。五丈の都だ。

 君子危うきに近寄らず、とは言うけど災厄は向こうからやって来る。夜空に浮かぶ機影があった。

「あのオスプレイっぽい回転翼機は、たしか南天の艦載輸送機か」

 古人曰く、働いたら負けである。……うん、その気持ちは分かるけど、リターンを得たいならリスクを負うのは必然だ。

 労働の対価、俺も働く上で知識を吸収していた。

 戦争とは闘争で、敵を殲滅したら終わる。一揆に対する信長の方向性は間違っていなかった。五丈も同じだ。立ち塞がる敵は殲滅する。

「ふむ。その結果がこれだよな」

 佐倉が滅んだ。五丈軍は旧帝国残党をこれで潰し終わった。次は南天だろう。

 だから南天の連中が攻めてきた。

 爆発炎上する武王都の王宮。敵の攻撃は城下にも及んでいた。

「姫様も大変だな……」

 佐倉の阿曽主禅は討たれ、姫様は虜囚となったと聞いている。お世話になった人だから気には成る。そんな風に他人の事を考える余裕があったのも夜が明けるまでだった。

 敵の夜襲があった翌日、弾正は南天征伐の命を下したと言う事で、骸延様は俺に意見を聞きに来られた。

「先生、昨夜の襲撃ですが、敵のコマンド部隊を率いて来たのは智の国の独眼竜正宗だそうですよ」

「独眼竜政宗ぇ!?」

 その名前はゾロ役の声優が声を当てた某無双ゲームのパクリゲームで知っている。

(独眼竜政宗って奥州で暴れまわった政宗か。いやいや、幾ら何でも有り得んだろ? まさか転生とか転移して来たのか!)

 骸延様の言葉によると、智の国は元々、住み着いていた海賊に官位を与えて守らせた国だそうで、正宗の一族も賎しい生まれだ。今の正宗は、智王の姉で、軍神と崇められる存在らしい。

「あ、『政宗』じゃなくて『正宗』か」

 少しほっとした。

「出陣は7日後、先陣は狼刃将軍の第3軍、我が兄、骸羅はその後詰めを命じられました。今回の戦で最も脅威となるのが、この智の国と考えられます。先生は今回の征伐をどの様に受け止められますか」

 動員された参加兵力は人員1800万名、艦艇18万隻と言う銀英伝も真っ青な数だ。師団と言うこの世界の艦隊編成では軽く30個師団を超えている。予定では3ヶ月で戦を終わらせるらしい。

「佐倉攻めから間を置いておらず、補充、再編どころか艦隊の整備や修理が未了なのが気になります。それと兵站の維持ですね。敵が遊撃戦を行ってきたら面倒です。此方が干上がるかもしれません」

 銀英伝の同盟軍みたいに敵地で補給が途絶えたら、ガダルカナルの二の舞だ。

「成る程。それでは今回の戦、先生にも御一緒して頂きます」

「へ……」

 俺の生存戦略とは、五丈と言う最強の帝国が築かれる中で、陰に潜んだ安定行動だった。俺自身が戦場に出る事は想定していない。

 前衛の尖兵を命じられたのは第4077重機甲師団。竜我(りゅうが)雷(らい)と言う指揮官、幕僚としての教育すら受けた事の無い海兵上がりの孺子(こぞう)だった。

「何であんなガキが先鋒で師団長なんだ!」

『うるさいよ。私はあんたより先に出るんだから、もう切るよ』

「あ、狼刃! てめぇ、待て」

 骸羅将軍はお怒りだった。その鬱憤を狼刃将軍にぶつけようとしたが通信を切られた。

「畜生!」

「兄上、阿曽主禅の首を取ったのはあの孺子(こぞう)ですし、今回の夜襲で殿を御守りしたのも孺子ですから仕方ありますまい」

 骸延様の言葉を横で聞きながら俺は納得した。敵将の首一つ取るとか手柄を立てれば一躍、出世出来る世界なんだ。

「連中を出し抜いて南帝閣(なんていかく)を落とせたら痛快でしょうね」

 俺は場を和まそうと冗談を言った。

「それだ! タオ先生よ、どうしたら良いんだ?」

 なん……だと……。

 骸羅将軍が乗ってきた。この人、本気だ。

 

      ×  ×  ×

 

 五丈軍の第一目標(Obj1)は南天の防御拠点である大要塞、座王都(ざおうと)。

 前衛である第3軍団は30個師団より構成されている。竜牙の4077師団を先鋒に3個師団を並列配置して後続が前進した。その側翼を4個師団が警戒した動きを見せた。

 これに対して逆風が吹いた。

 南天連合は、4077師団を陸攻や空母機動部隊で足止めを行いつつ、第3軍団の前進を練の羅鶴(らかく)率いる10個師団が阻止した。

 それは俺達の前が詰まっている事で、俺の危険が遠ざかると言う事だ。「戦わずに生き残る」と言う選択肢は妥当であり、弱者にとっては正当な生存戦略と言える。

 南天の正宗、でかした! なんなら豚汁を奢ってやろう!

