もしも遠山キンジが狼だったら【完】   作:吉田さん

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ヒステリア・サヴァン・シンドローム。
この特性を持つ人間は、簡単にまとめると性的に興奮すれば一時的にまるで人が変わったようなスーパーモードになれるのだ!
さて、では当作品における遠山四きょーだいと彼らのヒステリアモードへのなり方を軽くご紹介するぜ!

・カナ(遠山金一)
→女装した自分でヒステリアモードになれるぞ!

・遠山キンジ
→半額シールでヒステリアモードになれるぞ!

・ジーサード(遠山金三)
→芸術に触れるとヒステリアモードになれるぞ!

・遠山かなめ
→大好きなお兄ちゃんでヒステリアモードになれるぞ!

〜まとめ〜
キンゾーが一番まともですね*・゚゚・*:.。..。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゚゚・*



第三弾 嵐の前触れ

 俺がその人に出会ったのは、去年の冬のことだった。

 とある事情で学園島からアテもなく飛びだした俺は、空腹に飢えていた。

 急に飛びだしたから、財布も忘れていたんだっけか。

 

「……350円しかないな」

 

 ファミレスに入っても、アラカルトしか頼めないであろう値段だ。それで今の腹を満たすのは……少し難しいなと俺ら考えた。

 それで当時の俺は、偶然目に入ったスーパーに足を踏み入れたのを覚えている。

 

「……今半額シールを貼っているな。ラッキーだ」

 

 今の俺が見たら、怒りに震えることだろう。

 その時の俺は惨めな豚でしかなかった。

 匠たる半額神の芸術に対して「早くしろよ」なんて内心で思いながら、俺は弁当コーナーでポケットに手を突っ込みながら待機していたんだからな。

 ……本当によく、殺されなかったもんだよ。

 

「いつもコンビニのハンバーグ弁当だし、たまにはスーパーのハンバーグ弁当を味わってみるか……」

 

 ……ごくり。

 

 食欲を掻き立てられたからか。そう喉を鳴らして手を伸ばした俺は―――次の瞬間には、鮮魚コーナーのところまで吹き飛ばされていた。

 

「ぐうッ!?」

 

 ヒステリアモードじゃなかったら大したことないといっても、そこは仮にも強襲科(アサルト)の武偵。戦闘訓練のくせのままに素早く立ち上がって、状況判断に努めたんだっけか。

 

 ……そしてそこで見たのは、強襲科(アサルト)での訓練をこなしていた俺でさえ、震え上がるような戦意の奔流。

 だが、何故か美しいと感じてしまう激闘の嵐だった。

 

「す、げえ……」

 

 自然と、その言葉が口から漏れた。

 けど、その時の俺は腹が減っていたから、吹き飛ばされたのにイラっときたんだよな。

 それに、俺は武偵だ。

 服の上から相手がどれだけ鍛えているかとかはなんとなく推測できたし、ヒステリアモードでなくとも街のチンピラは制圧できて、本職の人間だろうと一対一なら相手することはできる。

 

 その結果、

 

(……チグハグ、だな。鍛えているようには見えないが)

 

 身体能力は高く、目を見張る技術もあった。

 けど―――どう考えても、特別な訓練を受けていたようには見えなかったんだ。

 そういう体じゃなかったから。

 

(まあ、良い。俺はハンバーグ弁当を獲らさせてもらう……!!)

 

 戦力分析を完了させた俺は駆け出した。

 武偵高の生徒だったから、荒事には慣れていたしな。あまり違和感を感じていなかったんだろう。

 恐ろしいまでの殺意を叩きつけられたけど、蘭豹が婚カツに失敗した時の荒れ具合よりはマシだ……マシだよな? と全力で自分を納得させながら駆け出したんだ。

 

 だが、

 

「弱きは叩く―――」

 

「―――豚は―――」

 

「―――潰す」

 

(―――速っ!?)

