もしも遠山キンジが狼だったら【完】   作:吉田さん

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vs武偵殺し 始まるよん!


第四弾 カドラのアリア

 峰理子は混乱の真っ只中にいた。

 自分は確かに、アリアを追い詰めたはずだ。

 オルメス―――アリアの一族には優秀なパートナーが必要で、その条件を合わせるためにキンジというパートナーをくっつけるというお膳立てをして。

 その上で、自分はアリアを圧倒したはずだった。

 

 なのに―――

 

「キン、ジィィ……!!」

 

 なのに、何故自分が押されている!?

 

 理子は手に持つ二丁のワルサーから鉛弾を放ちながら、メデューサの髪のように蠢く髪を自由自在に操りながら、見たこともない技を次々と放つ遠山キンジを睨む。

 

 一方のキンジは、

 

「―――豚は、潰す」

 

 理子の放つ銃弾を軽々と躱し、あるいは()()受け流し、あるいは掴み取り、自分に迫ってくる。

 キンジにとって初見であるはずの髪を用いた格闘術もなんのその、流麗な動きで軽やかに対応している。

 加えて、

 

「……っ!」

 

 加えて、キンジの放つ覇気は、イ・ウーに所属している理子をして怖気付いてしまうほどのものだった。

 これはもはや肌を刺すような、などという次元ではない。

 理子はHSSを知っている。

 そして、HSSを見たこともある。

 だからこそ、分かる。

 キンジの纏っている空気は、ただのHSSのそれではない―――ッ!

 

「な―――っ」

 

 瞬間。

 理子の視界を、スーパーに置いてあるようなカートが覆った。

 恐ろしい速度で自分に襲いかかるそれを、躱すのは不可能。

 咄嗟に握っていたナイフを放し、怪力を誇る髪でカートを受け止める。

 

「ぐ、う……っ!?」

 

 まるで大型バスが衝突してきたような衝撃だ、と理子は思った。

 同時に、なんだこのふざけた技は、と怒りが込み上げてくる。

 自分を豚と呼んだ事もそうだが、今のキンジは何かがおかしい。

 ただのHSSではない思ったがそれにしてもおかしい。前提として、キンジが性的興奮を覚えるような場面はなかったはずだ。

 妙な点はなかったのかと言われれば、キンジが壁に叩きつけられた時、彼の懐から『半額シール』が大量に保存されている意味不明なフォルダーが落ちたくらいで……。

 

「キンジ! あんた、腹の虫の加護を……!」

 

 オルメスが何かを叫んでいる。

 はっきりいって彼女の言葉は意味不明だ。理解不能だ。何を言っているんだあの女は……腹の虫の加護ってなんだ!?

 

「ていうか、なんでこんなところにカートが……!」

 

 ここは飛行機の中である。

 繰り返すが飛行機の中である。

 キャビアテンダントが転がすカートは存在するが、今理子が決死の思いで受け止めたカートはスーパーに大量に置いてある方のカートだ。種類が違う。

 そんな抱いて当然の疑問を抱きながら、理子はカートを弾き飛ばした。

 

 弾き飛ばして―――迫り来るキンジが持つカゴに、ゾッと背中を冷たい何かが通り抜けた。

 

「ごっ……!?」

 

 腹部に来る衝撃。

 先ほどのカートから来た衝撃なんて目じゃないほどの一撃が、彼女の体を貫いていく。

 カゴの面積は広く、拳と比べてその衝撃は分散する。

 分散するはずなのに、重い。

 カゴの無数の穴が肌に食い込んで、地味に副次的な痛みも生み出している。

 スーパーに大量に置いてあるカゴとは、これほどの凶器になり得たというのか。

 今の理子は、自分が手に持つワルサーP99がとても頼りないものに見えた。

 

(いやだから、なんでカゴがこんなところに置いて……!?)

 

「キンジ! あんた! カゴをそこまで完璧に操るなんて……!」

 

(そしてなんでお前はそんなに訳知り顔なんだよ、オルメスゥゥ……ッ!!)

 

 怒りを糧に、理子は吹き飛ばされながらも受け身を取る。

 そして視線をキンジとアリアに向けて―――彼女は、音を聴いた。

 

「……は?」

 

 気が抜けるような平和な音色。

 具体的には、そう、スーパーの鮮魚コーナーあたりで耳にする軽快な音楽。

 その名も、

 

「『お魚天国』……?」

 

 あの耳に馴染む音楽が耳朶を叩く。

 いや、なんで?

 

「えっ」

 

 そのBGMに気づいたからか、理子は先ほどまでは見えていなかったものが見え始めた。

 キンジが―――見覚えのあるスーパーのお弁当コーナー守るように佇んでいるのを。

 というか、見覚えのあるスーパーにいつの間にか自分達がいる。

 ここは飛行機の中だ。

 飛行機の、中の、はずだ……。

 自分はハイジャックをしていたはずだ、スーパーのお弁当強盗をしていた覚えはないし、する予定も全くない。

 

 しかし、現実問題、自分は今スーパーの中にいる。

 なんだ、どういうことだ、どういうことだ!?

 

「―――そういうことだ」

 

 静かに、キンジが言う。

 いや、つまりどういうことだ!?

 

「ここはスーパーの中で、お前は狼としての誇りを持たない《アラシ》。ならばこうなるのは必然だ」

 

 ……。

 

 …………。

 

 ―――どういうことだ!?

