ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編)   作:マーケン

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第十五話

 鞠莉ちゃんや梨子ちゃんが一足先に横浜アリーナに行ったこともあり、私達もそろそろホテルを出発しようかという流れになった。そのため私達は贔屓にしているスタッフに声を掛けることとなった。

 その中の一人、ヘアメイク担当のユキコさんの部屋に私はまず赴いた。

 私達がヘアメイクさんと一緒に行動しなければ、ヘアメイクさんも仕事をしたくてもできなくなってしまうからだ。

 アイさんに聴いたところ、ラブライブはシリーズを通してユキコさんに非常にお世話になっているのだという。

 これまで手掛けたヘアメイクの写真を見せて貰ったところ、μ'sのことりちゃんの鶏冠、海未ちゃんのポン・デ・リングといったどうやったらできるのかまるで想像できないようなヘアメイクを完成させていた。

 実は私もお姉ちゃんと挑戦したこともあったけどその時はできなかった。それが出来上がっていることに私は開いた口が塞がらない思いだ。

 

「ユ、ユキコさーん、そろそろ出発しようかと思うのですが」

 

 部屋の扉をノックして声を掛けたけれどまるで反応がない。

 既にスマホからメッセージは送っているとのことだったため準備しているとは思うのだけど。

 

「いないのかな?」

 

 何となく不審に思いドアノブを下ろすと、果たして鍵は掛かっていなかった。

 

「ユキコさん?」

 

「あ、アイちゃん・・・ヘルプミー」

 

 部屋の玄関口から恐る恐る声を掛けて見るとユキコさんの声らしき声がリビングから聞こえた。

 やや緊張感を欠いた助けを呼ぶ声はだが、些か強張っているようにも感じ取れ、私はリビングへと急ぎ足で上がり込んだ。

 

「ユキコさん・・・ってどうしたんですか?」

 

 片足でピョンピョンと跳びはねる様は何となくシュールな笑いを誘うけれど、表情が本気過ぎて笑うに笑えない。

 

「ベッドの角に指ぶつけた。それも思いっきり」

 

 いててて、とようやくベッドに腰掛けたユキコさんの右足の小指は成る程。血が出てる。というか変な方向に曲がってる。

 

「これ折れてるんじゃ・・・」

 

「やっぱりアイちゃんもそう思う?ちょっと治らないかなと思って元の方向に曲げてみたりしたんだけど痛すぎて」

 

「ぴぎぃっ!?駄目ですって直ぐ病院に行かないと!」

 

「でもみんなのライブがあるし」

 

「ユキコさんだけで仕事してる訳じゃ無いんですから、緊急事態は頼ってください!」

 

 きっとユキコさんは当たり前の責任感に正直に向き合える人なんだろう。だから、今日という晴れの舞台を無駄にできないことを理解しているし、そうしないためにも踏ん張っていた。

 

「大丈夫だから。自分の頭だもん、うまくやる!」

 

 けれど、だからこそ私達だけを優先し、他の全てを蔑ろにするわけにはいかない。

 普段から弱気で、自信なんてない私がこの時は不思議なことに堂々とした立ち振る舞いでユキコさんに語り掛けることができた。

 

「お姉ちゃんも、みんなもいるから平気だよ。だからユキコさんは病院に行って、お医者さんに見て貰ったら途中からで良い。私達のステージを見に戻ってきて」

 

 口から出る言葉は果たして私の言葉なのかアイさんの言葉なのか、分からない。けれど私達二人は同じ想いを抱いていた。

 

「ーーーー分かった。私ばっかり気負ってもしょうがないもんね。素直に病院に行く」

 

 だけど、と続けるとベッドに腰を下ろしたユキコさんに両肩を捕まれると勢いよく回れ右をされ、膝かっくんをされた。

 

「ぴぎぃっ!?」

 

「ルビィちゃんの頭だけはこの場でやってあげる」

 

 ユキコさんはそう言って軽く撫で付けて流しただけの私の髪の毛を弄り始めた。

 

「何処の誰か見てもルビィちゃんに見えるようにするんだから」

 

 私は普段ツーサイドアップに髪の毛を纏めているのだけれど、ユキコさんは手早く髪を纏め上げてしまった。それも髪の密度が局地的に薄くなって見えないよう纏め方にも配慮した形で、だ。

 

「アイちゃんは髪の毛の量が多いからやっぱりやりやすいね」

 

「ありがとうございます」

 

「ううん。こっちがお礼を言うべきだよ。病院に行け、なんてアイちゃんに言われてなかったらきっと突っぱねてた。でもそれで無理してやってもみんなは喜ばなかったと今なら思う」

 

 はい、完成とユキコさんは私の両肩を叩くと鏡を見るよう指示をした。

 私はベッドの直ぐ脇にある化粧台の鏡を覗き込むとそこには果たして見覚えのある髪型をしたアイさんの姿が映っていた。

 

「うん。我ながら完璧。それにしてもさ、気のせいかもしれないけど今日のアイちゃんってなんかいつも以上にルビィちゃんっぽいよね」

 

「今日のAqoursは正真正銘18人ですから。今日もみんなでーーーーー」

 

「「頑張ルビィ!!」」

 

 私の説得が功を奏し、ユキコさんはこの後無事にタクシーで接骨院に向かった。こうしてベッドの角に指をぶつけて骨折という笑えるようで笑えない事件は無事に終焉を迎えた。

 けれど、私は知らなかった。ファーストライブ二日目を開催するにあたり、様々な問題が立て続けに起ころうなんてことを。

 

 

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