竜と桃髪の地獄旅行   作:梵葉豪豪豪

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第3話 生きているからケンカする

 屑肉は意外に美味かった。

 

 学院において使い魔が貰えるメシは基本的に余り物である。しかし食材は厳選されていた。保存状態も良く、適度に脂が乗った牛だ。まぁ要は美味かったの一言で終わるグルメ的批評である。

 

 気合い入れて教室の掃除を終えたダイノボットとルイズは、その気合いを残したまま昼食へと突入したのだ。ルイズは食堂、ダイノボットは広場へと。

 

 ところでトランスフォーマーの食性はどうであろうか。基本的には『エネルゴン』を摂る。宇宙にありふれたエネルギーの塊、それがエネエルゴンだ。

 ありふれたと言ってもヤケのくそ広大で空間の大半は何もない(ボイドな)この宇宙、探査に赴いてエネルゴンに有り付けるとは限らない。自称宇宙の覇者が宇宙で餓死者を量産していては、ブタ面の狩猟民族に嘲笑われるがオチである。

 そこでトランスフォーマーには、他の生物と同じように消化器官に相当する機能が存在する。エネルゴンを摂る時と較べれば遙かに効率は悪くなるが、何でも食えてエネルギーに転換出来る。実態としては溶鉱炉のようなもので、栄養もへったくれもない。ぶっちゃけそこら辺の石を食ってもエネルギーになる。

 ただ口にする物には、個々に好みが発生する。特にビースト戦士は取り込んだ生物の遺伝子に人格が大いに影響を受ける。更に地球人の知識までもが影響を与える。ゴリラがバナナを求めるように。そしてダイノボットはヴェロキラプトルを取り込んでいるため、肉を好む。

 そうして彼らにも文化は構築されていく。

 

 そんなダイノボットは爪で歯を掃除しながら食後の余韻を楽しんでいた。使い魔の世話担当である使用人シエスタは、人間のように前肢で肉を摘んでウメェウメェ呟きながら食った竜を前に、言いたい事は色々あったが自重した。

 

 ここでダイノボットのセンサーが、人間の喧噪を捉えた。食堂の外にあるテラスで起こっている。当初は無視する算段であったが、彼は敢えてそこへ踏み出した。ルイズの声を拾ったからだ。

 

 ルイズの声がする座標へとダイノボットはテラスへ突き進む。視界の先ではルイズとマリコルヌーンが睨み合い、隣でイケメン少年ギーシュが呆然と立ち、周囲の諸々は遠巻きに眺めていた。

 竜を見た生徒達は慌ててその場から逃げ出す。見た目凶悪な竜が堂々かつ猛然と向かって来るのだから、悲鳴も上げたくもなる。某ヨシュアの親父が起こした奇跡の如く、人の波が割り開かれていく。

 ルイズが危ねぇ! 状況? 知るか馬鹿! などという勢いで三人に迫った。優男がダイノボットの存在に気付いた時には、既にマルデス氏の背後に迫っていた。

 

「ははは何度でも言ってあげるよ。ゼロ! ゼロ! ゼロ! ゼブオウバァァウ!?」

 

 ダイノボットは全く何の躊躇いもなくマリコルヌ・ド以下略の背中を蹴り飛ばした。尚、ダイノボットの足の裏は人間の背中よりでかい。ついでにルイズはドップラー効果という物理現象を肌で体感する事になった。

 

 盛大に縦回転し壁に激突する肉の何か。ルイズ始め突っ立っていた全生徒の時が止まった。揃って大口を開けたままである。何が起こったのか理解が追い着いていない。

 這々の体で丸いあん畜生が何とか立ち上がった。が、ダイノボットは頭から咥え込み、持ち上げた。

 そこかしこから石川賢漫画のモブキャラじみた表情で悲鳴が上がる。人間が物食う場所で人間が食われるなど、シャレにもならない。

 

 しかしダイノボットは味のしなくなったガムの如くマル坊を吐き飛ばす。元々本気で食う気はない。軽い脅しだ。ただ大概の生物にとって恐怖を覚える事象のダントツ上位に「食われる事」があるのだが、まぁ軽い事にしておこう。

