ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編)   作:マーケン

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第十八話

 道中で電車の遅延などもなく無事に新横浜に到着すると、丁度そのタイミングでダイヤさんから、いや、この世界ではアリサさんのスマホから着信があった。

 

「もしもし星ですけど、ダイヤさん?」

 

「はい。ダイヤです。つかぬ事を窺いますが、星さんは今どちらに?」

 

「丁度今、新横浜に着いたところです。そっちは今休憩中ですか?」

 

「ぶっぶーですわ。実はですね」

 

 カクカクシカジカ、とダイヤさんから横浜アリーナに入ろうにも入れない状況を説明され、なんとなく無茶ぶりされそうだと嫌な汗が出てくる私を無視し、ダイヤさんは案の定、無茶ぶりをしてきた。

 

「そこで星さんには囮にーーーー」

 

「お断りします」

 

「贄に」

 

「何ですか、そのベルセルクな響きは。余計に嫌ですよ。それに囮って言ったって何をどうすれば?」

 

「星さんにはハーモニカがあるじゃないですか。その音色で気の早いお客様をトリコリコにしてしまうのです」

 

「あー・・・それも吝かでは無いんですけど、今の私は別人の体で、だからハーモニカも」

 

 あるはず無い、と思いつつ胸ポケットやバッグの中を漁ってしまうのは人の性。けれどやはりと言うべきかハーモニカはなかった。

 

「幸い、新横浜から徒歩六分くらいで楽器屋さんもあるそうですよ」

 

「買えと!?この人が汗水鼻水垂らして稼いだ金で買えと!?」

 

「致し方ないですわ。それと鼻水は余計です」

 

 とは言え他に妙案が浮かぶことも無く、そしてこの作戦はきっとやらなければならないだろうとも思った。理由の分からないこの憑依体験のどこにその真意が隠されているのか分からないからだ。

 問題が起きたならば即対応、解決することがこの奇妙な冒険をいち早く終わらせる鍵なのかもしれない。そう思うとダイヤさんの案は無碍にはできない。

 

「分かりました。では今から15分後に決行します。そちらは今現地に居るんですよね?なら最適な場所を指定して地図送ってください。あとスタッフの方々とも連携を」

 

「分かっていますわ・・・とんだ迷惑を掛けること、お詫び申し上げますと星さんの体の方にお伝えください」

 

「もしできたら今頃本人から許可貰ってますよ」

 

「星さんは宿主の方とお話できないのですか?」

 

「と言うことはそっちは皆さんお話しができるんですね?」

 

「ええ」

 

 それは意外な事実だった。そして驚きと同時に何故私だけが例外的に対話ができないのか疑問が浮かんだ。

 

「まぁ分かりました。では急ぎますのでこれで」

 

 けれど疑問に対する考察をする時間的猶予はない。

 私は素早くスマホで最寄りの楽器屋を検索し、ヤマハ系の楽器屋があったためそこに駆け込んだ。

 それ程じっくりと選ぶような余裕はない。

 ショーケースの中にはエンドユーザーからライトユーザーまで幅広い層が品定めできるよう多数のハーモニカやその他楽器が並んでいたけれど、他人の財布で高価なものを購入する訳にもいかず、7500円程度の初級者~中級者向けのものを指し示し受付のおじさんを急き立てる。

 

「おじさん、これ下さい」

 

「えっと説明とかは?」

 

「不要です。とにかく急いで。あと、箱とか要らないので!」

 

「わ、わかりました」

 

 せかせかとした空気が伝わったのだろう、人の善さそうなおじさんもすぐにショーケースからハーモニカを取り出してくれる。

 

「ありがとうございます。大切に使いますから」

 

 少なくとも私は、と心の中で付け加え私は横浜アリーナに向かって走り出す。

 この人の体はやはりと言うべきか私自身の体に比べやや動かしにくさがある。日常的に運動はしていないのだろう。けれど、三十路の壁は越えていないからなのか、極端に体が言うことを効かない訳でも無い。

