ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編) 作:マーケン
急遽結成された浦の星駅伝部の一員として、私達は新横浜の街中を横浜アリーナに向けてランニングしていた。
流石は横浜というだけあり、整然と舗装された道や高いビルには威圧感を覚える。みんなも同じなのか、走りながらもキョロキョロと周囲の景色を見ている。
「足下よく見なさいぃいっ!?」
そう注意を促したとたんに私が躓きそうになるのだから私の不運は侮れない。
みんなが言うように今日起きたトラブルはもしかしたら私が引き寄せたのではないかとも自分自身を疑いたくなる。
「そんなことないよ。ヨハネは善子なんだから。善い子には良いことが必ず起こるって相場が決まってるんだから」
アイカさんはそう励ましてくれる。けれど、私にとって良いことは既に起きているのだ。だからその分のツケが回ってきているのではないだろうか?
「みんなには言わないけど、私はAqoursとしてみんなと居られることがもうアイカさんの言う“良いこと”なんだって思ってる。だからこれ以上の事なんて贅沢じゃない?」
「贅沢かもしれない。でも、してもいい贅沢はあるんだって私は思うの。私もね、一人で歌ってた頃はデビュー出来ただけでも奇跡だなって、そう思ってた」
アイカさんは最初は歌手としてソロで活動していたのだという。けれど、アイカさんと同等の歌唱力やダンスのポテンシャルを持つ歌手はザラに居るような芸能界では運も無ければ生き残ることは難しい。アイカさんの言うようにデビュー出来ただけマシな部類に入る程に。
それでもアイカさんは諦めないで活動を続け、ラブライブに、そして私に出逢ったのだ。
「でもみんなと出逢えて、ヨハネと逢えて、色々な体験をして、私には釣り合わないとも思った。けどね、みんなとならそんな贅沢だって分け合えるんだって思ったら何だかこれで良いんだって思えるようになったの」
「ーーーーーでも、ついてないものはついてないみたい」
アイカさんと話しているうちにいつの間にかみんなから少し距離が開いてしまい、信号で私だけ引っ掛かってしまった。
「先に行って。必ず追い掛けるから」
気にしないで行け、とみんなに声を掛けてから私は気付いた。これってまんま死亡フラグであると。
「大丈夫、すぐ変わるから待ってる」
けれど、みんなはそう言って私のことを待っていてくれる。
そうだ。私達はこれまで誰か一人が先行して進むのではなく、みんなで一緒に突き進んできた。そしてそれは世界が変わっても変わらない。私達が私達である限り。
「見てなさい。直ぐにトップの座を奪い取ってやるわ」
「じゃあ行っちゃおうか」
「そうだね」
「ちょ、冗談だってばー」
なんて車道越しに話しをしているとあっという間に信号は青色、つまり全速前進ヨーソローへと変わった。
いつもよりも幾分か警戒しながらも横断歩道を渡るけれど車が突っ込んで来るとかそんなこともなく、私は無事に渡ることができた。
「じゃあ行こうか」
そんな何てこと無いやりとりが凄く“普通”の女子校生らしくて、ここが私の居場所なんだと改めて実感する。
私は普通に憧れているクセに普通とは違う、特別であることも同時に望んでいる。そんな厄介な性格をしている。だから素直になれず、素を出せず、人とも馴染めなかった。けれど、自然体でありたい私と、格好つけたい私、どちらも受け入れてくれるみんなの存在は私の中で掛け替えのないものになった。勿論そんな恥ずかしいことを本人達に言いはしないけれど。
「きっとみんな分かってくれていると思うよ」
そうだとしたら、それは恥ずかしい反面、とても嬉しいことだなぁと私はぼんやりと思った。
「あ、見えてきた」
大型のスーパーだかホームセンターやらの横を通過するといよいよ丸みのある施設が見えてきた。横浜アリーナだ。
私達にとっては初めてのそこは既に多くの人が居た。まだ朝と言っても差し支えない時間だというのに。
私もそうだけど、みんなその光景に目を丸くしている。情報としては昨日の入場者数は知っているけれど、こう目の当たりにすると違う。
「凄いまるでお祭りみたい」
「今日はある意味お祭りだね」
遠目からぐるりと一周、横浜アリーナの外周を回るけれど、密度の差はあれどこもかしこも人目の無い場所は無かった。さらに私達や関係者の入り口は物販エリアと近いため人が多くいる状態にあった。
「どうやって中に入りましょうか?」
「くっくっく、ここはヨハネの魔力でーーーー」
「黙るずら」
「なによっ」
とはいえ、どうしていいかなど考えもつかないのも事実でそれ以上のことは何も言えなかった。
「このまましれっと中に入るとか?」
「多分無理だと思うってさ」
「逆に名乗りを上げて道を空けて貰うとか?」
「それこそ大混乱になりますわ」
「じゃあどーしたらいいのー」
「千歌ちゃん、声大きいっ!?」
「こうなったら仕方ありませんわね。誰かに囮になって貰いましょう」
そう言ってダイヤさんはスマホを取り出して通話を始めた。“囮”という不吉なワードの真意について問い質す間もなく。