 肉汁まみれのマルコヌフゥ氏は心が折れた。頭が地面に付く程折れ曲がった。そして行き場のない鬱屈した猛る若い何かは捌け口を求める。

 

「けけけ決闘だルイズぅ!」

 

 ダイノボットを指さない辺りがデブリ様のデブリ様たる所以であった。

 

 そんな彼に怖い怖い韻竜さんは爪を彼の方に引っ掛け、無理矢理振り向かせる。その時のお互いの心情は、ルイズ以下目撃者全員の察するところ、まず間違いはなかったろう。

 ダイノボットは口の端を吊り上げ、片方の前肢を庭に向ける。言葉にすれば「表に出ろや」

 

 

 ここは広場、というかテラスのすぐ先。テラスにいた野次馬と、塔から覗く野次馬で溢れた空間である。

 

 その空間にて、優男ギーシュ・ド・グラモンは物思いにふけっていた。割と説明臭く。

 あぁ、モンモランシーの瓶を落としたのが全ての始まりだったさ。ケティとモンモランシーに見られて、僕が一つ所に留まらない愛の狩人だって知られたさ。二股とも言うけどね。ケティに膝蹴られて泣かせてしまって。モンモランシーに瓶で脳天割られそうになって。止めたのがルイズだったなぁ。あの時はルイズが女神に見えたさ。今思えば、ルイズは酷く叩かれ続けて、それでも諦めなかった人だ。僕だって兄様達に並べなくて悔しくて、頑張ってきたじゃないか。ルイズを馬鹿にしてきた僕が恥ずかしい。そもそもレディを貶すなんて論外かつ論外かつ論外じゃないか。昔の僕に会ったら叩き潰したいよ。あぁルイズ、こんな腐れた僕を許しておくれ。竜を召喚したあなたはこれから花開くのだから。

 

 などと一通り心の中で語った後、ギーシュは隣のデブゥに状況を確認してみた。

 

「で、僕は何故ここに立たされているんだね?」

「状況をちゃんと読めよギーシュ。君は僕と一緒にあいつらと決闘するんだ」

 

 彼が指した先にはルイズと竜がいる。他人に頼るなら啖呵切んな、状況を読むべきはお前だと突っ込みたくなったギーシュだった。

 

 ルイズ&ダイノボット vs マリコルヌ&ギーシュ。このカードは、どう考えても竜の一匹勝ちだろ!? ゴーレム突貫させようが風の刃飛ばそうが、あのゴツい尻尾の一降りで寧ろゼロのルイズが足引っ張るくらい? で衆目の見解は概ね一致していた。それだけ竜というのはメイジにとって手強い生物だと認識されている証左でもあった。

 

 一方のルイズは落ち着いていた。当初こそ流れについて行けなかったが、ダイノボットの一言が効いたのだ。「まぁ任せろ。俺に仕切らせろや」ルイズの腹は括られた。というかあの顔で言われあの爪で胸を突かれると腹を括るしかない。

 

「ダァー! ナメてんじゃねぇぞ手前ぇ!」

 

 ダイノボットの恫喝に、周囲はまた更に固まった。一体何度石川賢モブフェイスになればいいのだろう。

 相手が韻竜である事を知り、野次馬が次第に騒然となるのは必然であった。ついでにマルイコヌは「手前ぇ」という言葉から、自分一人がターゲットとなっている事実に改めて戦慄した。尿意をもよおさなかった彼を褒めてあげるべきだ。

 

「ルイズが世話になったなぁ、あぁん! 覚悟は出来てんだろうな? 何なら手前ぇを4096分割して天王寺駅前でティッシュ代わりに配ってやろうかぁ?」

 

 言ってる意味が皆には判らない。ダイノボット本人も判っていない。生きた図書館の彼が無意識に捻り出した言葉の羅列だ。決してアポロビルにサイバトロンの基地があったとか喫茶コーナーでコヤスゴリラがバナナジュースを嗜んでいたとかいうものではない。ともかく、訳が判らない故に脅しとしては効果が高いものである。

 

「ハンデをやるぜ。俺達が一撃でも食らえば手前ぇらの勝ちだ。手前ぇらの負けは、動けなくなった時でいいよな?」

 

