ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編)   作:マーケン

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第十一話

 電車に揺られながら私はこの世界のことについて改めて調べてみた。歴史や文化、地理や季候はやはり私達のいた世界とそう大差は無かった。

 しかし、やはりスクールアイドルという概念はこの世界ではフィクションのものだった。

 学生の頃から地下アイドルとして活動する人も雑多に存在するけれど、ラブライブのようにレギュレーションが整備された管理は行き届いておらず、公の場でパフォーマンスをする機会も場所も私達の世界のようには多くは存在していなかった。

 

「けど信じられないな」

 

 電車の車窓から見える景色は私が埼玉に居た頃に見た景色と変わらない。そう思えるほど一致していた。何の気なしに眺めているだけならば自分の居た世界と錯覚しそうになる程に。

 けれど、窓に映る自分の顔は私とは違う大人の女性のものだ。それを見ると改めて違う世界なのだと感じた。

 この人は一体誰なのだろう?みんなは自分の役をする声優さんに取り憑いた様だが、私はどうなのだろう?

 インターネットで黒松星と検索してもお菓子屋さんや植物ばかり表示されてしまいまともな結果は出てこない。

 この世界でのμ’sやAqoursの活動を描写したアニメーションも調べたけれど私の名前はなかった。故にこの人との関連性はまるで見当たらないのだ。

 どうしてAqoursのみんなだけではなく私も?

 その疑問を解決する糸口を探すため私はこの人を知ろうと思い、スマホの中にあるデータを漁る。

 スマホは本人が思っている以上にプライベートな情報が入っている。保存された写真、動画、アプリケーションは勿論、メール等で使用される頻度の高い言葉などはより個人の特徴が反映された情報と言えるだろう。

 それを見た結果、私が取り憑いている人物が私の予想以上に個性が分からない人物であると感じた。

 まず、交友関係が意味不明だ。月に二、三回。多いときで五、六回は飲みに参加しているくせに自分から先にメッセージを送った形跡が無い。そして、相手から来るメッセージについても色良い返事をしているものの基本的に素っ気ない。そして、電話については発信履歴も着信履歴もほぼ会社から。けれど、ワーカーホリックかと思えない程会社関連の人の連絡先は少ない。幾つかの同僚らしい人の連絡先はあるけれど、所属するグループのメンバーの一部としか直通の連絡先かなかったりする。そう、まるでこの人は自分自身がただの数合わせのための人間であるとでも主張するように。

 思えば着替えるときに引き出しに入っていた服なんかも没個性な印象だった。飾り気がない。けれど、地味すぎず普通に街を歩く分には誰にも気にもされないような、そんな感じだ。

 FM東京の番組に安部礼司という平均人間モチーフのキャラクターがいるけれど、この人の印象は正に平均人間だ。

 画像や動画データを見ると風景の写真は多少あったが、友人との写真なんかは送られてきた写真くらいしか保存されていない。また所謂インスタ栄えする写真なんかも数枚あるにはあるけれど、枚数から鑑みるに付き合いで撮ったのだろう。

 流行に流されないのは人それぞれだから良いとして、この人は人間嫌いなのだろうかと疑いたくなる。けれど、数少ない友人や同僚と思われる人達との写真では自然な笑顔を浮かべているようにも思える。それがますますこの人のことを分からなくさせる。まあ、直接対話した訳でも無いのに人をどうこうと判断できないのは当たり前だが。

 次に趣向についてだが、これは多少の方向性が見えた。こちらについては私とも多少の共通項があるからだ。

 スマホに保存されたソシャゲのデータを見ると、FGO、マギレコ、オルサガなど、アニメに関連したゲームが入っている。まだ、お気に入りには小説家になろうやハーメルンといったサブカルチャー寄りなサイトが見受けられる。どちらもマイページを作り、投稿やお気に入り登録を幾つかしているようだ。もっとも、投稿作品よりも圧倒的にお気に入り登録数の方が多いため、ほぼほぼ読み専なのだろう。

 お気に入りに登録されている作品は幾つかは私も読んだことがある。あくまでも知っている範囲ではあるけれど、いずれも共通しているのは人と人との繋がりを描いている作品であるということだ。

 私はそれを見て何となくホッとした気持ちになった。この人は人間に対し関心を捨てていないのだと思えるからだ。そんな人だからこそμ’sやAqoursのことが描かれたラブライブというコンテンツに興味を抱いたのだろう。

 どういう気持ちでこの人はライブに参加しようと思ったのだろう?

 楽曲が好きでCDを購入するような人でもライブに行ったことのない人、そもそも行く気がない人は結構いる。だというのに、ある意味受動的な印象のあるこの人が何故?

 

「あなたは誰?」

 

 窓に映る私に問い掛ければ答えが返ってくる気がしたけれど、そんなことはなかった。

 この人は何を求めてライブに行こうとしているのだろう?その考えを抱きながら私は電車に揺られ続けた。

 

 

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