ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編) 作:マーケン
通称バズーカにメッセージ入りのテープを入れ終わり、私達三年生組もまたリハーサルに臨むこととなった。
一、二年生がいつも以上にへばっている中、私達もパフォーマンスを流していくがどういうことだろうか、妙に体が重い。
「な!?これでもかなりスタイルには気を使ってるんだけど!?」
「いや、肥えているとは一言も」
「でも重いって」
「自分の体との違いに思わずそう感じてしまっただけです」
みんながへばっている理由もそれが原因だろう。
単純な動きをしていたときは気にならなかったけれど、ダンスという複雑な動きをしているとその僅かな違和感が表面化してきたのだ。
「それにしてもみんなよりも凄く疲れているように見えるけど?」
「それは・・・」
確かに曜さんや花丸さんはそれ程の疲労感はなさそうだ。反面、私や梨子さんはかなりキている。何故こうも個人差があるのだろう?
「ダイヤはまだ私のことを掴めてないの?」
「だって今日逢ったばかりですし。それにそういう問題ではないような」
「そういう問題でしょ」
アリサさんは自信満々に言うものだから何だかそんな気がしてくる。根拠も無いし、それをそのまま鵜呑みにするのは気が引けるけれど、何故だか分からない説得力がある。
「アリサさん」
「ルビィ」
その謎の説得力に戸惑っていると、ルビィが私の宿主であるアリサさんに声を掛けてきた。勿論ながらアリサさんは今声を発することは出来ない。それも織り込み済みでルビィは続けた。
「お姉ちゃんってこれで自分のこととなるとチンチクリンなので、上手く引っ張って下さいね」
「ちょっとルビィ!?」
「やっぱそうなんだ。分かったよ。ダイヤ、ルビィにそう伝えておいて」
「やっぱって何ですか?それに言いません!」
「じゃあルビィからも頼まれちゃったし、少し時間頂戴ね」
この人は黙っていれば淑女然とすることもできるのにどうしてこうも積極的なのだろう?その誰に望まれたわけでも強制された訳でもない積極性が私を戸惑わせる。私にはない前向きさにタジタジとなる。
「ダイヤさん疲れちゃった?ならユニット曲のリハにするから少し休んで」
「私はーーーー」
「いいじゃない?お言葉に甘えましょ」
結局、千歌さんに気を使ってもらいリハの順番を調整して貰って一呼吸入れることとなった。
壁際に乱雑に並んでいるボトルを取って水を煽る。喉を通る冷たい感覚に、忘れたように背中から汗が噴き出す。
頭からタオルを被ると少しの間呼吸を整えようと目を瞑った。
「ダイヤって基本的には殆どのことをできるのに自分のことって上手くないよね」
「何ですの唐突に?」
「自分で言うのもあれだけど、私みたいな余り深く考えない人に踏みこまれてたじたじになっているのがその証拠でしょ」
「それはーーーー」
否定できない。
私は昔から何かと頼られる事が多く、自然と事務的な立ち回りを演じる機会に恵まれていた。けれど、自分が誰かを頼ったりする機会は終ぞ無かったように思う。
今がその時だというのだろうか?この異邦の世界で?
「ちょっと意味は違うかもそれないけど恥は掻き捨てってね。寧ろ私としては色々頼って欲しいの」
「何故です?」
「ダイヤをもっと知りたいし、私誰かを頼るより頼られたいの。ヒーローみたいにね。私、変身ヒーローに憬れがあって、それでこの業界に飛び込んだくらいの筋金入りなんだから」
曰く、アリサさんは幼少期に見たセーラームーンが心の中から何時までも消えないのだという。クレヨンしんちゃんもポケモンも気付いたときには卒業していた。けれど、セーラームーンだけは何時までも心の中からは消えなかった。
セーラームーンは当時には珍しい等身大のヒーローだった。世界の平和だとかそんな大それたことではなく個人的な理由が戦う動機だった。そこにアリサさんはリアリティを感じた。目に見えない何かのためではなく自分や周りのために戦う。その姿が格好良く、さらに登場人物達が中学生という設定から自分も成長すればそうなれるのではないかと可能性を感じたのだ。ついでに言えば見た目のビジュアルも魅力的で、セクシーな大人(とはいえ中学生だが)になる自分の姿を幻視したらしい。
卒業することのできない憬れを抱くという点において、スクールアイドルからいつまで経っても卒業できない私と似ていた。
「でもね、ヒーローは現実にはいないんだ。本当に頼られるのはダイヤみたいな人で私はちょっと違ったの。だからこそダイヤに頼られたい」
それは新鮮な感覚だった。
これまで私は黒澤家の長女として自分を律してきた。誰に望まれるまでもなく自分から何でもそつなくこなせるよう努力した。だからだろうか?私は自然と人から頼られるようになり、私もそれに答えることをよしとしていた。けれど、私は誰かを頼ることをしてこなかった。そうしなくても何とかなってしまったからだ。人に頼る前に自分で問題解決を試みるのが私の基本スタンス。だからどうにもならない事態などそうそうなかったのだ。
けれど、今は恐らくは私一人でどうにかなる事態では無いのだろう。
「けど、結局どうすればいいのでしょう?」
「さあ?どうしよっか?」
「え?何か手立てがあるから頼れって欲しいって言ったんじゃ・・・?」
「私そんな頭は良くないから。一緒になんとかしましょ」
あっけらかんと言うアリサさんにだが、私は不愉快には思わなかった。アリサさんはちゃんとしているからだ。
自分に足りないことは足りないと自分をしっかりと把握している。それは漠然と自分は馬鹿だからという輩とは違う。
「ダイヤさんそろそろスタンバイして」
「はい」
Aqours内の三人組ユニット、AZALEAの最終リハの順番が回ってきた。ため、アリサさんとの会話を中断し、私はゆっくりと腰を上げた。
たった少しの会話ではあったけれど、アリサさんの事を知る良い機会だったし、お陰でアリサさんに対し好意的な印象も持てた。そう思うと、何故だが体が幾分軽くなった気がした。