逸見エリカの姉   作:イリス@

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全然書けなくて気が付いたら2か月近く経過していたという恐怖……。
年内には本筋完結したかったのに無理かもしれません。



第6話:妹から想像される姉のイメージ

 生徒で賑わう昼休みの食堂。

 その片隅で私は1人黙々と食事を取りながら、これまで入手した情報を整理していた。

 

『姉さんが西住隊長に視線を向けている』

 

 小梅から不確かながらも数少ない有力情報を入手した私はその事実を確かめるべく、姉さんの様子をさりげなく窺うことにした。

 とはいえ、隊長と姉さんが同じ場所にいる状況は戦車道の練習時間以外皆無に等しく、観察できたのは全員が集合する練習の開始と終了時、もしくは隊長による直接の指導といった限られた機会しかない。

 それも私自身がその場にいなければならないのだから、数日間で実際に観察できたのは僅かな時間に過ぎなかったが、そんな短時間の観察でもじっくり見ていればすぐに気づく程度に姉さんは隊長の方に度々視線を向けていた。

 練習中だからか表情こそ引き締めていたものの、子どものように目を輝かせながら隊長を見つめる姉さんの姿は、隊長に憧れて黒森峰に進学してきた同級生や後輩に少し似ていて、一瞬、姉さんも隊長のファンだったのかと考えたものの、すぐにそれは無いと思い直す。

 姉さんの性格からして、もし本当に隊長のファンだったとしたら私に隊長のことをあれやこれやと質問してきたり、意気揚々と語り合おうとすることは間違いない。

 そもそも、編入前日に隊長のところへ挨拶に連れて行った時も特に変わった様子は無く、むしろ、姉さんを一目見た隊長が普段決して見せないような驚きっぷりを示したことの方が私には衝撃的だった。

 

 しかし、そうなると隊長にあんな視線を向ける理由が他に思い浮かばない。

 本来であれば、関係する当事者本人に聞くのが確実なのはわかってはいるけど、姉さんに聞いても絶対答えてくれないだろうし、隊長に「姉が隊長を気にしているんですが、何か心当たりはありませんか?」なんてこと聞けるはずがない。

 何かがあるのはわかっているはずなのに一向に先が見えないばかりで、どうにも煮え切らないモヤモヤした気持ちが広がっていくばかりだった。

 

「あれ、逸見さん今日は1人なんだ」

「お姉さんと一緒じゃないなんて珍しいな」

 

 突然の声にはっとして顔を上げると、いつの間にかトレーを持った直下と雛芥子がテーブルを挟んだ正面に立っていた。

 ここ空いてるよね、と微笑みながら正面の席に付く直下に続いて、雛芥子も彼女の隣の席に腰を下ろす。

 まだ何も言ってないじゃない、と心の中でぼやいたものの、席は実際に空いているし、考えごと自体も煮詰まっていて中断するつもりだったので別に相席を断る理由は無い。

 

「もしかして喧嘩でもしてるのか?」

「違うわよ。姉さんは小梅の車両の子たちとお昼に行ってるだけよ」

 

 基本的に姉さんは様々な車両に割り当てられているけど、その中でも直接の指導役に指名されている小梅のパンターに乗車する場合が多いので自然とその乗員と交流する機会も多く、是非どこかで一緒に食事をしたいと誘われていたらしい。

 私も1人で姉さんについて考えごとをしたかったのでこれ幸いと今日のお昼は別行動を取ることにしただけなのに、なぜ喧嘩まで考えが飛躍したのか理解できなかった。

 

「だって逸見さん、お姉さんが黒森峰に来てからだいたい一緒に行動してるよね」

「そうだな。なんかもう見慣れすぎて普通の光景に思えるぐらいだ」

「それなのに突然1人で食事なんてしてたら何かあったのかなって思っちゃうよ」

 

 どうも2人の中では私と姉さんはセットとして扱われているらしい。

 確かに最初の数日間は姉さんが私の見ていないところで悪戯をしでかすんじゃないかという不安から、決して目を離すまいと常に行動を共にしていたのは事実だった。

 姉さんが変なことをしないと判断してからは別行動していることも少なくは無かったというのに、まさかこんな短期間で2人1組なイメージを持たれてしまうとは思わなかった。

 

「その普通になった光景もあと3日で見納めよ。それが過ぎたらいつの通りに戻るだけよ」

 

 そう言うと、直下はもうあと3日しかないんだねと一瞬寂しそうな表情を見せるも、すぐにいつもの人懐っこい表情に戻って、送別会の準備しないといけないねと週末の計画を画策し始めていた。

