ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編) 作:マーケン
スポットライトはないけれど、天頂にほど近い場所に位置する太陽からの光に照らされて、けれどそれ以上の熱気と歓声に包まれて私は呆然と余韻に浸るーーーー暇も無かった。
「皆さん、楽しんでいただけましたか?」
音楽は人と人を繋ぐ。それを知ってはいるけれど実感を得る機会はそれほど多くない。けれど今、その貴重な実感に胸が一杯になりながら私はしなければならないことに焦燥感に駆られる。
平静さを保ちながら投げ掛けた問い掛けにオーディエンスの皆から歓声とブレードの光で答えが返ってきた。
「ありがとうございます。なら一つだけ、お願いがあるんですがいいですか?」
一つ目の質問に答えが返ってきたため、私は少しだけほっとした。熱狂は時に暴走へと繫がるからだ。ここにいる人達は私に乗せられはしたけれど、それなりに客層はいいらしい。再度質問を投げ掛けると、直ぐにまた反応が返ってきた。ノリの良いオーディエンスの中には「なーにー」と言葉も付けてくれた。
「これだけ騒ぐと運営に通報が入ります。程なくここにもスタッフの方がやってくるでしょう。ですので皆さん、ライブを無事に見たいなら速やかに解散を」
「えー」と駄々をこねる反応に思わずニヤけそうになるのを堪えて、私は最後の締めを行う。
「それじゃあ皆さん、解散ッ!!」
ピーっ、と電車の発進時の警笛に近い音をハーモニカから鳴らすと、私は回れ右をしてダッシュした。
これだけ騒いでは問題になる。Aqoursの皆がある程度事情を話しているだろうとは思うけれど、ライブ開催前に会場の敷地内で混乱の原因となる行為が行われたのだ。放置する理由訳にはいかない。例え裏事情があれども、他の人にはそれは与り知らぬことなのだから。
私の演奏に釣られていたオーディエンスのみんなも無事に逃げられることを祈って私は横浜アリーナから一時退却した。
楕円形の偉容を背に走っていると、ついさっきの出来事を段々と振り返ることができた。
埼玉の地元で一人でハーモニカを吹いていた頃、あんな風に大勢のオーディエンスに囲まれたことは無かった。穹と組んでからもそうだ。だから、μ'sの、ラブライブの力を借りたとは言え、あんな風に私のパフォーマンスで喜んでくれたことが嬉しかった。
「私、輝いてたかな?」
千歌先輩がしばしば使う言葉。スクールアイドルに求めるものだ。あの時、あの瞬間、私は借り物ながらも輝けていた気がする。それを皆より一足早く味わってしまったことに申し訳なさを感じつつも、それよりも大きな輝きを作るだろうAqoursのみんなに嫉妬心が沸いてくる。
いけない。今回のパフォーマンスは本当に棚ぼたみたいなものだ。ありがたくあれど嫉妬など間違っている。たった数分だけでも輝けたことを喜ぶべきなのだ。きっとこの体の宿主もそう思う筈だ。
あ、と思い私はスマホを取り出してAqoursの1stライブ関連の書き込みや実況を検索した。
見ていた限りはスマホを構えているオーディエンスは居なかったけれど、もし撮影されていたらこの人に迷惑が掛かる。迂闊だった。
書き込みにはリアルタイムの混み具合やグッズの完売情報、その他ガチャで何が当たったかとか物々交換の申し出など、雑多にあった。
実況版や生放送のコメントの履歴、Twitterなどを渡り歩くと、私の予感は嫌な形で的中した。
映像はかなり揺れてるし、他の人のサイリウムが映り込んだりとあまり良い映像ではないけれど、撮られている。
その動画を何度も見直し、その、映像からは個人を特定できたりはしないと判断した。幸いにして私自身が動いてる事に加え、ハーモニカを構えているため、顔は映っていない。それを利用してか、タイトルに謎の新星、とか銘打たれていて私は思わず苦笑いしてしまった。新“星”ならばあながち間違いでも無いと。
安心したからか、幾分体が軽くなった気がした。
「存分に使えってことなのかな?なんてね」
それは私のことを受け入れてくれたからと考えるのは些か自分勝手な考えかも知れないけど、私はそう思うことにした。何故かと言われれば、その方が素敵だからだ。