 それって殺すって事かー!? 野次馬から悲鳴が上がる。殺される側の二人の心境は、言うまでもあるまい。

 さすがにルイズが相方に突っ込みを掛ける。

 

「あんた殺す気!? あのね、メイジは杖を奪われると魔法を出せないの。だから杖を奪われたらあいつらの負け。判った? ……あんたたちもそれでいいわよね!?」

 

 ギーシュ以下2名はただ首を思いっきり縦に振る。なるほど、肯定のゼスチャーは万国共通なんだな、とダイノボットは妙な所で感心した。

 感心ついでに彼はルイズに指示を飛ばす。

 

「よ~し判ったルイズ。それでだ、奴らの杖はお前が奪え」

「……!」

「あのな、さっき教室で言っただろ? 向かってくる攻撃は俺様が全部蹴散らしてやるから結果はお前が掴み取れ」

 

 私は試されている。あいつの期待に応えなきゃ。そう錯覚するのがルイズのルイズたる所以である。

 

 一方のギーシュは、言ってしまえば男としての矜恃に打ち震えていると言っていいだろう。竜という生物は、男にとっては一種の強さを象徴する。憧れである。そして相手はただの竜をも超えた韻竜だ。戦うのに全力を出し惜しみする理由なぞあろうか。

 

 ギーシュは杖を振り、ゴーレム生成の呪文を唱える。彼の杖は薔薇の造花に魔力を通して作り上げた物だ。彼はナルシストであった。

 眼前に現れるのは、青銅のムクである2メイルの鎧を纏った乙女像。それが7体。これが彼の全力だった。尚彼はこのゴーレムをワルキューレ(戦乙女)と名付けている。つくづくナルシストであった。

 

 しかしてダイノボットは彼の更に上を行く存在だった。

 

「ダァー! ダイノボット! 変! 身!」

 

 彼の体が組み替わり、自身がゴーレムへと成る。そして彼はゆっくり、悠然と立ち上がった。竜の後肢を腕に、竜の頭部を胸に残し、全身に鎧騎士の意匠を持つ、全長5メイル超の巨体が衆目へと晒された。たった5メイルと言う無かれ。一般的家屋の2階分に相当するその高さは、実に迫力を伴う。特にそれが人の形であれば尚更だ。

 更にダイノボットが手にした得物は、尾が変型した剣と盾だ。尾の皮が二つに裂けて出来た長い盾。そして盾から飛び出した、尾骨がそのまま形になった様な、小さな刃が重なり合った異様な剣。二つのビジュアル的に凶悪な何かは、回転しつつダイノボットの両手に握られていた。

 観客も、対戦相手も、そしてルイズも戦慄した。何百年何万年何百万年、ただ戦い続けた種族の一つの形がそこに存在した。

 ただ何事にも例外はいる。この場合は赤い髪を持つキュルケと、隣の青い髪を持つ少女だった。

 

 

「あはは。これが先住魔法の変身って奴? やるわねぇ。それに彼、なかなかセックスアピールを判ってるじゃない」

 

 韻竜といえば四大魔法とは違う、先住魔法を使う、という知識を持っていたキュルケから見れば、ダイノボットの能力はそう認識される。後半の言葉に関しては、ダイノボットのあの声であの逆三角形なシルエットかつ一部野性味溢れる造形を前にし、更に少女を護る騎士という無駄に美味しさがダダ漏れするシチュにそそられて紡ぎ出されたものだ。彼が人類だったら恋をしていたわなんて語る始末だ。

 

「韻竜じゃない」

 

 現場を向いたまま、隣の親友はあっさりと前提を否定した。

 

「えー? じゃ何? 物凄く精密なガーゴイルとか?」

「ガーゴイルでもない」

「じゃ何だって言うのよ-」

 

 意思を持ち自動で動くゴーレムの意を込めて、キュルケはガリアの留学生である少女に問い正してみたが、要領を得ない。尚、ガリアはガーゴイルの生産と研究が盛んな国である。しかし超ロボット生命体がそれに当てはまる筈もない。

 