 先週行われた歓迎会も盛大になり過ぎた感は否めなかったものの、それでも直下が上手く取り仕切ってくれたおかげで会は円滑に進んでいたし、姉さんも楽しめていたのが見てわかった。

 こういう気さくで準備の良いところが直下の慕われる理由なんだとよく理解できる。

 

「雛芥子さんも手伝いよろしくね。お姉さんには色々助けてもらってたでしょ?」

「あ、ああ。もちろん手伝うぞ。それにしても3日か……あと3日しかないのか」

 

 一方の雛芥子はどこか心配げな表情を浮かべながら、あと2か月、いや、せめて再来週までいてくれればな、などとよくわからないことを呟いている。

 それに雛芥子が姉さんをではなく、姉さんが雛芥子を助けていたというのがよくわからない。

 

「雛芥子、あなた姉さんと何かあったの?」

「いや、その……実はこの前出された数学の課題が全然終わらなくて……それで色々と手を借りたというか……」

 

 言いづらそうに答える雛芥子の言葉でだいたいは理解した。

 雛芥子は戦車道は勿論のこと勉強や運動も基本的に優秀だけど、数学だけは大の苦手でテストも毎回赤点のギリギリ上ぐらいをようやくキープできている有様だった。

 先日の課題はかなり難しい問題が多かったので、おそらく雛芥子は姉さんに助けてもらってどうにか提出までこぎつけたのだろう。

 その時のように、テスト前の勉強でも助けて貰いたかったという願望が無意識に口から漏れていたに違いない。

 

「せめて赤点だけは回避しなさいよ。車長が赤点で補習なんて後輩たちにも示しつかないわ」

「……努力する」

 

 恥ずかしさからか体を小さくする雛芥子に直下が頑張らないとねーと能天気に声をかける。

 そんな2人とのやり取りを通じて、私の頭にある考えが浮かんできた。

 姉さんが黒森峰で一番接することが多いのは私と小梅。そしてその次はと考えると直下と雛芥子、もしくは小梅のパンターの乗員になるだろう。

 姉さんに関する情報が小梅から入手することが出来たことを考えれば、この2人も私の見過ごしている何かを知っているんじゃないか、そう考えてしまうのだ。

 

「一つ聞きたいんだけど、あなたたちから見て姉さんはどんな風に感じた?」

 

 今は少しでもいいから情報が欲しい。

 だから、私は小梅が提供してくれた西住隊長の件については変に先入観を与えないように伏せて、直下と雛芥子に素直に質問をぶつけることにした。

 2人は突然の質問にキョトンとした表情を浮かべる。

 直下はやっぱりお姉さんと何かあったの? と心配してきたけど、ただ気になっただけと話すと、とりあえず納得はしてくれたのか、少し考えるような素振りを見せた後、すぐに口を開いた。

 

「なんて言うのかなあ。見た目はそっくりだけど全然逸見さんのお姉さんって感じがしないなあって」

「確かに。思ってたイメージと全然違ったぞ」

「……どういうことよ、それ」

 

 怪訝な顔をする私に直下は逸見さんにお姉さんがいるってのは知ってたんだけどさ、と前起きをした上で――

 

「いやあ、逸見さんぐらい強気で強烈な人だと思ってたから、凄く穏やかでちょっと戸惑っちゃったんだよねえ」

 

 聞く人によってはかなり失礼にあたるのではないかということをしれっと言い放った。

 

「そうね、よく言われるわ」

 

 正直なところ、自分の気性が荒いのは承知しているし、姉さんと比較されるのも昔からのことなのでもう慣れてしまっているから、腹を立てる気もさらさら無い。

 しかも、それを言い出したのが人懐っこい直下が相手とくれば尚更だ

 

「言っておくけど、姉さんああ見えて怒ると相当怖いわよ? 小学校の頃、同級生を無言で張り倒した時なんて教室が凍りついたわ」

 

 私の発言があまりに衝撃だったのか、2人はとても信じられないといった表情に変貌する。

 2人がそんな反応をするのも当然だと思う。

 なにしろ、当時の私ですら穏やかな姉さんが起こした突然の凶行に仰天して身動き一つ取れなかったのだから。

 

「一体、その同級生は何をしでかしたんだ……。小学生とはいえ、いきなりそんなことをしでかすのは相当ヤバイぞ」

 

 恐る恐る問いかける雛芥子に、ああそれは、と言いかけたところで私は自分の失敗に気づいてしまった。

 この出来事を話題にしてしまうと、最終的にどうしても私自身が恥ずかしいことになるからだ。それは一にも二にもその原因が私にあるというのが理由だからで、出来ればこのまま口を紡ぎたいと思ってならない。

