ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編)   作:マーケン

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次回は10/20更新予定


第十四話

 鞠莉ちゃんは一番乗りしていたみたいだけれど、私もまた横浜アリーナにみんなより一足先に来た。ライブでピアノを弾くのだから、事前に練習して指を柔らかくしたいと思ったのだ。

 会場近くまで来ると、ライブまでまだまだ時間があるのに横浜アリーナ周辺にはすでに多くの人がいるのが車の中から見えた。

 

「今日も物販があるからね。こういう物販は凄いんだって。確かアイドルマスターだったと思うんだけど、数量が限られるグッズは始発組でさえ手に入らないくらいって聴いたことがあるよ。本当か分からないけど」

 

「見る限りこちらも相当なんものですよ」

 

「それだけみんなのことが好きなのよ。なんだか嫉妬しちゃうな」

 

 グッズは基本的にアニメーションの中のキャラクターが描かれたものとなるため、キャストの写真が入ったものなどはパンフレットくらいなものらしい。

 

「もう準備万端にしか見えない人もいるけど?」

 

 メンバーの全身が描かれた法被を着ているような猛者もいるのだから今更欲しいものなどあるのだろうか?

 

「それでも、だよ。あ、あの人梨子ちゃんTシャツ着てる。かわいい」

 

「なんだか恥ずかしいを通り過ぎて信じられないな」

 

 この世界でのAqoursの人気と私達の世界での人気との差がありすぎて現実感が沸かない。

 それでもここに来ている多くの人が私達が描かれた衣装を身に纏っている。それどころかステージ衣装を完全再現した服を着ている人もいるくらいに、この世界はAqoursを歓迎しているようだ。

 

「というか、しいたけ人口多くない?」

 

 因みにしいたけとは千歌ちゃんの飼い犬の名前だ。バッハみたいな毛並みをした犬種不明の犬だ。私にやたら懐いているのだけど、私は犬が苦手なので複雑な気持ちになる。

 

「これでもファーストライブなんですよね」

 

「そうだよ。それだけ“ラブライブ!”がみんな好きなんだよ。それだけじゃない。それだけAqoursに可能性を感じているってことなんだと思う」

 

「可能性、ですか?」

 

「そう。アニメーションっていう夢を夢のままで終わらせないことができるのかって。この世界でも夢を見ていいんだってこと」

 

 だからリカコさんは今回のピアノを弾く演出に拘ったという。

 リカコさんはピアノは全くの素人。それこそ楽譜すらも読めないレベルだった。けれど、だからこそみんなの前でピアノを弾ききることで、来た人達に伝えたいのだと言う。輝きを追い求めるのに遅いなんてことはない。いつだって、誰だって追い掛けていいんだと。

 

「それにね、梨子ちゃんと出逢ってからピアノはやりたいなって思ってたんだ」

 

「私が切っ掛け?」

 

「うん。だってさ、梨子ちゃんがピアノと出逢った頃に本当に楽しそうに笑顔にってたんだよ?それって凄いことだなってずっと思ってたんだ」

 

「あーーーー」

 

 キラキラと輝いて、飛んでいるみたいにフワッと爽快な気持ちになって、まるで星みたいだとそう思って、そしたら自然に笑顔になってた。そんな子供の頃の感覚は今の私を形作る始まりだ。

 

「笑顔になって、でも苦しい思いをして、それでと諦められなくて、それってどんな気持ちなんだろうって。どうしたら梨子ちゃんのことをもっと理解できるんだろうって。そう考えたら答えは一つだった」

 

「ピアノを習おう、って?」

 

「そう。でも、ピアノって本当に難しいのね」

 

 本当に弾けるようになるまで苦労したようだ。

 楽譜を読めるようになった事、指が思うように動かなかった事、片手だけでも弾けたとき嬉しくて夢中になって何度も何度も繰り返し弾いてしまった事、両手でやるとまるで別の曲のように弾けなくなった事、両手で弾けるようになった時まるで新しい曲のように印象が変わった事、ますますその曲が好きになった事、そんな話しを車から降りてピアノのあるリハーサル室に向かうまでの間にリカコさんは話してくれた。

 

「昨日はノーミスで弾けた。でも昨日の私は梨子ちゃん見たいに笑顔ではなかった。だから今日はみんなに梨子ちゃんを見て貰いたい。本人がやるなんてちょっとずるかもしれないけど」

 

 昨日の演奏の様子は未編集だけど撮影した動画があったため拝見させていただいた。

 とてもプレッシャーの掛かる局面でたったの三ヶ月ちょっとピアノを練習した人がノーミスでやりきっただけでも立派だと思った。けれどリカコさんはそれでは足りないのだと言う。凄くプロ意識が高い人なのだと改めて実感する。

 

「ごめんなさい。本当はリカコさんがステージに立ちたいでしょうに」

 

「ううん。このステージはね、私達と貴方達18人で作り上げるものなの。だから謝らないで」

 

「うん。なら、絶対にいいステージにする。昨日のリカコさん達に負けないくらいのステージにするから」

 

 意気込みと共に私はリハーサル室にあるピアノの前に腰を下ろし、鍵盤を弾く。

 

「ーーーーーーー」

 

「どうしたの?」

 

「な、何でも無い」

 

 違和感はピアノの鍵盤を弾く毎に強くなっていった。

 指はそれなりに動く。けれど、手の大きさがそもそも違うのだ。数mm程度の差ではあるけれど、この鍵盤の上だとそれが大きな差となる。

 この違和感を本番までに拭えるかどうかが成否を分けるだろうと、私は密かに思った。

 

 

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