「我々は後詰めが役割です。もし我々が抜け駆けをすれば、がら空きになった第3軍団の後方を遮断される恐れがあります」

「ならばタオ先生、どうしろと言うんだ?」

 俺はこの程度の質問に動揺しない。

 こう言う猪突猛進っぽい武闘派は積極的行動を好む。戦いとなれば俄然、元気になるのが連中だ。

「骸羅将軍、閣下御自身が軍団司令部直轄の重機甲師団を率いて、好きに動かれば宜しいかと存じます」

 五丈軍の強さの秘訣は、指揮官の柔軟な戦略と兵の精強振りだと言う。それで俺は留守番出来れば最高だ。

「俺自らか。面白い。骸山(がいざん)、お前は狼刃の背中を守ってやれ。骸延とタオ先生は俺と一緒に一暴れしに行こうぜ」

 骸羅将軍はニィっと笑うと俺の肩をポンと叩いた。

「ぐふっ」

 遠のきかける意識。今や俺は死地に居る。

 本当に絶望を感じると人は息が出来なくなるのではない。笑うのだ。

 戦艦の乗り心地は良かったが、その後「身軽な巡洋艦の方が良い」と言う事で、船を乗り換えた。

 そして俺達は智の国境を越えた。敵勢力圏深く進行していると通信が途切れがちに成っていた。

「どうなってるんだ」

「ジャミングです。敵は電子管制艦を混ぜている様です」

 更に悪い報告があった。南天連合軍は、駆逐艦と高速潜航艇による襲撃を繰り返して来た。

 後方の輸送船団には消耗品が積まれている。これが沈められると身動きが取れなくなる。

「勝負はまだ着いてない。敵の前衛は誰だ」

「智の悠閃(ゆうせん)将軍です」

 これで主力が干上がったら敗けは決まる。歩いて帰れる距離ではない。どうしようか悩んでいた所で骸羅将軍は決断された。

「俺がその首を取ってやる。抜刀隊を準備しろ」

「将軍!?」

 武人と言う物は自分の武に阿保みたいに自信を持っている。

 俺の周りでは皆、楽しげな雰囲気を浮かべていた。積極的な攻撃こそ彼らの好みに合っている。だから、その首討ち取ってやりましょう等と勇ましく話している。

 だが、それは将旗を掲げたこの艦が戦闘参加すると言う事で、俺の安全も何も無かった。

 途中で逃げ出す事も出来ないし不安だった。

 宇宙空間なのに、戦場の空気と言うか緊張感が高まって来るのが感じられた。空調の効いた艦内だけど、汗が吹き出た。

「先生、何処かお加減が?」

 ほとんど浮浪者同然であった俺を拾ってくれた骸延様や骸羅将軍には感謝してる。

 だから気持ち良く戦って貰う為にも、ここは煽てて持ち上げておいた。

「いえ、大丈夫です。皆さんの活躍を目の当たりに出来るかと思うと、楽しみで興奮して来ます!」

「ははは、そう言う事なら特等席で楽しんで下さい」

 そうして敵旗艦を探し出し接舷と言うか、体当たりをかまして白兵戦で敵艦を制圧した。まるで帆船時代の海戦の様だった。

 敵将悠閃の首級を引っ提げて戻って来た将軍は、血のたぎりを抑えられないのか、この程度では満足せず、更に前進させた。

 座王都は、南天が北征を行う上で強化された拠点で、砲台と機雷で固められている。

 智の都である南帝閣の玄関とも言え、当然と言えば当然の備えであった。

「投降勧告には応じず、守将の武尊は徹底抗戦の構えです」

「ちっ、俺様が出刃って来てやったのにチンタラしてたら、せっかく出し抜いてやった狼刃のやつに追いつかれてしまうぜ」

 武人は強いだけの思考で良い。強ければ敵も罠も関係無いからだ

「先生、今回も策を頼むぜ」

 骸羅将軍に掴まれた肩が軋む。悪気は無いんだろうが、俺と将軍では体の構造からして違うので手加減して欲しい。

 難攻不落の要塞を落とすならトロイの木馬戦法だが、銀河英雄伝説でイゼルローン要塞を落としたみたいに敵に偽装して侵入し、司令部を制圧する手もある。

「宜しいではありませんか。座王都は狼刃将軍に譲って差し上げても」

「何ィ?」

 身軽な俺達と違って、狼刃将軍の第三軍団はここから三日の距離に居た。補給を叩かれた影響が出ているそうだ。

 骸羅将軍が暴れたので、狼刃将軍肝いりで選ばれた新参の師団長も活躍出来ていない。

 これでは手柄を独占してしまう。

「御承知の通り南天は少数民族国家の集合体。連合の一翼を担う明の雷神は正宗と反目しています。雷神家は神聖銀河帝国以来の名門であると言う自負があり、正宗とは出自が違いますからな。智が危機に陥っても傍観するでしょう。これを利用して我等は南帝閣を目指します。敵に五丈軍の無敵神話を教えてやりましょう」

 こうなったら死中に活を求めて、とことんやるしかない。敵中突破で首都攻略により今回のキャンペーンを強制終了させる。

 付け焼き刃な知識を総動員した策だが、プロである骸羅将軍や骸延様の反応は悪く無かった。


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