 

 俺には初動すら、見切れなかった。

 一瞬にして複数の狼達に囲まれた俺は、全身に衝撃を受けてそのまま宙を舞う。

 狙撃された時以上の衝撃に驚愕しながら、受け身を取ることすらできずに固い床に叩きつけられた。

 

「―――かはっ……!」

 

 あの時は心底、イヤになったよ。

 俺には、武偵なんて向いてなかったんだと本気で痛感したよ。

 同時に―――ヒステリアモードだったら、あの弁当を喰えたかもしれない……! って、悔しくなったっけな。

 そんな事を考えたからか。

 

「くっ……って、しま……!?」

 

 その後、倒れ込んだままの俺の上に茶髪の女の子が叩きつけられて、その子のたわわな胸と俺の顔が接触。

 女子の胸に溺れた俺は……

 

(この、血流は……なっちまったぞ……!)

 

 当然のように、当時の俺は女子でヒステリアモードになってしまった。自分で言ってて悲しくなるな。

 そして俺はキザな台詞を吐きながら、その茶髪をお姫様抱っこする。

 

「大丈夫かい? お嬢さん。キミのような可憐な花に、過酷な戦場は似合わないよ。今から俺が、キミの分もお弁当を―――」

 

 当時のヒステリアモード状態の俺は、女子を戦闘不能にさせることはできず、女子を最優先にして考えていた。

 だから、誇り高い狼に向かって、侮辱に等しい言葉を吐いてしまったのだ。

 

 一瞬にして、俺は無表情となった茶髪によって吹き飛ばされた。

 茶髪が負傷していたことに加えて、俺がヒステリアモードだったこと、それに―――無意識のうちに空腹による欲求が発動していたおかげで、ギリギリで衝撃を受け流すことはできたけどな。

 

 茶髪からの攻撃に困惑したヒステリアモードの俺だったが、そこは推理力も上昇するヒステリアモード。なんとなく状況を把握し、俺も半額弁当争奪戦の中へ。

 

 ―――そこで、俺はあの人と出会った。

 

 マントをたなびかせて、宙を舞う『魔導士(ウィザード)』に。

 

「『魔導師(ウィザード)』だ!」

 

 その二つ名に恥じぬ他の者とは一線を画した流麗な動作で、彼は飛ぶ。

 決して地に足を着けることなく、彼は天から俺たちに襲いかかった。

 

(なんて、攻撃だ……!)

 

 天井を蹴り、狼達の顔面を蹴り、彼は舞う。

 

 高速で行われたそんな立体的な動きに対応できず―――他の狼達同様、俺も彼によって意識を刈り取られた。

 その寸前。

 

「今のお前は、ここでの(ルール)を知らない無知な豚だ。豚だが……一瞬だけ見せた半額弁当を喰いたいというその欲求は、本物だった」

 

「……っ!」

 

「素の能力の高さが、初見でありながら微かな状況把握を可能にしていただろう。弁当への執着心があり、なおかつこの場で誇りをもって生き残り知りたいのなら―――明日の夕方、烏田高等学校の部室棟五〇ニの門を叩け」

 

 その寸前に聞こえた声に、俺は―――。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 アリアの舞う姿にらふと思い出した過去に想いを馳せていたからか、全く集中できなかった『探偵科(インケスタ)』の授業。それをを終えるから、俺の携帯にメールが来ていたことに気付く。

 

「……理子からか」

 

 あの日の半額弁当争奪戦以来、アリアが俺に「ドレイになりなさい!」とムチャを言うようなことはなくなった。

 ただ、なにか思うところがあるような視線は毎回授業の時に送られてくるのだが。

 正直、視線が気になって気になって仕方がない。

 そのためアリアに「何か用か?」という意味を込めた視線を返すのだが……何故か、わたわたと慌てて顔を逸らすのだ。

 

 そこで俺は、性格やらは無視して俺の知っている中では最高クラスの情報収集能力を誇る、峰理子に調査の依頼を頼んだ。

 先日の俺の自転車ジャックと、アリアとレキが解決したというバスジャック事件の関連性も気になるしな。

 なんせ―――そのバスは、俺が本来なら乗っていたであろうバスだったんだから。

 自転車に続いて、バスまで。これは果たして偶然といえるのか? 俺なんかを狙うとは思えないが、ここは武偵憲章に倣って悲観的に考えるべきだろう。

 加えて、この事件のどちらにもアリアの姿があった。これも、まるで()()()()()()()()()()()()()な。

 このせいで、半額弁当争奪戦にも身が入らなかった。誇り高い狼であるためにも、この件は解決しなくてはならない。

 

