本人の知らぬうちにガレスの婚姻話が上がった事だろうか、
最初に蜂起した農民たちに騎士たちによる鎮圧が起きた時だろうか、
王があの男を先代に引き続き重用する事を苦心の末に決断した時だろうか、
それとも、あの男が生まれた時に全てが始まっていたのだろうか。
度重なる
そんな時だった。
「ブラック卿。またしてもブリテン島から逃げ出そうとする民がいたそうですが、
彼らについては無事捕縛して本来の地主の所に返還させました。
また、反国家組織『黄金の指輪』が東部でまたしても活動を行ったようです。
規模はこれまでの1.5倍。日に日に脅威は拡大しています。
未確認ですが、先程取り戻した民も彼らに吸収された可能性が高いとのこと。
彼らの要求は変わらず―――『ブラック体制の打破』です」
そう、アグラヴェイン卿が私に報告をした。
忌々しき『黄金の指輪』め。
…何故だ、何故理解できないのだ。
私のやり方でブリテンが上手くいっているというのに。
頭が悪い奴等にはそれが理解できないのか?
農奴に学を付けるコストは勿体無いが、そうは言っていられないのだろうか?
いや、農奴以外に身を立てる道がある事を理解されると底板労働者が減少する。
高度情報化社会ならまだしも、この文明レベルで一次産業従事者が減少するのはよろしくない。
「…制圧は完了したのか?
敵の規模における死亡者と逮捕者の合算した割合は?」
私の確認の為の疑問にアグラヴェイン卿の返事は浮かない様子だった。
「……我が弟たちが連絡を受けて鎮圧に向かった時には既に離散していたそうです」
となると、
「…情報が漏れていた可能性も否めないな。
一度規律を引き締め直せ、その教育手筈は卿に任せる」
「…………はっ」
国に尽くす騎士たちの中に裏切り者がいる。
普通に考えれば在り得ない、あってはならない事だ。
労働の忠節の喜びに感謝を示す。その模範たる騎士が裏切った可能性?
…もし発覚したら、最下級の奴隷に落とし込んでやる。
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『黄金の指輪』の結成は半年前に遡る。
始まりはトリスタンが、
「王は、あの人の心が解らない男に誑かされている」
そう言った事が発端だった。
その言葉を聞いて最早動くしかないと判断したガヘリスは兄や妹にそのことを相談した。
しかし、王の言葉やブリテンの利益を優先する年上の二人と、
人間的な感情を大切にする年下二人で意見が真っ二つに割れた。
かくしてガヘリスは共感したガレスと共にトリスタン、そして彼の所属している組織へと接触した。
そこには既に、同じく義憤に燃えていたベディヴィエールもいた。
そして素性のわからぬ正体不明の黒仮面の男もいた。
「私は王に人の心が無いとは言わない。
だが、あの男がいる限り、ブリテン人は未来に存在しない。
未来に存在するのはブラック体制の家畜だけだ。打倒しなければならない。
―――――――例え王を敵に回す事になったとしても」
黄金の指輪筆頭同志トリストラム、本来の名である円卓の騎士トリスタンは悲壮な決意を滲ませてそう語った。
ブラック卿が自陣営にガウェイン兄弟を取り組む一環として接触してきた折に、
黄金の指輪の一員となったガレスはブラックの言葉に流される振りをして煽てあげ、
そこから情報を抜き出す役目を負う事を志願した。
妹に危険な役割を負わせられないと止めるガヘリスであったが、ガレスの意志は強かった。
そんな妹に引けを取らぬよう、ガヘリスは各地域のリーダーとの連絡役と言う、
最も危険な役割の一つに立候補した。
ベディヴィエールは王を裏切る不誠実な活動に悩み、睡眠さえ満足に取れないまでに苦しみつつも、
それでも騎士たちの中にそれとなく不満を持つ者がいないかを探す役目を負う事にした。
「ところで、ウルフィウス卿はどうする?
ブラックへの対抗馬としては有力な戦力のはずだ」
革命組織の会議の中、ガヘリスからその意見が出たが、
それは、
「…残念だがウルフィウス卿は私達と目指す未来が違う。
ブラックを倒す目的は、権力争いで無く民の安寧でなければならない」
と、トリスタンにより却下された。
その後、ガヘリスとガレスは騎士としての責務を持って、
表上は『黄金の指輪』の者達を追い詰める振りをしては逃がすという行動を続けた。
時に、信憑性を出すために逢えて討ち取られた構成員に涙を流す事もあった。
そして、討伐に赴く騎士たちの中で乗り気で無い者を探すベディヴィエールも、
後ろめたさと何時止むかも知らぬ苦痛な運動に心が悲鳴を上げていた。
そんな中だった、ガヘリスは『黄金の指輪』のどの構成員も素性を知らぬ黒仮面の男と話を付ける事にした。
「…何時まであの男に従う心算だよ
安心しろ、ガレスはまだ気が付いてないはずだ。」
「……そうか。
…彼は国を救うべく奮闘している。それに犠牲が付いてきたというだけだ。
それと、私個人としては自ら悪と呼ばれてでも目的を遂行する姿勢は嫌いでは無い」
黒仮面の男、アグラヴェインはそう答えた。その声色は冷静だった。そのはずだった。
だが、ガヘリスはそれでも自分の中にある正しさを諦めてはいない、強い瞳をしていた。
「だったら何故
2重スパイにしては此方の情報は何一つ洩れていない。なあ、そうなんだろ?」
アグラヴェインは少し視線を逸らした後、再びガヘリスの方を向いていった。
「私はブリテンの最善を目指すだけだ。その手段としてブラック卿が最有力候補だ。
必要とあれば、此処で得た情報を提供する可能性も否定しない」
「なあ、何でだ?
兄貴だって昔はもっと情熱的だったはずだ。母さんにアーサー王に敵対するように言われて近付いたときだって、
アーサー王の中に光を見たから王に尽くす事を決断したはずだ。
俺達は民を幸せにするために最善を突き通す義務と権利がある。兄貴だってそう思っていたはずだ。」
全く正反対のようで、それでも何処か似通った弟の希望が、
兄には拷問のようだった。
「私は只、両者の言い分を聞き含め、最善の判断材料にしようと考えているに過ぎない。
だから、………その期待した目で私を見るな。
私は…私は、ブラック卿の最高序列部下だ」