 だが、ここまで話してしまっては2人とも理由を聞くまで納得してくれない。

 気になってしょうがないと言った表情でこちらを見つめる直下と雛芥子を前に、意を決して2人に事件の原因について話すことにした。

 

「……私がその子に髪を思い切り引っ張られたのよ。それを廊下で見てた姉さんが怒って攻撃した。それだけの話よ」

 

 それを聞いた途端、2人はまるで微笑ましいモノを見たかのような柔らかい笑みを浮かべてくる。

 『愛されてていいね』『大事に想われてるんだね』

 口にしなくても言いたいことはなんとなくわかってしまう。

 嬉しくないわけではないけど、考えるだけでも気恥ずかしくなる。

 

「まあ、お姉さんが逸見さんのこと大好きなのは見ててすぐわかっちゃうからね。練習中も、逸見さんのことよく見てるし」

 

 直下の言うとおり、姉さんが私のことを想ってくれているのはわかっている。

 小さい頃、我侭ばかり言う私に文句も言わずに付き合ってくれて、私が泣いている時には横で慰めてくれていた。

 私のフリをする悪戯には困らされたけど、それでも決して私や周囲が傷つくような行為まではしなかったのも確かだ。

 

「うちに編入してきたのもさ、逸見さんのこと心配してたってのはあると思うよ。普段の様子とかよく聞かれたし」

「同感だ。お姉さん、副隊長のこと凄く心配してたぞ」

 

 どうも姉さんは2人を通じて私の様子を色々と聞いていたらしい。

 おそらく、2人の言う通りきっとそれは私を心配してのことなんだろう。

 

「別にそれならそれで心配だったって言ってくれればいいのに」

「いや、きっと下手に聞いたら怒られると思ったんじゃないか?」

「あ~それわかる。逸見さん、子ども扱いしないでって言っちゃいそう」

 

 直下の指摘が図星過ぎて思わず口を閉じてしまう。

 心配してくれるのは素直に嬉しい。

 でも、私はもう姉さんに泣きついていた時のような子供じゃないし、黒森峰の副隊長という責任ある立場にあるわけなのだからあまり構い過ぎないで欲しいと感じてしまうのも事実だった。

 もし、あの夜にそうやって言われていたらきっと2人の言う通り怒っていたかもしれない。

 

「副隊長もお姉さんとはこの機会にちゃんと話しておいた方がいいぞ」

「そうそう。逸見さんは偶に素直じゃない時あるし、大事な人だからこそしっかり話さないと伝わらないよ?」

「……悪かったわね、面倒な性格で」

 

 ふてくされる私を見て直下は何もそこまで言ってないよと苦笑して、雛芥子は雛芥子で同意するかのように首を縦に何度も振っていた。

 

 自分が素直じゃないのは言われなくたって自分が一番わかっている。

 元副隊長――みほに対してもそうだったように、姉さんにも自分の正直な気持ちを伝えていたかと言われると正直なところ出来ていない。

 姉さんが黒森峰に来た初日の夜だってそうだ。答えてくれるはずがないと理由をつけて素直な気持ちを伝えるのを避けていた。

 ちゃんと理由を聞かせて欲しいと素直に頼めていれば、姉さんも答えてくれたかもしれない。そう今になって思えてしまう。

 

「大丈夫よ。姉さんとはちゃんと話すから心配しないで」

 

 私の言葉を聞くと雛芥子は少し安心したように安堵の表情を浮かべて頑張れよと激励をしてくれた。

 

 直下は直下で送別会のこともよろしくねと声を弾ませていたので、姉さんにも伝えておくわと約束する。

 少なくとも、会に関しては直下に任せておけば問題は無いだろう。

 

「……あと3日。どこかで時間作らないといけないわね」

 

 結局姉さんと西住隊長の関わりについての情報を得ることは出来なかったし、恥ずかしい思いもする羽目になった。

 それでも2人と話して得られることはとても多かったと思う。

 

 姉さんとどこで話す機会を作ろうか。

 私は今後の練習日程を思い浮かべながら、中断していた食事を再開した。

 

 




・どうでもいい裏話
ちなみに雛芥子(げし子)さんの名前が決まるまでの流れ

げし子

それっぽい名前思いつかない

そういえば幽☆遊☆白書の映画に【ひなげし】ってキャラいたよね

ひらがな4文字だと見にくいから漢字にしよう

という安直な流れ


ご無沙汰なお姉ちゃんは次の話にはちゃんと出ます(たぶん)
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