「いや……」

 

 ……いやそれ以前に。

 俺はあのピンクツインテールの小さな背中が、気になってるのかもしれないな。

 俺自身が、思っているよりも。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 メールに記載されていた『台場のクラブ・エステーラ』とやらに着くと、店の駐輪場に見覚えのあるハデな改造ベスパが見える。

 ……理子が自慢していたものだな。となると、変なイタズラではないな。

 あいつは優秀な武偵だが、どこかふざける悪癖があるからなあ。

 クラブに入ると……うっ、女子が多いな。武偵高の女子もいるぞ。理子が好みそうな雰囲気ではあるが、俺はちょっと勘弁したい。

 

「キぃーくぅーん!」

 

 ―――と。

 フリフリのロリータ改造制服に身を包んだ理子が、奥から駆けてきた。

 普段からこいつはフリフリの改造服だが、なんか今日の格好は一段と凄いぞ……?

 

「お前……授業サボってなにしてんだよ?」

 

「くふ。この勝負服のお着付けしてたからねぇ。それにしてもキーくん来るの遅いから、フラれたらどうしよかなって、理子不安になってたんだよぉー?」

 

 うむ。全くもって意味がわからん。

 他の連中は知らないが、ネクラとまで呼ばれている俺に理子語の解読は難易度が高すぎる。

 よって理子の言葉を華麗にスルーして、俺は「で、どこで話すんだ?」と問いかける。

 

「ぶー。そんなんじゃ理子ルートはバッドエンドまっしぐらだぞー!」

 

 ぷんぷんがおー! と指を突き立てて上目遣いになる理子。

 妙に艶かしいな。女子が苦手な俺にとっては辟易するものだが。

 まあそのポーズも「帰るか」と俺が割と本気で考えたのを察知したのか、直ぐにやめて俺をとある個室に押し込んできた。

 ……なんか、これだけでものすごく疲れたな。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

(……ったく、色々想定外だ)

 

 慌てて個室から出て行ったキンジの背中を思い出しながら、理子は一人ため息をつく。

 ……本当に、想定外にもほどがあるのだ、今回のことは。

 

 理子はアリアの目的を知っている。

 そして、それ故にキンジの実力を見せれば彼女がキンジを求めるであろうことも推測できていた。

 

 そして結果として、アリアはキンジをパートナーにするべく動く―――はずだった。

 確かに、アリアはキンジをパートナーにするべく動いた。だが、それはたったの二日だけ。

 そのあとはもどかしげにしながらも、キンジをパートナーにしようと直接的に動いてはいなかった。

 これが、一つ目の想定外だった。

 

 二つ目の想定外は―――キンジが、自分の誘惑でHSSにならなかったこと。

 とある事情から、彼女はキンジの特異性を知っているのだ。

 だからこそ彼女はキンジに情報を与え、HSSにして、自分で事態の深刻さに気付かせる予定だったのだが……HSSにならなかったのである。

 

(自転車ジャックの時……つまり、アリアとイイコトしてた時はなってたんだよねぇ……? うーん? 理子には魅力がないってことかなー? キーくぅん?)

 

 自然とドス黒いオーラが体から溢れるが、これはあれだ、複雑な乙女心というやつだ。自分がキンジに惚れてるとかない。絶対。絶対にない。

 

 兎にも角にも、キンジはHSSにならなかった。

 ならなかったのだから、キンジが自分で状況を把握できるはずもない。

 

「……なんでよりにもよってあたしが、探偵の真似事をしなくちゃならなかったんだろうねえ。なんか、色々想定外だよ、キーくん」

 

 某少年探偵を連想させるような推理ショーを披露した時の自分を思い出して頭を抱える。

 おかしい、それは自分の役目ではない。いろんな意味で。

 

「……けどま、舞台は整った」

 

 アリアとキンジ。

 この二人が揃った状態で、舞台は天に移る。

 そして、それと相対するのはこの自分。

 

「アイツらを倒して―――理子は、理子になる」

 

 口元を歪める。

 なにせ、ようやく、悲願が達成されるのだから。




次回はいきなり飛行機の中です。
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