ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編) 作:マーケン
アイドル好きとして、自身もまたスクールアイドルとして、ライブ映像の鑑賞を欠かしたことはない。注目したアイドルの映像は脳内で再生出来るくらいに見返しもする。そして脳内再生しては時に涙を泣かすこともあるくらい記憶に焼き付ける。
ライブとは生ものとはよく言ったもので、例え同じ曲であってもその時その時で違うパフォーマンスとなる。だからこそ検証のしがいがあるのだ。
「ねぇ、ダイヤ」
「待って。今良いところだから」
私はこの世界がどういう世界なのか説明を受け、即座にこれをしなければならないと思った。これをしなければ今日のライブどころではないだろう。
「良いところなのは分かるよ?でも、そろそろ昨日のライブ映像見てくれない?」
「勿論見ますわ。でもμ’s単独のファイナルライブなんて私達の世界では存在しないのです。今見なくて何時見るのです?」
時間がないのは分かっている。リハーサルやその他最終チェックをしなければならないのも分かる。だからこそダブルモニターで同時に、更に倍速再生で鑑賞しているのだ。これを見ないまま本番を迎えるなどあり得ない。
「これで本当に見えているの?」
「勿論ですわ」
アリサさんは呆れたように息を吐いた。甚だしく心外である。これでも妥協をして初日分は諦めたというのに。
しかし、μ’sの楽曲数が多いだけあり、五時間ものライブとは頭が上がらない。それに構成がいい。まるでμ’sの歩んできた軌跡を追体験するかのような構成となっている。
「私達もね、このファイナルライブ見に行ってたんだよ」
アリサさん達はラブライブというコンテンツをμ’sから引き継ぐことがこの時点で既に決まっていたらしい。だからAqoursメンバーで揃ってこのライブに足を運ぶこととなったそうだ。
「私は声優ではなくて役者としてこの業界に居たから、アニメって詳しくなくてね。だからラブライブのこともオーディションを受けるにあたって本格的に勉強したからファイナルライブを見に行った時点ではまだまだ詳しいと言えるほどじゃ無かったんだ」
東京ドームと呼ばれる五万人規模の箱でライブするくらいのグループだ。楽曲数も多いし、そこに至るまでの歴史もある。だからそれを実感として知らないアリサさんには行く前は漠然と凄いことなんだという感覚しかなかったという。
「でも、そんな知識があるとかないとか、そんなの頭でっかちだった」
現地で感じた空気、熱、説得力、それにアリサさんは、いやアリサさん達は圧倒された。
「だからね、あの日感じたことが私達のファーストライブに繫がったんだ」
グループも違えば楽曲も違う。けれどμ’sの思い出を心の中の宝物の中に仕舞った人達に、その宝物が改めて素晴らしいものだったと再認識して欲しい。そして、純粋にAqoursに関心を持って来た人にも是非とも来て良かったと思えるようなライブを届けたい。
「奇跡のように全てが繫がって、ね」
ラブライブは続いている。みんなの胸に様々な想いを乗せて。
「だから、ダイヤ」
μ’sのファイナルライブを見るならば私達のライブ映像も見て欲しい。そうアリサさんは真剣に言った。
「当たり前です。私のこと、分かっているでしょう?」
アリサさんや他の人と同様に私の胸にもMOMENTRINGは宿っている。それを踏まえた上で私は映像をチェックしている。
この世界のラブライブというコンテンツはたった一枚の絵から始まったメディアミックス作品であり、Aqoursはμ’sの後継プロジェクトだと説明された時点で、先ずはこの世界のμ’sを知らなければならないと思ったのだ。アイドル好きというだけの理由で映像チェックしていた訳では無い。もっとも、本当ならばファーストライブから順に見たいが流石に時間が無い。
奇しくもアリサさんの状況と少しばかり似ている気がする。
「やるからには徹底的にいきますわよ」
「ダイヤらしい。それに私らしい」
「さて、そうこうしている内に最後の一曲ですわ」
「これだけは通常再生して」
「はい」
最後を飾るのは“僕たちはひとつの光”。“MOMENTRING”と同じようにμ’sの軌跡を歌った彼女達の渾身の一曲だ。
「私ね。この曲が好きすぎて未だに両手で数えられるくらいしか聴けてないんだ。何か変なこと言ってると思うけど、ホントに。そんなことがあるなんて、私はじめてで。だから聴く時は必ず集中して、ちゃんと聴くようにしてるんだ」
会場の中央に大きな蕾が姿を現す。
それは私達の世界でラブライブのアキバドーム開催が決定した際にμ’sがゲスト出演した時と同じ演出だった。
それを見ただけで私は涙が出そうになる。
蕾のなかから彼女達の点呼の声が木霊し、花は開かれた。
優しい旋律と共に始まり、妖精のような彼女達は楽しげに、軽やかに、伸びやかに音楽を表現する。
それを見て胸に到来するのはμ’sの楽曲の数々や、それに纏わる自分の思い出。
この曲を聴いていた時は自分は何をしていた。どんなことで悩んでいた。こんな嬉しいことがあったと、自分のフォトブックを見返すような懐かしさを感じるのだ。
そしてこの楽曲の歌詞。これを読む度に思うのが集大成であると同時に、μ’s自身に向けたご褒美の曲でもあるのだと。
私は人前で軽々しく涙は流さないけれど、今は素直に涙が流れた。初対面のアリサさんがいるというのにだ。でも気持ちを共有している人とならばそれも構わないと、そう思えた。
「もうお終いなのですね」
この楽曲はまたその長さもまた秀逸だ。ちょっと短いと思うくらいがすっと胸に入るのだ。
「これからですわ」
その短いと感じる寂しさに似たものに胸を満たしていたが、アリサさんは相変わらず集中を解かない。
「ぁあ、そうなのですね」
そこで起きた出来事は筆舌に尽くしがたい。
最後までやりきった彼女達を送るのは会場に詰めかけた人達の合唱“僕たちはひとつの光”だった。
そう、彼らは一人一人無数にある小さな一つの光であると同時に、ラブライブというコンテンツを愛する大きな一つの光であったのだ。
会場全域から響き渡るその歌声は遙か遠くにあるはずのマイクでも拾える程の大きさだった。
ライブで化ける楽曲はしばしばあるけれど、ライブで完成を見た楽曲はどれ程あるだろう?
この完成を見届けてμ’sはその大きすぎる存在感をみんなの胸に刻みつけてステージを後にした。
「少し時間いいかしら」
「ええ。勿論」
次に控えるのはAqoursファーストライブ初日の映像チェックだ。けれど、それを見る前に私達は視界をクリアにする必要があった。
止めどなく溢れるそれが落ち着くまで、10分もの時間を要してしまったが、それは致し方ないことなのだろう。今は一つの体に二人分の想いが詰まっているのだから。