「さぁねぇ。ま、ハルケギニアでは伝説ですらない珍獣だってのは保証するよ」

 

 と、イザベラ・クランデスティーヌ・アブセントは肩をすくめた。青くまっすぐな長髪を後ろに束ねた彼女は、鋭い目つきをキュルケに向けた。知ってるけど今は言わないよって事になるが、親友を信じているキュルケはこの件を後の楽しみに取っておく事にした。

 

「ほら、もう動くぞ。さぁ、戦いだ」

 

 今はこの馬鹿騒ぎを楽しみたいのだ。

 

 

 ジャッジ役を買って出た生徒が決闘の合図を叫ぶと同時に、先陣を切ったのはギーシュだった。

 

「僕はグラモン家のギーシュ! 韻竜殿! 僕は僕の全力を持ってあなたとお相手いたす!」

 

 貴族としての礼儀、そして男としての矜恃がギーシュを叫ばせていた。彼のゴーレム、ワルキューレ7体をダイノボットの前後へと分散させて突貫する。これが彼の全力だ。

 

 ダイノボットとルイズは並んでただ歩いていた。敵に向かって、堂々と。

 

 ダイノボットの正面にはワルキューレ2体が並んで迫ってきた。ダイノボットは右手に持つ剣の刃を回転させ、鎚を持つワルキューレ1に向かって下から振り上げた。青銅の乙女を手足の先を残し豪快に文字通り粉砕した。

 隣の二刀流ワルキューレ2が懐に飛び込む形になった。が、振り上げた右の肘、そして右の膝で挟み込んだ。ワルキューレ2を股下と頭頂で一枚の煎餅にし、残った手足を千切れ飛ばす。

 背後から槍を持つワルキューレ3&4がダイノボットの肩の高さまで飛び上がり、得物を叩き込むのを、ダイノボットは背面も見ずにしっかりと感知した。前方を見据えたまま、回転する盾を背後に向ける。3体目4体目を槍もボディももろとも裁断した。

 

 この間、ルイズはただ正面を見据え歩いていく。隣に並ぶダイノボットの強さに唖然としている暇はなかった。残った太陽とマリコヌーンが自分に向かって、エアハンマー、風の鎚を打ち出したのを見たからだ。「俺達に一撃でも」という条件なのだから、真っ先に弱い方を狙っても理屈としては妥当な判断であろう。しかしだからって狙うなよ、というルイズと観客の感情論は理屈を上回る。哀れザ・デブスター氏。

 風の鎚は見えない。しかしルイズには、真正面から向かってくる事だけは感じ取れる。風圧が風を切るからだ。今すぐ避けたい。でもそれはダイノボットの期待を裏切る事になるのでは? 彼に見限られる恐怖、そんな物を味わう位なら、真正面からぶつかってやる! まぁ要はテンションが上がりに上がっている訳だ。

 

 何かを破壊したような轟音が響く。ルイズがエア・ハンマーを受けたのではない。ダイノボットが、背面でルキューレを裁断したばかりの盾をルイズの眼前に振り下ろしたのだ。

 つまりは彼が風の鎚を殴り返した。ダイノボットから見れば、風の鎚なんて物はエネルギーで編まれた網目で覆われ中身スカスカのボールである。トランスフォーマーのパワーで押される理由はない。観客からは、明後日の方向にあった雑草が一部削り飛ばされた事で、風の鎚がどうにかなってしまった事をようやく理解出来た。

 彼は助けてくれた。その事実がルイズにとっては嬉しく、気恥ずかしかった。だから言ったっつーの! と彼女の心の中にいるダイノボットに突っ込まれた。恥ずかしいにランクアップしてしまった。

 ルイズは自分の顔面をブン殴る。周囲がざわめくが知ったこっちゃない。腹を括れ腹を括れ腹を括れ・行ったれ行ったれいっちゃれ!