 横浜アリーナに着く頃には息が上がってしまったけれど、少し歩いている内にリカバリー出来る程度だ。

 正面口からは裏手にある物販コーナー付近に歩くと、魑魅魍魎の如く、は言い方が悪いか、とにかくヘビーなファンの方々が思い思いの格好をしてたむろったり列に並んだりしていた。

 スマホを見ると場所は物販コーナーの横手の会談が一望できる駐車場側の植栽と指定された画像がダイヤさんから送られていた。

 時間は残り一分。ギリギリ間に合った訳だ。

 幸いにして今日は風もなく、天気も快晴。私の演奏は寒空の下に良く通るだろう。けれど、肝心な事を私は失念していた。

 

「何を吹こう・・・」

 

 そう。曲だ。

 このAqoursのファーストライブの会場で注目を集める曲とは何だろうと残り30秒で私は頭をフル回転させる。

 彼女達の演目を前に彼女達の曲をやるわけにもいかない。けれど全く見当違いの曲をやっても奇異な目を向けられる事はあっても一瞬でそれも終わってしまう。注目を集め続けることは叶わない。

 昨日のセットリストから今日の公演のセットリストも大凡予想できる。けれど、私がAqoursの曲を演奏するのも違う気がする。

 そう、これはAqoursのライブでありラブライブのイベントなのだ。私達の世界のラブライブとは違うけれど、色んな人の想いを重ねて連なった今こそが、今日この場所なのだ。ならーーーー

 

「聴いてください。“ユメノトビラ”」

 

 それはこの世界のラブライブで唯一シリーズを跨いで共有している楽曲だ。

 μ’sが当時のトップスクールアイドル、A-RISEに匹敵することを証明し、多くの人に勇気をくれた曲。そして千歌先輩が夢中になり、梨子先輩の燻っていた心に輝きを取り戻す灯火になった曲だ。

 この世界に来てAqoursの活動を描く“ラブライブ!サンシャイン!!”という作品を見なければ知り得なかった繋がりだ。

 

「ーーーーーーー」

 

 誰に言ったわけでも無い自らのタイトルコールの後、私は梨子先輩の弾いたバラード調のユメノトビラを奏でる。

 そのハーモニカの音色はすぐに周りに伝播する。

 音を聴いて何事かと覚知し、メロディーを聴きユメノトビラだと悟る。悟ってからは花の香りに惹かれる蝶のように少しずつ私の周りに人が集まりはじめる。

 凄い食いつきの良さだ。それだけこの楽曲が、いや、μ’sが、ラブライブがここにいる人達に愛されているということなのだろう。

 当然、私自身の力ではない。けれど、今はそのラブライブの持つ力を存分に発揮しようと思う。みんなが上手くいったか、とかはじめる前に気になっていたことは演奏をはじめた瞬間から私の中から消え去った。今はこの小さな催しを成功させる。

 

「ーーーーーー」

 

 ちらほらと私の周りに居た人は一番のサビ部分を迎える頃には多くの人、と形容するのが相応しいくらいの人数になっていた。

 もっと聴け、もっと楽しめ、もっと見ろ、と私は気付けばハーモニカを吹きながらユメノトビラの振付で躍っていた。

 その振付が正しくμ’sのそれを元に躍っていることはすぐにみんなには分かったのだろう、躍り始めた途端に聴衆からはわっと歓声があがった。

 本当にみんなの好きがよく伝わってくる。

 だから、みんなか愛し、勇気とか希望とか色んな感動を貰ったこの曲を私は一人のパフォーマンスで終わらせようとか思わない。

 ラスサビ部分に入る時、振付に混ぜて聴衆を煽るとみんなはそれに答えてくれた。

 

“ユメノトビラ 誰もが探してるよ出会いの意味を見つけたいと願ってる ユメノトビラ ずっと探し続けて君と僕とで旅立ったあの季節 青春のプロローグ”

 

 今日、この会場のキャパからすればほんの一握り、1%に満たない彼ら、彼女達は今、確かにラブライブを感じていた。後奏が終わり、温かなみんなの拍手に包まれて私はそう確信していた。

 

 

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