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 この攻撃的な思考。

 間違いなくこれは―――ヒステリア・ベルセ。

 狼となってから暫くして、俺はヒステリアモードに、いくつかの系統がある事に気が付いた。

 そのひとつが、このヒステリア・ベルセである。

 まあ俺が勝手に名付けているだけだけどな。

 これが発動するトリガーは、憶測に過ぎないが《アラシ》に対する怒り。

 今回の場合は、理子がアラシとして当てはまったのだろう。

 飛行機の中は、既に飛行機の中じゃない。ここはもう―――狼達の戦場だ。

 

 理子。

 今の俺は女性相手だろうと攻撃的な狼状態の俺が、更に攻撃的になる状態だ。

 命の保証はできないぜ。半額弁当争奪戦は、文字通り命懸けだからな。

 

「キンジ……あんた、その感じ」

 

 額から血を流しているアリアが、俺を見て驚いたような様子を見せている。

 ……そうだな、アリアも驚くだろう。

 この姿は、通常のヒステリア・モードの1.7倍なんだからな。

 つまりヒステリア・ベルセ×腹の虫の加護だ。

 その力は、単純な力比べなら『魔導師(ウィザード)』をも超えるだろう。あくまでも、単純な力比べだがな。

 

「……アリア、俺達がすべきことは分かるな」

 

「……ええ。わかるわ」

 

 フッ、と俺は微笑みを浮かべた。

 そんな俺に対して、アリアも薄く笑う。

 とても―――魅力的な笑みだと思った。

 

「俺たちは狼―――」

 

「―――豚は潰す」

 

 俺はブレザーの内ポケットに潜ませていた『マイカート』を取り出し、アリアがスカートの中から覗く輝く太腿に付けていたレッグホルスターからピンク色の『マイカゴ』を二丁取り出して、構える。

 

「ねえ、なんなの!? どういうことなの!?」

 

 俺達が臨戦態勢に入ったのを見てか、みっともなく、理子が叫んでいるな。

 理子は、この場での(ルール)を知らず、無意識のうちに荒らし行為を行っていたのか。

 無知は罪、という言葉が当てはまるぞ、理子。

 

「もう意味わかんねえよぉぉぉおおお!!」

 

 理子のワルサーP99が火を噴く!

 迫り来る弾丸を、俺の前に躍り出たアリアが見事な『双カゴ術』で―――全て叩き落とした!

 カゴは穴が大量にあるため、弾丸を防ぐのには向いていないのだが……凄いな、アリアは。

 弾丸を全て正確に見切って、なおかつカゴの特性を把握していて、『双カゴ術』を完璧に近い精度で修めていたのだろう。

 今のアリアなら、巨乳に並ぶんじゃないか?

 

「行きなさい! キンジ!」

 

 アリアが振り向きざまに言う。

 ―――ああそうだな、アリア。

 俺はカートを勢いよく理子に向かって滑走させ、その上にサーファーのように乗る。

 

 その速度は人体では不可能に近い―――音速超えにすら至る!

 

「ふざけるなああ!!」

 

 鬼のような形相で叫ぶ理子。

 俺に向かって髪を叩きつけようとするが、俺はそれを軽々と避ける。

 その髪の威力は、スーパーの床に傷をつけるほどのものだが―――スーパーの床を傷つけるのは、良くないぞ。

 

 だからこそ、俺はこの一撃を放とう。

 この桜吹雪……散らせるものなら散らしてみやがれ!

 

「店に迷惑をかけるなど、もはや豚以下だ。喰らえ理子―――『桜花(おうか)』!」

 

 決して避けることの出来ない一撃が、理子の身体を吹き飛ばす。

 最後に紡いでいた理子の声は聞こえなかったが、読唇術によると「……なんだよこいつら、もう大道芸人でもやってろよ……」だった。

 

 それは違うな、理子。

 俺たちは狼だ。

 それ以上でもそれ以下でもないよ。

 

「キンジ……」

 

「……アリア」

 

 静かに俺に語りかけてきたアニメ声に、俺は振り向く。

 

 振り向いて―――薄く笑った。

 

「俺が理子に『桜花』を放っている間に、獲れただろうに」

 

 アラシである理子が伸びているから、既に通常のヒステリア・モードになっている俺の言葉に。

 アリアは不敵に笑ってみせた。

 

「冗談じゃないわ。それで()()()()()()()()()……なんだか、もやもやするもの」

 

「ははっ―――じゃあ、始めようか」

 

 俺がボクサーのように構え、アリアが両手にカゴを持ちながら腰を低くする。

 ……確かアリアは、服の背中にカートも仕込んでいるんだったか。

 二つのカゴと二つのカートを自由自在に操る姿がスーパーで目立つようになったら、『二つ名』を付けられるかもな。

 名前は―――そうだな、『双籠双轟(カドラ)のアリア』というのはどうだろう。

 まあ、今はそんなことはどうでもいい。

 俺たちがやるべきことは―――

 

「この飛行機の限定弁当!」

 

「それを食べるのは!」

 

 叫びながら俺とアリアが、同時に床を蹴る!

 

「「―――(あたし)だぁぁぁあああ!!」」

 

 俺たちは狼。

 なればこそ、この戦いは必然。

 始めよう、アリア。

 これが正真正銘、俺とお前の始まりなのかもしれないな!

 

 

 

 

 

 




《補足》原作ではラッツェを使って復活したアリアさんですが、今作では飛行機の食料が置いてある場所で弁当の匂いを嗅ぎつけて復活してます。
えっ?飛行機の食料は狼が取り合って食べる類のものじゃない?そもそも半額どこいった?轟でカートの当て字は意味的にも無理がある?ヒステリア・ベルセそういうんじゃない?
いいんじゃよそういうのはノリなんじゃからあ!じゃからあ!!
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