 

 などと一人ルイズがイっちゃってもとい盛り上がりまくっている状況を余所に、ダイノボットVSギーシュの攻防は進行しまくっていた。

 ダイノボットの正面に再びワルキューレ2体が突貫してくる。今度は槍を持ち縦列で、殆ど飛んでいるのかって見える程水平にジャンプして突っ込んでくる。あからさまに何かを狙っているように見えたが、それでもダイノボットが力ずくで押し切る事に変わりがない。

 力ずくでワルキューレ6&7を纏めて串刺しにする。衝撃で槍は取りこぼされた。が、手前のワルキューレ6が貫かれたままの姿勢でダイノボットの腕を掴み上げる。両脚で踏ん張っているが、ダイノボットの腕力では丸ごと振り回されるがオチである。

 

 だが最後の1体、ワルキューレ7が離れた場所で弓を構えていた。6体全部犠牲にして無理矢理作り出した瞬間だ。これを外せばチャンスはもうない。

 とはいえ世の中は非情と言える。ダイノボットの両眼が光った瞬間、ワルキューレ7は爆発し蒸発した。

 ダイノボットに内蔵された遠距離攻撃手段、ビームだ。彼のように、数多のトランスフォーマーが銃という形で実現している武器を、体内にしかもセンサーの集合している部位に再現している奴はたまにいる。彼らの製造責任者であるマトリクスやヴォックに何か思う所があるのかもしれないがとにかく外連味溢れる装備である。

 青銅人形を蒸発させたビームは一直線に地面を抉り、分厚い城壁を貫通し上下に分断して虚空へと消えた。

 

「何だそりゃぁあぁあああー!!」

 

 マルコビッチ・ノアナの叫びも虚空に消えた。皆の言いたい言葉を一人で代弁している。例え飛んで逃げてもどうにか出来る代物には見えない。余裕があった方の赤毛のおねいさんも顔を引き攣らせている。ジェノサイド、あぁジェノサイド。

 

 まだギーシュは冷静でいられた方だろう。全力を出し、そして馬鹿馬鹿しくも圧倒的な力に負けた。もう一分の隙もなく完膚無く。

 

「ギーシュ・ド・グラモンはここに負けを宣言する!」

 

 晴れ晴れとしていたギーシュであった。負けた悔しさは相手へのより強い憧れに昇華される。その場を離れる彼に相方は何か泡食っていたが知った事ではない。一刻も早くダイノボットを観察する作業に戻りたかった。

 尚、ダイノボットに惹かれるギーシュを見ていた少女モンモランシーは、呪詛の言葉を吐きまくっていた。先程彼をフって瓶で殴りかけたあのデコドリルTHUNDERのモンモランシーだ。ちなみに人は瓶で殴られると死ぬ。

 結果的に恋人があの韻竜に取られた、そんな印象は当分消えない。現時点で、ダイノボットを倒す方法が脳内で30までカウントされ更に絶賛策定中の身である。それが顔に出ていては、もう周囲はドン引きするしかない。

 

 ダイノボットはあの太い子に向き直り、睨み付ける。

 

「さぁ残るは手前だノックちゃんヘアー!」

 

 愛人にモテモテのタコの亜人、その若い頃の髪型に喩えられても周囲が知る訳もなく。もしかして彼の髪型って笑える類だったのかも、と観客の余計な呟きをマルマァロンが拾って地味にダメージを食らった事はこの際どうでもいい。

 

 ルイズとダイノボット、奇妙な二人は大地を踏みしめる。敵に向かって一歩一歩進めていくのだ。

 その姿と対峙したグランドデブプラス氏は後に語る。「あいつらの背後にさ、見えたんだよ……。ゴリラとか角生えた牛とか猛禽類とかでかい鳥とか犬とかあと鼠とか」頭の病院を薦められたという。

 コリコルヌが風邪の刃を乱射するが、彼らに当たりもしない。歩を緩めもしない。

 それどころか、ルイズは猛然と駆ける。体格差故、隣のダイノボットは大股歩きだが、とにかくも睨む桃髪は駆ける駆ける駆ける。

 折れて頭が千切れ飛んだ今のマさんに、相対する気力は今更ない。眼前に両腕を交差させ、巨大に見えた桃色の嵐をただやり過ごす意外になかった。

 気が付けばグラ何とかの手に、つい今まで握っていた筈の杖はなかった。

 

 観客に後ろ姿を向けたまま、ルイズはただ右腕を掲げた。敵の杖がそこにあった。

 

