幻想の化猫はいとをかし   作:さんまじゃぐっど改二

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昔書いていたものを復活させました。よろしくお願いします。


第壱話、翡翠の化猫

 

 

 妖怪の山、天狗達によって秩序を保たれた世界である。人間が足を踏み入れられるのは、中腹に鎮座する守矢神社への参道と境内のみである。しかし、その参道すら天狗の目が光っている故、神社への参拝者はかなり少ない。

 その神社の拝殿の奥、本殿の縁側を一匹の猫が歩いていた。茶トラの猫で翡翠色の瞳が美しかった。

 猫は、足早に囲炉裏の方へ向かっていった。囲炉裏では緑髪の少女が川魚を焼いていた。

 

 

「参拝客が少ないので信仰集めが大変です…………」

 

 

 彼女は東風谷早苗、守矢神社の風祝を務めている。人里の住人からは現人神として崇められている。

 

 

「ですが、こうやって沢山の物をいただけることに感謝しないと…………」

 

 

 縁側には野菜や魚が沢山置かれていた。全て、信者からの捧げ物だ。

 

 

「こらっ、スズっ! 魚盗っちゃダメって何度言ったら分かるの!」

 

 

 縁側に置かれた魚を咥えた猫を、緑髪の少女は見逃さなかった。だが、猫は即座に咥えたまま駆け出した。猫のスピードに人間は追いつけまい。そう踏んでのことであった

 

 

「こーら、逃がさないよ!」

 

 

 だが、呆気なく捕まってしまった。網を投げられたのだ。

 

 

「にゃあっ、うにゃあっ!」

「お魚が食べたいなら、きちんと食べたいって言いなさいって何度も言ってるでしょう?」

 

 

 猫は網の中でジタバタしていたが、やがて大人しくなった。と、思いきや…………

 

 

「うにゃっ、これで出るのにゃあ!!」

 

 

 突然猫は、人型になった。茶髪の猫耳と尻尾のついた少女がジタバタしていた。

 

 

「人型になってもダメよ、今日という今日は逃がしませんよ〜」

 

 

 早苗は網をとって、しっかりと人型になった猫を抱き上げた。猫はまだ腕の中でジタバタしていた。

 

 

「は〜な〜し〜て〜にゃ〜!!!」

「ほら、暴れないで!」

 

 

 人型になった猫は、いくら猫といってもそれなりに力はあった。必死に早苗の腕から逃れようとしていた。

 

 

「おお、スズじゃないか。お昼寝しに来たのかい?」

「神奈子様! い、いえ、またスズが食べ物を盗もうとしてまして」

「そうか、お腹が減っていたのか?」

 

 

 拝殿の奥から、この神社の祭神のうち一柱、八坂神奈子だった。神奈子はスズと呼ばれている猫娘を、早苗の腕から抱き上げると優しく撫で始めた。

 

 

「うう〜、ごめんなさいにゃ、お腹ぺこぺこだったのにゃ〜」

「そうかそうか、なら今魚を焼くから、少し待っていてくれるか?」

「ホントにゃ?! ありがとうございますにゃ!」

 

 

 スズは、嬉しそうに神奈子から降りると、両手を前に揃えてついて静かに待ち始めた。

 

 

「それにしても化け猫は、本当にかわいいですね〜」

「人間の心臓を食べようとする種族だが、手懐けると普通の猫と変わらないしな…………」

 

 

 そう、スズは化け猫である。化け猫には様々な伝承がある。例えば、二十年以上生きた猫が化け猫になる、人間に棄てられたり、殺されたりした猫が化け猫になる。化け猫は人間の心臓を食べる、自分を殺した復讐を果たしに来る。それぞれ()()()がある。

 しかし、化け猫も元は猫なのである。食べ物は魚が好きだし、自分がやりたい事をやりたい時にやる。そんな種族だ。

 

 

「魚が焼けたぞ、手を洗ったか?」

「洗ったにゃ〜」

「よし、それじゃあ食べようか」

 

 

 白い焼き物皿の上に、焼きたての川魚が置かれる。

 スズはうずうずしながら、食べられるのを今か今かと待っていた。

 

 

「よし、じゃあ、いただきます!」

『いただきま〜す!!』

 

 

 一人と一匹と二柱の昼食が始まった。

 

 

「もう、スズ食べ終わっちゃったの?」

「楽しい時間はあっという間に過ぎるのにゃ〜♪」

「そういう事じゃないだろうに…………」

 

 

 とても賑やかな昼だった。いや、これがいつも通りの光景だった。

 

 

「ごちそうさまにゃ〜」

「お粗末様、早苗、片付け頼んだぞ〜」

「スズ〜、一緒に昼寝しよ〜?」

 

 

 各々、自分のやりたい事をやり始めた。縁側では諏訪子が大の字に寝転んでいる。その上でスズが丸くなってお互いに昼寝を始めた。神社には平和な時間が流れていた。

 

 

***

 

 

 スズは気がついたら、知らない村に立っていた。そこには、たくさんの、たくさんの化け猫が生活していた。

 

 

────やった、仲間にゃ!

 

 

 久しぶりに出会った仲間の胸に飛び込もうと駆け出す。しかし、それは叶わなかった。

 

 

 一人は矢で頭を貫かれ

 一人は首が落ち

 一人は胸を穿たれ

 一人は真っ二つに分かれた。

 

 

────なんでにゃあ、なんでみんな死ぬのにゃあ!!

 

 

 声にならない鳴き声を出しながら、生きている仲間に近づく。だがそれは全て無意味になる。

 

 

「みんな、なんでいないのにゃあっ!!!」

 

 

 ここでようやく声が出る。空を仰ぎながらひたすら泣き続けた。

 周りの家からは火の手が上がり、建物は壊された。それでもスズは泣き続ける。

 ようやく、目の前に”何か”が現れた。それは黒く大きな翼で、手には光る何かを持っている。

 

 

「なんなのにゃあっ、一体誰なのにゃあっ!」

 

 

 “何か”はゆっくりと光る何かを振り上げた。スズはそこで逃げようとしたが、身体が動かない。

 

 

「にゃあっ!!うにゃあっ!シャーッ!!!」

 

 

 必死に威嚇しても、何も起こらない。そして光る何かはスズに向かって振り下ろされた。

 

 

***

 

 

「にゃああああああああああああっ!!!!」

 

 

 あまりの恐怖に大きな声で鳴いた。だが、光る何かがぶつかることは無かった。代わりに柔らかい感触に包まれていた。顔を上げると、早苗に優しく撫でられていた。スズの翡翠のように澄んだ瞳に涙が湛えられる。

 

 

「ふにゃ、ふにゃあああああああ!!」

 

 

 幼さ残る猫の泣き声が、守矢の境内に響いた。その様子を、白い狼が物陰からじっと見ていた。

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