 ルイズとダイノボット、二人が勝利をもぎ取った。

 

 沸き立つ観客。ルイズは魔法も使わず終始使い魔に守られていた。そういう見方をした人もいる。しかし最後に自分で突進した事で、多くの者はルイズを評価した。

 キュルケに至っては大仰に手を叩いて大笑いである。

 

「あはっっはは! いい度胸じゃない! いいコンビねー」

 

 堂々と去っていくコンビを眺めつつ、イザベラを誘う。

 

「一緒に来ない? 面白い者が見れるわよ~」

「はいはいご同伴に預かりますよ、と」

 

 何が見れるのか予想が付くが、一応は付き合ってみるイザベラだった。

 

 

 ルイズと共に人のいない所まで来たダイノボットは、実は後悔していた。おい俺もしかして力で制しただけかぁ? やってる事トドメコーイチなデストロン司令官と同じじゃねーの? やってしまったものは仕方ないので、さしあたってはルイズに気を向ける事にした。

 そのルイズは地面に尻を着けていたのだ。つまりは、気が抜けて腰が抜けたのだ。アドレナリンだだ漏れだった脳内も、今は冷えてしまいこの有様。心臓バクバク、自分で殴った顔痛い、怖い立てない泣きたいうずくまりたい。

 大丈夫か、などと声を掛ける気はダイノボットになかった。自力で立ち上がる事を期待している。

 

「あらお元気ぃ? ヴァリエール?」

 

 キュルケが背後にいた。まるでこうなる事を見越して笑いに来たようで本当に笑いに来たおねいさんだった。ついでにイザベラもいる。

 

「なに、しに、きた、のよツェル、ぷ、う、げは、はぁ、」

「あらあら、勝者ならもっと余裕持ってなきゃねぇ。最期まで堂々といられるかしら?」

 

 あからさまに煽っている訳だが、ダイノボットとイザベラから見れば、鼓舞して発破を掛けているように見える。お前はカーチャンか。変な所で心が一つになりお互いを見やると肩をすくめた一匹と一人であった。

 

「何よツェルプストーのクセして、見てな、さいっ」

 

 ルイズは意地でも立ち上がる。ダイノボットの後肢に手を着け、どうだ! と言わんばかりに大地を踏みしめた。実際だうだと口にしてキュルケに失笑食らったのが微笑ましい。

 そして二人は去っていく。

 

「ダァー。よくやったぜルイズ」

「やってやったわよ。あなたの隣は、私よ」

 

 

 二人を微笑ましく眺めるお母さん、もといキュルケであった。

 

「いやぁまるでギャングのボスと背伸びした情婦ねぇ?」

「おいもっとマシな喩えはないのか赤いの」

 

 

 

 尚この後ルイズ達に待つのはジジイの説教地獄だった。

 

 

 

:次回予告

 

「あ? コレは杖だよ杖。銃でも杖に出来るんだよ。判ったかクソガキ共。さてお前ら、ケンカは買ってやる。で、お○ん○ん吹っ飛ばされる覚悟は出来たか?」

 

 

次回! 第4話 ビッグ・マグナム イザベラ先生

 




:あとがき

 いい加減マル何とか氏の名前の引き出しが無くなりそうですが、何とかなるでしょうきっと。

 ルイズの性根がああなってイザベラの身上がああなったのは、時系列上順当に変化した過去に関わりがありますが、そこはおいおい語っていきます。イザベラはルイズと対になるもう一人の主人公としてプロットに組み入れました。

「イザベラ・クランデスティーヌ・アブセント」について。

 ド・ガリアで無くなっている理由は別にして、この名前はある有名なスイス産のリキュールから取りました。瓶は青いしラベルにシャルロットって書いてあるんですもの。酒自体は、初めて口にした時盛大に吹いた程の甘みのなくクリアで強烈な個性です。この種類の酒は嘗て知識人が嗜んだって言うけど、それ本当はマゾプレイだったんじゃないのとつい疑ってしまいました。でも美味いですよ。

 次回のサブタイの元ネタになった映画は判るかなー判んねーだろーなー。
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